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寂しい心を埋めてあげたい

60代のご両親、それから私と同じく5歳年上のお兄さんが居て4人家族だと話してくれたコウイチさんは、いつもの無表情より更に感情を削ぎ落とした能面のような顔で語り始めました。




「兄は大手企業に勤めているんだけど仕事の都合で今は福岡に赴任していて、2年前に結婚した嫁さんと一緒に住んでる。嫁さんのトモカさんとは結婚式とお正月を含めてもまだそんなに会った事は無いけど、気さくな上にもの凄くしっかりしてる人でよく喋るから、必要な事しか話さない寡黙な兄と相性が良いのかもしれない。兄の事は尊敬してるけどエイミさんのところみたいに兄弟仲が良いとは言えないな。連絡も普段は全然取っていないし、連絡を取ったとしても法事の日程とかの必要最低限の会話しかしないから。」


「そっかぁ、男兄弟だったらそんな風にドライな関係性でも不思議じゃないのかもね。私と兄さんが休日を合わせてまで一緒に出掛けたりする程仲が良いのは、年齢を考えてもかなりレアなケースだからね~。コウイチさんのお父さんはどんな人なの?」



「もの凄く頑固で融通が利かない人だよ。父は。亭主関白過ぎて母にも最終的に逃げられてしまったから。父は中学校の教師の仕事を定年まで勤め上げて余生は母と自然の沢山ある田舎で過ごそうと考えていたらしいけど、母に振られてしまって5年前に離婚したんだ。母は歪野の家を出て行ってしまった。僕が今一人暮らしをしている家の隣の市に実家があって、そこで今は父と祖母が一緒に住んでいて、僕が日本に戻ってきてからは祖母がご飯を食べにおいでってたまに声を掛けてくれるんだけど、実家に帰ったりはほとんどしてないな。用事がある時でもない限り、父に会いたくないから。母に離婚されてしまった事も含めて、反面教師として見ているよ。」


「そうなんだ。教師って言うお仕事柄生真面目そうだし、家庭はこうあるべきだって言う強硬な信念があったりしてそれが全面に出てしまったのかなぁ。でも、熟年離婚だったら、そんな年齢になるまでコウイチさんのお母さんは頑張ってお父さんに合わせて長い間連れ添ったんだね。」



「うん、母は僕が成人するまでは夫婦で居ようと努力してくれたから、結果的に熟年離婚になったんだ。僕や兄を父親の居ない子どもにさせたくない一心で頑張ってくれたらしいんだけど、僕が生まれる前くらいから母は鬱病になって今でも薬を欠かさず飲んでいて、父のワンマンな性格に耐えられずに結局離婚した。母は今は再婚相手と一緒に東京の方に住んでるよ。母の再婚相手がユウヤさんって言うんだけど、その人はいろんなジャンルの知識が豊富で話していて飽きなくて凄く面白い人なんだ!近い内にパソコンを買い換えるそうで僕にどのパソコンが良いのか教えて欲しいって言われてるんだけど、安くて良いパソコンを買ってユウヤさんにプレゼントしようと思ってる。」


「お母さんの今の旦那さんとの関係はとっても良いんだね~、それも何だか凄い事だよね!パソコンをプレゼントしてあげるなんてコウイチさん優しいなぁ~。でも、お父さんに対する思いとのギャップが凄いよね?お父さんだって、コウイチさんとお兄さんを立派に育てあげた人なんだから凄く素敵な人だよね?結果的にはお母さんと離婚する事になっちゃったみたいだけど。手放しで褒められるところとか尊敬するところとか、お父さんにだってあるよね?」



「父に対しては……特に思う事は無いな。言葉少なめで口を開いたと思ったら正論を振り翳すばかりでそれで母は潰れてしまったから僕の中では反面教師としての存在でしか無い。結局、父自身が自分のやりたいようにやってきた結果だし、それを僕がどうこう言おうとは考えていないけど。父と同じようには絶対にならない!って言う事だけは心の底から思ってる。」


「そっかぁ……。お父さんと息子って言う同性同士の親子関係は私には計り知れないものがあるんだろうね。私の父さんと兄さんも仲が悪くは無かったけど凄く良いって訳でも無かったから、お互いに対して複雑な思いを持ってるのかなぁ。でも、お父さんに対するコウイチさんの思いがどうであれ、コウイチさんを育ててくれたお父さんとお母さんの事を自分の親みたいに思って大切に接していけたら良いなぁって私は思ってるよ。結婚するとしたら、連絡を取り合ったりしたいなぁ。」



「……うん。でも、結婚して僕とエイミさんが一緒に暮らし始めたとしても、エイミさんは別に僕の両親に構う必要は全く無いよ。こちらから連絡する必要も一切無いし、母に至ってはもう歪野の家を出ている存在で他人なんだから。」


「えー!!そんなに冷たい言い方をしなくっても良いのに~!コウイチさんの実のお父さんとお母さんなんだから!もっと仲良く接していけたら良いなぁって私は思ってるよ?」



「僕達はもう30歳を超えた良い大人なんだから、自立して2人で生計を立てていくべきだ。お互いの両親や兄弟に頼らずに生活をしていくのは当然の事なんだ。僕達2人で生きていけたらそれで良いんだ。僕はエイミさんが居てくれたらそれだけで良い。」


「え~?夫婦になったら2人でしっかり生活をしていくのは当たり前の事なんだろうけど、だからってお互いの親兄弟を排除するって言うのは違うんじゃないかなぁ?結婚するって事は、私達は勿論だけどお互いの家族も家族になるって事だよ?親族って括りだけど、折角みんなが家族になれるんだから、排除しようって考え方じゃなくて仲良くやっていける様に最大限の努力をしていけたら良いんじゃないかなぁ。

結婚ってそう言う結び付きでもあるんだから、私達2人が良いからそれで良いって事にはならないよ~。私達が籍を入れて自分達の家庭を持つからって、コウイチさんのご両親が離婚しているからって、親が親であるって言う事と兄弟が兄弟である事実はそのままなんだし、私達にもし子どもが出来たらお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、伯父さんになる存在なんだよ?わざわざ積極的に排除していく必要は全く無いんじゃないかなぁ?」



「……確かに、子どもが出来た場合は祖父母って言う存在が身近に居るのは影響が大きい事だと思う。……エイミさんの言う通り子どもが出来た場合を考えると、エイミさんの実家の近くに住んでお祖母ちゃんが生活圏内に居るって言う安心感は大きいかもしれないな。僕達2人が夫婦生活を続けていく為にも。」


「ほらほら!そうでしょ?いっその事、私の実家の近くに2人で住んじゃう?!なんてね!フフフ……。今まで私は実家を出て一人暮らしをした経験が一度も無いからか、家族との距離がとても近くてそんな状況に甘えてきてたなぁってつくづく思ってて。

十年前の就職のタイミングで実家を出る予定だったんだけど、父さんの肝臓癌が丁度発覚して、大手小売業の内定を貰っていたんだけどそれをお断りして実家から通える就職先に変えちゃったからさ。病気の父さんと父さんを支える母さんの助けになればって考えて実家から出ない選択をしたんだけど、父さんが亡くなってからも実家に住み続けるって言う甘えたままできてしまってたから、母さんとは共依存みたいな関係性になってしまってる気がずっとしてて……。

それを払拭する為にも、実家からは少し離れた所に住めたら良いなぁって考えてるんだけどね!母さんや兄さんに何かあった時は直ぐに駆け付けられるように関西圏だったら何処でも良いよ~。コウイチさんはどの辺りに住みたいとかあるかな?」



「僕は京都の自然が残っている所とかが良いな。この前の旅行も凄く楽しかったし。」


「京都旅行楽しかったね~!でも、私の中では京都は観光する場所って位置付けだから実際住むって事になったらどうなんだろうね。あと、なんとなく京都の人は余所者に冷たいイメージがあるんだけど、そう言うのもどうなんだろうね~。」





この時の会話で、“親兄弟を排除する”と言う考え方をコウイチさんが改めてくれたんだと私は思い込んでいました。


まだ数ヶ月の短い付き合いではありましたが、お父さん譲りであろうコウイチさんの頑固で強情なところを把握していたので、今直ぐには無理でもゆっくりと考え方や態度が軟化していったら良いなぁと、焦らずに気長に構えていたらきっと好意的に変わっていってくれると信じ込んでいました。


お父さんとコウイチさん、お母さんとコウイチさんの関係性が今よりもっと良いものになるように、コウイチさんの頑なな態度が徐々に和らいで歩み寄りの姿勢を見せてくれるように、私に出来る事は少ないかもしれないけれど出来る限りの力を尽くそうと考えていました。


何より、殺風景な顔のまま自分の家族の事を語るコウイチさんがとても悲しく痛々しいものに感じてしまい、そんな表情じゃなく、もっと生き生きとした面持ちで家族の事を話すようになって欲しいと私は心から思い、そうなるように努力しようと心の中で静かに決意していました。


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