002 焼かれる肉の気持ち
じり、じり。火に焼かれる肉の気持ちが、引きこもりにはわかった気がした。
砂漠なみの日照り。リリタワは世界有数のリゾート地であることもあって、めちゃくちゃな世界各国のめちゃくちゃな技術が集結しているのが見て取れた。といっても土地柄、殆どは魔法を必要としない技術が主なようだ。
すぐに気づいたのは、ニチノにある自動車、アスファルト。建造物は各国の様式や素材で作られており、レオやフィーの目にも新鮮に写った。
少々振り回されまくりで外出する気が失せつつあったレオも唸った。できることなら指定のホテルから一歩も出るつもりも無かったのに。
やっとゆっくりできると思えば呼び出され、あるいはルキに買い物に連れ出され、さらにはフィーの学校関連のイベントにアッシュの代打をさせられたりと、レオはその頃よりも忙しさを体感していた。嫌だとは思わないが流石に疲れる。
手で影を作りながら、ぐるんと見回したルキがきゃっきゃと声を上げた。
「おーっ、これはすごい! ねーねーアッシュくん! どうおもう!」
「いやー、あれだけいいよとは口で言いつつ、目で俺は引きこもるって言ってたレオニードが、ちょっとそわそわしてるんだよ? それを私がすごいと言わないわけないじゃないか。言葉が足りないね」
「……アッシュ、俺はリタ――」
「っと! さあ、いいホテルなんだよね! たのしみだなあ!」
ぎろ、とレオが睨みながらアッシュを制する。それはもう、呆れるしか無いような大声で遮られ、アッシュはさっさとあるき出した。全員を転移魔法でここへ運んだフィーも「いこー!」と上機嫌についていき、道案内の看板を一緒ににらめっこしはじめた。
「……ここって魔法のつかえねえ土地、じゃねえのか」
「ん? そうだねえ。転移はなんで使えるのかって言いたいのかな」
「正解。元神様答えろ」
「それは簡単な話さ!」
ぴょんっとルキはレオの前へ飛び出て、にっと笑う。
「あくまで発動できないだけだから。魔力が内包されてないわけでもないし、ただ発動したという事実が掻き消される土地。魔法がもし、定義されず許可されなかったらどうなるのか、っていう場所だね!」
「……相変わらず屁理屈だ。それはいいとして、帰りってどうなるんだよそれ」
「うまい言い訳があるよ。パンフにはこうあった。『お帰りの際はミーグレヒ国最大の港、スティチニまで船の旅をお楽しみいただけます』だって」
「つまり、船じゃないと帰れないって言いたいんだな?」
「まー、一定離れれば魔法は使えるけど。作ったのが遅かったから、ニチノほどは蓄積してないとは思うけどね、魔力」
「……、つかえねえなら蓄積とめる定義もしとけ」
「なにおう!?」
うんざりとばかりにジト目でルキを見るレオ、ぷーっと不満を顕にするルキ。さっとその間に、小さい影が飛び込んだ。言わずと知れたフィーだ。
「また喧嘩してる! フィーおこるよ!」
「もう怒ってんじゃねえか、フィー」
「ごめんね、フィーちゃん。……ホテルの場所わかった?」
苦笑いしつつルキが誤魔化す。ふんすと鼻息荒く、フィーは大きく胸を張って自慢げに宣言した。
「よめない!」
「……おーう、それはさすがのボクも予想外だったよ」
「大丈夫、大丈夫だよ、ミエールキイ。ちょっとこう……デザインな感じの文字になってて、公用語なのに別の言語に見えただけだから」
こちらに戻ってきたアッシュが、少々恥ずかしげに頭を掻いて言う。はぁ、とレオはため息を吐いた。じとーっとアッシュを睨む。
もう嫌だ早くホテルに連れてけ――、それを理解したアッシュは、「じゃあ、ホテル行こうね」と促した。