ダメロス 1
あるところに勇者の青年がおりました。血筋によるものではありません。その性根こそが彼を勇者たらしめているのでした。
単なる牧人である勇者は、民の陰鬱とした雰囲気の理由を不信の王だと知り、友との信頼を見せることで改心させたのです。
***
「あの美女の皮を被ったゴリラめ。俺をパシリに使うとは。兄と心得よよ全く。」
妹の、前より若干ウエストがゆったりした花嫁衣装を受け取るメロス。
言うまでもないが妹が結婚するのだ。相手は牧人。そして今はぶどうの季節。今日も晴天で結婚日和だが、結婚式は明日だ。メロスは、ギリッギリまで花嫁衣装のウエストを細くした挙げ句に入らず手直しを頼むはめになった妹に、それの受け取りに行かされていた。(預けるのはたまたま街に用があった婿がした。)
一度は断ろうとしたメロスだったが、手直し前の衣装が母親にはベストサイズな事実に打ちのめされた妹は哀れだったので
「デーブw」
と一声かけて引き受けた。家畜の世話なんかの仕事をサボる大義名分が出来るという心算もあった。いい気分(具体的にいうと太陽が非常に綺麗に見える状態)で出かけた訳だが、それも徐々に下降して終いにはぼやいている。いろいろダメすぎる。村から街まで10キロそこらあるとはいえ、この時代にゃ徒歩で普通である。
「にしても、どいつもこいつも幸薄顔だねえ。なあおじいさん」
いきなり挨拶もなしに手近な人に話しかける非常識なメロス。
「え?はあ…」
見知らぬ若者に話しかけられた翁は困惑している。
(よし弱そう)
メロスは柔らかな笑みを浮かべつつそう思った。話を聞き出すのに最適な相手だと認識した訳である。
メロスが気にするくらいには街の雰囲気が暗かった。人通りもいつもより少なめだ。店が軒並み閉まっているのは痛い。普通に営業していた仕立て屋は、存外に逞しいものである。街自体がこれでは売り上げも芳しくないだろうが。
「俺田舎者でねえ、都会のことよくわかんないんだけど、おじいさんはなんでか知ってるかい?不況かねえ?不景気な顔ってやつかねえ?」
「ええと……そうだねえ、不況かねえ…?」
翁は辺りを憚り、返答を濁すことにしたようだ。事実でもマイナスなことを言うと罰せられるくらいの権力者が原因らしい。
それでも容赦なく聞き出すのがメロスである。そのために弱そうな翁に話しかけたのだから。いざとなれば実力行使に移るのだ。一つ添えておくと、メロスはモヤシのチビである。
弱い者いじめなんてサイテー!
「な、おじいさん。お偉いさんがやらかしでもしたのか?」
いかにも心細そうな表情を心がけて問うメロス。悪どいというかずる賢い。
「いや、あの…」
「教えておくれよ。これじゃあおちおち寝てもいられない」
「その…」
といった押し問答が続いて、結局翁が折れた。泣き落としが常套手段のメロスである。翁は声を潜めて呟くように言った。
「王は…人が信じられぬとおっしゃるのだ…御自分の御親類や賢臣のアレキス様さえ処刑した…磔で、広場に晒されているよ…」
「王が…?」
メロスはしばし考え込んだ後おじいさんに礼を言い、その場を後にした。




