内心は蛇に睨まれた蛙状態
常に無い程瞬間的に落ち込んだ気分をなんとか自力で回復させ、下向き加減だった顔を勢い良く上げて気持ちを切り替えた私はコウイチさんの後ろに続いて玄関へと入り込みました。
「こんにちは。来たよ。」
廊下の奥の方に向かって簡潔に声を掛けるコウイチさんの隣に立ち
「こんにちは~!お邪魔します!」
聞き取り易い様に声を響かせました。
程なくして、サチさんがゆったりとした歩調で廊下の奥から私達の居る玄関に近付いて来ました。
「いらっしゃい~。初めまして。よく来てくれたね~。」
笑みを零しながら出迎えてくれたサチさんは、利発そうでそれで居て上品な雰囲気を持った方でした。
一目見て、温和で素敵なお人柄をされてるんだろうなぁと感じたサチさんの後ろから
「おう、いらっしゃい。まぁ上がって。」
身長は私と同じ160cmくらいなのに並外れた威圧感を放ちながら現れたタダオさんが、ぶっきら棒な言い方で家の中に入るように促してくれました。
玄関の三和土に立ち、背筋をピンと伸ばした私は
「初めまして。目駄エイミと言います。今日はお時間を作って頂いて、本当に有難うございます。」
と深く頭を下げてご挨拶をすると
「こんにちは。初めまして。エイミさんだね。そんな所に居てないで中に入ったら良いよ。どうぞ。」
無愛想な雰囲気のタダオさんが部屋へ入るように再度促し、迎え入れてくれました。
あまりの緊張に心臓は早鐘を打ち鳴らしていましたが、そんな事とはおくびにも出さずに、長年の接客業で培ってきた社交術を駆使して笑顔を保つ事に成功していました。
居間へと通された後、座布団を勧められた時には何処に座ったら良いのかとコウイチさんの方が狼狽えて動揺を見せていました。
出入り口付近に腰を下ろした私は手土産の進物を手提げ付きの紙袋から取り出し、ほんの気持ちなんですが御口に合うように選んだので受け取ってくださいと告げ、わざわざ有難う、頂戴しますと答え両手でしっかりと受け取ったタダオさん。
その後、私達の横を通り過ぎて居間の奥に敷かれた座布団の上に胡坐をかくと、早々に口火を切りました。
「コウイチからの電話である程度の話を聞いてはいるんだが、今日は結婚の挨拶に来てくれたんだね。」
「はい、お忙しい中わざわざお時間を取って頂いて本当に有難うございます。」
私が再び頭を下げると
「あぁ、良いから良いから。そんなに堅苦しくならないで。うん……。ついこの前コウイチと話した時に結婚の話を聞いたから急な事に感じて驚いているんだが、どのくらいの期間お付き合いしていたのかなと思ってね。」
タダオさんは率直な気持ちを疑問にして畳み掛け始めました。