しくじりました。
「モード広域。…広域スキャン開始。波長対象:魔獣」
ここはアンネル市街地上空、チャイナ服のシアがそう言うと両の手を前に突き出した。
彼女の腕ほっそりとした普通の少女の腕。
彼女の二の腕の肌に切れ目が現れ裂けた。裂けたというよりはカバーが開いたと言うのが正しいだろう。
そこには収納された小型波長探査機器、微細な魔力の波を感知すべく開発された内装型の機器、対象を固定することによりより正確に対象物がどこにいるかを把握出来る。
「魔獣は居ない?1匹ぐらい居たほうが体を慣らすのにちょうどいいのですが」
居ないものは仕方がない。1キロ圏内を上空から見回り5分ほどしたら集合地点に帰ろう。
フワフワと空に浮かびながら1つ気になる事があった。
ユキの運のステータスだ。運という物はシア自身はさほど重要ではないと思うのだが。それが極端に低くなるとどうなるか?シアの周りでも運の値が低いという者は居なかった。筋力などの数値は顕著に浮き出るのだが。運というモノは目に見えない。ステータス上必要ではないと機族間では結論が出たのである。
まさかであるが事故に遭いやすい。怪我をしやすい。などのそういう類の代物なのだろうか?だとしたら怪我をしやすいならば体を強化すれば済む話。事故に遭いやすいも感知センサーの感度を上げれば済む話だろう。やはり大したことは無い。
シアはそう自己解釈した。が、緊急回線が繋がると共に緊張感の無い声が。「保護対象が危ないですよぉ?」との事で先ほどの解釈が間違っているのではないかと考えさせられた。これでは堂々巡りになるだけだ。とりあえずユキの場所まで急ごう。
「指向スキャン…対象:魔人」
先ほどとは違い、方向性を持ったスキャン。広域スキャンでは何かが居る程度にしか判別できないが、指向性を持たせることにより、詳細を得ることが出来る。
「これは魔人…?いや闇人か…それも大して強くはない。しかしユキは飛び抜けて弱い。私が守らなければ。」
シアから見ても不憫なほどに戦闘能力に乏しいユキ、私の分体をくっつけておいて正解だった。
分体は間延びした声で「あと1分程で食べられちゃいますよぉ?」と、通信してきた。
しかし、あの弱さでどうやって今まで生きていたのだろうかと少し疑問に思う。考えても無駄だとその疑問を頭の隅に追いやり「中距離武装展開」と、つぶやく。
シアの倉庫に収納されている物は衣服だけではない。シア自身が衣服専用として使っている物が1つあると言うだけだ。実際はあと4つ同じものがついている。
残りは武器弾薬そして燃料である。兵装の一つ「中距離」であるが、人間ではないシアは人間が扱えるもの以外も無理矢理運用することが可能という点がある故。圧縮倉庫からシアの手に握られるグリップ。何もない前方の空間から引き抜くように取り出される巨大な黒鉄の塊、一般男性の胴体程もある大きなエンジンの様な塊に1本の長い筒、右にレバー付きのグリップ、左に補助グリップを取り付けた無理矢理感が否めない不格好な取っ手。
「転送完了、状態良し。電力供給開始。」
流石に方手持ちは無理なのだろう。トランクを引きずるように腰辺りで黒鉄の塊…チェーンガンを空中で引きずる。
「反動超軽減」「炸裂弾4‐1装填」「姿勢制御」
3つ続けてスキルを発動させる。炸裂弾に至っては装弾数は決まっているが大体12時間経てばまた使用可能である。高火力で制圧、まさに今必要な力である。
ユキの反応を探す。分体を目印に撃ち込めば被害は最低限の物になるだろう。
「座標特定。耳を塞いで動かないでください。掃射開始」
チェーンガンの駆動音。吐き出される薬莢。吐き出される硝煙。
流石に反動を殺しきれていないのか全身に力を込めないと砲身がブレそうになる。炸裂弾を仕込んでいる手前、目標地点以外への着弾は許されない。制御できる自信があったから使用に至ったのだがスキルをフルに使わないと制御できないじゃじゃ馬銃だ。
必死に撃ち続ける。30mmの弾丸がビルの壁に大穴を開ける。そして5発の1発炸裂弾が壁の崩落に拍車をかける。
「ふぅっ…ハァッ…ハァッ…これはかなり堪えますね。」
10秒掃射を続けた結果通路は穴だらけ。1回のフロアが見えるほどに撃ち抜かれている。
そのおかげか闇人は赤黒いシミとそれらしい肉片へと変わっていた。分かっていたとはいえオーバーキルにも程があると思う。
「ユキはぶじd」「ゆっきーは無事だけどお粗相しちゃってるのよぉ?」
「分体解除。無事でよかったです。あら…?気絶してますね。」
お粗相に関しては何も触れないのが優しさであろう。
また1つ空気が読めるようになったきがしたシアだった。
「あの騒音は失策でしたね。超火力はロマンあふれるものだからしょうがない。」
「分体展開。」
「いきなり解除はひどいですよぉ?」
「あなたが私の分体と認めたくなかったのでついやってしまいました。すみません」
掌ほどの大きさの2頭身シア…?なのだろうか出るところは出ていない。頭の方が大きく寸胴のようなモノだ。
「分体に命じます。ギリアムとヨルンがここに戻ってくると思いますが彼らを集合場所で待つように止めてもらいます。何があっても部屋に戻らないようにと伝えておいてください。」
「わかりましたぁ。でもでも?あの二人わたしのこと知ってるのぉ?」
「大丈夫でしょう。不満ですがあなたと私は似ていますので。」
「一言余分なのですよぉ?でもまぁそれも言えてますねぇ。では足止めしてきますねぇ?」
あの頭の弱そうなしゃべり方はどうにかならないものだろうか。と、シアは心の中で思ったのだが分体の性格は主人と真逆になるそうなのでどうしようもない。機族のほとんどの分体が頭の弱そうなモノになっていた事は我々では有名な所だ。
「さて、邪魔者も居なくなったようです。……これは合法ですよね?」
近距離簡易スキャンを行い回りに誰も居ないことを確認。
心なしか自分の鼻息は荒くなっていることに気付く。そして、冷静かつ大胆にドレスを脱がしてゆく。
傍から見ると服と下着が汚れてしまったので着替えさせているように見えるのだが。少し違う。
それは正面から見ればわかる。シアの鼻の下が伸びているからだ。
だらしのない顔になっている事にはシアは気づいていない。
「ふふ…ふふふ…やはり美しいですね。ハッ…で、でも、私は犯罪をするつもりはありません。」
誰に言っているのか独り言を繰り返す。「犯罪者じゃない…」
目を瞑り下着に手を伸ばした瞬間に腕を握られた。
「えっ!?」
「ふぁぁ!?」
シアと目覚めたユキは同時に声を上げた。
ヘンタイしか残っていない気がしてきた。
誤字脱字はいっぱいありますがよろしくお願いします。