10Years After ~てんいやーずあふたぁ☆~
その日俺たちは、陽だまり亭のフロアに集まり、とりとめもない会話に終始していた。
まぁ、要するに、とある暇な午後のひとときってヤツだ。
「お兄ちゃんは、十年後どうなってるですかね?」
きっかけは、ロレッタのそんな言葉からだった。
「十年後は……Dカップくらいにはなってるかもな」
「させないよ」
「いや、エステラさん、ツッコミのワード間違ってるですよ!?」
ブレないエステラにロレッタが鋭く突っ込む。
だがな、エステラ。
好きこそ物の上手なれというし、コレだけおっぱいが好きなんだから、俺だって成長する可能性があるじゃないか。
「……十年後、胸が大きく育っている可能性があるのは、マグダ」
「まぁ、確かに、年齢的にはそうかもな」
「待って! 期待値とか不確定の未来の可能性を加味するのであれば、ボクだってDくらいには――」
「『くらい』って、エステラさん、随分強気ですね!?」
可能性は無限大というし――
「エステラも、それくらい成長する可能性は秘めてるよな☆」
「だよね! ありがとうヤシロ!」
「お兄ちゃんが向こう側に!?」
「……ヤシロ的には、大きなおっぱいが増えることは純粋に喜ばしいこと。ならば、応援くらいするのがヤシロという男」
「ブレないです、お兄ちゃん!?」
そうだとも。
エステラの胸が育つと、ぺったんこイジりは出来なくなる。
だが、それがなんだ!?
「大きいことはいいことだ!」
「そうだ! ヤシロの言うとおりだ!」
「とはいえ、エステラさんはお兄ちゃんサイドに立っちゃダメだと思うですよ!?」
「……エステラだから仕方ない」
「よし、じゃあみんなで十年後のおっぱいについて語り合おうぜ!」
「いや、違うですよ!? あたしがしたかったのはそんな話じゃないです!」
自分からおっぱいの話題を振ってきたロレッタが、折角の興味深い話題を打ち切ってしまう。
「もう、なんのお話をされているんですか?」
「ダメですよ、ヤーくん」
「えーゆーしゃ、めー、よ?」
ジネットを手伝い、お茶の準備をしに行っていたお子様~ズが戻ってくる。
キレイにカットされたリンゴが皿に並んでいる。
「カンパニュラが皮を剥いたのか?」
「はい。ジネット姉様に教えていただき、テレサさんにはカットを手伝っていただきました」
「お二人とも、とっても上手でしたよ」
ジネットの採点は甘々だからな、話半分くらいで聞いておこう。
しかし、カンパニュラが剥いたというリンゴはなかなか見栄えがよかった。
「じゃあ、一つもらおうかな」
「感想を聞かせてくださいね」
誰が皮を剥こうが、リンゴの味は変わらないのだが……
「うん、美味い」
「本当ですか!? ……はぁ、ほっとしました」
頑張った分くらいは、報われてもいいだろう。
「お兄ちゃんは、絶対子煩悩な父親になってるですね」
「なんのお話ですか?」
「十年後、お兄ちゃんは何してるですかね~ってお話です」
「あぁ、なるほど」
全員のカップにお茶を注ぎ、ジネットが俺の向かいに座る。
「ヤシロさんなら、きっとそうなっていますね」
「十年後にガキがいるとは限らんだろうが」
「子沢山かもしれないよ? だって、ヤシロは子供が大好きだから」
「この街の領主の目がフシアナ過ぎて、十年後の未来が不安で仕方ないよ、俺は」
「教会に張り合っていたとしても、ボクは驚かないけどね」
何人ガキを生む気だ……結構な数いるぞ、教会。
「俺はロレッタの両親か」
「そーゆーツッコミやめてです! ちょっと心臓が『ぅちゅっ!』って変な音しちゃうですから!」
けど、この街一番の子沢山だからなぁ。
「十年後も、順調に増え続けてるんだろうなぁ、ヒューイット弟妹……」
「その頃には、さすがに……両親も歳ですし……たぶん…………出来れば…………だといいなと思わなくもないですが……………………増えてそうで、なんかイヤです」
ロレッタの元気が萎れてしまった。
十年やそこらで萎れないだろう、お前の両親。
「……ロレッタが両親の跡を継いでいる可能性もある」
「襲名制じゃないですよ、ウチ!? それにあたしは、お姉ちゃんと弟と妹が一人ずつの三人姉弟あたりがいいです!」
「いや、一番上は男にしておけ。ヒューイット家には長女が残念になる呪いがかけられているから」
「かけられてないですよ、そんな呪い!?」
「……ぁ、本当だ」
「かけられてないって言ったですよ、あたし今!? ちゃんと聞いてたですか、マグダっちょ!?」
わきゃわきゃと、隣同士の席で戯れるマグダとロレッタ。
十年後は、こいつらもここにはいないかもしれないな。
独立して。
「十年後、私は今よりもっと立派なウェイトレスになっていたいと思います」
「いや、カンパニュラ。お前はそのころ、もうぼちぼち領主になる準備してるか、もうなってる頃だから」
十五歳で成人とみなされるこの街だからな、きっとその頃には三十区で施政に携わっているか、オルキオのそばで学んでいることだろう。
「ですが、そうなると今後もますます躍進を遂げ続けるであろう陽だまり亭は人手不足になってしまいませんか? 十年後でしたら、マグダ姉様もロレッタ姉様もきっと独立されているでしょうし」
「……平気。マグダの店はこの店の向かいに建てる予定だから」
「客の奪い合いが発生するわ」
独立するなら、もうちょい遠くに店を建てろ。
「そのころには、きっとマグダさんのご両親もお戻りになられているでしょうし、家族三人で楽しい食堂を経営されているかもしれませんね」
「……ふむ。……それは、すごくいい」
マグダの両親が帰ってきたら、マグダは親元へ帰るのかもしれないな。
……まぁ、マグダファミリーは全員狩猟ギルドの人間なのに、なんで家族で食堂やってんだってツッコミかけたけども。
野暮は言うまい。
「ロレッタの『頬ぶくろ亭』は人手不足とは無縁だろうな」
「妹たちに手伝わせるですからね」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
カランコロンカラン――
ミチっ!
ぎゅむぅぅぅぅ……っ!
「いらっ、いらっしゃいです……い、今、そっちに行くで……くっ、弟妹がみっちみっちで通れないですっ!」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「――みたいな、な?」
「さすがにそこまで詰め込まないですよ!? あと、頬ぶくろ亭って!?」
ダメか?
ぴったりだと思ったけど。
なんか、ぱんぱんに詰まってそうで。
「やはり、そうなると陽だまり亭を離れるのは少々不安です。たとえば、そうですね……ジネット姉様のお子様が生まれてお手伝いが出来るようになるまでは」
「ふぇえっ!?」
ジネットの子供が、陽だまり亭の手伝いを……?
「一体いつの話だよ」
「い、いえ、あの、いつとか、では、なくてですね、わたしは、あの、アルヴィスタンですので、ですから、その……っ」
「十年後なら、もしかしたら今の私くらいのお子さんがいらっしゃるかもしれませんよ?」
「カンパニュラさんっ、わたしの話を聞いてくださいっ」
顔を真っ赤にして抗議するジネットだが、カンパニュラは涼しい顔でスルーしている。
ジネットイジりの楽しさに目覚めてしまったのか……陽だまり亭従業員が必ず通る道だ。
その気持ち、よく分かるぞ☆
「てんちょーしゃ」
「は、はい。なんでしょうか、テレサさん?」
「おとこのこ? おんなのこ?」
「いえっ、ですから……っ!?」
「まぁまぁ、ジネットちゃん。そんな可能性もなくはないっていう『もしも』のお話だよ」
「そうですよ。もしそんな未来があったら~っていう、おしゃべりのテーマの一つです」
「……エステラがCカップに到達するくらい小さな可能性のお話」
「そこまで小さくないよ、その可能性は!? ただ、Bカップの可能性を残してくれた気遣いは、ありがとう、マグダ」
そこ、お礼言うんだ。
「可能性……ですか…………それでしたら、まぁ」
「ちなみに、店長さんは男の子と女の子とどっちがいいです?」
「わたしは、どちらでも。あ、でも子供たちに囲まれて暮らすのは楽しそうですので、たくさんがいいです」
「……ヒューイット家くらい?」
「ウチを引き合いに出さないでです、マグダっちょ!?」
「いえ、さすがにそこまでは……」
「店長さんに言われると、なんか結構ショックです!?」
ジネットの場合『イジり』じゃないもんな。
でもまぁ、「そこまではさすがに」だよ、実際。
「三人か四人くらいがいいですね」
ジネットの子供が四人…………
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
ジネット「うふふ~、いいお天気ですね~」
子1「えへへ~」
子2「おほほ~」
子3「あはは~」
子4「いひひ~」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「まったりしてんな、おい!?」
「そんな不思議な子供たちじゃありませんもん!」
いや、なんか物凄いジネットの遺伝子を色濃く受け継いでる感じだったけどな、今の妄想。
「でもでも、店長さんの子供なら、きっと店長さんに似て可愛い女の子になるですよ」
「そんなことは……わたしなんて、地味ですし」
「……絶対に可愛くなる。そして、店長に似てわんぱくになる」
「えっ、わたしって、わんぱくってイメージなんですか!?」
さすがマグダだ。
よくジネットのことを見ている。
案外イタズラ好きなんだよな、ジネットは。
ガキの頃は、きっと今よりもわんぱくだったことだろう。
「ってことは、そこら辺のイメージを合わせると、こんな感じの子供になるってことか――」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
ジネっ子「うははーい、懺悔してくださぁぁあーい!」(ばぃんばぃん、ばるんばるん、ぶるるんぶるるん、ぼんよよよ~ん!)
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「足音!? なんか足音が物凄いことになってたですよ、今!?」
「……ロレッタ、今のは足音ではなく乳音」
「全然イメージを合わせてなかったじゃないか。なんでちょっとハム摩呂みたいになってるのさ?」
「すまん、ジネットを見ていたら、つい」
「もぅ、子供にまで! 懺悔してください!」
別に実在するガキにやったわけじゃないのに……
「もし、ジネット姉様のお相手がヤーくんでしたら、可愛らしくて思慮の深い、とても魅力的な女性になるかもしれませんね」
「ぅうぇええええ!?」
「たとえば、ですよ。ジネット姉様」
「たとえば……と、言われましても……」
具体的な名前が挙がったことで恥ずかしさが限界値に達したらしいジネット。
顔が真っ赤だ。
きっと服の下も全身くまなく真っ赤になっていることだろう。
「……でも、ちょっと待って」
照れて一人であたふたわたわたするジネットを眺め、エステラが眉間にシワを寄せる。
「ジネットちゃんの可愛さを持った、精神面がヤシロの女の子…………って、四十二区が裏から支配されない?」
「い、いえ、そんなことはっ。き、きっと、陽だまり亭でのんびりとお料理するのが大好きな大人しい子に育ちますよっ」
テンパり過ぎて何を口走っているのか分からなくなっているのであろうジネット。
育ててんじゃねぇよ、想像の中で。
そんな中、ロレッタとマグダとカンパニュラとテレサが同じポーズで腕を組んで一言ずつ言葉を発していく。
「店長さんの可愛さと……」
「……ヤシロの人心掌握術」
「料理の腕と細工の腕は遺伝により天性のものをお持ちでしょうし」
「なんでもつくれる、の!」
「うっわ、怖っ!」
「おい、失敬だったよな、今のエステラ」
「そ、そうですよ、エステラさん。まだ何も悪いことをするとは決まっていませんのに」
ジネットがエステラ相手にぷりぷり怒っている。
なるほど。
こいつは娘と親友だと娘の肩を持つのか。
……まぁ、いないんだけどな、そんな娘なんて。
しかし、ジネットの顔とプロポーション、特に最強のおっぱいを有し、俺の人心掌握術をマスターした美少女か…………
「うん。四十二区くらいチョロいな」
「ジネットちゃん、しっかりと止めておいてね!」
「あ、あの、ヤシロさん、ダメですよ!?」
だから、いないんだって、そんな娘。
「でも、なんとなくですけど、お兄ちゃんの息子だったら、物凄く甘えん坊になりそうな気がするです」
そんなロレッタの勝手な意見に、ジネットが「くすっ」っと分かりやすく吹き出す。
「そうですね。……ふふっ、なんとなく、わたしもそんな気がします」
「ですよね! 絶対お母さんから離れない甘えん坊になるですよ」
「まぁ、このおっぱいは俺のだけどな」
「違いますよ!?」
なんでだ!?
夫婦になったら俺のだろう、もはや!
「てんちょーしゃとえーゆーしゃのこども、いたら、ひままりてい、あんしん、ね」
「いや、テレサ……『陽だまり帝国』くらい巨大化しそうで空恐ろしいよ、ボクは」
自身の二の腕をさするエステラ。
食堂が帝国になった例は、いまだかつてなかったろうな。
「では、エステラ姉様とご結婚された場合はどうでしょうか?」
「えっ!?」
素っ頓狂な声をあげて固まるエステラ。
あのなぁ、話の流れで自分に矛先が向く可能性くらい分かりそうなもんだろうが。
取り乱すなよ、こんな他愛もない無駄話で。
「え…………っと、……それは、つまり…………」
「……ヤシロがおっぱいに飽きた世界線」
「ちょっと待ってよ、マグダ! ボクが成長した可能性だってあったはずだよ!?」
「……あはは、そーだねー」
「棒読みここに極まれりかい、君は!?」
マグダがエステラをからかっている。
ナタリアが不在の時はマグダが代打を務めるんだな。
……絶対必要なのか、エステライジり要員?
「つまり、ヤシロが四十二区の領主になる……ってこと、だよね?」
「よし、トップス禁止令を発令しよう!」
「よし、君には絶対領主の座は渡さない」
隣の席から右手が伸びてきて俺のこめかみを「これでもか!」と圧迫する。
こんなことで挫けるものか!
トップスなき政策!
心の自由と解放を!
谷間、乳下の汗疹の撲滅を私はここに宣言する!
「冗談はさておき」
と、俺の政策を冗談呼ばわりするカンパニュラ。
強くなったなぁ……
割と真面目なんだけどなぁ、俺。
「ヤー君とエステラ姉様のお子様が跡継ぎになってくださるなら、四十二区は安泰ですね」
「だがなぁ、きちんと生き延びられるか……」
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エス子「ままぁ……おなかすいたよぉ……ひもじぃよぉ…………みるく……あ、無理言ってゴメン」
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「――と、このように!」
「胸がなくてもおっぱいは出るから! っていうか、なくないから!」
「エステラさん、実の子に気を遣わせるのはちょっとどうかと思うです」
「気なんか遣わせないよ!? っていうか、『無理言ってゴメン』ってなにさ、ヤシロ!?」
だってさぁ、……なぁ?
「……しかし、ヤシロがエステラと結婚すれば、クレアモナ家の呪いを確実に阻害する」
「やったですね、エステラさん! クレアモナ家の未来は明るいですよ!」
「今でも十分明るいし、呪いなんかないから!」
嘘を吐け!
心当たりと確固たる証拠があるはずだ!
自分の胸に聞いてみろ! 二つの意味で!
「ヤシロ、うるさい!」
「この二人が結婚すると、領主の館がずっと賑やかですね」
「……賑やか過ぎるきらいがある」
「では、エステラ姉様をサポートする、ナタリア姉様がお相手だったらどうでしょうか?」
「え……ナタリアとヤシロの子供………………」
エステラが、そんな未来を脳内に思い浮かべる。
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ナタリア「エスペタ様」
ヤシロ「こら、主の名前を間違うな。エスッカスカ様だ」
ナタ子「父様、母様、お戯れは程々に。エスツルーン様に失礼ですよ」
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「領主権限を使ってでも妨害してやる!」
なんだか、面白い未来を想像したらしい。
エステラが瞳の奥に不屈の炎をたぎらせている。
無駄なエネルギー使っとるなぁ。
「では、ロレッタ姉様がお相手だと、どのようなご家庭になるでしょうか?」
「えっ!? あたしもやるですか!?」
「君が言い出したことじゃないか」
「想像するだけはタダですよ、ロレッタさん」
とか言いつつ俺を見るな、ジネット。
別にタダだからって喜んだりしないから。
「そ、そうですね……あたし、実は結婚には憧れがあるです。理想の結婚像というか、『こういう家庭を築けたらいいなぁ~』っていうのを思い描いてるです」
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ヤシロ「ただいまぁ~」(ドア「ガチャ……むっぎゅぅぅうううううあああああああっ!)
ハムっこ「「「「うははーい、みっちみちの、お出迎えやー!」」」
ヤシロ「くっ……開かないっ!」
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「違うですよ、お兄ちゃん!? どんだけみっちみちに詰まってるですか、我が家!? で、それさっき頬ぶくろ亭で似たようなことやったですからね!」
なんだよ。
お前の家庭なんて、多かれ少なかれこんな感じになるだろうが、どーせ。
「ロレッタさんが思い描く理想の家庭って、どんな感じなんですか?」
ジネットが尋ね、ロレッタが照れながら理想を語る。
「あのですね、あたしが仕事を終えて家に帰ると、美味しそうな夕飯の匂いが外までしてきてるです」
「待て。なんでお前が働きに出て、俺が主夫やってんだよ?」
「だって、お兄ちゃんの方が料理も家事も日曜大工も、なんでもかんでも得意じゃないですか!? あたし、外で働くくらいしか出来ないですよ!? それに働くの大好きですし!」
あぁ、こいつは長らく働きたくても働けない時期があったからなぁ。
本当に働くの好きで、働いている時はすげぇ楽しそうにしている。
それに、もう結構陽だまり亭でのウェイトレス歴も長いし……すっかりジネットに感染しちゃったのだろう。あの不治の社畜ウィルスに。
「で、お前の帰りを待ちながら飯を作ってればいいのか?」
「そしたらですね、笑顔で出迎えておかえりって言ってほしいです!」
「……裸エプロンで」
「うわっ、ロレッタえっろ」
「言ってないですよ!? マグダっちょ、変な茶々入れないでです! ちゃんと着衣で出迎えてです!」
「……ヒューイット家の掟・第一条『服は着る』」
「どこのご家庭でもそれが普通ですよ!?」
ロレッタがマグダとじゃれ始めたので、ロレッタの言う理想の家庭というものを想像してみる。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
ロレッタ「ただいまで~す」
ハム摩呂「長女のご帰宅やー!」
次女「おねーちゃん、おかえりー!」
妹「「「うははーい!」」」
弟「「「うほほーい!」」」
息子「「「うははーい!」」」
娘「「「うははーい!」」」
ヤシロ「うははーい!」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「なんで弟妹がこんな居座ってるですか!? 真っ先に出てきたのハム摩呂だったですよ!? あと、お兄ちゃんが思いっきりハム摩呂に寄っていってたです!」
「……弟の『うほほーい』はスルー」
「どーでもいいですよ、そんな小さいとこ!? それ以外が異常事態過ぎたです!」
どう転んでも賑やかな家庭になるよ、お前の家は。
明るいとか楽しいを通り越して騒がしいとか騒々しいになるんだろうな。
「たぶん、ロレッタ一家が自宅に駆け込んだら、家が一回向こう側に撓んで『ぷるんっ!』って揺れる」
「そんなおもしろハウスには住まないですよ!?」
「……ウーマロに建設可能か、聞いておいてあげる」
「いらないですからね!?」
面白いと思うけどなぁ~。
ゆかい~なロレッタさ~ん♪ ってさ。
「マグダ姉様ではどのような家庭になるでしょうか?」
「マグねーしゃ、えーゆーしゃとなかよし!」
ロレッタの話に飽きたのか、カンパニュラとテレサが二人で話を進める。
「飽きたって」
「違うですよ! カニぱーにゃは全員に気が遣えるお利口さんなだけです! 決してあたしに飽きてはないですよ!」
ロレッタの無駄なあがきはスルーするとして、マグダと家庭を持つとか……新妻が子供みたいなもんだろ、それ。
「マグダが相手じゃ、子供が云々の前に結婚相手が子供みたいなもんだろうが」
「ヤシロ。それは、君もそうだからね?」
「そうですね。ヤシロさんは大きな子供さんみたいな時がありますし」
そう思うのなら、子供にするようなスキンシップをもっとプリーズ!
ハグとか、添い寝とか、混浴とか!
「……ヤシロ」
いっそこのまま子供キャラ路線で攻めてやろうかと画策していると、マグダが俺の目の前に人差し指を突きつけた。
「……十年後のマグダは、ナタリアとノーマを足して2をかけたくらいの色気を纏っている」
「マジか!? 凄まじいな!」
ナタリアとノーマの色気を足して二倍にするのか。
歩くだけで男がごっそり釣れそうだな、それは。
身に纏えればな。
「……ヤシロも、マグダの色香にメロメロになること請け合い」
マグダの色香にメロメロに、ねぇ……
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
ヤシロ「うぃ~ひっく、酒もってこ~い!」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「……それはベロベロ。そーゆー小ボケは、今いらない」
つれないヤツめ。
こーゆー小さいベタな笑いこそ、案外大切にしていかなきゃいけないところなのに。
「マグダさんとヤシロさんのお子さんなら、きっと他の誰よりも甘えん坊さんになっちゃうでしょうね」
見てきたかのように頬を緩めて、極上に可愛らしい子供を想像していそうなジネット。
きっと、こんな想像が脳内を駆け巡っているのだろう。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
マグ子「ま~ま、まま~! おっぱい~!(←ヤシロ遺伝子)ぱ~ぱ、ぱぱ~、頭ナデナデして~!(←マグダ遺伝子)」
マグダ「……あっふぅ~ん、仕方のない子ね」
ヤシロ「お前は、いくつになっても乳離れも父離れも出来ないな」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「うまいこと言わないでいいですよ、お兄ちゃん!?」
「なんでマグダは、自分の子供相手に色香を振りまいてるのさ……」
「つーか、色気の認識がナタリア寄りだな。そういうことじゃないんだけどなぁ、色香って」
「でも、お子さんは可愛かったですね。ついつい甘やかしてしまいそうでした」
「じゃあ、問題があるのは両親、つまりお兄ちゃんとマグダっちょってことですね」
ロレッタが酷いことを言う。
俺たちのどこに問題があるというのか。
「では、私の場合はどうなるでしょうか?」
と、カンパニュラが自ら話題を振ってくる。
しかし、カンパニュラの十年後か……
「カンパニュラは十年後でも、まだ子供を持つには早いだろう」
「いえ、成人とともに授かる方もいらっしゃいますので、早過ぎるということはないと思いますよ。さすがに、姉様方のお子様たちのように元気に走り回るような年齢ではないでしょうけれども」
そんなことを言って、カンパニュラが未来の子供を想像する。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
カンパニュ子「あー、ったーぁ!」
カンパニュラ「うふふ。元気いっぱいですね。このまま、健康にすくすく育ってくださいね、ヤーくん」
カンパニュ子「あーっ!」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「ちょっと待て!」
カンパニュラの妄想を止める。
「……なんで、赤ん坊が『ヤーくん』なんだよ?」
俺、もう一回若返って転生するのか?
「私たちの子供の名前は、ヤーくんから取って『ヤシロソン』と名付けましたので『ヤーくん』なんです」
「『ジェファーソン』とか『リチャードソン』的なヤツ!?」
「カンパニュラさん。お子さんを『ヤーくん』と呼ぶなら、ヤシロさんのことはなんと呼ぶんですか?」
「『ヤー様』です」
「微妙なレベルアップしたな……」
「お気に召しませんでしたら『ヤンナ様』でもいいですよ?」
「なら素直に旦那様って呼んでくれるかな!?」
なんだ『ヤンナ様』って!?
嫌なのか!?
嫌なヤツなのか!?
「あい! あいあい!」
カンパニュラが終わったところで、テレサが元気よく手を上げる。
……が。
「テレサは十年後も十六だろ? まだ早ぇよ」
子供なんて早い早い。
その意見にはエステラもジネットも賛成のようだ。
だが、テレサはぷりぷりと頬っぺたを膨らませて抗議してくる。
「はやく、なぃぉ! あかちゃん、すき、ょ!」
いや、好きだとしても。
「まぁ、バルバラを育て上げたテレサだからね、子育ては得意かもしれないよ」
「あれ、エステラの中ではそういう認識になってんの?」
まぁ、当たらずともって感じか。
「テレサさんは、どんなお子さんがいいですか?」
「ふたご!」
あぁ、セロンとウェンディのとこの子供を気に入って「可愛い可愛い」言ってたからな。
影響されたのか。
でも、大変だぞ、双子なんて。
「それか、2ダース子!」
「単位変えんな!?」
さすがに多過ぎるわ24つ子!
野球チーム、補欠と監督含めて2チーム作れちゃうよ!?
「双子さんは育児が大変だと聞きますよ? テレサさんは平気ですか?」
「へいち! こんなふうに――」
――と、テレサが中空を指さして、おのれの中の妄想を語り出す。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
テレ子1「あぁー!」
テレ子2「まぁー!」
ヤシロ「どうした? ご飯か、おむつか? あぁ、やっぱり双子は大変だ……」
テレサ「大丈夫ですか、あなた? ここは私に任せてください。オーウェン流育児術、双子流星乱舞! たぁぁあー!」
テレ子1・2「「きゃっきゃっきゃっきゃっ!」」
ヤシロ「おぉーっ! まるで夜空を流れる流星群のように華麗な動きで、みるみる育児が進んでいく! さすがだ、テレサ! 俺が選んだ伴侶なだけはあるぜ☆」
テレサ「うふふ。あなたったら」
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「いや、誰ですか!? テレさーにゃ、こんな感じになるですか!?」
「……テレサは未来の魔性の女候補」
「なんでテレサがオーウェン流を使ってるのさ……ナタリアに弟子入りとかしないでよ。アレが増えると、ボクでは捌ききれないからね」
「テレサさんは、こんな素敵な大人の女性になりたいのですね」
「ぁい! かじも、いくじも、かにぱんしゃのおしごとも、みんな、ぜんぶ、やぅの!」
「それは頼もしいですね。でも、育児休暇は遠慮なく申請してくださいね。福利厚生の整った組織を作るのが、私の理想ですので」
「ぁい!」
……テレサ、お前の野望はデッカいな。
つか、「やぅの!」とか言ってるヤツがみんな全部完璧に出来んのか?
……出来ちまいそうだから怖いんだよな、この次世代チルドレンどもは。
「うふふふ……」
みんなの勝手な想像や妄想を聞いて、ジネットが楽しそうに笑っている。
もうすっかり照れは抜けているようだ。
「十年後、この街はどんな風になっているんでしょうね」
「さぁな」
そんなもんは、十年後になってみないと分からん。
だがまぁ……
「陽だまり亭は変わらずここに建ってて、ジネットは変わらず楽しそうに料理をしてるんだろうな」
「それはボクもそう思うよ。そして、そうであってほしいと願うね、心から」
「……マグダも、陽だまり亭と店長には変わらないでほしい」
「あたしも、この場所が大好きです! 十年後も今と変わらず、いや、今以上に好きになってるですよ、きっと!」
「そのころにもまた、この場所で皆様とこうして楽しいおしゃべりが出来れば、私はきっとその時間を『幸せ』だと感じるでしょうね」
「みんな、いっしょ!」
十年って年月は、確かに大きい。
だが、突き詰めていけば、それは一日一日の積み重ねで、一日やそこらで人は変わらないわけで、だからつまり――
きっと十年後も、俺たちは何も変わらずにここでこうして無駄話をしているのに違いない。
この場所に陽だまり亭があり、そこにジネットの笑顔と美味い料理がある限りはな。




