3話
エメクリスへと続く一本道。そこへ一台の馬車が数人の護衛の騎士を引き連れて走っていた。
馬車には一人の令嬢と老人が乗っていた。
「アリスよ。今回の訪問で魔法を使える兆しは見えたか?」
老人がアリスへ優しい声音で話しかける。しかし、この質問に対してアリスは悲痛な顔で返答する。
「お爺様、申し訳ございません。未だに魔法を使える兆しは見えておりません。」
「なにを謝る必要がある。アリスは一生懸命頑張っているではないか。その努力はきっと実を結ぶ。」
そうアリスへ言うと、よりアリスは悲しい顔になってしまった。それをみてブラスは心を痛めて、違う話題を振ろうとするが突然馬車のスピードが落ちていった。それと同時に一人の護衛が声をあげる。
「敵襲!!」
その声と共に近くの木々から20人規模の盗賊と思わしき男達が飛び出し、馬車を囲んできた。
「お爺様!」
「アリスはそこに座ってなさい。いいね。」
ブラスはそう言い馬車の外に出て臨戦態勢とっている隊長と話す。
「騎士隊長切り抜けられそうか。」
「ブラス様、正直厳しいです。相手の人数は20人前後といったところですが、木々の上から殺気を感じるので恐らく弓兵かと。」
「最悪だな。」
そう呟いたとき正面から大ぶりの斧を担いだスキンヘッドの男が前に出てきた。盗賊とは思えない体躯にぎらぎらとした眼光を備えており、切り抜けられる可能性がさらに低くなるのをブラスは感じた。
「俺は血狼盗賊団頭領のゴザっていうんだが、お前らはマクガイン家の人間で合っているよな?」
「だとしたら何だというんだ!」
ゴザの問いかけに護衛の騎士の1人が答えたが、それを聞いた血狼盗賊団の一味が大声を上げて笑い始める。
「何が可笑しい!」
「悪いなこいつらも悪気があったわけじゃないんだ。ただなお前の返事にはおかしいとこがあんだよ。」
「一体何だというんだ!」
「盗賊団が貴族様を襲うといったら金目的しかないだろ。お前らかかれぇ!!!」
ゴザが声をあげると同時に戦闘が始まろうとした。ブラスはアリスだけでも逃がそうとするがその瞬間、馬車と盗賊たちの間にドオンと大きな音と共に土煙が上がる。
「一体何が起きた!?」
ブラスは最初盗賊たちが何か仕掛けてきたのかと思ったが、盗賊たちも慌てておりお互いにとって想定外の事態が起きていた。しかしすぐに土煙は晴れ始め、中心に1人の男が立っているのがわかった。見たことがない服装で手には武骨なガントレットを嵌めていた。
「ごほっごほ…。やっぱり’エスケープ’はこうなるのか。本当に緊急時の時だけだな使うのは。」
「お前は一体何者だ!?」
ゴザが突然現れた男に斧を構えながら問いかける。その声を聞いた男がゴザの方へ振り向いた。
「あぁこれは失礼しました。私はモルドと言います。失礼ですがここは一体どこなんでしょうか。」
「ふざけたことを言ってんじゃねえぞ!野郎ども!こいつもまとめてやっちまえ!」
そう盗賊達に声を上げ、モルドの近くにいた盗賊がシミターを振り上げた。しかしそれが振り下ろされることはなかった。ドン!と人体に対してなってはならない音を上げ吹き飛ばされる。先程まで盗賊達の雄たけび声が周りに響いていたのだが一瞬ではあるが静寂が訪れる。「何が起こった」それはこの場にいた誰しもが心に思ったことである。
「弱い。この世界のレベルは意外と低いかもな。」
「きっ貴様!!一体何をした!!」
「なにをとは。」
「俺の部下をどうやって吹き飛ばした!詠唱も何も聞こえなかったぞ!!」
ゴザがうろたえながらもモルドに問いかけながらも、今起こったことを考える。しかしどう考えても魔法の可能性以外ありえない。だが詠唱もなしにこんな芸当は不可能。では何をされのか。ゴザ自身の心中は不安と恐怖の感情で埋め尽くされていた。
「私がしたことですか。」
「そうだ!!早く答えやがれ!!」
「わからないのですか。ただ殴っただけですが。」
「そんな訳ないだろう!そんな素振りみせてなかったじゃねえか!」
「あぁもしかして見えなかったのでは。一応は手加減をしたのですがね。」
ありえない。ゴザ自身これまで様々戦場で傭兵として殺しあってきた。今でこそ盗賊紛いのことしているがそこら辺の騎士には引けをとらないと思ってきた。だが突然現れた怪しい男の殴る動作が見えなかった。それを理解した瞬間ゴザの心は恐怖で染まった。
「に、逃げろぉぉぉぉ!」
「へ、何で逃げるんですか頭!」
「そうです!皆で襲い掛かれば!」
「馬鹿野郎!!つべこべ言わず逃げるんだよ!!!!」
ゴザ以外の盗賊たちは圧倒的の戦闘の経験が少なかった。そのため今自分たちがどのような状況なのか正しく理解できなかった。
「逃がすわけないでしょう。盗賊など逃がす理由がない。」
そこからは虐殺が始まった。瞬き一つすると目の前の仲間が体を残して頭がなくなっていく。それを理解するまでもなく一人また一人殲滅されていく。瞬く間にこの場の盗賊はゴザだけとなってしまった。
「ば、馬鹿な…」
「さて残りは貴方だけですよ。」
どうしてこうなった。いまゴザの頭の中ではその言葉で埋め尽くされていた。初めはいいカモがやってきたと思っていたところに突然やってきた目の前の奴に全てを狂わされた。今すぐにでもこの場を離れたいがこいつが許してくれるだろうか。自分より手練れであるこいつから逃げるのは困難であるのは明確だった。そう思考していた時。
「全くこんな愚かな行為をする暇があるなら、ちゃんとした仕事をすればいいのに。」
「愚かだと?」
「えぇ。金銭目的で人を襲うなど愚か以外なんなのです。」
「俺は今までこの斧一本で生きてきた!弱者は強者に搾取されるの世界のルールだ!そのルールに従うのが何が悪い!!」
「それが愚かなんですよ。」
「くそがぁぁーーーーーー!!!」
そこでゴザの意識は途絶えた。