ビエナと小魚亭
暖かい陽射しが柔らかく降り注ぐ町サンライト。
ゆっくりと穏やかな時間が今日も流れている。
「こんにちはビエナさん。お帰りですね。」
出迎えてくれたのは狐人の青年。
私はこの小魚亭に泊まっている。
ここはこの町サンライトの下門から徒歩で10分の所に位置する宿泊施設。
「えぇ、素敵な本を見つける事が出来ましたので、今日はゆっくりと過ごそうかと思いました。」
出迎えてくれると言っても、カウンターから顔を覗かせて私の姿を確認しただけ。
「それは良いことですね。どんな本を見つけたのでしょうか?」
話題に興味を持ってもらえたらしい。
「ピンクローズの植生録です。もう、一冊しか無くて我慢が出来なくなってしまいました。」
「それは素晴らしいですね。どうぞごゆるりとお過ごし下さい。」
時間外のためか食堂には人はいず、空いている席の一つに座り、それからゆっくりと本を開いた。
穏やかな時間が流れていく。
外から子供たちの笑い声が聞こえる。
そっと柔らかい風が本を読む私の頬を撫でる。
そうして、また時間は流れていく。
ひょこ
本の向こうに白い三角の耳が立っている。
女の子だ。
狼人の子がじっと私の読む本を見ていた。
その様子がなんだか可笑しくてつい話しかけてしまう。
「あなたピンクローズに興味があるの?」
女の子は私を見つめると、首を傾げるような仕草をしてしまう。
その姿がもっと可笑しくて笑みが溢れてしまう。
「私はねこの町にピンクローズの生態について調べに来たただの、、、そうねお花好きかしら。」
女の子は返事を返してくれないけれど、私は構わずお話を続ける。
「世界のあちこちにある、そこにしか無いお花を私は知りたいの。」
「あちこちをこの足で歩いて、この目で見て、ちゃんとお話しを聴いて、お花がどうやって、どうして咲いているのか、それを知りたいの。」
「だから、こういう本を見掛けちゃうとどうしても気になってしまうの。」
私と女の子はお互いの目を見ていた。
「ごめんなさい、ビエナさん、その子言葉を話せないんです。」
そう言って両脇を抱えて女の子を持ち上げるルピさん。
狐人の青年と狼人の女の子。
一見するとまるで兄妹のようにも見える。
「いえ、此方こそ、そうとも知らずに話し掛けてしまいましたね。」
「いえいえ、此方の落ち度ですよ。しっかりと面倒を見てやれて無いのがいけないんです。」
そういうと女の子を抱えて連れて行ってしまう。
私はその後ろ姿を見ていた。
夕刻も近くなってきたので、一旦借りている自分の部屋に戻って身仕度をする事にした。
陽が空から見えなくなると町は静かに、けれども食事処を中心として賑やかな声が聞こえていた。
私は夕食を食べる為に、宿一階に隣接された食堂へと足を運ぶ。
ここも人で賑わっていて食べ物の良い匂いがする。
食堂ではウェイトレスさんが注文を聞いて回っている。
そのうちに私にも注文を聞きに来た。
「何を食べますかー?今のおすすめはタアンとモールの肉サラダ、ヘーペロンの卵焼き、ガージャスの焼き肉ですね。」
「じゃあ、タアンとモールの肉サラダと、もうひとつは卵焼きで。」
食事を運んできてくれたのはお昼の女の子だった。
料理を並べると一度だけお辞儀をして戻って行ってしまった。
夜。
賑やかな声も落ち着いてきて、もう外からも中からも音は聞こえない。
小窓から月をゆったりと眺めて、お昼のことや明日からの事を考えていた。
あの子にお礼を言わないと。
話しを真剣に聞いてくれた。
分かってないかもしれないけれど。
明日はジョンさんのお屋敷へ行かないと。
ピンクローズの育て方や種子の入手方法や育てるための環境について。
私はそっと眠った。
食材名は適当です。
ピンクローズも適当です。
2019/06/24 pv100超えました。