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第2話 受け入れ拒否される子ども(2)

「ごめんください! 私の面倒を見ていただけませんか!」


 入り口に立つ少年が声を張り上げると、傍にいた男が彼に歩み寄り、いきなり持っていた杖で殴りかかった。


「いきなり何をするのですか! 私は好野(よしの)(ゆう)。ここで世話になりたいのです。」


 友好的に話しかけたら襲われるというのは、裕にとって想定外だった。少なくとも、町の人たちは裕を見ても特に変な反応は無かったのだ。

 珍しそうにジロジロ見る者はいたが、危害を加えようとするものや、恐れて距離を置こうとするような者は、裕の認識の範囲内では一人もいない。黒髪は悪魔の象徴だとか、敵対種族の特徴とかいうことがあればもっと大きな反応があっても良いはずだろう。


 しかし裕の目の前の、恐らく神官と思われる男は、憤怒の表情で杖を振り回している。

 麻薬の禁断症状で凶暴化でもしてしまったのか。あるいは裕が親の仇にでも似ているのだろうか。雄叫びをあげて杖を振り回して裕に襲い掛かる


 神官だか暴漢だかよく分からないが、男の攻撃を必死に躱していた裕が気付いたときには、二人の周りには群衆ができていた。


「見てないで、誰かこの莫迦(ばか)を止めてくださいよ!」


 裕は叫ぶが誰も動かない。言葉が通じないのは本当に不便である。仕方なく裕が反撃に出ようとしたとき、群衆の奥から大きな声が上がった。

 直後、振り向き動きの停まった暴漢の腹に裕のライダーキックが直撃した。



 神殿の中から似たような服を着た何人かの男たちが現れて、腹を抑えて屈みこんでいた暴漢を連れて行く。暴漢の服も彼らとお揃いである。そして、神官と思しき一人の若い男が裕の前に立った。


「こんにちは。私は好野裕。ここで世話になりたいのですが。」


 裕は改めて挨拶し、柔やかに話しかける。しかし、神官は無表情で黙ったまま裕を見下している。


「あの、もしもし? 済みません、ちょっと良いですか?」


 裕は何とかコミュニケーションを取ろうと声を掛けてみるが、神官は表情を変えることも無く、ただ裕を黙って見ている。


 あまりの反応の無さに裕が途方に暮れ始めたとき、神官が何やら言葉を発した後に、踵を返して神殿の奥へと戻っていく。裕がその後に付いて行こうとすると、神官は手のひらを裕に向けて抑え込むようなジェスチャーをする。


 裕はそれを『待て』と理解し、入り口傍へと移動する。柱にもたれ掛かりながら人々を観察する。ほとんどの人がサンダル履き、橙系統の色のシンプルな衣服。体が弱ると神に祈りたくなるのだろうか、神殿に来る人は元気が無い者が多いようである。


 手持ち無沙汰に周囲を眺めていた裕の前に神官が戻ってくると、手を取り歩きだした。裕は訊いても分からないだろうと、素直に手を引かれていく。


 暫く歩くと、大きな門とそこから延びる防壁が見えてくる。

 神官は門の外に出たところで裕の手を離す。裕は辺りを見渡すと……


「いや、これ町の外じゃん? ちょい待ってよ。いや、マジで待てって!」


 神官は既にスタスタと戻って行ってる。慌てて裕も町の中に戻ろうとするが、横から出て来た兵士に立ち塞がられてしまう。


「退いてください! 一体何の嫌がらせですか!」


 兵士に槍を突き付けられて裕が叫ぶ。しかし、その言葉は通じていない。


「万策尽きた……」


 無一文で言葉も通じない、しかも幼児化している。その上、助けを求めたら町から追放されてしまった。


 もはや、裕には打つ手がない。

 めげないもん! と強がってみても、具体的に何をすれば良いのかは全く思い付きもしないのだった。



 ふとその時、裕は何かが聞こえた。ような気がした。


 耳を澄ませてみると、気のせいではない。獣の遠吠えか、雄叫びか。遠い、だが、数は多い。

 裕は声の聞こえた方角を見るが、獣らしき姿は見えない。

 だが、裕には嫌な予感しかしなかった。


 裕が注意深く音の発生源を探していると、頭上から鐘の音が響く。


「早鐘? 敵襲なのですか? って、決め付けは良くないですね。ですが、あれ程必死に打ち鳴らすというのは、緊急事態なのでしょう。これが普通の閉門の合図だったりしたら怒りますよ。」


 裕はどうでも良いことを考えながら門の内に飛び込もうとする。だが、やはり兵士に妨害される。


「本当に勘弁してくださいよ!」


 子供の力で大人に抗えるはずもなく、裕は門扉の外に放り出され、その目の前で門は閉ざされてしまった。


「いくらなんでも酷すぎじゃありませんか!」


 裕は叫ぶが、返事は無い。

 門の前でモタモタしていても仕方が無いと、裕は走り出す。走りながらよく見ると、防壁は石を積み上げて作られていて、頑張れば登れなくもなさそうである。


 裕は防壁に沿って走り、登りやすそうな個所を探す。


 獣の声が聞こえ裕が振り向くと、土煙を上げる集団が畑の遥か向こうに見えた。裕は目に見える範囲で一番可能性が高そうな所を探し、急いで登り始める。獣たちの音が近づいてくるのに焦りながら必死で壁をよじ登り、やっと登り切った時には、土煙の一団は先ほどより明らかに防壁に近づいていた。


 防壁の上は幅が一メートルにも満たない程度だが、立って歩くことができないことはない。とはいっても、すれ違うことは難しそうだ。絶対に無理、というほどではないが、慎重に行わなければ転落してしまうだろう。


 裕は防壁の上に立ち、迎撃の為の武器になるようなものが無いかと探す。きょろきょろと周囲を見回して、街門付近にいた兵士が一人もいなくなっていることに気付いた。どこへ行ったのかとさらに辺りを見回すと、道の向こうに慌てて逃げていく兵士たちが見えた。

 その跡には捨てて行った槍が転がっている。


「は? 何でみんな逃げてるの? 戦えよ! 兵士が戦いもせずに武器を捨てて逃げるか普通?」


 裕は呆れと怒りが混じった声を上げる。

 自分も逃げるか? 一瞬、その考えがよぎるが即時に却下する。

 裕にはこの町を守る義理も義務もないが、迷いもせずに戦うことを選んだ。


 ただ逃げ惑うだけでは死ぬだけだろう。ならば戦った方が生き残る確率は高い、と思った裕は自分が子供になっていることを考慮に入れていなかった。



 理屈としては裕の考えは全く間違っていない。


 街門が破られないという自信があるならば、逃げる必要が全くないはずで、逆に言えば、兵士たちが逃げると言うのは、門は破られてしまうと予想されていると言うことだ。


 門が破られる前提で考えると、その前に遠距離攻撃等でどうにかして敵の戦力を可能な限り削ぐべきなのだ。

 敵の全戦力が残ったまま雪崩込まれるのと、半減してから突破されるのではその後の防衛、戦闘の難度が違う。


 そんなことも分からず、ただ怖いからと逃げ出す兵士たちは阿呆以外のなにものでもない。


 今現在、裕の目につく武器は、兵士達が捨てていった槍だけだ。脳みそを高速回転させながら裕は走る。



――

 門番が複数人いたということは、詰所かそれに類するものが近くに在っても良いはず。そこには何らかの武器や道具が保管されている可能性が高い。

 それはどこにあるか。


 一般的には門扉の内側すぐ近く。というか、そうじゃなかったら無理。見つけられない。

――



 裕はそれらしき建物を見つけ防壁を飛び降り、詰所の中に飛び込んで武器を探す。

 大小幾つかの弓はすぐに見つかった。そしてすぐ近くの戸棚には矢が大量にしまってある。

 裕は一番小さな弓を手に取り弦を張ると、矢筒に入るだけ矢を詰め込んだ。


 弓矢を抱えて外に出た裕は、弓を射る場所を探す。建物の向こう側に矢倉が見えるが、そこへ行く道は分からない。どこかに良いポイントが無いかと探す裕の目に、防壁についた梯子が映った。


 裕が再び壁に登ると、土煙の一団はすぐそこまで来ていた。

 先頭に狼が十数、その後ろに熊が三、続いて豚面、大鬼、小鬼がいっぱい。


「あれが噂に聞くオーク、オーガ、ゴブリンってやつですかね。どこのファンタジーですか。実物なんて初めて見ましたよ!」

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