音声のみでお楽しみください。①
いつの間にか気絶していたようだ。一般人のメンタルじゃこれが普通なのかもしれない。
怖い物は怖い。それが僕の持論である。素人がプロボクサーに勝てる確率は0%に近い。万が一奇跡が起きたとしても満身創痍になっている事は言うまでもない。だから逃げる。僕は逃げることに徹する。
意識は回復したのだが体が動かない、ナゼ?
感覚的には金縛りに近い。でも、目も開かない。
「ふむ、ここに居たのか。探したぞ蛇よ。」
ひぃっ!声がする!蛇って僕の事?誰ですか?真っ暗なんですけど!暗くて怖いんですけど!
聞いた事もない声が耳元…いや、頭の中に響く。
「ワシの事などどうでもよい。闇に覆われておるのはお主が見ようとしていないからだ」
見るって言われても目が開けられないなら見ることもできないじゃないですか!
「目で見えるものが真実とは限らんよ。お主はもうこの世界の住人じゃ向こうの常識なぞ捨ててしまえ」
見えないものは見えないよ。この爺さんの声、意味不明な事ばかり言っちゃって。ボケるの?それより向こうって。僕に何が起きたか知っているんですか?
「…心の声はしっかりワシに届いておるぞ?まぁよい。お主は邪教徒の召喚術により飛ばされてきた表世界の人間じゃ。その邪教徒はお主が降臨した際に消し炭になってしまったがな」
うっ。ごめんなさい。それより。た、楽しそうに笑って話す話題じゃないですよ…。
「うむ、事態は深刻だからの。お主も体験しているじゃろう?この混沌と化した世界。…どれ、昨今何があったか教えてやろう。ワシの暇つぶしにもなるしの」
このじいさん、僕の危機的状況を楽しんでいるのか?
「…爺さんではない。うーむ。お主らに馴染み深い『神様』と言う事にしておこうかの。でじゃ、本来は表世界と裏世界、多少の差が有るとはいえ共に発展していった。そして不干渉な表裏の世界であった。」
神様て…自分から神と名乗るか。
「呼びやすいというだけじゃ実際の神は…。まぁよい。話を続けるぞ?」
「不干渉な世界であったがなぜお主が召喚されたか。そしてこの混沌の世界とどう関係あるのか。薄々感づいておるだろう?お主が呼び出されたことにより世界が歪みそこから漏れた波…魔素の波により日本が魔物が跋扈する土地へと変質してしまったのじゃ」
え?ここ日本なの?
「…そこなのか。お主の分かりやすいように言葉を置き換えているだけじゃよ。地形は表世界の日本とかわらぬ。ただ、世界の組織および歴史が全く違う。例えばじゃ、日本では江戸時代鎖国していたようであったが裏世界では鎖国なんてモノは全くなかったのじゃよ、そういった細かい差異があるにしろ表で発展しているところは裏でも発展する。鏡面世界みたいなもんじゃな」
えっと?並行世界論なら聞いた事あるのだが…。鏡合わせの世界?という事はこっちがえらい事になってるという事は向こうも…?
「そこなのじゃ。実のところ向こうに影響は無い。だが、大きくこの世界の何かに作用したら…ワシにも何が起きるかわからぬのよ。この星の管理を任されているのがワシである故、上司から怒られるのは勘弁してほしいのだ」
あー…。本当は邪教徒の暴走を止めなければいけなかったのに放置した。という事でよろしいですか?
「ぬ…。黙秘権を行使するのじゃ。」
それはイエスと言ってるみたいなものではないですか…。神様に上司という者が存在するのにも驚きましたが、職務怠慢っという言葉は神々でもありうるのですね。
「年寄りをイジメるものではないよ…。かれこれ100年昼寝していただけなんじゃが…。先ほど目が覚めたらこのような事態になっておったからの。ホッホッホッ」
神々は時間という概念が無いからおかしいですね。笑い事ではないですよね?対策はあるのですか?
「あるからワシから接触を試みたのじゃよ。あと100年程経てばこの鏡面世界を引きはがすことが可能になるのじゃよ。」
言っている意味が分からないのですが…。表があれば裏もあるというのが世の理ではなかったのですか?
「それは世界の在り方の1つであり法則を変えるだけじゃよ。お主も元の世界に戻りたいであろう?」
いえ、全然。
「そうじゃr…なんと!日本に帰りたくないと?こちらの世界ではすぐに死ぬかもしれない世界だぞ?日本の方が安全じゃぞ」
うーん、もはや心が人間ではないという事が分かった事。人間は矮小で弱い者としか思えませんのです。
「…先ほど魔物に殺されそうになってた小娘が言う言葉ではないの。」
…!そこは置いておいてください。と、とりあえず。人間に戻るメリットが全くないと言う事です。生娘の生活を楽しみたいとか思ってませんから。
「生娘てお主…。まぁよい。お主の性癖なぞ興味は無いわい」
ちょっと、僕はこの状況を楽しみたいだけです。そういう事はしませんから。
「わかったわかった。これで最後になるのだが、各地に散らばる魔門を閉じよ」
僕は危ない事はしたくないのですが?怖いしさ。100年経てば何も問題なくなるのですよね?
「100年も持たずにこの星が消されるわい。そしてワシはこっぴどく叱られるのじゃ。おお恐ろしい」
ちょっとまって、消されるの?この星が?
「うむ、お主らの言葉で合わせるにバグと言った方がいいのかの?致命的なバグが発生して自己修正不可能。ワシも触る事も出来なくなってしまっているのじゃ。まさに打つ手なしじゃ!ホッホッホッ」
笑えない。笑えないよぅ…。それを防ぐには魔門?とやらを閉じろと。
「そうじゃ、鬼の者がダンジョンと言っていたアレの事じゃ。本当はお主に神の力を授けてやりたいのだが先ほど言った通り触れぬのが悔やまれるのぅ。さらに異質の存在…蛇のお主にしか声を掛けぬと来た。泣き叫びたいのはわしの方じゃよ。見ているしか出来ぬというこのジレンマ」
うんうん。とても笑えない事は分かった事と神様の職務怠慢が原因と言う事を念頭に置いていただければがんばれる気がします。
「言葉が身に刺さるわい…。もう沁みるもんじゃないわい…。それといつでも見ているわけではないのでそこは安心しなされ。夜の営みが始まっても見ないでおいてやるぞい。ホッホッホッ!」
へ、変態神…!そういう事はしないって言ってるでしょう!もうそろそろ起こしてもらえますか?
「そうじゃな、お主の魅了効果が恐ろしいモノと言う事もわかったことだしのぅ。では頼んだぞ」
え?ちょっとどういう事?魅了効果って何?ちょっと!!
先ほどと違い手が動く。思わず目の前の腕を掴んだのだが。違う。たぶん違う神様のではない。