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母の言葉はいつだって9割方正しい

プロポーズされたその日、帰宅した私は笑顔で母を呼びました。


「ただいま~。母さん!私結婚できるかも?今日デートした人に、結婚指輪を贈りたいから真剣に考えて欲しいって言われたの!ほらこれ見て!バラの花まで貰っちゃった!」


少し浮かれた調子でバラの花を見せつつ母に手渡し、照れ隠しに早口になりながら廊下をズンズン進んで行きました。


「おかえりー……え??!どういうこと?!」


「一輪挿しの花瓶って何処にしまってたかなー?父さんの仏壇の所に使ってる花瓶しか無かった?もう一つ無かったかなぁ?」


「えええ?ちょっと待ってどういうこと??ちゃんと説明して~!」



慌てて後を付いてくる母に振り返り、今日起こった出来事を興奮気味に話し始めました。




「婚活パーティーで出会った人とデートしてるとは聞いてたけど、そんな急展開は聞いてないよ…。今日は何回目のデートだったの?」


「えーと、3回目?じゃなくて4回目?かな?私もまさかの事態にビックリしてるよ~!持病の事を話した時にはもう連絡もこないんだろうなぁって思ってたから…。もしかしたら、このままお話がぽんぽんって進んで今年中に結婚できちゃうかもね!?」


「何言ってるの。いくら早くに結婚したいからって。最低でも一年くらいはお付き合いして決めなきゃね。一年お付き合いしてもう一年同棲するみたいな感じで良いんじゃない?」


「えー?母さん、私の年齢考えてよ~。もう30歳超えちゃったし早く子どもが欲しくて結婚したがってるんだよ?同棲するくらいならもう入籍するよ。ズルズル同棲したままの関係とかになっても嫌だし。」


「今のご時勢、まだまだ結婚を焦るような年齢じゃないってずっと言ってるのに。まぁ、これからゆっくりそういうお話をして決めていったら良いよ。その人の性格は?合いそうなの?」


「うん、賢くて理性的な人って感じかな。直情的なタイプじゃなさそうだし論理的な思考を持ってる人だから合うんじゃないかなって思ってるよ~。学歴が高い人にありがちな自分の考えが絶対正しい!って思いが強そうだけど。でもこっちも論理的に話せば聞いてくれる感じだよ。

意見の相違があっても、私、気が長いからいくらでも話し合い出来ちゃうし。直ぐにイライラして怒鳴るようなせっかちさんなタイプじゃなさそうで本当に良かったー!一番苦手なタイプだから。あ、あと健康志向なところとか一緒!食べ物の好き嫌いも無いって話してたから、料理は何を作っても喜んで貰えそうで嬉しいなぁ~。」


「まぁ、本当に、焦らず決めたら良いと思うよ。結婚は人生に一度きりって決めてるんでしょ?」


「うん!結婚するからには、何が遭っても一生添い遂げるつもりで結婚するよ!で、結婚したら出来るだけ早く子どもが欲しいなぁ~、早く周りの友達みたいに育児がしたいもん。レナのところは今年の6月にはもう4人目の赤ちゃんが生まれるんだって。良いなぁ、赤ちゃん!可愛いんだろうなぁ~。」


「それこそ、授かり物なんだから。もし子どもが出来なくても、その人と一生一緒に居るって可能性も考えたりしなきゃ駄目だよ。焦らずにね。」




この時の私は浮かれきっていたのか、母の言葉が聞こえてはいても頭の中にちゃんと染み込んでいないようでした。


今までの人生を思い返してみれば、母の助言が的を射ていなかった事は少なかったように思います。


母はとても心配性で石橋を叩いて渡るタイプなので、私に掛けてくれる言葉はどんな時でも愛情と心配に満ちたものでした。


これからの数ヶ月、いつだって母の言葉は冷静で正しいものなのに、私は聞き入れる事が出来なくなり私自身の破滅に向けて直走る事になります。



何故って?



私自身が男性を見る目があると過信していたから?


この人となら上手に夫婦生活をやっていけると思い込んでいたから?


この両方と、ただただ早く子どもが欲しいその為に結婚がしたいと言う思いに駆られ、あらゆる事に目を背けたり気付いていないふりをしてきたからだと思います。




母からのアドバイスをちゃんと聞いていればと心から後悔するのは、もう取り返しが付かなくなってからでした。



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