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異世界詐欺師のなんちゃって経営術【SS置き場】  作者: 宮地拓海


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異世界詐欺師2024クリスマスSS『船上のメリークリスマス』

今回のSSは本編とは『パラレル』な世界設定です☆

それをご理解いただいた上で

お楽しみいただけると嬉しいです、にゃ(☆>ω・)


 四十二区の港にて、海を眺める。

 打ち寄せる波の音が、妙に物悲しく感じる。


「……ウーマロのヤツ。あんなに元気だったのに。あっけないものだよな、人生なんて」

「ホントさね。アタシらの中で一番先にいっちまうなんて、思わなかったさね」

「ままぁ~!」


 俺の隣で海を眺めるノーマに、幼い少女がよたよたと駆け寄ってくる。


「あぁ、よしよし。走ると危ないさよ」

「まま~、ごはん~!」

「はいはい。じゃあね、ヤシロ。アタシはこの子にご飯食べさせてくるさよ。……あんたも、いつまでも海の底に沈んだ男のことなんて思い出してんじゃないよ」

「あぁ……」


 そうだな。

 俺ももう忘れよう、海の底に沈んだ男のことなんて……


「ぶはぁあ! 死ぬかと思ったッス!」


 あ、浮かんできた。


「……ちっ、しぶといさね」


 海から勢いよく顔を出すウーマロを見て、教会の幼い子を抱っこして子供に見せられないようなしかめっ面を見せるノーマ。


「全部聞こえてたッスよ!? オイラが死んで何年も経った感を、嘘を吐かずにうまいこと醸し出すのやめてッス! あと、お前は港でままごとなんかしてんじゃないッスよ! ここは街門の外なんッスからね!」

「うっさいね! 久しぶりのママ役にケチつけんじゃないよ!」


 ノーマ、教会でのままごとでは子供役か赤ちゃん役が多いからなぁ。

 あと、外で「まま~」って呼ばれて、ちょっと嬉しそうだった。


 ……そこで満足しちゃうと…………いや、なんでもない。


「……ヤシロ、次はアタシと勝負するかいね?」

「なんでもないって言ってんじゃん!? いや、言ってないけど、めっちゃ心で思ったから!」


 ノーマと勝負なんかしたら、秒で海の底に突き落とされてしまう。


「ほにゃぁぁあー!?」


 どっぼーん!


 と、元気よくロレッタが海に突き落とされた。


「……勝利のブイ」


 海に浮かぶ手製の浮島は、薄いベニヤと海洋魔獣の浮き袋で作った特別製で、その名を『不安定足場ベース・ぷっかりん2号』という。


 ……1号は頑丈に作り過ぎて浮かばなかったので廃棄された。

 さらば1号、永遠に。


 で、俺たちが今何をしているのかというと、夏の定番、水着ギャルが水上で(しのぎ)を削る『ぽろりもあるよ!』でお馴染みの水泳大会(泳がないけど)である!


 水上に浮かぶ不安定な足場の上に立って尻相撲――は、なんか卑猥だからと手押し相撲に変更されたのは若干不服だが……でも、水に落ちた拍子にぽろりがあるかもしれないからそれはそれでよし!


 最初、川でやろうと思ったら、流れが速かったのと、底が浅かったので、なんやかんやと協議した結果、「じゃあ海で」ということになった。


「次~、イメルダやる~?☆」

「やりませんわ、こんな濡れるかもしれない遊びなんて!」


 マーシャにイメルダにマグダ、三大ギルドの凄腕たちが見守っていてくれるので危険はない。

 ……さほど、ない。

 たぶん、ない……と、いいな。


「さっ、アタシは子供たちとままごとしてこなきゃいけないからねぇ~、あぁ~忙しい忙しい」


 このように、泳げない者たちは必死にゲーム参加を回避している。



 季節は猛暑期!

 水着の季節!


 ……なのだが、港を貸し切りにするわけにもいかず、それなりに人目もあるということで、今回の水着はかーなーりー控えめなものになっている。

 なんかぁ、ふつうにぃ、半袖と短パンでぇ、素材的に? 若干なら? 濡れてもいいんじゃねーの的な? そんな味も素っ気も露出もないものになっている。


 水着じゃないやい、そんなもん。

 昭和初期か。

 いや、昭和初期の袖あり水着よりもボディーラインが隠れる今風デザインだから、もう完全に服だな、あれは。


 濡れても透けない服!


 存在意義が見い出せません!

 せめて透けろよ!


「ヤシロさん、お食事の用意が出来ましたよ。今日はお素麺です」


 ジネットに至っては、海に入るつもりはないようで完全に普段着だし。

 やっぱ、水遊びは川だな。うん。


「マグダ、あたいと勝負だ!」

「……受けて立つ」


 ここまで無敗同士のマグダとデリアの一騎打ちが始まり、観衆がヒートアップしている。


 ちなみに、ウーマロを海へ突き落としたウッセは、その直後マグダに海へと突き落とされていた。

 手押し相撲なのに、足使ってたけど、まぁ相手がウッセだからいっか☆


「速い! そして凄まじいまでの技の応酬です!」


 海から上がったロレッタが熱のこもった実況を行っている。

 それを聞きつつ、ジネットの用意してくれた素麺をすする。

 ……うん、夏である。


 どこからどう見ても夏なので、ぼちぼちクリスマスのことを考える。


 …………そーゆー街なんだよ、ここは。


 猛暑期が終わったら豪雪期がやって来て、豪雪期が終わったあとにやって来るのがクリスマスだ。

 俺が持ち込んで、すっかりと定着した、年末の恒例行事。

 まぁ、ご馳走食ってプレゼント交換する日、みたいな認識っぽいけども、この街の連中にとっては。


 もう何回目のクリスマスになるのかなぁ……………………ふむ。なんか、深く考えたらイケない気がする。なんとなくだけど。なので考えないようにしておこう。


「ま~た、プレゼントを用意しなきゃいかんのか……まったく、面倒な」

「ふふ。わたしもお手伝いしますね」


 一度教会のガキどもにプレゼントを渡したらすっかり味をしめやがって、「今年もいい子にしてたよ!」とか平然と嘘を吐くようになりやがった。

 で、いい子にしてたアピールを俺にしてどうする。サンタにしろ、サンタに。

 フィンランドかどっかその辺にいるらしいから。


 とはいえ、まだ「欲しいプレゼントをおねだりする」という風習は根付いていない。

 サンタの采配で、何かしら、ちょっといいものがもらえる日、そんな認識なのだ。


 まぁ、ガキはそれでいいとして、俺はそこそこいいものをもらいたいぞ。

 なにせ、結構頑張っているから。

 この街目線で語れば、めっちゃいい子だから。

 水着美女の背中にサンオイルを塗れる券とか、なんならいっそ、水着美女マッサージ券とか! もちろん、俺がマッサージをしてあげる方で!

 誠心誠意、心を込めて全身くまなく、一部分に若干偏り気味で、お揉みさせていただきますけども!


 あぁ、切実に領主権限が欲しい!


「エステラサンタに、欲しいプレゼントをおねだりしなくては!」

「なんでボクに言うのさ?」


 素麺をすすりながら、俺の座る「ぽろりがあった時に見逃さない特等席」のそばまでやって来るエステラ。

 ツユの中に剥いたミカン浮かべてんじゃねぇよ。薄皮までキレイに剥いてもらって。

 ジネット、甘やかし過ぎだぞ。

 薄皮をそこまでキレイに剥けるの、お前しかいないからバレバレだ。


 ちなみに、薬味はネギとショウガとゴマとミョウガと刻んだ大葉だ。

 あと刻み海苔な。

 あぁ、美味い。

 豪雪期になったら煮麺(にうめん)してもらおっと。


「ジネット、豪雪期になったら煮麺が食べたい」

「はい。任せてください」

「エステラ、クリスマスには『領主権限使用券(十枚綴り)』が欲しい」

「却下だよ」


 この差よ!?

 寛容さって、やっぱり胸元の標高差に比例するんじゃないかなぁ!?


「エステラ、今度検証を――」

「断る!」

「ちぃ!」


 アレもダメ、コレもダメ。

 まったく、息が詰まりそうだ!


「ところでエステラ」

「なに?」

「あそこで他所の領主様が海に突き落とされてるんだけど、放っといていいの?」

「ルシアさんが好きでやってることだから、いいんじゃないかな」


 扱いがぞんざいになったもんだなぁ。

 すっかりお友達枠だ。


「それで、また今年もクリスマスパーティーを盛大に行おうとしているのかい?」


 自分の素麺がなくなって箸をプラプラさせるエステラ。

 小鉢に入ってるだけじゃ少ないだろうに。

 ほれ、俺のヤツ食っていいぞ。

 あ、ジネットがす~っとおかわり取りに行ってくれた。

 悪いな。気が利くな。ありがとな。


「今回はどんな趣向でボクたちを楽しませてくれるんだい?」

「なんで俺が企画してお前らを楽しませなきゃいけないんだよ」

「だって、いつも君は誰に言われるまでもなく率先して企画立案しているじゃないか。とっても楽しそうにね」


 してねぇわ。


「とりあえず、あのしょーもない水着が不服過ぎるので、河原で『どきっ! 水着だらけのメリークリスマスパーティー』を開催できないかと画策中だ」

「豪雪期後の冷たい川に水着で入ったら、大事故になるよ」


 そうなんだよなぁ。

 雪解け水、冷たいんだよなぁ。


「上流からお湯を――」

「デリアに怒られるよ」

「『領主様が、どうしてもやれって……』」

「言ってないし、言わないよ」

「……三十五区の方の」

「ルシアさんも言わないから」

「じゃあ、三十七区」

「……デリアが真に受けたらどうするのさ?」


 仲良しじゃない領主が川に湯を流させたなんて聞いたら、『ダッシュでゴン!』だろうな。

 うん、三十七区領主が年明け早々世代交代しちゃう。


「しょうがない……陽だまり亭で水着会をするか」

「目的が変わったよ。クリスマスパーティーをするんだろう?」


 バカモノ。

 俺の目的は、ちゃんとした、見ているだけで元気になれる、目にも思春期にも嬉しい可愛らしい水着を思う存分堪能することだ。

 クリスマスなんぞ、どーでも…………あ、そうか。


「……マーシャとウーマロがいれば、なんとかなるか」

「うわぁ……なんか物凄い悪巧みをしてる顔してる」

「エステラって、子供が大好きだよな☆」

「なにさ、急に。……そりゃ、好きだけど」

「子供の喜ぶ顔が、大好きだよな☆」

「それは君だろう?」

「うん、俺も好き☆」

「……絶対、子供をダシにしてよからぬことを考えているよね?」


 そんなことはないぞ~☆

 よからぬことなんて考えてないな~い☆

 俺が考えているのは、と~ってもいいことさ☆


「よし、今年のクリスマスは、船上パーティーだ!」


 俺がそう宣言すると――


「なになに、それ!? 詳しく教えて、ヤシロ君☆」

「小耳に挟んだぞ。私にも詳細を教えよ、カタクチイワシ」

「オイラ、何を作ればいいッスか?」

「大工はすっこんでな。船の上なら、金物の出番さね。ポンポン蒸気船や噴水装置の実験でそれは証明されているんさよ」

「またワタクシの華麗な釣り竿さばきをご披露する時が来たようですわね!」

「ヤシロ、また釣りするのか!? あたい、頑張るぞ!」

「ねぇ、それって年末だよね? 日程は早めに教えてね、カンタルチカお休みしなきゃいけないから」

「私も、ニワトリのお世話をお父さんたちにお願いしとかなきゃ」


 ――グイグイ来るタイプの連中が一気に釣れた。


「……料理は、陽だまり亭にお任せ」

「美味しいご馳走をたくさんご用意しちゃうですよ! ――店長さんが!」

「はい。腕によりをかけて作りますね」


 陽だまり亭チームもやる気十分だ。


「カンパニュラとテレサも頼むぞ。本番は大忙しになるだろうからな」

「はい。お任せください。姉様たちに負けないよう、精一杯務めさせていただきます」

「つょめにさしましゅ!」


 惜しい、テレサ。

 強めには刺すな。弱めにも刺すな。な?


「ミリィ、また会場を飾る花をお願いしていいか?」

「ゎぁ、ぃいの?」

「あぁ。船の上を華やかに飾るなんて、ミリィでなきゃ出来ないだろ?」

「そんなこと、ないょ……でも、がんばる、ね!」


 こうやって、グイグイこないタイプのメンバーも誘っておく。


 そして。


「ベルティーナ」

「はい?」


 こいつにも参加してもらおう。


「ジネットがご馳走を作ってくれるってよ」

「それは魅力的なお誘いですね。ですが、その日は子供たちもパーティーをしたいでしょうから、私だけ船に乗るわけには――」


 断りの返事を寄越すベルティーナを、「ちょいちょい」っと手招きで呼び寄せる。


「ガキどもに、船の上でサプライズパーティーを仕掛けてやりたいんだが……仕掛人になってくれないか?」

「子供たちにですか?」


 ベルティーナの瞳がきらりっと輝いて、興味深そうにこちらを見つめてくる。


「ジネット、ちょっと来てくれ」

「はい」


 ジネットも呼んで、二人に詳細を話して聞かせる。


「海漁ギルドの船はとても巨大なんだ。その船を使って、宝探しゲームをやってみたいと思う」

「「宝探しゲーム……っ、ですか?」」


 思わず声が大きくなりかけた二人に「しー!」っと合図すると、二人揃って口を押さえ、声を潜めて小首を傾げる。

 ほんっとそっくりだな、この母娘。


「謎めいた暗号を解読し、豪華客船の中に散りばめられたキーワードを集め、合言葉を完成させた者には素晴らしいお宝が贈られる――と、そんな感じだ」

「それは楽しそうですね!」

「でもシスター、子供たちに暗号の解読なんて、少し難しくないでしょうか? わたしもちょっと自信が……」

「大丈夫だ、ジネット。ガキにも解ける難易度だから」


 謎めいた暗号なんて言葉は、雰囲気を盛り上げるための方便だ。

 所詮はタヌキの暗号くらいのもんだ。


「試しに、この暗号を解いてみろ」


 と、その場でさらさらと書いた暗号をジネットに渡す。



『たたひだたまたりてたい タヌキより』



「たたひだ……タヌキさんは『ただいま』と言いたかったのでしょうか? ですが、口に何か怪我をされていて、それでうまくしゃべれずに……」

「それは大変ですね! レジーナさんを呼んできます!」

「まて、そこのオモシロ母娘」


 走り出そうとしたジネットの肩をがしっと掴んで止める。


「ただの暗号だから。負傷者はいない」

「そうなんですか。それはよかったです」


 心底ほっとするジネットとベルティーナ。

 こっちは心底心配になってきてるよ、お前らの純粋さに。

 俺がちょっと目を離した隙に、胡散臭い壺とか羽毛布団買わされんじゃないぞ。


「もしかしたら『強制翻訳魔法』のせいでうまく伝わってないかもしれないが、差出人がタヌキだから――」

「あ、分かりました、この文章から『た』を抜くんですね!」

「あぁ、なるほど、それで『た抜き』なんですね!」


 わぁ、さすが『強制翻訳魔法』。きちんと意図したことまで伝わってる。

 ……もしかして、精霊神って全知全能系?


「つまり、この文章から『た』を抜いて読むと――」

「『・・ひだ・ま・りて・い』……あっ! 『陽だまり亭』です!」

「はい、正解」


 俺が正解と告げると、母娘が手を合わせて喜ぶ。ぴょんぴょん跳ねとるなぁ、似た顔して。


「つまり、陽だまり亭に宝物が!」

「これ、例題だから。まだなんにも用意してないから。いいから涎を拭け、ベルティーナ」


 陽だまり亭にある宝物っていったら、物凄く美味しいものに違いないって、その思考、刷り込まれたものだからちょっと修正しといて。


「みんなで力を合わせて謎を解き、その結果素敵な宝物をいただけるのであれば、きっと子供たちは喜びますね」

「はい。ただいただくだけのプレゼントよりも、子供たちの記憶に残ると思います」


 というわけで、保護者の了承を得た。


「ただし、ガキどもには頭だけじゃなく体も鍛えてほしいよな」

「そうですね。よく物を考える知能は必要ですが、そればかりに傾倒して運動を疎かにしてほしくはありません」


 いや、お前たちだよ、運動を疎かにして大人になった運動音痴母娘は。


「そこで、マーシャの船をちょっと改造させてもらって、浅い温水プールを作り、そこに宝を得るための必須アイテムを沈めておく。ちゃんと水の中で目を開けられないと見つけられないというわけだ」

「……わたしには見つけられません」

「少々難易度が高過ぎる気がします」


 諦め、早っ!?


 お前らみたいな大人を増やさないために、ガキのうちから水に慣れさせておくんだっつーの。

 あと、水の中で目くらい開けられるから、簡単に。


「というわけで、マーシャ」

「は~い☆ 面白そうだから協力してあげる~☆」


 ばっちり、こちらの会話を聞いていたマーシャが快諾してくれる。

 デッカい豪華客船の甲板に、ドドーンと頑丈なたらい的プールを作ってもらおう。

 ウーマロに言えば、強度もサイズも希望通りのものが出来るだろう。


「人魚たちには、キーワードの番人をやってもらいたいんだが」

「番人!? なにそれ? 誰を倒せばいいの!?」


 違う違う、違うから落ち着けマーシャ。


「謎が解けずに困ってるガキを、さり気なくサポートしてやってほしいんだ。見当違いな答えを出して見当違いな場所に行っちまうガキも出てくるだろうから、『その先は危険だよ~』とか『その暗号はこうやって解くんじゃないかな~』とか、ヒントをさり気なく与えつつ見守ってやってほしいんだよ」

「「「そーゆーことなら任せてください☆」」」


 ざばっと、海から人魚が数名顔を出す。

 わぁ、楽しそうな顔。


「今回は、私たちが仕掛人だ~☆」

「「「おぉー☆」」」


 マーシャの掛け声に、人魚たちが腕をあげて応える。


 こうして、人魚全面協力の、船上のクリスマスパーティーの開催が決定した。





 その後、参加者を陽だまり亭に集めてクリスマスパーティーの概要を説明する。


「海漁ギルド全面協力により、船上のクリスマスパーティーを開催することになった。目玉企画は、宝探しだ」


 宝探しは、ガキどもがメインで楽しむものなので、大人チームはガキどもが暴走しないように注意を払いつつ、うまいこと誘導してやってもらいたい。


「それだけではつまらないので、大人チームにもお楽しみを用意した」

「ヤシロ~、ミリィがこっちにいるけど、いいのか?」

「でりあさんっ、みりぃは大人!」

「まぁ、カンパニュラとテレサもこっちだし、そこまで厳密に線引きするつもりはない」


 カンパニュラとテレサをお子様チームに入れても、難易度が低過ぎて楽しめないだろうからな。


「ガキども用の子供騙しなプレゼントは適当に用意するからいいとして、大人チームはプレゼント交換をしたいと思う」


 各自が一つプレゼントを用意して、誰のプレゼントが誰に当たるか分からないようにシャッフルして配る、的なヤツだ。

 単純だが、結構盛り上がる。


「お前らには当日、子供が危険なことをしないように見張ってもらうことになると思うから、ゲームには参加できないと思うんだ。だからせめて、そういう楽しみをと思ってな」

「お気遣いいただき、ありがとうございます」

「あたい、子供たちの面倒見るの、全然嫌じゃないぞ」

「私も、微力ながらお手伝いさせていただきますね、ヤーくん」

「あーしもー!」


 その場にいた面々が、それぞれ頼もしい言葉をくれる。

 みんな、ガキどもの面倒を見ることに不満はないようだ。


「私は、適度な距離を取っておくね~☆」


 まぁ、中には、ガキが苦手な大人もいるけども。


 宝探しは、あくまでガキがメインの企画。

 大人チームは裏方だ。

 なので、ゲームの後はプレゼント交換をして、その後、ご馳走を囲んで盛大にパーティーを開催する。

 そうすれば、ここにいる連中も満足してくれるだろう。


「ただし、プレゼントは誰に当たるか分からないから、一部の人間しか使えないようなものは控えてほしい」

「お兄ちゃん、たとえばどんなのを避ければいいですか?」

「スケスケパンツとか」

「そんなもんを選ぶのは君くらいだよ」

「言われなくても、そんなものは選びませんわ」

「もう、懺悔してください」


 エステラとイメルダに冷ややかな視線を向けられ、ジネットに叱られる。


「分かった。お前らがそこまで言うのであれば、スケスケパンツは『有り』とする」

「そんな譲歩が欲しかったわけじゃないさよ、エステラたちは」


 ノーマまで冷ややかな目を。

 この辺、気温低くない?


「例によって、あんまり高価な物にはしないように」

「そうだね。300Rb以内に収まるようにしておこうか。その方が、もらう方も気が楽だろうしね」


 エステラがさっと金額を決める。

 三千円程度の物ならやり取りも容易か。いい値段設定だ。


「あと、エステラはナイフ禁止な」

「なんでボクだけ名指しで禁止事項設けるのさ!?」

「言わなければ、エステラさんはまず間違いなくナイフになさいますものね」

「あたい、ナイフは別にいらないなぁ」

「えぇ~、ちょっと待ってよデリア。ナイフって、集めると楽しいんだよ?」


 いいんだよ、お前の趣味を布教しなくて。

 一人で好きなだけ集めてろ。


「それで、今回の裏目標なんだが……、教会のガキどもはカナヅチが多過ぎるので、小さいうちから水に慣れさせて、ゆくゆくは泳げるようにしてやろうと思う」


 これまでまったくと言っていいほど水遊びをしていなかった教会のガキどもは、そのほとんどが泳げない。

 川遊びが大好きなハムっ子がカッパ並みに泳げることを鑑みれば、幼少期から親しんでおくことがいかに重要か分かると思う。


 なので、最終試練のキーワードは甲板に設置する浅いプールの中にばらまく予定だ。


「小さなガキでも溺れないように深さは大人のヒザくらいにする予定だが、それでも油断すれば溺れるのがガキという生き物だ。なので、お前たちには交代でプールのそばを、それとなく見張っていてほしい。何かトラブルがあれば、プールに飛び込んでガキどもを助けてやってくれ」

「ノーマには無理だろうから、あたいに任せとけ」

「ヒザくらいの深さならアタシだって対応できるさね!」


 おぉ、いいぞデリア。

 うまいことノーマがノッてきてくれた。

 よし、あとは……


「一応、水着は用意しておくから、必要なら使ってくれ」

「いや、別に水着に着替えるほどのこともないんじゃないのかい? 浅いんだから」


 甘いな、エステラ。


「パニックを起こしたガキは、飛びついてくるぞ?」

「あぁ、そうですね。それに、甘えたい盛りの子もいますから、濡れた体で抱きついてくるかもしれませんので、念のため水着は着ておいた方がいいですね」


 教会でガキの体を洗ってやった経験のあるジネットが、しみじみと言う。

 そういう経験があるのだろうな。服をびっちゃびちゃにされた経験が。


「水の中のことは、マーたんたち人魚に頼めばよかろう」


 ふふん、ルシア。

 そーゆーことを言うヤツがいるだろうということは予測がついていた。

 なので、それを封じる手段をすでに用意している。


「浅瀬のプールは甲板に設置して、水路とは繋げない。水路と繋がっていると、思いもよらない事故でガキが水路にハマってしまうかもしれないからな」

「それは危険ですね」

「仮にジャンプしてプールに飛び込んでくれたとしても、人魚たちは水を怖がるガキを外に連れ出してやれないだろ?」

「確かに、プールの中で泣かれてしまうと大変そうですね」


 もし自分が助けに入ったと想定して、その場面を想像してみろ。

 服を着たままプールに飛び込んで、溺れかけてギャン泣きするガキを抱っこしつつあやしている様を。

 服はべちゃべちゃ、水を吸って毎秒重くなり、張り付いて気持ち悪い服は容赦なく体温を奪っていく。

 どうにかしたくても、しがみつくガキが手を離さないから為す術なし。


 な?

 さっさと外に出た方がいいだろう、客観的に見ても、主観的に見ても。


「というわけで、宝探しの間は全員水着でガキどもを監視するように」

「……なんか、うまいこと丸め込まれた気がする」


 気がするだけなら大丈夫。

 いちいち気にすんなよ、そんな些末なこと。


 ……ふふふ。

 今日お前らが着ていたワケ分かんない水着もどきなどではなく、ちゃんと可愛い水着を今年も見せていただこうではないか! ふはははは!





 という感じで、あっという間に豪雪期が終わり、年末。


 ガキどもへのプレゼントも用意した。

 年少組には絵本。

 年中組には人形か合体ロボ。

 年長組にはぬいぐるみか探検七つ道具セット。

 という具合に、年齢や性別に合わせたものにしてある。


 探検七つ道具セットは、虫眼鏡、ピンセット、ホイッスル、ノート、ペン、小さい光るレンガのペンダントとそれらを一緒に収納できる麻袋の七つだ。

 探検とか言ってるが、昆虫採集や植物観察に使えるような内容になっている。

 ホイッスルは、危険が迫った時のための防犯用だ。


 ちなみにぬいぐるみは、女子たちの好みをジネットとベルティーナから聞いて作成してあるので確実に喜ぶはずだ。


 各人も、それぞれこの日に合わせて準備を進めてきていた。

 細工は流々、という感じか。


 そして、クリスマス当日になり、俺たちは海漁ギルド所有の豪華客船へと乗り込んだ。


「ヤシロさん、プールの設置完了したッス!」


 豪華客船の甲板に、どどーんとデッカいたらいが鎮座している。

 たらいというか、樽というか、とにかくデカ過ぎて何がなんだか分からないものになっている。


「これが、浅瀬プールか」

「どうせなら広々使ってほしいって、マーシャさんが言ってたらしいッス」


 又聞きなのは、お前の病気のせいだよな、ウーマロ。

 現場の責任者とはコミュニケーションをしっかり取れよ。


「ヤシロさん、こちらが年齢別暗号シートですわ」


 イメルダがデザインしてベッコが作った暗号カードは、冒険心をくすぐるいいクオリティになっていた。

 俺が見ても、ちょっとわくわくしちゃう出来だ。


 暗号は年齢別に難易度が異なり、たとえば、手に濁点が振られたイラストの横に、頭が小さくて体のでかい人間の体に月と書かれたイラストが並んでいるような感じで、手に濁点で『で』、頭が小さい月で『っき』、続けて読むと『デッキ』、つまり「甲板に行け」ということになる。


 そんな感じのなぞなぞ暗号を年齢別に作り、豪華客船の中をあっちこっちと移動させて、チェックポイントにいる人魚から出されるクイズに正解するとスタンプがもらえる、スタンプラリーになっている。


 スタンプには一つの文字と一つの数字が刻まれていて、数字順に文字を読むとお宝がもらえる秘密の呪文が完成するというわけだ。



 まっ、そんなもんはどーでもよくて!



「あぁ~、今日あったかくてよかったねえ、ネフェリー」

「あ、待ってパウラ。肩紐、ねじれてるから直してあげる」

「おっ、ミリィはあたいとお揃いの水着なんだな」

「……ぅぅ、お揃いだけど、全然仕上がりが違ぅょぅ……」

「ビキニ率が高いのは、誰かの思惑なんかぃねぇ?」


 ひゃっほぅ~い!

 水着パラダイス☆

 そして、ビキニパラダイス☆


「まぁ、みんな。思うところはあるかもしれんが、全部子供たちのためだ」

「そういうセリフは、鼻の下を伸ばさずに言うべきだよ、ヤシロ」

「その緩みきった顔をどうにかしろ、カタクチイワシ!」


 俺に注意をしてくる領主二人も、もちろんビキニ☆

 ルシアはヘタレてパレオとか巻いてるけども。

 ヘタレてんじゃねぇーよ。


 けど、それでも!


「二人とも、よく似合ってるぞ☆」

「ぅぐっ、し、締まりのない顔で言わないように!」

「見るな、カタクチイワシ! ギルベルタ、パレオをもう一枚用意せよ! あれ? ギルベルタはどこだ? ギルベルター!?」


 いや、何枚巻くんだよ、パレオ。

 あと、ギルベルタはナタリアと一緒に会場の準備してんだよ。邪魔せずそこで大人しくしてろ。


「ヤシロさん」


 とことことやって来るジネット。


「どうでしょうか? 変じゃないですか?」

「よく似合ってるぞ。場が華やかになっていいな」

「……ぇへへ」


 今回は、クリスマスパーティーということで、ジネットにはサンタコスをしてもらっている。

 ビキニの上に、白いファーの付いた赤いへそ出しキャミソールと超ミニスカート。


「特別な衣装をありがとうございます。水着が隠れて、少しだけですが恥ずかしさが紛れました」


 ビキニを若干隠すミニキャミ、ミニスカ。

 ジネット的には少しでも隠れてほっとしているらしいが……


 それ、実に素晴らしい衣装ですから!


 超ミニへそ出しサンタコス!

 陸地では絶対にやってもらえない、攻めた衣装!

 それでも、あら不思議! 周りに水着が溢れていると「そーゆーものか」と思って着てくれちゃう!


 木を隠すなら森。

 超ミニを着せるならビキニ!

 まさにこれ!


「お兄ちゃ~ん! 着替えてきたですよ~!」

「……今宵のマグダは、ワインレッドの心」

「みんなでお揃い、嬉しいです」

「みんな、いっしょ、ね!」


 とたとたと、陽だまり亭一同が集まってくる。

 全員、ジネットと同じくサンタコスだ。

 カンパニュラとテレサはお子様なのでワンピース水着だけどな。

 赤いスクール水着にマントとスカートを付けたような感じで、……あれ、なんだろう、ちょっと美少女戦士スク水ムーンみたいに見えるな。

 ティアラでも作ってやればよかったか。


「みんな似合ってるぞ。その可愛い衣装で盛大にパーティーを盛り上げてくれ」

「まっかせてです!」

「……船上に咲くマグダは、さながら赤いスイートピー」


 うん、マグダ。そろそろやめとこうか。

 偶然だとは思うけども。


「……紅に染まった、このマグダ」

「よし、マグダ。ガキたちを乗船させるよう、マーシャに伝達を頼む」

「……任された」


 ……ふぅ、危ない危ない。

 マグダのやつ、八十年代の日本に来たことあるんじゃないかな? マジで。

 え、全部偶然?

 じゃあお前の仕業か、『強制翻訳魔法』。

 大概にしとけよ。


「ヤシロ様、諸々の確認、完了しました」

「報告する私は、問題はないと」

「よし。ありがとな」


 会場は、ミリィの花によって綺麗に彩られ、実に華やかになっている。

 中でも目を引くのは甲板にそびえる巨大クリスマスツリー!

 実に見事なツリーだ。

 このデカい木を、ミリィが軽々抱えて甲板まで上がってきた時は度肝を抜かれたけれども。

 だって、陸地から8メートルも階段を上がらないといけないんだぞ、この船?

 とってもチャーミングな笑顔でツリーを飾り付けてたなぁ、ミリィ。


 そして、飾り付けも完成し、今回の目玉となる浅瀬プールのスタンバイも終わり、料理の下拵えも万全で、いよいよ開場を待つばかり。



 海上の会場が開場する!



「ぷぷぷー! おもしろ!」

「ヤシロ様は、非常に自分に甘い時がありますよね」

「好き、私は、友だちのヤシロのオヤジギャグが」


 オヤジギャグとか言わないで、ギルベルタ!?

 体はまだティーンだから!



 そうこうしているうちに、「わー!」っと元気な声と階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。

 ガキども、あのクッソ長い階段を駆け上がってくるのか。

 体力、無尽蔵か。ちょっと分けろ、その無駄な体力。有効活用してやるから。


 さて、そんな8メートルもある階段の上り下りなどという過酷な苦行には耐えられない俺のようなか弱い者のために、今回もハビエルを動員して人力エレベーターを稼働させている。


「ほいさっ! ほいせっ!」


 何事もないように、人が乗った巨大コンテナを引き上げるハビエル。

 滑車を使っているとはいえ、人間業じゃない。


「よっ! ナイスバケモノ!」

「がはは! 褒め過ぎだぞ、ヤシロ」


 ちっ、皮肉も通じねぇ。嬉しそうな顔しやがって。


「ほい、到着だ。足元に気を付けて降りるんだぞ」

「「「はびえるおぃたん、ありがとー!」」」

「「「ありがとー!」」」

「どういたしまして~!」


 顔の筋肉融解してるぞ、ハビエル。

 階段を上り切れないお子様が大量にいるからな。

 そりゃハビエルも頑張るわ。


「ありがとうございます、ハビエルさん」

「気にしないでください、シスター。さぁ、足元に気を付けて」

「ご親切にありがとうございます」


 わずか数センチの段差があるからか、ハビエルがベルティーナの手を取りエスコートしている。

 すげぇ紳士っぽい!?

 あと、敬語なんだな!?


 ハビエルのヤツ、守備範囲外には一切の下心を抱かずに接することが出来るのか。


「あいつ、犯罪者だな」

「まともにエスコートしただけで、エライ言われようだな、おい!?」


 あ、聞こえちゃった。

 で、なぜハビエルが幼女たちに鼻の下を伸ばし放題していられるのかというと……アイツがまだ出てきていないのだ。


 おーおー、噂をすれば。


「着替えるのに手間取ってしまいましたわ」


 全員が甲板に集まったところで、イメルダが颯爽と水着姿で更衣室から現れた。

 深紅のビキニに、夜空の星を思わせるような煌めくラメが広がる、なんともゴージャスなビキニ。

 プロポーションは言わずもがな、完璧だ。


「わぁー、イメルダお姉ちゃん、きれー!」

「かわいー!」

「えぇ、存じておりますわ!」


 謙遜という言葉を知らないらしいイメルダが、ガキどもの声援に余裕の笑みで応える。


 ……あいつ、一番注目されるタイミングを狙ってやがったな?

 威風堂々と、パーフェクトボディをこれでもかと見せつけ、甲板を練り歩くイメルダ。

 ウーマロは後ろ向いてるのに、漂ってくる色香で倒れ、ベッコはなんか幸せそうな顔で息絶えていた。


 凄まじい威力だこと。


「いかがでして、ヤシロさん?」

「うん、すっげー似合ってる」

「……きゅっ」


 いや、照れんのんかい!?

 どういう情緒をしてるんだ?


 イメルダの周りに集まりわーわー騒ぐガキどもを見て、ベルティーナがくすくす笑う。

 凄まじいもんな、ガキどものはしゃぎっぷり。

 もう笑うしかないか。


「イメルダさんは、女の子たちにオシャレを教えてくださるので、とても人気者なんですよ、特に女の子に」

「まぁ、プロに物を教わるのはためになるからな。小さいうちからいろいろ吸収させてもらうといい」


 やがて、教会のガキが成長してオシャレ女子が増えるかもなぁ、四十二区。


 それから、ベルティーナはぐるりと甲板全体を見渡す。


「素敵な会場ですね」

「今日だけの特別仕様だ」

「素敵な思い出になりそうです」


 そんなことを言うベルティーナの目の前を、ビキニ姿のデリアとノーマが通り過ぎていく。

 その姿を視線で追って、微かに頬を染めるベルティーナ。

 そうか、ビキニが気になるか。


「じゃ、ベルティーナも着替えようか」

「い、いえ、私は……」

「ぅひゃあ!」


 ベルティーナが水着を拒絶しようとした時、浅瀬プールを覗き込んでいた小さいガキが頭からプールにハマった。


「大丈夫ですか!?」


 普段のおっとりとした動作からは想像も出来ないくらいの俊敏な動きでプールへ飛び込むベルティーナ。

 だが、この場所にはもっと機敏な者たちが大勢いる。

 デリアとマグダがプールに飛び込み、ガキが溺れる前にさらっと救出していた。


 あっという間に助け出されたガキと、それを抱えるデリアと、ガキの顔をタオルで拭いてやっているマグダと、シスター服のままプールに入って立ち尽くすベルティーナ。


「シスター、プールに入るなら水着に着替えてからにした方がいいぞ」

「……濡れた服を着ていては、風邪を引く」

「そう……ですね。お二人とも、ありがとうございます。その子を助けてくださって」


 無駄足に終わってしまったが、ベルティーナの優しさは十分に伝わった。


 何が起きたか分からず呆けていたガキが、今になって泣き始める。

 デリアの腕から逃げ出して、水をバッシャバッシャ跳ねさせて、泣きながらベルティーナの方へと駆けていく。

 それをしゃがんで受け止めてやるベルティーナ。


「じずだぁー!」

「はい。怖かったですね。無事でよかったです。ですが、ちゃんと言いつけを守らなければいけませんよ」

「ごめんなさい……」

「はい。もう大丈夫ですからね」


 よしよしと、頭を撫で、濡れたガキを抱きしめてやるベルティーナ。

 あ~ぁ、もうびっちゃびっちゃじゃねぇか、服。


「シスター」


 ジネットが困り笑顔でベルティーナのもとへと向かう。


「その服、パーティーの間に乾かしておきましょうね」

「すみません、ジネット。お願いしますね」


 こうして、無事、ベルティーナも水着に着替えることになった。


 ひゃっほ~ぅい!





 そうして始まった、船上の宝探し。


 ガキどもは暗号の書かれた紙を受け取り、暗号を解いて示された場所へと向かう。

 そこで待ち構える人魚から出題されるクイズに正解すると、キーワードのスタンプを台紙に押してもらえる。


 と、そんなルールになった。


 ……人魚たちが、めっちゃ参加したがったからそういうルールになったんだよ。

 監視員だけじゃ我慢できなかったらしい。


「人魚のおねえさん、そうだしつって、ここ~?」

「そうだよ~☆ あ、今のダジャレじゃないからね~☆」


 出題の担当になれなかった人魚も、楽しそうに監視員をやってくれている。


 年少組のガキどもが操舵室に入ると、そこに待ち構えていた人魚が腕組みをして出迎える。


「よくぞここまで辿り着いた、小さき挑戦者たちよ☆」


 あぁ、こーゆーの好きそうだよなぁ、人魚は。


「では、問題! そこの棚に並んでいる貝の中から『いっちば~んギザギザで、巻っき巻きの貝』を持ってきてね~☆」


 と、操舵室に設置された棚を指差す。

 そこには多種多様な貝が並んでいる。

 この中で一番ギザギザで巻っき巻きなのは、サザエだな。


「は~い、せいか~い☆」

「「「わーい!」」」

「この貝は、サザエっていうんだよ~☆ 覚えて帰ってね~☆」

「「「さざえー!」」」


 見事サザエを人魚に渡したガキどもが、スタンプをもらって大はしゃぎしている。

 そこへ、年長チームがやって来る。


「うっそ!? お前ら、あんな難しい暗号、もう解いてたのか!?」


 自分たちよりも先に操舵室に来ていた年少組に驚きを隠せない年長組。

 だって、暗号の難易度、年齢によって変えてあるもん。


 年少組の暗号は――


『なんでも肯定(こうてい)してくれるお部屋(へや)はど~こだ?

 1、そうだ(しつ)

 2、そうじゃない室

 3、さぁ~どっちだろうねぇ~?室

ヒント:『肯定』っていうのは「そうだよ~」っていうことだよ☆』



 ――みたいな難易度だ。


 ちなみに、年長組の暗号は、文字がズラーッと並んでいる16×16マスの表の横に、掛け算や割り算の式が並んでいて、計算をして答えの数字の縦列横列に書かれている文字を並べると「そうだしつ」という文字が浮かんでくるという暗号になっている。

『一文字目は、縦「問1の答え」、横「問2の答え」』みたいな感じで。


 勉強を真面目にしていれば出来る暗号だ。

 ちなみに、この暗号、ベルティーナが物凄く喜んでいた。

 こういう遊びの中に勉強を取り入れる手法を真似すると意気込んでたなぁ。


「ではでは、年長組への出題は~☆ 『アコヤ貝』を持ってきてね☆」

「えぇー、難しいよー!」

「名前言われても分かんないー!」

「食べたことあるかなぁ?」


 人魚の出題も難易度が上がっている。


「俺、ホタテしか分かんない!」

「わたしもー!」

「ヤシロお兄ちゃんがいっつもホタテホタテ言ってるから覚えちゃったよね~」


 ……俺のせいにすんな。


「いやいや、ヤシロ君のせいだよ~☆」


 俺と一緒に、イベントの進行を見守っていたマーシャに濡れ衣を着せられる。

 人類がホタテを認識するのは動物としての本能的に当然のことなのに。

 自然の摂理とも言えるだろう。


「じゃ~、大ヒント~☆ アコヤ貝は~、真珠を作る貝で~す☆」

「あっ! ヤシロお兄ちゃんに聞いたことある! 真珠が出来る貝は、貝殻の内側が真珠みたいにキラキラしてキレイなんだって!」

「よし、中見よう!」


 一つの情報をもとに、全員で分担して作業に当たれる。

 この辺は、さすが年長組だな。


「難易度を調整したおかげで、みんなが楽しめてるみたいだね~☆」


 こういのって、年長が年少の面倒を見るために楽しみきれないことが多いからな。

 結構我慢してるヤツもいるから、こういう時くらいは精一杯楽しませてやりたい――と、ジネットが強く訴えてきたのでそうなるように調整したのだ。うん、ジネットが言ってたから。


「あぁ~、最後だったぁ~」


 年長組が無事にアコヤ貝を見つけ出し、スタンプを押してもらっているところへ、年中組がやって来る。

 このチームは、とにかくメンズがクソガキで、女子たちは苦労しているのだろう。

 ヤギ耳少女が悔しそうにほっぺたをぷっくり膨らませている。


「もうプレゼントないかなぁ?」

「んなことねぇから、クイズ出してもらってこい」

「ホント? 最後でもいいヤツ残ってる?」

「安心していいから、ゲームを楽しめ」

「うん! ヤシロお兄ちゃんがそう言うなら、信じる!」


 にこーっと笑って、出題人魚の方へと駆けていくヤギ耳少女。


「信頼されてるねぇ~☆」

「男に騙されるタイプだな、あいつは。ベルティーナに注意喚起をしておこう」


 マーシャがくすくす笑う隣で、年中組の奮闘を見守る。

 こういうチームワークが必要なゲームは、年中組が一番苦戦するかもなぁ。

 年長組はそこそこ要領いいし、年少組はそもそも問題がめっちゃ簡単だから。


「ヤシロお兄ちゃん! アサリ、シジミ、ハマグリ、アワビの中で仲間外れってどれー!?」

「自分たちで考えろ」


 いきなり答えを聞こうとしてんじゃねぇよ。

 そこに実物があるだろうが。


「ほれ、これがアサリ、こっちがシジミ。んで、これがハマグリで、こいつがアワビだ」

「分かった! シジミだけ水着に出来ない!」

「バカモノ! シジミでも水着は作れる! いや、むしろシジミこそが!」

「ヤシロく~ん? お子様の前では自重しよ~ねぇ~?」


 マーシャがおいでおいでしてる……人魚の手招き、怖っ!?


「貝の形をよ~く見ると分かるかもよ~☆」

「あっ、アワビだけ貝殻が一枚だよ!」

「うわっ、マジだ!?」

「誰か食べようとして剥いたんじゃないの?」


 で、じーっとこっちを見るな、ガキども。

 アワビはもとからそーゆー貝なんだよ。


「じゃあ、アワビが正解だと思う人ー?」

「「「「はーい!」」」」


 ほい、正解。

 満場一致でアワビが選ばれ、ガキどもは人魚に正解のスタンプをもらっていた。

 アワビ以外はみんな二枚貝。アワビだけが違う。

 アワビは、二枚貝のように平べったいのでたまに間違われるのだが、実は巻貝なのだ。


「じゃあ、私たちもそろそろ行こうか?」

「そうだな」


 第一チェックポイントを全員が無事通過したので、俺たちも移動する。

 ちなみに、特別参加枠のハムっ子選抜チームは、どこよりも早く謎を解き、独走状態で次のチェックポイントに向かっている。

 ハムっ子だけは、キーワードもプレゼントも違うんだけどな。


 ハムっ子たちのプレゼントは年長組が金を出し合って全員にお揃いの帽子と靴を買っていた。

 あと、ロレッタが物凄く頑張って方々に許可を取り、『ハムっ子全員参加クルージング券』を手に入れている。

 こちらは、プレゼントする側の長男次男次女三女にも内緒のサプライズプレゼントだ。

 ロレッタも、ちゃんと長女してるな。

 今回一緒に乗れなかった弟妹へのフォローというわけだ。


 ……うっかり船を沈めないようにだけ、強めに言い聞かせておこう。

 人魚対ハムっ子なんて、目も当てられない惨状になりそうだからな。



 これ以降のチェックポイントにはデリアやイメルダたちが分担して立っている。

 なので、俺たちは甲板へ向かい、最終試練『海のお魚、手掴みゲーム』の準備に向かう。

 あ、実物の魚じゃなくて、魚のイラストが書かれたカードを手掴みするんだけどな。

 ほら、温水で淡水だから、浅瀬のプール。





 というわけでやって来た甲板には、得も言われぬいい香りが漂っていた。

 ジネット率いる陽だまり亭チームがじゃんじゃん美味そうな飯を量産している。

 ノーマとパウラもこちらを手伝っているので俺の出る幕はなさそうだ。


 というわけで、俺は俺に出来ることをしようと思う。


「ガキどもが頑張ってる時に、一人でつまみ食いとかしないよな、ベルティーナ?」


 ベルティーナの監視だ。

 うん、大切なお仕事。


「で、ですが、こんなにも美味しそうな匂いがしていますよ!?」


 匂いがしてたからなんだっつーの。


「みなさんが揃ってから食事にしますので、もう少し待っていてくださいね」


 ジネットが甲板に出てきてベルティーナをなだめている。

 荒ぶる神か、こいつは?


 鎮まり給え~、って?

 鎮まりそうにねぇなぁ、ベルティーナの腹の虫。


 そんなベルティーナは、毎度おなじみラッシュガードを身に着けている。

 今回も純白のラッシュガードなのだが、クリスマスということで中のビキニは真紅。

 つまり、純白のラッシュガードの裾からチラ見えする真紅のビキニ!

 なんなら、ラッシュガードの下からうっすらと赤が透けているという完璧仕様!

 いい透け感だ、ウクリネス!

 透け過ぎず、透けなさ過ぎず、実に絶妙の塩梅と言えるだろう!

 あのオバチャン、伝説を残したな。


「ヤシロさん。プールの中にいろいろなカードが沈んでいますが、これは?」

「最終問題の解答カードだ。出題された魚介類を人魚に持っていければクリアってな」

「なるほど……難しそうですね」


 プールの底には、魚介類のイラストが描かれたカードが沈んでいる。

 俺が下書きして、ベッコが模写して、ノーマがコーティングした耐水性カード。素材は魔獣の革だ。


「試しにベルティーナ、ウナギを探してみろ」

「ウナギなら分かります」


 自信たっぷりにプールを覗き込むベルティーナ。

 よく目を凝らし、水底に沈んだカードを眺め、肩を落とす。


「蒲焼きがありません……」

「調理前の姿だからな」


 陽だまり亭で扱う魚介類も多いのだが、調理前の姿を見る機会はなかなかない。

 なので結構難易度が高いだろう。


 ちなみに、ジネットにカードを見せて名前を答えさせたら、全問正解してた。

 さすがだな。


「じゃあ、ベルティーナ。サザエはどうだ?」

「それなら分かります。ツボ焼きです!」


 と、サザエのカードを指差すベルティーナ。

 網焼きで食べたことがある貝類なら、きっと分かるんだろうな、この食いしん坊は。


「ちなみに、水深30センチ以上で文字が浮かび上がる特殊な水中インクっていうのを人魚が持っていたから、それで魚の名前を書いてあるんだ」

「……読めませんよ?」


 水面を見つめ首を傾げるベルティーナ。

 そりゃそうさ。

 そのインクは、水に潜らなきゃ読めないんだから。


「水に顔を浸けて、目をしっかり開けられたら、正解が読めるぞ」

「それは……私には無理です」


 ベルティーナも、ジネット同様水中で目を開けられないタイプだ。

 もっと泳ぎの訓練をしないとイカンな。

 もちろん水着で!

 実践あるのみなので!

 水着で!

 形から入るのが重要なので!

 ビキニで!

 教える側のやる気が変わるので!


 ただまぁ、口にした瞬間母娘揃って「懺悔してください」って言うだろうから黙っておくけども。


「わー! いちばんのりー!」

「わーい! 取り放題ー!」


 最初に甲板に現れたのは年少組だった。

 あれ? ハムっ子選抜チームは?


「おねーちゃん、もう一回第3チェックポイントやるー!」

「どんだけ好きなんですか、第3チェックポイント!? いいから先に進むですよ!」

「「「ぶーぶー!」」」

「ぶーぶー言わないです!」


 なんか、途中のゲームが楽しかったらしく、そこでそーとー粘ったっぽい。

 ロレッタが出動して強制的に先へ進ませたらしい。


 なんだったかなぁ、第3チェックポイント…………あぁ、魚介射的ゲームか。

 好きそうだな、ハムっ子は。


「お姉ちゃん、あたし、マッコウクジラに勝ちたい!」

「あんたは弟妹を止めるために選抜チームに入ってるですよ、次女!?」


 一番ハマってたのは次女か。

 ……次女よ。


「ではでは~、最終ゲーム、海のお魚、手掴みゲーム』スタートだよ~☆」


 人魚が持つ箱の中から魚の名前が書かれた札を取り、プールからその魚のカードを持ってくる。

 一人一枚カードを取り、チーム全員のカードが揃えばクリアとなる。


 とても単純だが、水に入るとガキはうるさいので、非常に大盛り上がりするゲームだ。

 事実、プールに飛び込んだガキどもがそれはもう目も当てられないような大はしゃぎをしている。


「ちょっ、泳ぐんじゃないですよ、あんたたち!?」

「お姉ちゃんも泳ご~!」

「あんたたちがしっかりしないから、あたし厨房から連れ出されたですよ!? 本当なら今頃ケーキのデコレーション手伝ってたはずですのに!」


 まぁ、厨房にはジネットもいるし、料理では非常に頼りになってプールではまったく頼りにならないノーマもいるし、肉ならおまかせのパウラもいるし、なんとか回るだろう。

 その反面、ハムっ子の誘導はロレッタにしか出来ない。

 適材適所だな、うん。


「よし、こっから逆転するぞ!」

「負けないもんね!」


 年長組と年中組も合流し、一斉にプールへと飛び込んでいく。


「ちょっ!? 『ウケグチノホソミオナガノオキナハギ』ってなに!? 聞いたことない、っていうか、これ名前なの!?」


 最年長の悪ガキが、引いた札を見て絶叫している。


 あぁ、それなぁ。

 カワハギを料理してる時に「こんな名前の魚もいるんだぞ」ってジネットに教えてやったら、たまたまそこにいたマーシャが「今度持ってくるね~☆」ってマジで持ってきたことがあったんだよなぁ。

 長い名前なので、ジネットも記憶に残っていたらしい。


 ちなみに、『受け口の、細身、尾長の、翁、ハギ』で、『ウケグチノホソミオナガノオキナハギ』だ。


「潜ってカードを見たら名前書いてあるから、チェックしてこい」

「いや、こんな長いの読んでたら溺れちゃう!?」


 バカだなぁ。

 そんだけ長い名前なんだから、カードにびっしり文字が書かれてるヤツを持ってくりゃいいんだよ。


 もっとも、『フサフサヒレナガチョウチンアンコウ』も紛れ込ませておいたから、せめて頭数文字は読まないと間違っちまうけどな。


 ちなみにジネットは「可愛い名前ですね」とすぐ覚えた。

 まぁ、チョウチンアンコウを知ってりゃワケないよな。アンコウなら、何度も捌いてるし。


「さざえー!」

「いいなぁ、そんな簡単なので! こっちはアイナメだぞ? なんだよアイナメって!?」


 アイナメなんかめっちゃイージー問題じゃねぇか。

 独特な顔してんぞ、アイナメ。


 あと、ジネット。

「ヒントです。煮付けにしても塩焼きでも美味しい魚です」じゃねぇーよ。なんのヒントにもなってないから。


 で、ベルティーナ。

「アイナメの塩焼きは美味しかったので覚えています。あれです」ってこっそりジネットに耳打ちしてんじゃねぇーよ。

 しかもきっちり正解してるし。


「ヤシロお兄ちゃ~ん」


 ヤギ耳少女が俺のところへてこてこと歩いてくる。

 なんだ、ヒントでもほしいのか?


 と思っていたら。


「『キス』って書いてるんだけど、人魚さんの前でチューしたらいいの?」

「そーゆー魚がいるんだよ。探してこい」

「な~んだ」


 な~んだじゃねぇよ、な~んだじゃ。

 もしチューしてクリアなら俺を連れて行く気だったのか? 十年早ぇよ、マセガキが。


「たぶん、『キス』って名前だから、口がこ~んなとんがってる魚だと思うんだよね~…………あっ、たぶんこれだ!」


 あぁ、惜しいな、ヤギ耳少女よ。

 それ、『ウケグチノホソミオナガノオキナハギ』だわ。


「そろったー!」

「くりあー!」

「やったー!」

「ばんざーい!」

「ばんざいの勢いでー!」

「お姉ちゃんをどーん!」

「お姉ちゃんばしゃーん!」

「ぶぁっ!? なにするですか、あんたたち!?」

「「「「ノリでー」」」」

「ノリで長女をプールに突き落とすなです!」


 クリアしたガキどもが大盛り上がりだ。

 特にハムっ子一同が。


「それじゃあ、みんな~☆ 集めたキーワードを、数字の順番に読んでみよ~☆」


 マーシャが甲板のめっちゃ目立つ位置にあるプールの中で、ガキどもに最後の出題をする。


 年長組はもう途中から分かってたっぽいが、年少組のサポートをしつつ先走ることはない。


 厨房で料理していた面々も、各所で監視員をしてくれていた連中もみんな甲板に集まってきて、ゲームのフィナーレを見学している。


「どんな呪文なんでしょうね?」


 ベルティーナがわくわくした顔でジネットに話しかける。が、実はベルティーナ以外、全員答えを知っている。

 なので、みんなにっこにこだ。


「シスター、子供たちの大冒険の結果を、近くで聞いてあげてください」


 エステラがさり気なくベルティーナをガキどもの前へと誘導していく。

 何も察することなく、ガキどもの前に立ったベルティーナ。

 そんな、みんなのお母さんたるベルティーナに向かって、ガキどもが一斉に集めたキーワードを口にする。



「「「シスター、いつもありがとう!」」」

「えっ? へっ!?」


 びっくりして、辺りをキョロキョロと見渡すベルティーナ。


「は~い、大正解~☆」


 マーシャが宣言すると、人魚たちがわーっと歓声を上げ拍手が鳴り響く。


「……みなさん」


 ようやく、自分へのサプライズが仕掛けられていたことを察して、ベルティーナが嬉しそうな、ちょっと泣きそうな顔で柔らかく微笑む。


「ありがとうございます。とても驚きました。そして、子供たち。みなさん、大変よく頑張りましたね」

「「「わー!」」」


 ガキどもがベルティーナに群がって抱きついていく。

 よし、そのままプールへ引きずり込め!

 濡れベルティーナを今一度!

 カモン!


 ……ちぇ~。


「んじゃ、ハムっ子選抜チームも答え合わせ行くぞ~」

「「「は~い!」」」


 ハムっ子チームのキーワードは、「みんな大好き」――であると、ロレッタには教えてある。

 もちろん、ロレッタ以外は全員、本当のキーワードを知っている。


「さん、はい!」

「「「おねーちゃん、だいすきー!」」」

「えっ!? 違くないですか!? あんたたち、ちゃんとキーワード集めて……あぁっ、こっちもサプライズですか!?」

「……ロレッタ」


 驚くロレッタに、マグダがネタバラシをする。


「……てってれー」

「物凄い平板です!? もうちょっと盛り上がらないですかね、そのBGM!?」


 まぁ、マグダだしな。


「けど、嬉しいです! あたしもみんなが大好きですよー!」

「「「おねーちゃーん!」」」

「みんなー!」

「「「どーん!」」」

「わっぷ!? だからっ、長女をプールに突き落とすなです!」


 濡れロレッタにハムっ子がじゃんじゃか飛びついて、ばっしゃばっしゃとはしゃぎ出す。

 あ~ぁ、次女も長男次男も飛びついてるわ。

 あいつら、成人しても結局はハムっ子なんだなぁ。


「ちょっ!? まだ、あたしのサプライズが残って……っ、みんなでクルージングが……っ、長男たちにも秘密の……だぁー! 話を聞くですよ、あんたたちー!」

「「「わー!」」」


 ほんと、ハムっ子は、いくつになってもハムっ子だわ。





 キーワードが発表され、ベルティーナとロレッタがうるうるし、それを他の連中が温かく見守って、とりあえずゲームは終了だ。

 あとは、ご褒美の授与だな。


「さぁ、人魚の試練を見事突破したよい子たちには~、素敵なプレゼントがありま~す☆」

「「「あちらを見ろ~☆」」」


 人魚が指し示す先には、ミリィが頑張って飾ってくれたクリスマスツリーが立っていて、その足元にうず高くプレゼントが積み上げられていた。

 わぉ、クリスマスっぽい。


「ちゃんと名前が書いてありますから、自分の物を持っていってくださいね~」

「でもみんな、その前に体をしっかり拭いておかないと、せっかくのプレゼントが濡れてしまうよ」


 ジネットとエステラが、プレゼントに群がるガキどもを誘導していく。

 デリアにイメルダ、ノーマにナタリアにギルベルタ。ガキの扱いのうまい連中が暴走しそうなガキどもをうまく捌いている。


 濡れた髪や手をしっかり拭いてやらないと、風邪引くからな。


「なかなか楽しいものであったな」

「おぉ、戦力外のルシア」

「誰が戦力外だ!? 率先して手伝おうとしたら、『なんか顔つきがヤバい』と除外されただけだ!」


 なお悪いじゃねぇか。

 ハビエル枠じゃん、お前。

 そのハビエルは、飯の時間まで甲板への立ち入りを禁じられている。

 はしゃぎ過ぎるのが目に見えてるからな。


「しかし、最後に少し使うためだけに甲板に巨大なプールを作るとは……貴様の子供好きは留まるところを知らぬな」

「言ってる意味はよく分からんが、このプールはゲームのためだけに用意したんじゃないぞ」

「なに? まだ何かあるのか?」

「ふっふっふっ……サリサ!」

「はいは~い! 海漁ギルド二足歩行クルー代表、サリサです! ご注文の熱湯をお持ちしました!」

「よし、プールへ投入!」

「は~い! どぼどぼどぼ~!」


 巨大なプールに熱湯を注ぐと、たちまち湯気が立ち上り、プールは屋外大浴場へと変貌した。

 船上の露天風呂だ!


「うん、湯加減もバッチリだ。みんな水着着てるから、好きに入っちまえ!」

「それでボクたちにまで水着を着せたのかい?」

「あっ、だから今日はお酒をいっぱい持ち込んだんでしょ? ノーマがお風呂で飲むお酒は格別だって言ってたし」

「やったさねぇ! さすがヤシロ、分かってるさねぇ~!」


 パウラからの情報を聞き、顔が濡れると泣くかもしれないからとプールには一切近付かなかったノーマが、我先に露天風呂に飛び込んできた。

 風呂だと平気なんだなぁ、なんでか。


「よぉ~し、そういうことならワシも入るぞ! パウラの嬢ちゃん、金はワシが出す、じゃんじゃん酒を持ってきてくれ!」

「はいは~い! ネフェリー、手伝って~」

「うん。あ、でも私たちもあとでお風呂入ろうね」

「もち!」


 パウラとネフェリーが厨房へ駆け込み、交代するようにマグダやカンパニュラたちが厨房から料理を持って出てくる。


「ジネット姉様、お料理はどちらに運びますか?」

「では、こちらのテーブルにお願いします」

「みりぃも、お手伝いする、ね」


 とことこ駆けていくミリィだったが、デリアが「これでもか!」っと料理を大量に抱えて運び出してきてちょっと足を止める。


「……まだ、ぉ料理、残ってる?」

「ん? もうほとんどないぞ」

「はぅ……出遅れちゃった……」


 まぁ、そうがっかりするな。

 真っ赤なワンピース水着のミリィは、いてくれるだけで盛り上がるから。


「で、そこの『黙っとったらおらへんのと同じやん』理論を振りかざしてるレジーナ」

「なんや、バレとったんかいな」


 バレるというか、めっちゃ目に入ってから。『ウチ、おらへんで~』みたいな空気必死に醸し出してたけども。


「ところで、ウチの水着に描かれとるこの茶色い動物はなんなん?」


 レジーナのビキニには、トナカイが描かれている。

 真っ赤なお鼻が、ちょ~どお胸の天辺にくる素敵デザインだ☆


「トナカイという生き物でな、その赤い鼻が特徴なんだ」


 思わずぷしっと押してしまいたくなるほどに☆


「ん。とりあえず、シスターはんの隣におろっと」


 ちぃ!

 一番ふざけられない安全地帯に逃げ込みやがって!


「では、みなさんでお食事にしましょう!」


 ジネットの宣言で、一同はクリスマス料理へと群がった。

 正直、ずっといい匂い嗅がされてとっくに腹ペコだったんだよな。


 言うまでもないだろうが、真っ先に料理へ到達したのは、ベルティーナだった。





 食事が始まり、そこそこ時間が経過した。

 方々から賑やかな声が、止むことなく聞こえてくる。


「あー、さざえー!」

「せいか~い☆ よく覚えられたね~☆」

「わたし、アイナメも覚えたよ!」

「そうなんだ~☆ えらいね~☆」


 ガキどもに海の知識が広がって、マーシャがご機嫌だ。

 今回の出題は、海に関するものばっかりだったからな。


「マーシャ、ちょっといいか?」

「うん、いいよ~☆」


 ばしゃっと、水路に入り、近くの水路からざばっと出てくる。

 瞬間移動並みの速度で。


「もしかして、今度は私たちのお楽しみかな~?」

「正解だ。食堂へ行こう」

「おっ先ぃ~☆」


 またまたざばっと水路に沈むマーシャ。

 今頃、もう食堂に着いてるんだろう。

 俺も急ぐか。


「遅いよ~、ヤシロ~!」


 食堂に着くと、パウラが手を振って迎えてくれる。

 食堂には、今回ガキどもを見守ったり、パーティーの準備を手伝ったりしてくれたいつもの面々が集まっていた。


「それじゃあ、みんな集まったから一応締めの挨拶ね」


 エステラが前に進み出て締めの挨拶を行う。


「みんなのおかげで、怪我人も出ず、事故も起こらず、無事にイベントを終えることが出来たよ。領主として、友人として、みんなに感謝を示させてほしい」

「固いさよぉ~! もっと気楽にやるさね~!」

「そーだぞ、エステラー! わははー」

「え~っと、すでに出来上がっているノーマとルシアさんはちょっと隔離して――それじゃあお待ちかねの、プレゼント交換を執り行おうー!」

「「「いぇーい!」」」

「……いぇい、いぇい」


 テンション高く、盛り上がる一同と、たぶん盛り上がっているマグダ。

 上がってるんだと思う、たぶん。


「本当は、みんなにも宝探しみたいなゲームをやってもらいたかったんだけど、子供たちも大勢いるし、あまり時間をかけるわけにはいかなくてね」


 番号を書いた札を船内にばら撒いて、探し出したプレゼントが自分のヤツ、とかやってもよかったんだが、如何せん時間がなかった。


「というわけで、公平にくじ引きで決めたいと思う」


 味も素っ気もない箱に番号が書かれた札を入れて、それを順番に引いていく。

 自分が用意したプレゼントを引いてしまった場合は引き直しが出来る。

 そんなシステムだ。


「じゃあ、みんな自分の番号が書かれた札をこの箱の中に入れて~」


 と、エステラが取り出したのは、物凄くクリスマスっぽい絵が描かれた箱。

 いや、あれ描いてるんじゃない、彫り込んであるんだ!?

 何やってんのベッコ!? 暇だったの!?

 めっちゃ味も素っ気もあるじゃん!?


「いやはや、ついつい張り切ってしまったでござる」

「ったく、無駄な労力使いやがって」

「ちなみに、この箱は絶対に不正が出来ないようにちょっと特殊な方法でないと開けられない仕組みになってるッス」

「お前も使ったみたいだな、無駄な労力!?」


 なんなの、この街の人間。

 どんだけ仕事好きなの!?


「みなさん、どんなプレゼントを用意されたんでしょうか?」


 わくわくと、ジネットがラッピングされたプレゼントの山を見つめる。

 みんなも、プレゼントの山に目をキラキラさせている。

 何が欲しいとかじゃなく、誰かが選んでくれたものがもらえる。

 もうそれだけで十分嬉しいのだろう。

 欲のない連中だこと。


 ちなみに俺は、温泉後のマッサージ券をプレゼントにした!

 ふっふっふっ。今日、船上ではみんなが水着になることが分かっていたからな、食事の後にゆっくり露天風呂に浸かって、その後俺様の超絶テクニックで体の隅から隅までもみもみ揉み尽くしてやるぜ☆


 というわけで、適当に順番を決めてくじを引いていく。

 ロレッタがトップバッターで――


「はぅっ!? これ、あたしの番号です。もう一回引くです。…………またあたしの番号です!?」


 ――みたいな面白ハプニングがあったが、それ以降は何事もなく順調に進んだ。

 ……ロレッタのヤツ、笑いの神に取り憑かれてるんじゃないか?


「わぁ! マフラーです!」

「あ、やったじゃんロレッタ。それ、あたしが編んだマフラーだよ」

「パウラさんの手編みですか!? あったかそうです! ……でも、なんで『M』って書いてあるですか? 誰に当たる予定だったです?」


 パウラの手編みマフラーには、大きく『M』という文字が書かれていた。

 はたして、『M』とは……


「そ、それは……誰に当たるか分からないからさ、『みんな』の『M』」

「いや、そこのイニシャル使う人初めて見たですよ、あたし!?」

「あの、私が頂いたハンカチにも『M』と刺繍がされているのですが」

「あ、あの、カンパニュラさん。それは、わたしが刺繍したんですが…………『みなさん』の『M』です」

「もう一人いたです!?」

「……店長は、そーゆー子」

「パウラも、ジネット並みの天然なのねぇ」

「ちょっとネフェリー、ひどいよぉ!」

「はぅっ!?」

「パウラ、ジネットちゃんがショックを受けてるよ」

「あぁ、ごめん、ジネット! そーゆーんじゃないんだけど……やっぱちょっとそーゆーのかも?」

「もぅ、パウラさん。ひどいです」


 ぷんぷんと抗議するジネットと、それを見て笑うパウラたち。

 まぁ、ジネットの天然は、四十二区随一だからなぁ。


「……ちなみに、マグダが用意した魔獣の革の小銭入れにも、『M』の刺繍を入れてもらった」

「むはぁあ! これ、マグダたんのプレゼントだったんッスかぁ! オイラ一生大事にするッス! 『みんな』にはオイラも含まれてるッスから、これはもはやオイラのイニシャルッスー!」


 幸せだな、あのキツネは。

 そして、公平なくじ引きでも確実にマグダを引き当ててくるとか……あいつ、何者なの?


「……マグダは、店長とお揃いで、嬉しい」

「マグダさんっ!」


 ジネットがマグダの『きゅんかわ』に撃ち抜かれて抱きついている。

 ジネットレベルの天然が増えるのは、ちょっと困るんだけどなぁ。


 それから、それぞれ個性溢れるプレゼントが次々公開されていった。


 ネフェリーの手作りぬいぐるみはテレサへ。

 テレサのみんなの似顔絵はルシアへ。

 ルシアの琥珀のブローチはミリィへ。

 ミリィの特製アロマキャンドルはエステラへ。

 エステラの万能包丁はノーマへ。……ナイフ禁止したのに、やっぱ刃物じゃねぇか!?

 ノーマの特製マシュマロはベッコへ。

 ベッコの影絵が壁に浮かび上がるキャンドル立てはナタリアへ。

 ナタリアの羊革の肩掛け鞄はレジーナへ。

 レジーナのアンティーク風ペン立てはギルベルタへ。

 ギルベルタのお気に入りの紅茶セットはパウラへ。

 パウラのマフラーはロレッタへ。

 ロレッタのちょっとおしゃれな陶器の置物はデリアへ。……置物とか、普通だな、おい。

 デリアの可愛いひざ掛けはジネットへ。

 ジネットの刺繍入りハンカチはカンパニュラへ。

 カンパニュラの花の香がする押し花のしおりはベルティーナへ。

 ベルティーナの刺繍入りハンカチはイメルダへ。……プレゼントの発想が母娘で一緒!?

 イメルダのおしゃれな日傘はマーシャへ。……それ、男に当たってたらどうするつもりだったんだよ。

 マーシャの水の中で音が鳴る水中楽器はマグダへ。

 マグダの魔獣の革製小銭入れはウーマロへ。

 ウーマロの部屋でも庭でもどこでもリノベーション券は俺の手元へやって来た。……ふふふ、どこのリノベーションさせてやろうか? 東側の道をもっと明るく――とか言ってやろうか。

 そして、俺のたっぷり揉み揉みマッサージ券はハビエルに。


「って、ちょっと待てぇーい!」

「おぉ、こりゃあいいな。ヤシロ、早速頼むぞ」

「俺は、水着の、出来ればビキニの女子を揉み揉みしたかったんだよ!」

「お父様、ナイスくじ運ですわ」

「ハビエルが、ボクたち女性の安全を守ってくれたわけだね」

「ハビエルさんにもらったこの木製の笛、私、大切にしますね」


 ハビエルのプレゼントはネフェリーに渡った木製の笛。

 ギルド長同士で似たような発想してんじゃねぇよ! 楽器被りとか!


「しょーもないプレゼントもらっちまったってヤツ、交換を受け付けるぞ!」

「思いを込めたプレゼントにしょーもないものなどあるか。あるとすれば、くだらない下心を込めた貴様のプレゼントくらいだ、カタクチイワシ。いいからあの鋼の筋肉を揉み解してまいれ」


 人の不幸を嬉しそうにケラケラ笑うルシア。


「ほんならウチが、特製アロマオイルを用意したげるわ。メンズ同士でぬるぬるてかてか楽しんでな★」


 星が黒いんだよ、卑猥薬剤師。ビキニのトナカイが邪悪な獣に見えるぞ。


「もぅ、ヤシロさん」

「懺悔してください……と、言いたいところですが、私や子供たちをエレベーターで引き上げてくださったハビエルさんの疲れを、丹念に解きほぐして差し上げることで、今回の懺悔は免除といたしましょう」

「だってさ。よかったね、ヤシロ」

「パウラもあとでやってやろうか?」

「いらないよ~っだ」


 べ~っと舌を見せて逃げていくパウラ。

 くそう、えぇい、くそう!

 きっと精霊神がくじ引きに介入しやがったんだ。


 俺が何のために船上にプールを作ったと思ってるんだ!?

 温泉といえばスパ!

 スパといえばマッサージ!

 マッサージといえばビキニ!


 この完璧な三角形理論(提唱者:俺)に則り計画を立ててきたというのに!

 おのれ、精霊神……そんなに他所の世界の宗教が憎いか!?


 日本では仏教徒も無宗教もみんなで楽しんでいたイベントなんだぞ!

 その多くが(ただ)れた方向で!(※個人の感想です)


「おい、ヤシロ。夜はまだまだこれからだ。た~っぷり付き合ってもらうから、覚悟しろよ」

「でぇえい! クリスマスなんぞ、二度とやるか!」

「オドルヮキウセ?」

「タイミングよく『女神の瞬き(=『強制翻訳魔法』の範囲外)』に入ってんじゃねぇよ!?」


 え、なに?

「今のは聞かなかったことにするからまたクリスマスやろうね☆」って?

 やかましいわ、精霊神! やかましいわ!

 あぁーもぅーやかましいわー!



「ぬさぁぁーーーん!」



 そんな俺の咆哮が大海原に響いた、そんなクリスマスだった。







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初コメント失礼します! そして、お久しぶりです!! 本編を3周くらいしてやっとこのSS置き場を発見し、これもまた周回中です… 更新まだかな〜って思ってたらSSが更新されててメッチャハッピーでした!…
船上のメリークリスマス、略して船メリだったとは!! 辰年の最後に坂本龍一さんの楽曲が脳内に流れましたわー。 メリークリスマス!メリークリスマス、ミスローレッタ! >「……今宵のマグダは、ワインレッド…
メリークリスマス!! お久しぶりです、異世界詐欺師! そして宮地先生! まさかクリスマス(作中では豪雪期の後)に水着回が来るとは思いませんでした。さすがはヤシロさんですね! 女子達のビキニ! メンズ…
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