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1レベニートと嫌われ者が、全力でアイドルを目指す!

第1章 1レベニートは知恵で生きる




高い壁に囲まれた都【ガイア】

始まりの街とも呼ばれるこの場所は、現世で死亡した冒険者が最初に召喚される場所だ。

周りは草原に囲まれており、争いとは無縁なのどかな街という印象を与える。

街は暖色のレンガ調で統一されており、平凡な人々の活気と笑顔が溢れていた。

レベルが上がり旅立った冒険者達は口を揃えて、いつかこの街に帰りたいと言う。そんな場所だ。


穏やかな春の昼下がり。

主婦どうしの談笑賑わう商店街に、突然青年の怒鳴り声が鳴り声がいた。


「おばちゃん、何回言わせんの!?飲み物を前に置くな!客が気軽に買うんだから一番奥!そしたら嫌でも他の商品を見るだろ!?」

「いや、だからこそ前に出すんだろ?手軽に用を済ませる程度で良いんだよ」

「じゃあ、売れる店にしてくれって依頼は無理だ!大体便利な店にしたいんだったら、それなりの品揃えをしろ!なんだよ、飲み物かハニワしか売らない店って!!」

「可愛いでしょ?ハニワ」

「いらねぇよ、買わねぇよ、可愛きゃねぇよ!!!いいか、売る相手、ターゲットを考えろ!ターゲットは男か女か??はにわは誰が買うんだよ!?」

「うーん、あ・た・し♡」

「あたししか、買わねぇよ!!そんなもん売ってどうすんだよ!それなら、ポーションとか薬草とか売ってくれよ!始まりの町ではにわ売ってる店とかいらないから!!」

「そんなもんかねぇ」


俺、【#流星颯 凪__すばるはやて なぎ__#】はイライラしながらも事細かにレクチャーしていく。

はにわしか売らない店を町一番の便利な店にして欲しいという依頼だった。が、当然そんな事は出来ない。

はにわを売っている限り無理だ。不便だ。


俺の元に届くものはそんな依頼がとても多い。

青龍の剣しか売らない武器屋、張りぼての防具しか売らない防具屋、魔法を使うと爆発してしまう大道芸人……

こだわりというか、偏った思想で突っ切ってしまいがちだ。


始まりの草原に住むキャットポーク(ザコ敵)を100万匹倒さなきゃ手に入らないような値段の青龍の剣は始まりの町で売っても誰も買えない。逆に張りぼての防具は勇者の初期装備よりも弱く誰も買わない。爆発する大道芸人は観客を巻き込んで町を大破させかねない状態で、町を消しとばすマジックとか笑えない。


「まぁ、あんたがいうならそうしようかねぇ。なんてたってお隣さんもそのお隣さんも一個飛んでそのまたお隣さんもあんたに頼んでから売り上げ伸びたって言ってたしねぇ」

「まあ、俺に任せとけよおばちゃん。売り上げ伸ばすから」

「ありがとう、なんだかんだ言うけどちゃんとあたしらのこと考えてくれてるのわかるもの」

「うん、だったらハニワ持つのやめよ?」

「えー♡」

「可愛く言ってもダメー♡」


「終わったかー?新しい依頼なんだが、ちょっと厄介な依頼が来た対応頼む」


スキンヘッドの店主、スキンヘッド・HGが店を覗き込む。

スキンが構える巨大な酒場【HGパレード】は、クエストの依頼受注の出来る冒険者の溜まり場だ。

自分への依頼は1度スキンを挟む事になっていて、事務所のような役割になっていた。


「ん?なんだよ、厄介な依頼って」

「ああ、まぁ来ればわかるよ」


今まで以上に、厄介な依頼って……

ため息をついて、スキンと共に店を後にした。



自分に転生前の記憶は、はっきりとあった。

家族の顔や高校での生活のことも鮮明に覚えている。


バカな学生だった。女子のスカートの中の宇宙を妄想して一コマ丸々潰したし、地理の授業ではエロマンガ島を見つけて興奮したし、世界卓球で日本代表と戦う外国人選手の名前がエロイワだったことも、その巧みな腰使いも忘れない。


前世でそんな事ばかり考えていたからだろうか。


【向上心無き者】

この特性を持つものはあらゆる経験値を得られず、精神肉体共に向上する事がない。この特性は変化、更新する事はなく外部から干渉される事はない。


レベルが上がらない呪いをかけられてしまった。

産まれ持った個性として扱われている。

これに関して一切の説明を受けていない。

ある朝、ベッドで目を覚ますとそこは異世界(始まりの街)で、レベル1で、この呪いをかけられていた。


自然と暗い気持ちにもなる。目も腐る。

しかし、神も鬼ではない。俺にはある才能があった。


それがマネジメント力。

人の短所と長所がすぐにわかるし、改善策を提示する能力が高かった。そして、この世界の住人の多くは極端な思想を持っていたため、瞬く間に俺の才能は街に受け入れられていった。


街一番の問題児に届くほどに。


「おー!天才マネジャー!」


酒場のカウンター。昼間から酒瓶を三杯も転がしている。昼間から飲んだくれるやつにロクな奴はいない。こいつはダメな奴だ。関わったらダメな奴だ。


軽い調子で話す彼女は魔女のような格好をしている。

束のない美しい金髪を背中ほどまで伸ばし、無邪気で屈託のない青空のような色の瞳を好奇心と期待でキラキラと輝かせていた。

はっきり言おう、美人だ。


「……お前、魔女か?」

「違うよ?神女だよ!」


神女……?どーみても魔女だろ


「その格好で神女とかわかるわけないだろ」

「えっとねー、白は神様の色だから使わないの!」

「だからって、魔女の格好しなくても」

「これね、可愛いでしょ!シールのお気に入り!」


あー、わかった。この子バカの子だ。

異世界困ったちゃんだ。もー、美人じゃなかったら僕の言霊ミサイルでぶっ殺してたぞ♡


「でも、思ってたイメージと違うかもー。もっとこうシャキッとしてるのかと思った!」

「ほう。低レベルな煽りだな。目が腐ってるのは自覚してるしチャームポイントだと思っている」

「1レベニート」

「よしゃあああ!その喧嘩買ってやる!ご自慢の魔女コスを真っ赤に染めてやるからな!!」

「簡単にはやられないよ!私のレベル11だもん!」

「なっ…!11……だと!?強すぎる!!」


困ったちゃんとの戦力差およそ11倍。自分だらけのサッカーチームを引き連れてようやく同等。困ったちゃんと11人で同等……


俺は膝から崩れ落ち、床を濡らした。


「レベル11のお前が底辺の俺に何の用があるんだよ!冷やかしか!?」

「シールね、アイドルにして欲しいの!」

「えっ、無理」

「ん?アイドルにして!」

「無理」

「ん?アイドルに」

「聞こえてるわ!無理だよ!無駄だよ!無謀だよ!」

「ガーン!無理無駄三段活用!」


困った依頼ってこういうことかぁあああああ!

血の気立つ獣のように荒々しくスキンを睨みつけると、スキンは街中でイチャつくカップルを見るような冷ややかな目でなぎを見つめ返す。


「んー?」「じー」「んんー?」「じー」「んんんんんんんん!?」

「いや、仲良くやっていけそうだなって」

「ほぅ、面白い見解だ」「うん!やっていけそう!マネわ楽しい!」

「誰が引き受けるか!バカ野郎!」「バカじゃないよ、シールだよ」

「じー」「んんんんんんん!?」


「スキン見つめるな!」「俺は見つめる!」「見つめ返す!」


「全く男の子には困ったもんだよ」

「「お前だけには言われたくねぇ!」」

「シール男の子じゃないよ?」


シール・ファンタシア。それが彼女の本名だ。

金髪、蒼眼、白人と完全にそれらしい(神女らしい)要素が揃っているにも関わらず、全てをぶっ壊す魔女コスプレ。

その上、おバカでわざとっぽい天然キャラと来た。


本来なら、こいつと恋に落ちたり、お楽しみイベントがあるのかもしれないが、安心してほしい。こいつはお前らの嫁になることがあっても俺の嫁になることは、ない。


これはこのバカ神女を、異世界一の人気者にするまでの話だ。

それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもない。

ただの俺の仕事の話なのだ。

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