それほど気にしていないです。
ギリアムは楽しそうに笑い去っていった。笑い方が完全に悪役みたいな笑い方だ。
しかし…向こうに付くまでに教えてあげたいことが一つあるのだ。
教えてあげたい。でも教えていいモノだろうか?
ヨルンは迷っていた。洗面所でドライヤーを使い髪を乾かしている美少女ユキに対してだ。
ヨルンの眼前には美しい尻尾…ではなく尻尾で捲れ上がったスカート。もちろん中身が少し見えてしまっている。ここは本人が気づくまで放置していた方がいいのだろうか?いやまて…
グルグル思考が廻る。
(やはり言っておかないとずっと見ていたとバレて怒られそうだ…よし…)
キュッと口元を絞めてこっそりと近寄り耳打ちをした。
「めちゃくちゃ言い辛いんだが…。スカートが尻尾で捲れてるぞ…」
どこから持ってきたか踏み台を使っている。背が低くて鏡に頭のてっぺんしか映らなかったからな。
上半身が鏡に映る彼女は濡れた黒艶の髪のせいか妖艶に見える。体形も残念であるが。
彼女が気持ちよさそうに目を瞑り鼻歌交じりで髪を乾かすユキ。彼女は一瞬驚いた様子を見せたのだが、それはヨルンがいきなり耳元でささやくからであった。ちょっとは恥ずかしそうな様子は…
「ええ、しょうがないですよねぇ…この尻尾言うこと聞かなくてですね。」
体をこちらに向けることなく軽く首を回し片目でヨルンを見た。
しかし形の整った眉を顰め困ったような顔をするだけで恥じらうという動作は一切なかった。
むしろ腰を回し尻尾を片手で掴み持ち上げた。もちろんスカートが完全に捲れ上がる。
「ちょ、ちょっとユキさんなにしてるんで…ブフッ!!」
いきなりのユキの奇行に顔を赤くして狼狽えるヨルンだが抗議の言葉を最後まで言えなかった。
「いきなり噴き出して後ろ向いてしまったのですが…どうかなさいましたか?」
「いやまって、どうかしたも何も。さっきよりも言い辛い…ええっと…」
ユキは尻尾をグイグイと上に引っ張っている。その行為はもちろん下着は丸見え。更に困ったことに尻尾が邪魔で下着がずり下がってきているではないか。さすがにパンツ下がってますよ!なんて言いづらい。
同性でならば笑い話で済むだろうが向こうは異性である。
「ええい!怒らないでくれよ!パンツ下がってるぞ!!」
「んん?ああ…ほんとうだ。穿きなれないから感覚がよくわからないよ…ここまで下がっているのに気づかないなんて…」
後ろを向いた状態のヨルンの顔が安どの表情に変わるのだが、沸々と疑問が浮かぶ。
この娘には恥じらいと言う言葉は無いのか?と心の中で呟くも表に出ることは無い。
恥じらい物なにも。ヨルンは知らないがユキは中身は男そのものであるから乙女な行動は全く期待はできない。年頃の娘であったならば変態の烙印を押されたうえで罵られていたかもしれない。
もう一つの疑問、と言うよりも願望に近い物だろうか。もしかしたら…
(誘惑してるのかこれ…?誘っているのか…?)
お年頃の勘違いという者だろう。
ユキ自身はそのつもりは全くない。体が馴染んでなく感覚がかなり鈍くなっているのだろう。増してや人間の体に無かったパーツも付属して制御せねばならない。1日も経っていない状態ではすべての把握は無理であろう。だがそれはユキのみぞ知る事実である。
「…お待たせしました。下着は直したから前を向いてもいいですよ…しかし、穴でもあけないとこれはまた下がってきてしまいますね…」
「そ、そうだな…ギリアムに聞いてみたらどうだ?ユキさんが着るものはそれしかないわけだからな。」
勢いよく体をユキの方へ向ける。悶々とした妄想に浸りそうであったヨルンだがユキが話しかけたおかげで妄想の世界に行かずに済んだ。無難な提案を出して平常心を保っているつもりの彼だが…少し頬が熱い気がするヨルンだった。
無事髪を乾かしホールに帰ってきたユキだったのだが、見知らぬ来客が来ている事に気付いた。
ギリアムも突然の来客であったようで困惑した表情をしている。なにより料理が盛り付けてあったと思われる皿が半分ほど空になっていたのである。
「マスターごちそうさまでした。さて。初めまして。私はHFM-023です。夜分遅くに申し訳ないと思いますがお願いがあります。」
少女が席に座って両手を合わせてごちそうさまと呟いた。
ギリアムが何か理由を知ってご飯を分け与えたのだろうか?彼は少女を食い入るように見ている。
この見知らぬ空色の髪の少女、服装は動きやすそうなハーフパンツ、同じく動きやすそうな袖の短いトップス、髪と同じ色の青と白で構成された服装で飾り気が無い。ただ着ているだけと言うのが正しい答えだろうか?
それにしても少女と言う割には重装備に見える。どうやって吊るしているのか両脇に短刀、背中に身1m程ありそうなライフル。まるでアニメや漫画のサイボーグのようだ。
話の展開が早い、こちらの自己紹介も無しに要望を答えようとするとは。
「おっさん説明を頼む。全く理解できないんだが」
とりあえず説明を受けるため半分空けられた皿の乗るテーブルの席に着席をする。
「う、うむ。この嬢ちゃ…「嬢ちゃんではありません。HFM-023です。」
ギリアムが言い切る前にサイボーグ娘の言葉がかぶさると同時に彼女の赤い虹彩が萎められ彼を睨んだ。まるで猫の目ようだ。
強面のギリアムが怯んだだと…。
そしてギリアムがスマンとサイボーグ娘に一言かけた。
「しかしなぁ、言い辛い名前だな前は何て呼ばれていたか覚えているか?」
耳をすませば機械の音がする。
HDの読み込み音を最小にした感じだ。自分たちの発している音ではないとすると彼女が発生源であろう。
見た目通りにロボっ娘なのか。
「…記録の復元0.71%完了。以前はシアと呼ばれていたそうです。」
「……『いたそうです』って苗字やら街名やらあるだろう?それはどうしたんだ?」
「ほかの記録はすべて破壊されています。復元作業も楽ではないため現状行うのは無理です。」
きっぱりと断ったシアであった。
ギリアムは額に汗をかいている。ハイテク系なのは苦手なのだろうか?
「そんな事はどうでもいいのです。私の依頼を聞いてください。ギリアム・ヨルン・ユキ。」
「…なぜ俺たちの名前を知っているのか?」
シアは首を傾げた。そしてある事に気付いたようで細い両眉が上にあがった。
「そういえばあなた達は機族ではないのでしたね。驚かせてすみません。」
もうどういう事かさっぱりだ。スキャン掛けると名前も浮き彫りになるとかそういうものか?
「私達の特技でスキャンニングという技があります。それを使うと相手の名前・年齢・スリーサイズなどなどの情報が読み取れるのです。他に読み取れますが族長の意向で使わないようにしています。」
新事実だ。技的な物があるのか…いやまて機族とやらしか使えない科学的な何かかもしれない。期待はできないな。
「話が脱線していますが…これは仕方がありませんね。どうやら貴方達は『魔法』『戦技』などをまだ知らない様子ですね?」
3人が固まっている。何故?といぶかしげな顔をしているシアであったがすぐに3人は椅子を後ろに跳ね飛ばす勢いで立ち上がりながら大きな声上げた。。
「魔法!?」「「戦技!?」」
「はい、ご存知ない方が圧倒的多数でありますが、魔法・戦技共に発現できます。しかし私たち機族では魔力を収集させる事が出来ない事が判明しています。魔法は映像のみで説明は可能です。一方魔力を使わない戦技ではレクチャー可能です。」
興奮している3人をよそ見し中空へ手を翳す仕草をしたシア。
何もない空間からホログラムが浮かび上がった。この時点でもう3人の興奮度は絶頂であった。
ここから魔法と戦技の訓練が始まるのだろうと胸を熱くしているのであった。
お盆までは地獄だ!
休み中は寝てしまうのです…すみません。
なるべく頑張ります…目指せ4日更新!