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白と青  作者: 坂 昇
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プロローグ:「出会い」


 西の空に沈みかけた夕日が、先程まで透き通った青色の空をオレンジ色に染めていた。


 滑り台や鉄棒、ブランコ。どこにでもある小さな公園には、子供達の姿は少なくなっていた。


 そこに、小さな男の子と女の子が砂場で仲良く遊んでいる。


 「ねえねえ、シロくん!見てみてーお姫様のお城!」


 女の子は、白い歯を見せ、元気いっぱいの笑顔を男の子に向けた。男の子も女の子に応えるように、ニッコリと微笑む。


 「アオはねー、将来お姫様になってこんなお城に住むんだー!シロちゃんは、アオの王子様になってね」


 「うん!アオちゃんの王子様になる!アオちゃんのことずーっと幸せにするからね!」


 「ずーっとだよ……」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 目を覚まし、時計を見るとまだAM5時。

 また同じ夢を白坂 裕翔は見ていた。そして、いつもと同じ場面で目を覚ます。

 彼は、夢に出るあの男の子が自分自身である事は、理解できていた。

 だが、女の子は誰なのか全くわからない。

 ただ、一つ言える事は、最後に女の子が言った時、その子はとても寂しげな表情をしていたという事だ。


 「また同じ夢……」


 彼は洗面所に行き、鏡に映る自分の顔を見る。

 目から頬にかけて、薄っすらと涙がつたっていたような跡がある。

 なぜ、自分が涙しているのか彼にはわからない。だが、この夢を見る度に涙の跡が残っている。


 「とりあえず、寝よ」


 彼は、ベッドに戻り仰向けになると、部屋の白い天井をただ見つめていた。


 (あの夢は一体なんだろうか。俺はあの子とどこかで……会ったことがあるんだろうか)


 再び夢のことを考えている内に、彼はゆっくりと目を閉じ、再び深い眠りについていった。


 「早く起きろ、裕翔!学校行くぞ!」


 頬を軽く叩かれているのに気づいて薄っすらと目を開ける。ぼんやりとした視界には、誰かの顔が近くにある事は認識できた。

 しかし、彼は再び目を閉じ、眠りにつこうとする。


 「おい!寝んなよ、裕翔!遅刻しちまうだろうが」


 朝から、聞き慣れたうるさい声が、寝起きの俺の頭にガンガンと響く。


 「うるせーな。誰だよ……あっ、朋也。はよー」


 再び目を開けると、目の前に朋也の顔を確認する事ができた。

 まだ眠気が残っている重い体を起こし、眠気まなこをこすりながら、大きなあくびを1つする。


 「一回で気づけよな、ほんと。早く用意しろ」


 朋也は、クローゼットにかけてある制服と靴下を裕翔に渡した。雑草のようにあちこちの方向に跳ねた髪の毛を手櫛でとかしながら、気だるげに彼は制服に袖を通す。


 着替えを終え、玄関に向かう途中、リビングの扉が勢いよく開かれた。そして、リビングから出てきた者に、裕翔は頭にげんこつを1発いれられた。


 裕翔は頭の痛みを和らげるため、げんこつを入れられた箇所を両手で優しくさすっていた。そして、恐る恐る後ろを振り返ると、眉間にシワを寄せ仁王立ちするエプロン姿の女性がいた。

 そう、裕翔の母親である。


 「あんた、いつまで寝てんのよ!もう高2なんだらから、しっかりしなさい!毎回、ごめんね、朋也くん。ほら、これ持って来なさい」


 裕翔の母は、裕翔と朋也に、お手製の玉子サンドイッチを手渡した。


 「うわー!おばさんのサンドイッチだ!これめっちゃうまいんですよね!いつもありがとうございます!行きしに食べますね」


 「いいのいいの!いつも起こしに来てもらってるお礼よ。それに朋也くんは、いつも美味しいって言ってくれるから私も嬉しいわ。それに比べて裕翔は……お母さんに感謝の気持ちはないの!?」


 「はいはい、分かったから。いつもありがとうございます。てか、やばい、朋也。もう出ねーと遅れる。んじゃ、いってきまーす」


 裕翔は、母の言葉を適当に流し、そのまま家のドアを開け、朋也と共に勢いよく出ていった。

 母が、適当な返しに対して何か言っているのは分かったが、小走り気味に出ていったのであまりよく聞こえていなかった。


 よそ風が暖かくなり、体に心地良さを感じる4月。

 見上げると、キレイな白い雲と透き通った青い空。

 裕翔はこの景色が好きだ。1日を良い気分で過ごせる感じがする。


 そんな余韻に浸っている時に、横にいる朋也は、能天気にサンドイッチを食べている。


 「お前、朝ごはん食ってきたんだろ?」


 「食ったよー。でもおばさんの作るサンドイッチ、めちゃくちゃうまいからなー。いくらでも食べれる」


 「どんだけ食うんだよ」


 「食べ盛りなんだよ。あっ、裕翔食べないなら俺が貰うよー」


 「おい、やめろ!俺の昼飯とんな!」


 裕翔と朋也がサンドイッチの取り合いをしていると、後ろから女の子が勢いよく走ってきて、裕翔と朋也の間に割り込んできた。


 「あんたら、またイチャついてんの?朝からお熱いね〜」


 女の子は、裕翔と朋也に指差し、ニヤニヤしながら2人を見る。


 「葵か。はよー」


 「何かテンション低くない?裕翔」


 「こいつ、また寝坊コースだったから、無理矢理起こしてやった」


 「あちゃー。相変わらずね、裕翔。ちょっとは学習しなさいよ」


 いつもの事だが、まだ眠気が少し残っている朝の裕翔には、朋也と葵のテンションにはいつもついていけない。

 ただ、朋也と葵のやり取りや2人が朝から裕翔にしつこく絡んでくる感じは、裕翔にとって少しうざったい気持ちもあるが、それ以上に楽しくて落ち着く。


 裕翔と朋也と葵は、中学からの腐れ縁で中学の3年間はずっと同じクラスであった。そして、3人とも同じ高校に入学した。さすがに、高1では、3人とも別々のクラスだったが、高校に入っても相変わらず3人で一緒に登下校したり、遊びに行ったりする仲だ。


 「裕翔、またあの夢見たのか?お前がなかなか起きない時は、だいたいあの夢見てる時か、昨日の夜、エロ本見て興奮した時だからな」


 「また、あの夢。懲りないねー裕翔。てか、エロ本どんなん見てんの?」


 「そうだよ、またあの夢だよ。てか、どこ興味持ってたんだよ、葵!お前もうちょっと、女子らしくしろよ」


 「ちぇっ、エロ本じゃないのか?てかさてかさ、夢に出てくるアオちゃんって、あたしのことなんじゃないの?ほら、私、葵だし」


 葵は、まるで餌を求める犬のように、期待した表情をして、横にいる裕翔の顔を覗き込む。


 裕翔は、真顔のまま、覗き込む葵の顔を見つめる。


 「いや、それはない」


 朋也も葵の隣で、腕を組み首を小さく縦に振りながら、「それは裕翔に同感だな」と言って、葵の右肩に軽く手を置く。


 「ちょっと、2人して何よ!別に裕翔の夢なんかに出なくたっていいもん!」


 子供が拗ねた時のようにふくれっ面をして、覗き込んでいた裕翔の顔から離れ、"フンッ"とそっぽを向いた。


 「てか、今年のクラス替え、3人とも同じクラスだといいな」


 朋也がボソッと呟く。


 今日から、新学期を迎え、3人とも高2になる。


 学校に着くと、掲示板の前には、一緒のクラスになって喜んでいる者やら、別々のクラスになってお互いに寂しそうな表情で見つめ合うカップルやらで、たくさんの人が集まっていた。


 そんな人集りの中をかき分けて、掲示板の前まで行き、彼らはクラスを確認する。


 「やったー!裕翔、朋也今年は同じクラスじゃん!」

 「おっ!楽しい1年になりそうじゃん!」

 「そうだな」


 3人とも同じ2年A組になり、葵がニコニコして勢いよく裕翔と朋也の肩を組む。勢いのあまり少し前のめりになりなった裕翔と朋也。朋也は裕翔の方を向き、白い歯を見せながらニッコリとすると、裕翔も口角を少し上げ微笑んだ。


 そんな喜びに浸っている時だった。誰かが視線を向けているのを裕翔は感じた。朋也と葵は、気づいていなさそうだ。

 裕翔は、視線を感じた方向に目を向けると、そこには、きれいな長い黒髪で、目鼻立ちがはっきりとした顔立ちの清楚な女の子が彼らを見ていた。

 見たことのない女の子だが、その美しい姿に目を奪われる。その子は裕翔に軽く微笑むと、校舎の方へと歩いていった。


 (あの子……何でこっちを見ていたんだろう。)


 裕翔は、疑問に思い首を傾げる。


 これが、裕翔と彼女との最初の出会いであった。


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