別れる切っ掛けは何度もあった
「高速道路でバックしようとはしたんだけど、結局ちゃんとそのまま進んでくれたから誰も怪我も無く事故も起こさずに一般道路に降りられたんだけどね。心臓が止まるかと思うくらい本当に吃驚しちゃったよ!きっと私が死ぬとしたら、コウイチさんが運転してる時の交通事故になるんじゃないかなぁって強く思ってる。」
極力明るい声で、何でも無い事の様に笑って話す私とは裏腹に、ポカンとしたままのレナとミナ。
唖然として開いた口が塞がらない状態の2人に注視されるまま、私は話し続けました。
「なんで高速道路のあんな所でバックしようとしたの?ってコウイチさんに訊いたら、どう答えたと思う?戻れると思ったし、戻った方がタイムロスも無くて効率的だと思ったって言うんだよ!そう言う問題じゃないよね?
危険過ぎるからもう二度としないで!何が起こったとしても高速道路ではバックしないように!って一般道路に降りてから懇々と諭したよ。もう、本っ当に怖くて死んじゃうんじゃないかと思ったし。これから先のコウイチさんとのデートは当分、私が車の運転をするって宣言して納得して貰ったよ。そうじゃないと怖くて怖くて……」
と目を伏せた私に対して、絶句していたレナが正気付いて早口で喋り始めました。
「いやいやいや!それは駄目なやつでしょ!危険運転!!もっとちゃんと怒らなきゃ駄目だよ!エイミの事だから、諭すだけで怒ってないんでしょ?!それは怒って別れても良いくらいの事件だよ~!有り得ない!!」
と目を見開いて私に詰め寄るレナの横で、ミナが冷静に
「とりあえず、事故が起こらなくて不幸中の幸いだったね。エイミ、コウイチさんにもっと強く怒って詰っても良いんじゃない?レナの言う通り、そこまでしても良いような出来事だよ。」
と私にゆっくりと語り掛けました。
「う~ん、お願いだからこのまま進んで!!って車の中で叫んだ時は結構ヒステリックになってたんだけど、高速道路を降りてからは冷静になって気持ちが落ち着いちゃってたからね。もう二度としたら駄目だよって何度も言い聞かす感じでしか話してないなぁ。怒るとか詰るって事が私の性格上なかなか難しくて。怒りの感情より悲しいって感情が前面に出てくるタイプだから。
コウイチさんもちゃんと反省して、もう二度と危ない事はしないってしっかり約束してくれたからそれで良いかなぁって思ってるんだけど、もう一回ちゃんと話し合った方が良いのかなぁ?」
私は不安になりミナに尋ねると、
「エイミがそれで良いなら良いんだけどね。今回は怪我も無かったみたいだし。コウイチさんの考えがいまいち解らないけど、きっちり約束してくれたんだったらひとまずは大丈夫?なのかな?」
と心配そうに訊き返してくれました。
「うん、話せばちゃんと聞いてくれる人だからね。もうこんな事は無いと思うよ。基本的に優しい性格で大体の事は私を優先してくれるんだけど、たまに独特なところとか強いこだわりがあって譲れない時は、それについて2人で延々と話し合って折り合いを付けてるよ。私もコウイチさんも感情的になるタイプじゃないから、お互いが納得いくまで話すのはあんまり苦じゃないのかも。なんとかこれからも一緒にやっていけるとは思ってるんだけどね。」
と答えると、レナが
「かなり衝撃的な事件を聞いちゃったんだけど、エイミが冷静に対処してるから拍子抜けしちゃったよ~。とにかく、エイミが無事で良かった!コウイチさんとの事で、他に相談したい事とかは?もっとこう惚気的なのは無いの?」
と場を和ませ、明るくしようとしてくれました。
「え~っとね、これは惚気と言うかコウイチさんの優しいところなんだけど。車じゃない時でも、私のお家の最寄り駅まで一緒に来てわざわざ見送ってくれるよ!私を駅まで送ってくれて、コウイチさんはそのまま自分のお家まで電車で一時間以上掛けて帰るの。凄く紳士的じゃない?紳士的と言うか過保護かな?まぁ、帰りの電車での一時間の間は、いつも持ち歩いてるノートパソコンでお仕事してるらしいから時間の無駄は無いみたいだけどね。」
と私が笑いながら報告すると、
「それって紳士的?どこまでも効率的な人ってイメージしかないよ~。」
2人共肩を落とした風にして笑いつつ、大げさにリアクションしてくれました。