確認作業は大事です。
シアの手のひらにはホログラムが浮いている。何かを見せてくれるのだろうか?
「戦技とは言葉のとおり戦闘行為に必要となる技です。人間であった頃にもその手の専門職であったならば似たような物を使えたそうです。そうですね…例えば料理…」
「りょ、料理?」
思わずヨルンが聞き返してしまったが、料理一つに戦技を使っているなんて想像もつかない。
しかし表情一つ変えないシア、顔の横で1の数字を示すと思われる指のサインの状態で赤い目だけギョロリとヨルンの方向を向いた。言葉では言ってこないのだが。この子は怒らせると怖いかもしれない…『話の途中だ。』ということだ。
しかしまぁ、この反応は冗談ではないようだ。
「話の途中に割り込まないでもらえますでしょうか?」
「でもよ…むぅ…す、すまない」
…言葉でも追撃をしたか。
ヨルンもこれ以上の追及は無理だと思ったのか観念して謝った。
シアは割り込まれたことに不快さを隠そうともしない。
赤く光る眼と言うだけでも怖いのだが、それ以上に雰囲気が怖い、この子ははっきりと物申すタイプのようだ。ズバッと意見を言えるなんてかっこいいねぇ。
「では続きです。例えば料理ですが、包丁捌き千切りみじん切り。常人では考えられないスピードで切り刻むあの技術あれも戦技の一部に入ります。」
ホログラムがぐにゃりとなったと持ったらミニチュアみたいなキャラクターが怒涛の勢いで野菜を包丁で切り始めた。
ふむ、あのスピードは確かにすごい、テレビとかで出てくる時短料理のあの人とか…あれも戦技だったのか?
なるほどね!考えれば考えるほど理解できない。
「私としたことが…皆さん『ステータス開示』を使っていますか?」
大事な事を思い出したようで彼女は胸をなでおろしている。ホログラムを一旦消し空中で何かを触る動作をしている。
自分を含め3人は首を振る、なんだろうファンタジーではなくゲームみたいなこと言いだしたぞ。本当に大丈夫なのかこのロボっ娘…。
シアは不憫な人を見る目で3人を見ている。何がそんなに哀れなのだろうか?
なんか腹が立つから言ってみよう…う、ちょっと恥ずかしい。
「す、ステータス開示」
僕は恥ずかしそうにぼそりと言い放った。
何も起きないと思ったのだが。目の前に表示されるナニか。ホログラムで投影したかのように半透明の青い何かの情報を記した画面が浮いている。
「ほあぁっ、な、なにこれ?みんな見えるのコレ?」
「ステータス開示…うおっ」
「ステータス開示、むぅ細かくて見づらいな」
ステータス開示を終えた3人であるが2人の画面は見えない、しかし反応を見る限り見えてはいる様子だ。他人には見えないのだろうか?プライバシーの問題とか…?まさかね。
シアは相変わらず無表情でこちらを見ている。3人が落ち着くのを待っていたようだ。
「さて、今3人の目の前にはステータス表が出ていると思います。ステータス表なのですが自分自身ではないと見れません。自分以外に閲覧可能にするには本人の承認が必要となってきます。このように」
シアが空中で何かを人差し指でタッチしたかのような動きをした。
すると青色の半透明な板がシアの横に並んだ。
「細かい操作は説明が面倒なのでご自身で学んでください。」
説明を投げた!そして手を払う動作をするとシアの横のステータス表示が掻き消えた。
僕も自分の画面を払ってみると画面が消えた。よくわからないが化学では説明のしようのない謎の現象が起きている。わかってたけどさ…。
男二人組は嬉しそうにステータスを触っているようだ。きっと何も知らない人から見ると変人この上ない状況だ。ギリアムが何かに気付いたのかシアに質問をした。
「ステータスがどのくらいが普通なのかが全く分からんのだが基準たる何かはないのか?」
「はい、いい質問ですね。この辺りの最弱の魔物のステータスがこちらです。」
「レッサーレッドタートル?あー、あのちょっと大きいアカガメの事かそんな名前があったのか。」
「そうです。レッサーレッドタートルのステータスは『基本的攻撃力30・平均防御力120・知力25・速力10・運20』…数値にするとこのようなモノです。まだ細かいステータスもあるのですが説明が面倒なので省きます。では、ギリアム氏のステータスを私達にも見せてもらえませんか?」
名指しされギリアムが空中をあれでもないこれでもないと忙しく腕を動かしている。
突然青い光がギリアムの頬を照らした。ヨルンが開示に成功したようだ。
「シアさんこれでいいか?」
「はい、ではギリアム氏は時間がかかりそうなのでヨルン氏のステータスで比較を説明しましょうか。ギリアム氏もう結構です。では説明に参ります。」
「あーえっと、ヨルンさんの方が先に見つけただけですよ?きっと…お、落ち込まないでください!」
ギリアムの顔に影が差した。悔しそうな悲しそうな微妙な顔をしていたものだから励まさずにはいられなかった…。彼女の言い方もなかなかキツイなぁ。
「これが若さか…デジタル機器は苦手なんだよ。ハイテク機器をいきなり使えって言われてもおっさんには困るわい。俺もお前らみたいな年頃ならきっと…」
小声で愚痴をこぼしているギリアム、この愚痴はきっと長くなるであろう。聞き流すことにしよう。それにしても人におっさんって言われるの怒るのにこういう時はおっさん化を認めるのか。
「お二方、私の話をしっかり聞いてくださいね。これを使いこなせないと後々後悔することになりますよ?それと機械でも何でもないです自己管理魔法です。」
「は、はい…。すみません」
「う、うむ、話を聞こうかね」
しっかりと愚痴はシアの耳に届いていたようだ。体正面はヨルンの方向に。首だけがこちらを向いている。突然後頭部が正面となったシアの体にヨルンだが驚愕の色を隠せない様子で目が点となっている。関節を無視している感じがするのだがこれは気のせいだろうか。うん、やっぱ怖い。下手なホラーより怖い…。
「では、ヨルン氏のステータスで平均を…『攻160・防55・知28・速110・運12』ふむ、困りましたね。知力が低すぎるのではないでしょうか?私たちの計算上では『攻100・防150・知200・速75・運40』レッサーレッドタートル以下の知力とは早急に知力向上を目指すことをお勧めします。」
唐突なヨルンへの罵倒。本人は悪気は無いのだろう言われた当の本人は先ほどのギリアムと同じように顔に影が差している。これはいけない!よくは見ていないが自分のステータスも開示だ。攻撃力がやたらと低かった。傷の舐め合いでも構わないから励まさねば!
「よ、ヨルンさん?これは数値です。所詮数値なのですよ?み、見てくださいよ私攻撃力10の運なんて1ですよ?んん!?ハ、ハハハ…」
『ユキ:基本攻撃力10・平均防御力60・知力80・速力40・運1』
乾いた笑い声が出る。運が1だと?
圧倒的に少ない数字が見えた。攻撃力の方も10と低いけども運が1?どんな弊害が待っているのかわからない分なにか嫌な感じがする。シアが可愛そうな人を見る目で僕とヨルンを見ている。や、やめてくれぇ。
「まぁ、ユキ氏が仰ったとおり所詮数値です。我が種族以外との交流は無かったとは言えここまで数値が下がるとは思いませんでした。何度も言いますが数値です。相手の強さを図る物差しなのです。実際私が体験したことなのですが。この魔物は格下だと思い実際戦ってみたら思いのほか強敵であったという事があるのです。数値が全てではないという事は実証されています。さらにその分野の事に強化を行えば数値の上昇も確認できました。」
彼女なりの励ましなのであろう。慰めているという事は伝わった。
ヨルンも何とか元気を取り戻したみたいだ。ギリアムは…まだ開示が分からないみたいだな。あとで教えてあげよう…。
「励ましてくれてありがとうございます。これから鍛えれば数値もあがるんですね!?」
「私は別に励ました覚えはありません。私の情報を伝えたまでです。」
そういうとシアは目線を泳がした。少し落ち着きが無くなったみたい?ほめられ慣れていないのか?
これはかわいいねぇ、食べちゃいたいぐらいに。
「ん!?」
「どうかなされましたか?ユキ氏」
「えっと、なんでもない…なんでもないよ?」
明らかに思考がおかしい。これは魔族になった影響だろうか?たまに思考が暴走するようだ。
口には出して言ったらまずいことになりそうだ。がんばろう…。
「さて、皆さん今日はもう遅いので明日の朝に訓練を開始いたしましょう」
そう言われてみると結構な時間が経っている気がする。
ギリアムもステータス表の事は渋々諦めたみたいだ。明日教えよう。
ヨルンが女性二人はスタッフルームを使うように指示を出した。一人は中身男だけどね。
そんなことを言っていても寝るのが遅くなるだけであろう。おとなしく提案に乗ることにした。
男二人はその辺の机固めて毛布敷いて寝るだそうだ。
_____スタッフルーム_____
スタッフルーム兼休憩室、室内はごちゃごちゃとしておらず備品及び私物はしっかりと片づけてある。小さな四角い窓が一つ、部屋の壁はビニールクロスとだろうか。ロッカーは縦長タイプの物入口側に4台。その横に小型の冷蔵庫がある。そして部屋の中央にパイプ椅子が4脚机が1台あった。
スタッフルームに飾り気を求めるわけではないのだが簡素な部屋であることは確か。
早速だが問題が発覚。ベッドが1つしかない…。それもシングルタイプの物だ。
「私は立ったままでも寝ることが可能ですのでお気遣いなさらず。」
「いやそんな悪い事は、出来ないよ?嫌では無かったら一緒に寝ませんか?」
シアが気を使ってくれたようだがそんなものは別に必要はない。
現在女子になっているから言える事だ!性欲というモノを感じないにしろカワイイ子と添い寝とかロマンではないだろうか?
「ユキ氏が構わないならそうでも構わない。」
「うーん?ユキ氏って呼ばれるよりユキって呼んでほしいな?私もシアって呼ばせてもらうけd」
「構わない。ユキそれでいい。」
僕が言い割る前に許可が下りた。心なしかうれしそうに見えるのだが気のせいだろうか?
しかしこの子、無意識なのか判らない毒舌家だけれど見た目が可愛い。黙っていれば美人さんだ。
では寝ましょう。と言いけかた僕だけどもシアの突拍子もない行動で中断された。
「ちょちょ、シアなにしてるんですか?」
「?服を脱いでいますが?あなたは女性ですので肌を露見させても何も問題は無いはずです。」
そりゃそうだ!っと突っ込みたくなったのだがシアの言葉は続いた。それに僕は納得もした。
「寝る前に自分の体のメンテナンスを行わねばなりません。本当は服は必要ないと思うのですが前身の名残でしょうか?服は着なければならない気がするのです。静かに作業を行うので先にお休みください。」
「メ、メンテナスですかそれはしょうがないですね。ではお言葉に甘えて先に寝ますね。おやすみなさい」
話をつづけながらどんどん服を脱いでゆくシア、下着に手を付けた。
僕はこれ以上は見てられないと思ったのでさっさと寝ることにしよう。
なかなか思いつかないですねぇ。
誤字脱字やらいろいろあると思いますのでよろしくお願いします!






