4話
翌朝目が覚めると思わず溜息を出してしまう。いくら使用人の手違いと言っても風呂場で会ってしまうなんてどこの主人公かと思わず心の中で突っ込んでしまった。
「気まずすぎる。どの顔をして会うっていうんだ。」
そう考えていた時にドアがノックされる。
ドアを開けると昨日案内をしてくれた執事が立っていた。
「おはようございます、モルド様。昨夜はよく眠れましたでしょうか?」
「おかげ様でぐっすり眠ることが出来ました。」
「それはとてもよかったです。朝食の用意が出来ましたのでご案内いたします。」
案内された大広間には既にマクガイン一家が座っており自分を待っているのだと気づいた。
「すみません。お待たせしました。」
「いやそれほど待っていないから大丈夫だよ。」
そう受けて席に座り食事をする。用意された食事はどれも高級レストランのものと似たようなフレンチ料理であり、とても見た目がよく美味いかった。
キースやセレナとも話をし傍から見ればとても楽しそうに朝食をとっているように見えるのだが、しかしモルドの内心は穏やかではなかった。
アリスの視線が痛いのである。
昨日の件のこともあり迂闊に話しかけることも出来ずにただアリスからの視線を受けているだけであった。どうすべきかを悩んでいたのだがそんな時キースから話を振られた。
「今日モルド殿の職業カードを作ろうと思っていたのだが大丈夫か?」
「元よりお世話になっている身ですので大丈夫です。」
「それはよかった。その帰りにでも図書館に行こうと思ったのだがアリスは予定はないか?」
そう問われたのだがアリスはボーっとこちらを見ているだけだった。
その様子を不安に思い再び問いかける。
「アリス大丈夫か?」
「は、はい!!何でしょうかお父様!!」
「ボーっとしていたが具合でも悪いのか?」
「いえ!!体調は大丈夫ですので安心してください!!」
「そうか、大丈夫ならいいのだが....」
キースは心配していたのだが、セレナはアリスの様子を見てニコニコしていた。
キースはアリスに先ほどの話をし大丈夫か聞いた。
「今日は何の予定もないので問題ないです。」
「そうか、では一時間後に玄関に馬車を用意しとくのでモルド殿はその時間に来てくれ。」
「わかりました。」
朝食が食べ終わり少し休憩した後玄関に向かうとまだ馬車は来ていなかった。
「まだ来るのが早かったか。でも早めに行動するのはもう習慣付いてるし。」
そう思っていた所に玄関のドアが開き、キースさんかと思い振り返るとそこにはアリスだけがいた。
**********************
朝食が終わった後アリスは自室のベットで悶えていた。
昨日のハプニングでモルドに体を見られ、彼女は羞恥に見悶えているするのは当然のことだった。
彼女も多感なお年頃であり、初めて家族以外の成人男性の全裸を見てしまったために、彼女は今まで感じたことがない悶々とした感情に囚われていた。
(大きかったです......)
敢えて言うことはないがその光景が頭にこびり付いて離れなかったのだ。
要するに彼女はむっつりであった。
しかしずっとこうしている訳にもいかないため出掛けるための準備を始める。
そうしていると扉からお母様が入ってきた。
「アリス準備は大丈夫?」
「お母様!今準備をしているところです。」
「それなら私も手伝おうかしら。」
そう言いアリスの髪をすきはじめる。アリスはお母様が髪をすいてくれるのが大好きであり、とても心地が良く先程までの緊張を嘘のように消えた。
しばらくこのままだったのだが、お母様が突如思い出したことをアリスに聞いた。
「アリスはモルドさんのことが好きなの?」
「お、お母様?何を根拠にそんなことを....」
「だって朝食の時にずっと見てたじゃない?」
「それは........!!!」
確かに見ていたのだがそれはアリス自身昨日のことが忘れられなくて気になっただけであった。
他人を好きになったことがいないためモルドに対してのこの感情が好きということも分からないためお母様が言うことを全否定することもできなかった。
再び悶々とした感情が渦巻いた。
「アリス、時間は大丈夫?」
そう言われ時計を見るともうすぐ時間であった。
少し慌てて残った準備を手早く済ませお母様に挨拶をする。
「それではお母様いってきます。」
「楽しんできてね。」
玄関につき扉を開けると先にモルドが待っていた。
彼の顔を見た瞬間お母様に言われたことを思い出し顔が赤くなったのが自分でもわかり顔を伏せる。
**********************
しばらく沈黙したまま待つと馬車が来て中からキースが降りてきた。
「すまないね。待たせたかな?」
「いえ、さっき来たところです。」
正直さっきまでアリスとの気まずい雰囲気であったため待っている時間がとても長く感じ自分がどれだけ待ったのかわからなかった。
そして馬車に乗り込みこれからの行き先を尋ねる。
「ところで職業カードはどこで発行してもらえるのですか?」
「教会だよ。特徴的な建物だからすぐわかるよ。」
「そうなんですか。キースさんはどんな職業だったんですか?」
「私かい?私は貴族の子の長男だから貴族だったよ。ちなみにアリスも一緒だ。」
その後もカードについて聞いたが分かったのは、自身のステータスと職業、犯罪歴だけが書かれるようだ。調べる方法は専用の魔道具で測るらしく、同時に書いてもくれるらしい。
そうこう話していたら馬車が止まり目的地に着いたことを報せる。
「それでは行こうか。」
馬車を降りるとそこは立派な教会建っていた。ただの教会ではなく歴史を感じることが出来るのだが、決して古い建物ではないのだ。
そしてキースの後に続いて入ると立派なステンドグラスがあり、奥には神らしき彫刻が十字架の代わりに飾られていた。
そしてそのすぐ下には老年の神父様がおりその人に近寄りキースが話しかけた。
「神父様。今日はこの者のカード作成に参りました。」
「はてカードを失くしてしまったのかの?」
「実は私が記憶が失く目覚めた時には手ぶらで森にいたので、ここへカードを作りに参りました。」
「それは災難だったのぉ。」
神父様の質問に自身で答えるとその内容に同情し心配された。
自分でも情けない設定でありこんなこと言われたら確かに心配する。
「それでは職業作成を行うのでこの魔道具に両手で触れておれ。」
神父様にそう言われ水晶のようなものに手を触れると、神父様が魔法を唱え始めた。
ゲームでは聞いたことがない詠唱でありこの世界では呪文の体系が違うのかと考えていたのだが、手を触れていた水晶が輝き始める。
その光景に驚いたのだが、輝きは、すぐに失われ元の水晶に戻った。
神父様が輝きを失った水晶へ事前に用意していた名刺大のカードをかざした。
「出来ましたぞ。」
そう言われ受け取るのだがカードには自身の名前のほかに、所属ギルド欄などがあるのだが肝心の職業がわからない。
「あの...これは職業がわかるのではないのですか?」
「カードを持ったままステータスオープンと言ってみなさい。そうすると自身にしか見えない自分の情報が出てくるから。」
「わかりました。.......ステータスオープン。」
神父様に言われた通りにすると目の前にボードが浮かんできた。
どうやらここには職業のほかにステータスや称号も載っておるようだ。
しかし自分の物は明らかにおかしい内容が記載されていた。
「何なんだこれは.....」
≪モルド≫
種族:人間
性別:男
職業:武神
年齢:32
レベル:測定不能
体力:測定不能
生命力:測定不能
知力:測定不能
攻撃力:測定不能
防御力:測定不能
魔力:測定不能
俊敏力:測定不能
運:測定不能
魅力:測定不能
≪称号≫
迷い人 武を極めし者
幻覚を見ているほうがまだ真実味がある。
【ALL VERTEX】では一人当たり最大20種の職業を取れるのだがこれには一つしか書いておらず、しかも自分が聞いたことがないものであり、またステータスに関しては測定不能というあり得ない内容であった。
「(武神て何だよ...このステータスも測定不能とか馬鹿だろ..しっかりしてくれよ......)」
そう心の中で愚痴っていたのだが、キースに声をかけられ顔を向ける。
「モルド殿、カードには記憶の手がかりは見つかったか?」
「むしろ謎が深まりましたよ......」
「それはどういうことだ?」
「自分のステータスがおかしいんですよ。測定不能と書かれていて.......」
「測定不能じゃと?」
「神父様は何か心当たりがおありで?」
「心当たりはないのじゃが、ステータスが測れないなどありえないのじゃよ。これは創造神アトゥム様がお与えになった聖遺物の模造品なんじゃが、いくら模造品といえど能力は確かであり間違うことなどまずありえないのじゃよ。」
「つまり私のこのステータスは正しいものであるということですか?」
「正確には測りきることができないということじゃ。」
カードを作り分かったことと言えば自分が規格外の存在であることと、後は称号欄にある迷い人のことだけだ。
迷い人。つまり自分が異世界人であることの証明であり、元の世界に戻る手立てを探す必要性が出てきた。
「(まあ戻ったところで会社での残業三昧だろうがな...)」
そう思い溜息を吐いたのだが突如アリスに
「モルド様!きっと記憶は戻ります!そう気を落とさないでください!!」
真剣な表情でアリスに励まされた。
溜息を吐いているのを見て落ち込んだと思ったのだろう。
昨日の件で自分は完璧に嫌われたのだと思っていたのだが存外そうでもないらしい。
「ありがとうアリス。おかげで元気が出たよ。」
「いえ、それほどでも......」
そう言うと顔を赤くし俯いてしまった。
ロリコンではないが実に可愛い子であるのは確かにわかる。
「モルド殿そろそろ図書館に行こうか。」
「わかりました。神父様ありがとうございました。」
「記憶が戻ることを祈っておるぞ。」
ここですることは終えたので次の目的地である図書館に向かうことにした。
神父様へ感謝し、別れの挨拶をして馬車へ乗り込み次の目的地である図書館へ出発した。