悔いの無い人生を送って欲しい
まだ数えるくらいしか会っていない私に対して、結婚を前提にお付き合いをとまで思って言って貰えた事が素直に嬉しかったのと同時に、貴方の夢を一緒に叶える事が出来ないんですという申し訳ない気持ちも沸いてきました。
「そんな風に言って貰えてとても嬉しいんですけど、私はまだコウイチさんに話していない事があったんです。聞いて貰えますか?」
くも膜のう胞と言う持病の事。
その持病を抱えている為、海外移住は出来ない事。
病気の事が無かったとしても、ご縁があって誰かと結婚をする場合には、父を亡くした母が心配なので何かあった時に出来るだけ早く駆け付けられるように関西圏に住みたい事。
コウイチさんの夢が海外移住だと聞いたので、私の都合でその夢を諦めて欲しく無い事。
父を病気で亡くした時に、父自身したくても出来なかった事や遣り残した事が沢山あっただろうなぁと考えると、みんなそれぞれ一度きりの人生だからやりたい事があるなら悔いの無いように絶対にチャレンジするべきだと思っていて、私はその夢に関われないけど応援したいと思っている事。
お話が出来てとても楽しかった事、私では無くコウイチさんにもっと合うような、海外志向の女性を見つけて欲しい事。
今まで話せなかった気持ちをこの時に聞いて貰いました。
私が大体の事情を話し終えると、コウイチさんから質問が次々と飛んできました。
「その病気は日常生活にどんな影響があるの?」
「予防策としてストレスを溜めないようにとか寝不足にならないようにって気を付けるくらいで、普段はこれと言った症状も無いものなんです。激しいスポーツが出来ないくらいで、普通に生活していますよ。」
「病院にはどれくらいの頻度で通ってるの?」
「定期検診で一年に一回は必ず、MRIとか脳波を検査して異常が無いかどうか診て貰ってますよ。」
「……僕は基本的に、医者という人種をそこまで信用していなくて。医者は自分の利潤を追求する為にしか行動しないと思っていてその医者も定期検診で病院に来るよう仕向けているんじゃないか?
今までエイミさんは仕事をしてきて頭痛に悩まされる事があったかもしれないけど、例えば、仕事を辞めて体を休ませるようになったらその症状も緩和したり改善するものなんじゃないか?
そうやって体調が落ち着いたら一緒に海外に行けるようになるんじゃないか?
そもそも、その医者は本当に信用できるの?」
そんな風に否定的に言われて、私はビックリしてしまいました。
「……確かに、お医者さんの中には自分が勤めている病院の方針などで、患者さん自身を優先するより病院の利益を優先している人も居るかもしれません。
でも、私はそんな人ばっかりでは無いと思ってますし、高校生の時からお世話になっているお医者さんなのでその掛かりつけの先生を信用していますよ。
医療の専門知識が無いコウイチさんに、海外に行っても大丈夫!といくら言われても不安しかないですし、脳の専門分野を勉強してきた人の言葉を信じて危ない行動を避けるのは普通の事じゃないですか?」
「いや、でも、医者というものはそもそも」
と言った感じで、コウイチさんはそれからは医者という存在を否定的に話すばかりでした。
論点がズレちゃったなぁ私が言いたかった事はちゃんと伝わったのかなぁと考えていると、
「そんな病気があるとは想定外だった。少し考えさせて欲しい。」
と言われ、その日のデートは終わってしまいました。
また後日、コウイチさんから連絡が届き待ち合わせ場所に行ってみると、一輪の赤いバラの花を持ったコウイチさんが立っていました。




