【書き下ろし】ミリィのサンタさん大作戦[小説形式]
まえがき
本作は本編とは異なる時系列でのお話です
ハロウィンのことを知っていたり、ヤシロのサンタが記憶にあったり
ハビエルのサンタがなかったことになっていたり
ヤシロとエステラがまた何か動いてある物の価格が安くなっていたりしていますが
本編とは異なる時系列です
どうかお気になさらずに☆
☆☆ミリィ☆☆
「う~ん……こんな感じか」
陽だまり亭で、てんとうむしさんが筆を握って難しい顔をしていた。
「こんにちゎ、てんとうむしさん」
「おぅ、ミリィ。配達か?」
「ぅん。じねっとさんにお花のお届け」
抱えたカゴを見せると、てんとうむしさんが「ミモザにアネモネにラナンキュラスか」って、お花の名前を当てていく。
さすがてんとうむしさん。よく知ってるなぁ。
みりぃは、そういうところでも嬉しくなる。てんとうむしさんがみりぃのお仕事のこと、よく分かってくれているみたいで。
「こうやっていろんな種類の花が一つにまとまってると、単体で見るより綺麗だよな。豪華でお得感もあるし」
「ぅん。みりぃもブーケは好き」
「どの花も色が邪魔し合わないで綺麗に見えてる。ミリィはこういうのまとめる才能あるよな」
ぇへへ。
褒められちゃった。嬉しいな。嬉しいな。
「ジネットは、今ちょっと教会に行っちまってんだ。もうすぐ帰ってくると思うけど、待ってるか?」
「ぅん。じゃあ、待たせてもらぅ、ね」
「花はカウンターにでも置いといてくれ。ジネットが帰ってきたら飛びつくと思うから」
「ぅん」
じねっとさんが喜んでくれる顔を想像して、思わずほほが緩む。
お花をカウンターに置いて、てんとうむしさんの座るテーブルに近付く。
テーブルの上には絵の具が広がっていて、お絵かきをしていたみたい。
「それは、何の絵?」
「これか? ふふん、じゃーん!」
じゃーんと得意げに見せてくれたイラストは、赤い服を着た白いお髭のお爺さん。肩に大きな白い袋を担いでいる。
……誰、だろぅ?
「てんとうむしさんの、ぉ祖父さん?」
「俺にこんなファンタジーな親族はいねぇよ」
渋い顔をした後で「いやまぁ、俺自身が十分ファンタジーか……」って呟いてため息を吐くてんとうむしさん。
ファンタジー?
「この爺さんはな、サンタクロースだ」
どこかで聞いた名前。
どこだっけ……
「ぁ、クリスマスの?」
「そうだ」
たしか、クリスマスの時に赤い服を着たてんとうむしさんが自分のことを『サンタクロース』って名乗ってた気がする。
「てんとうむしさんのお家の正装?」
「だから、俺の家系にこの爺さんいないから……」
「じゃぁ、このお爺さんはてんとうむしさんの真似をしてるんだね」
「逆だよ!?」
じゃあ、てんとうむしさんがこのお爺さんの真似を?
どうしてだろう?
「やっぱ情報が上手く伝わってないんだなぁ……」
肩を落としてうな垂れるてんとうむしさん。
なんだか凄く落ち込んでいるみたい。
「サンタクロースは、クリスマスの日にだけやって来る爺さんでな」
遠くに住んでる親戚なのかなぁ……って、思ってたら「遠くに住んでる親戚じゃないからな?」って否定された。
何も言ってないのに、考えてること当てられちゃった。
「で、このサンタってのは――」
「さんた?」
「サンタクロース、略してサンタだ」
「名前を略すの?」
「まぁ、愛称みたいなもんだよ。ミリィ略してミリリっちょ、みたいなもんだ」
「それ略してないょ!? むしろ長くなってる!」
くつくつと笑うてんとうむしさん。
こういう時のてんとうむしさんは、本当に無邪気な表情を見せる。
年上なのに子供っぽくて、ちょっと可愛くて、割と……好き、かも。
「で、サンタは一年に一度、クリスマスの日に街へやって来るんだ。一年間いい子にしていたガキどもにプレゼントを配るためにな」
「配達、かな?」
「いや、違うんだミリィ。もうちょっと、こう……ファンタジー的な、夢と希望的なニュアンスでだな――」
てんとうむしさんが困った表情を見せる。
どうしよう、みりぃちょっと頭の弱い子だと思われてる?
でも、よく分からないんだもん。
「いい子にしていたご褒美にプレゼントを持ってきてくれるいい爺さんなんだよ」
「凄いお爺さんなんだね」
「だから、ミリィもいい子にしているとサンタさんにプレゼントをもらえるかもしれないぞ」
「みりぃ、子供じゃないょ!?」
「うんうん。ミリィは『おねえさん』だもんな」
「それ、子供に言うと喜ぶやつ!」
むぅ!
てんとうむしさんはたまにちょっといじわるだ。
けど、子供みたいに無邪気に笑ってるから……うぅ、あんまり強く怒れないよぅ。
「俺の故郷のガキどもは、サンタにプレゼントをもらうために一年間いい子でいようって頑張るんだよ。……まぁ、一週間前くらいから慌てていい子になるクソガキもちらほらいるけどな」
子供たちの行いをちゃんと見て、サンタさんはやって来る。
頑張った子供たちにご褒美をあげるために。
なんだかそれって、凄く素敵かも。
「てんとうむしさんの故郷には、凄い人がいるんだね」
「いや『いる』っていうか……『いると言われている』、みたいな?」
てんとうむしさんが視線を逃がした。
なんだか、聞いちゃいけないこと聞いちゃった、かな?
でも、これで分かった。
てんとうむしさんが赤い服を着て子供たちにプレゼントを配っていた理由。
この街にはいないサンタさんの代わりを、てんとうむしさんがしてあげようとしたんだね。
きっと、自分が子供だった頃にサンタさんにしてもらったことが嬉しくて、それと同じ体験をこの街の子供たちにもって。
うん。
てんとうむしさん、やっぱり優しい。
みりぃはね、てんとうむしさんこそ、サンタさんにプレゼントをもらうべきだと思うよ。
でも、この街にはサンタさんはいないから……あ、そうか。
いないなら、みりぃがサンタさんの代わりをしてあげればいいんだ。
それで、てんとうむしさんにプレゼントをあげる。
この一年、誰よりも頑張って、優しくて、いい子にしていたてんとうむしさんに。
そのためには、うんっ、情報収集だ。
「ねぇ、てんとうむしさん。どうしてサンタさんは赤い服を着てる、の?」
「諸説あるんだが、有名なのはとある清涼飲料メーカーの販売戦略の影響で――」
てんとうむしさんが話してくれたのは商品カラーの戦略的刷り込みとか、冬場に急落する清涼飲料水の売上回復の奇策とか、ちょっと難しいお話。
みりぃ、ちょっとよく分からない。
みりぃの頭の上に無数の『?』マークを見たのか、てんとうむしさんが我に返ったようにはっと息を呑み、ちょっと困ったような顔で肩をすくめた。
「あぁ、まぁ……あれだ。赤は温かそうな色だからな」
てんとうむしさんの故郷では、クリスマスは雪が降るような寒い季節にするんだって。時期は四十二区と同じくらいらしいんだけど。
豪雪期が長いのかな?
「サンタさんの担いでる白い袋には何が入ってる、の?」
「これか? この中には、夢と希望が詰まっているんだ」
「愛と、勇気?」
「そう考えると、サンタの袋はおっぱいと一緒だな」
「違ぅと思う! たぶんだけど、違うはずだょね!?」
うぅ、でもみりぃも詳しく知らないから強く反論は出来ない……
「この中にはプレゼントが入ってるんだよ」
そういえば、てんとうむしさんがサンタさんの格好をしていた時、白い袋からプレゼントを取り出して配ってたっけ。
袋にプレゼント……
その時、みりぃは楽しかったハロウィンのことを思い出したの。
袋にたくさん詰まったプレゼント。
きっと、ハロウィンの時のお菓子みたいに、いろんなものがいっぱい詰まった袋っていうのは幸せの宝箱みたいなものなんだと思う。
一番頑張ったてんとうむしさんには、袋から取り出したプレゼントじゃなくて、プレゼントがたくさん詰まった袋をプレゼントしたい。
うん。それがいい。
てんとうむしさんと仲がいいみんなから一つずつプレゼントをもらって、それを大きな袋に詰めてプレゼントするの。
わぁ、なんだか楽しそう。
これは絶対みりぃがやらなきゃ。
だってみりぃは、たくさんのものを一つにまとめる才能があるって、てんとうむしさんに言ってもらったから。
これは、腕の見せ所だと思ぅの!
「てんとうむしさん。プレゼントを渡す時には、何かルールがあるの?」
「靴下に入れておくんだよ」
「……くつした、に?」
どうして靴下に入れるんだろう?
そんなに大きな物は入らないし、それに……大丈夫だと思うけど、汚れていたりちょっと臭ったり……しない、かな?
みりぃのは、ちゃんと洗ってるからたぶん、おそらく、大丈夫だとは思う、けど、それでも……靴下の中に入っているのは、ちょっといや……かも。
「どうして靴下に入れる、の?」
「……それは、ヤシロが無類の足フェチだから。芳しい香りはご褒美」
「突然現れて謂れのない性癖を押しつけないでくれるか、マグダ」
背後から現れたマグダちゃんに、ちょっとだけ驚いた様子を見せたてんとうむしさん。
……てんとうむしさん、靴下の臭い、好き……なの?
……うん。
手渡しにする。
普通が一番だと、みりぃは思うんだ。うん。
☆☆ノーマ☆☆
この街は、一年を通してさほど気温の変化はない。
それでも、ここ数日で朝晩は寒くなったと感じる。
工房の外に出て見上げた空はキンと張りつめたように澄んでいて、吐き出す息が微かに白く色づいて空気に紛れて消えてっちまった。
「今日は、ちょっと寒くなりそうさね」
軽く羽織れる物でも引っ張り出してこようかと考えていると、アタシのもとへ可愛らしいお客さんがやって来た。
「のーまさん、こんにちゎ」
「こんにちわ、ミリィ。今日は何か用なんかぃ?」
ウチの男衆がしょっちゅう生花ギルドに花を注文してるから、ミリィはよくここへやって来る。
けど、今日は配達ではなさそうさね。いつもの大きなカゴを持っちゃいない。
買い物に来た……って、わけでもなさそうだねぇ。
「ぁの、ね、のーまさん」
何か頼みごとがある時や相談を持ちかける時、ミリィはこうして可愛らしい上目遣いでアタシを見てくる。
アタシはどんなことだろうと受け止めてやろうと、聞く態勢をとる。
「のーまさんの靴下って、匂い、する?」
「ミリィ。ここに来る前に薬屋と陽だまり亭のどっちに行ったんさね?」
「ぅぁ……陽だまり亭、だけ、ど?」
ヤシロか……
まったく!
あいつはミリィになんの話をしたんさね!
ミリィがこうしておかしなことを口走る時は、大体『あいつ』か『アイツ』のどっちかが絡んでいるんさよ。もう分かりきってるんさよ。
「違ぅの。ぁのね……自分の判断で正しいと思う方を選択しようとしたんだけど、ね、でも、ちゃんと本場のルールに従った方がいぃんじゃないかなって、ちょっと思ったの、ね。だから、ね……ぁの、ね…………」
なにやらうんうんと悩んで言葉を並べていたミリィが、困ったように瞳をウルウルさせてアタシを見上げてくる。
「ノーマさんの靴下に入ったプレゼントって、ご褒美に、なるかな?」
「ミリィが正しいと思う方を選択おし。絶っっっ対そっちが正しいさよ」
なんで靴下に入れたものがご褒美になるんさね?
いや、まぁ……ヤシロの言う『ご褒美』は、ちょぃと意味合いが異なるからねぇ…………
ご褒美になるかどうかと言われれば……なる、かもしれないんだけれどさ。
「じゃあ、手渡しが、いぃ……ょね?」
「そりゃそうさね。プレゼントっていうのは、きちんと向かい合って手で渡すのが一番さよ」
「ょかったぁ。みりぃね、ちょっと自分に自信が持てなくなってたの」
ミリィの常識を揺るがすんじゃないさよ!
まったく。あとで文句を言いに行ってやらなきゃならないようさね。
そうさね、お昼時は混むだろうから、その後のティータイムにでも会いに行くさね。……るんるん。
「のーまさん? なんだか楽しそう」
「そ、そんなことないさね!」
クレームを入れに行くのに楽しみなわけないんさよ。
ただまぁ、社会人として、ちょこっとくらい粧し込んでいくつもりではいるけどさ。
「そ、それでね、実は、ぉ願いがぁるん、だけど……聞いて、くれ、る?」
「ん?」
ミリィに聞かされたのは、サンタクロースっていうお爺さんの話。
ミリィが言うには、一年間いい子にしていた子供たちにプレゼントを配り歩く気のいい爺さんなんだそうな。
世の中には奇特な金持ちがいるもんさねぇ。
「あぁ、それでヤシロが赤い服を着て子供らにプレゼント配ってたんさね」
「ぅん。それで、ね、今年はみりぃたちがてんとうむしさんにプレゼントあげられないかな、って」
「ミリィたちって……アタシもかぃ?」
「ぅん。……協力、してくれる?」
ミリィの遠慮がちな上目遣い。
こんなもんを見せられちゃ、断ろうにも断れないさね。
「分かったさよ。なんか適当な物をプレゼントとして用意するさね」
まぁ、ヤシロには世話になってるからねぇ。
プレゼントくらい、どうってことないさね。
「ぁりがとう、のーまさん。でも、そんなに手の込んだものじゃなくていぃから、ね?」
「くふふ。ヤシロ相手に気合い入れるのも変な話さね。お手軽な物にするさよ」
お手軽に……
「そうさね。手軽に羽織れる手編みのカーディガンにでもするかぃね」
「物凄く手が込んでないかな、それ!?」
なぁに、編み物なんて二~三週間もあればちょちょいと終わるさね。
最近は朝夕が寒いからねぇ。
寝起きのヤシロがベッドから出た後、寒さに身を震わせてアタシのあげたカーディガンを引っ張り出して羽織るんさよ。
アタシのカーディガンにくるまって震える寝ぼけ眼のヤシロか……くふふ。可愛いじゃないかさ。
「マフラーと手袋も編むさね」
「のーまさん、頑張り過ぎだょ、それは!?」
なぁに。マフラーと手袋なんか二~三週間もあればちょちょいと出来るさね
それに、人は一日の三分の一は寝て過ごしてるんだ。三分の一が睡眠、三分の一が仕事、三分の一が自由時間。すなわち、寝なければ一日の三分の二が自由時間になるんさね。時間なんていくらでも作れるんさよ。
「ニットの帽子と靴下も……」
「のーまさん、落ち着いて! 夜はちゃんと寝なきゃダメ、だょ!?」
睡眠は十分とれているつもりなんだけどねぇ。
あぁ、でもそうかぃ。みんなでプレゼントって話だったっけねぇ。
一人だけ豪華なプレゼントになっちまったら、いかにも「張り切ってる」って思われちまうかもしれないさねぇ。そんなに必死になって……どんだけヤシロのこと好…………
「ふなぁぁあああ!」
「ほにゃ!? ど、どうしたの、のーまさん!?」
「なんでもないさね」
「なんでもなくないと思うっ」
「気にしないでおくれな」
「うぅ、気になる、ょぅ……」
そうさね。
足並みをそろえるのは大切さね。
ミリィのプレゼントを聞いて、それに規模を合わせれば問題ないだろう。
「ミリィは、何をプレゼントするつもりなんだぃ?」
「ぅんっとね……森におっきな松ぼっくりがあったから、それでリースでも作ろうかなって」
「あぁ、クリスマスの飾りだね」
「ぅん。綺麗な赤い実もあるから、可愛く出来ると思ぅんだ」
なんともミリィらしいプレゼントさね。
そんじゃ、アタシもカーディガン程度にしておこうかね。
「てんとうむしさんにね……ぇへへ……みりぃのお仕事のこと、もっと知ってほしいなって」
「……お仕事?」
「ぅん! 今日ね、『ミリィはブーケを作る才能がある』って褒めてもらったの……ぇへへ。お仕事のことで褒めてもらえるの、すっごく、嬉しい、ょね」
仕事のことで褒められる……
『やっぱ、ノーマの打った鉄は一味違うなぁ』
……ぞくぞく!
「アタシ、鎖帷子を手編みするさね!」
「ぇっ!? あれって編み物に分類されるの!?」
「ウチの母さんがよく夜なべして鎖帷子編んでくれたさね」
「手袋じゃなくて!?」
うん。そうさね!
アタシは金物ギルドの女。
自分の最も得意な部分を認めてもらえる、そんなプレゼントにした方がいいに決まってるさね。
他の誰にも真似の出来ないような、アタシにしか出来ない最高のプレゼントをするんさよ!
そんな意気込みに拳を握った時――
「ノーマぁ~」
デリアがやって来たさね。
「腹減ったぁ~なんか食わせてくれ~」
「なんでさね」
アタシはあんたの母親じゃないんさよ。
「違うんだよぉ。オメロのヤツがさぁ、仕事中の不注意で怪我してさぁ。治療代をあたいが出してやったんだよ」
「でりあさん、優しいっ」
「金の貸し借りはご法度なんじゃなかったんかぃ?」
「貸してねぇよぉ。やったんだよ。……でも、そのせいでお金がなくてさぁ……」
面倒見のいい女だとは思っていたけど、身銭を切って仕事仲間を助けるとは見上げた根性さね。
そういう理由なら、いくらでもご馳走してやるさね。
どっちみち、一人分作るのも二人分作るのも変わらないからねぇ。
「ぁ、そうだ! でりあさんにもお願い、して、ぃ~い?」
「ん? なんだ?」
ミリィが手を合わせてデリアを見上げる。
アタシん時より砕けた口調に甘えるような表情。
……あれ?
ミリィ?
デリアより、アタシとの方が仲良しだよね?
ねぇ?
……ねぇ?
☆☆デリア☆☆
金がないからノーマに飯を食わせてもらおうと思ったら、ミリィにお願いをされた。
あたいとしては、親友の頼みを無視するつもりはない。
なんだって聞いてやるぞ。
「なんでも言っていいぞ。ミリィは親友だからな。なんだって聞いてやるよ」
「アタシも親友さね!」
「……なにムキになってんだよ、ノーマ?」
「………………なってないさね」
ぷいっとそっぽを向くノーマ。
ミリィがあたいとノーマの間で困った顔を右往左往させている。
「みりぃ、のーまさんもでりあさんも同じくらい好き、だょ?」
「へ? あたいの方が好きだよな?」
「ぅへぃ? ぁ、ぁの……ぉ、ぉなじ、くらい」
「え~? だって、ノーマ説教くさくないかぁ?」
「それはあんたが怒られるようなことばっかりしてるからさね!」
「この前家に行ったら留守でさ、勝手に上がって昼寝してたんだよ。そしたら怒るんだぜぇ?」
「当たり前さね! びっくりしたさよ、家に帰ったらでっかい女が土間に倒れててピクリとも動かないんだからさぁ!」
「あたい、寝相いいんだよなぁ。だから動かなかったんだと思うぞ」
「寝相がいい人間は居間から土間まで転がっていったりしないさね!」
「でりあさん……風邪、ひぃちゃう、ょ?」
そうだなぁ。
母ちゃんが生きてた時もよく言われたっけ、『毎朝お前を探すのが大変だ』って。
けど、『死んだようによく眠ってる』とかも言われんだよなぁ…………え? もしかして死人って歩くのか?
うわ、怖ぇ。
「ノーマ……怖くね?」
「怖いのはあんたさよ……」
額を押さえてため息を吐くノーマ。
ノーマはよくこういう顔をする。眉間のしわ、そのうち取れなくなるんじゃないかなぁ。
「で、あたいにお願いってなんだ?」
「ぅん。ぁのね――」
ミリィのお願いってのは、ヤシロに何かプレゼントをあげてほしいってことだった。
もうすぐクリスマスだから、ミリィがナントカって爺さんの真似してプレゼントを渡したいんだって。
そのプレゼントの中にあたいのプレゼントも混ぜたいんだとか。
「そりゃあいいけど……その『ナントカ・ナントカ』って、誰だ?」
「一文字も覚えられなかったんかぃね……」
「サンタクロース、だょ」
「さん……ご、苦労、さん?」
「労われたさね」
「あぁ、それで『ご苦労さん!』ってプレゼント渡すのか」
「ぁのね、そんなルールはなぃ、……はず、だょ?」
よく分からないけど、ミリィもノーマもヤシロにプレゼントを渡すらしい。
じゃあ、あたいも何かいい物を買って…………
「あぁっ!?」
「ど、どうしたんさね、急にデカい声を出して」
「あたい、お金ない!」
「なんだ、そんなことかぃね……」
そんなことって言うけどさぁ、お金がなきゃ何も買えねぇじゃねぇかよぉ。
「どーすっかなぁ……あ、そうだ! ヤシロに頼んで陽だまり亭でバイトしよう!」
「ちょいと待ちな!」
「んだよぉ?」
「なんて言ってバイトさせてもらうつもりさね?」
「ん? 『ヤシロにプレゼント買うからお金が欲しいんだ』って」
「ぁ、ぁの、ね、でりあさん。このプレゼントのことは、当日までてんとうむしさんにはナイショ、ね?」
「なんだ、内緒なのか。分かった。じゃあ『ヤシロに内緒のプレゼント買うからお金が欲しいんだ』って言って頼む!」
「アホかぃ!?」
「アホじゃない!」
「その自信満々感がアホっぽいさよ!」
ノーマが怒るぅ。
なんなんだよぉ。ちゃんと『内緒の』って付けたのになぁ。
「ぉ金がないなら、手作りしてみたらどう、かな? みりぃものーまさんも、手作りするつもりだし。ね? でりあさんもそうしよぅよ」
「手作りかぁ……う~ん」
「デリア。あんたが一番得意なものは何さね?」
「鮭だ!」
「……『手作り出来そうな物で』さよ」
手作り出来そうな物かぁ……
「……足漕ぎ水車?」
「あんたにゃ絶対作れないさよ」
「作れても、てんとうむしさん、欲しくない、かも……?」
プレゼントって難しいなぁ……
「ノーマは何作るんだ?」
「アタシは編み物をする予定さね」
「ぇっと……編み物、かな、あれ?」
編み物かぁ。
たま~に店長がやってるのを見るけど……
「簡単そうだよな、あれ」
「デリアには絶対出来ないさね」
なんでだよぉ?
出来るかもしれないだろう?
「よし! あたいもノーマと一緒に編み物する! ノーマに教わりながら!」
「えぇ……物凄く大変そうさね……」
「編み物をするなら、何を編みたぃ、でりあさん?」
何を?
そうだなぁ……
「鮭?」
「手編みの鮭は編んだことないから教えられそうもないさね」
そっかぁ……
「てんとうむしさんが喜びそうな物にしてみたら、どう、かな?」
「ヤシロが……」
自然と、視線が胸に向く。
「自分の職業に関係する物に限定するさね! そうさね、それがいいさね!」
急にデカい声を出した後で「はぁ……」とため息を吐くノーマ。
なんか、「しょうのない娘だねぇ」みたいな目で見られている。
けど、そうか、仕事に関係する物か。
「じゃあ、釣竿をと魚籠を作るかな。それならあたい得意だし」
「そうさね。竿があれば、ヤシロも釣りに出かけるかもしれないしねぇ」
「そうか! じゃあ、あたいが穴場を教えてやるよ!」
それで、一緒に釣りするんだ!
うん! それはいい案だ!
そうしよう!
「それじゃあ、みりぃは他の人のところにお願いしに行ってくる、ね」
「待てミリィ。一人じゃ不安だから、あたいがついてってやるよ」
「あんたがついていくことで一気に不安が増したさね……アタシも同行するさよ」
「ノーマ」
「なんさね?」
「親友同士だけで大丈夫だぞ?」
「アタシもおんなじくらい仲いいんさよ!」
寂しがりのノーマがついてくるって言い張って、あたいらは三人で街へと繰り出した。
☆☆レジーナ☆☆
「へ? おっぱい魔神はんへのプレゼント?」
昼前に、珍しいお客はんがぎょーさんで押しかけてきはった。
狭い店がぎゅーぎゅーや。いや、むっぎゅむっぎゅや。
「むっぎゅむっぎゅやな」
「どこ見て言ってんさね!?」
「おっぱいや!」
「胸張るんじゃないさね!」
煙管で額をこつーんと突いて、大きくはだけた胸元を覆い隠すキツネの鍛冶師はん。
そんな見せびらかされたら見てまうっちゅうねん。
「ぁのね、れじーなさん」
可愛らしい顔で事の成り行きを説明するミリィちゃん。
……ん?
なんや?
ウチが人の名前普通に呼んだら変か? 変なんかいな?
しゃーないなぁ。
「大体の趣旨は理解したわ、幼女エロスはん」
「みりぃ、そんな要素は持ち合わせてないょ!?」
いやいや。
こーゆー大人しそうな娘ほど、乱れた時に…………はぁはぁ。
「だから、レジーナんとこは最後にしようって言ったんさね」
「けどよぉ、こいつ夜になるとさらに手が付けられなくなるから厄介だってヤシロが言ってたぞ?」
「…………確かに、その通りさね」
「日中なら、半分以上死にかかっててちょうどいいって」
なんや、酷い言われようやなぁ。
そんな戯言を吹聴しとるんかいな、あのおっぱい魔神はんは……
「ほんで、ウチがそのおっぱい魔神はんになんかプレゼントしたらえぇんかいな?」
「ぅん。お願いできる、かな?」
「まぁ、かまへんよ。いつも世話に――いや、『お世話(意味深)』になっとるさかいにな」
「ミリィ。耳をふさぎな! 腐り落ちちまうよ!」
ミリィちゃんが「ぴぃ!」って泣きながら耳をふさぐ。
……あかん。あまりに可愛過ぎて、ちょっときゅんとしてもぅた。
こんな可愛らしい友人にお願いされたら、断られへんわぁ。
よっしゃ! ウチが一肌脱いだろ!
「よっしゃ! ウチが全裸になったろ!」
「一肌脱ぐ程度にとどめておくんさよ!」
アカン。ちょこ~っとだけ間違えてもぅた。てへっ☆
「ウチのプレゼントは、まぁ、これしかないわな」
言いながら、赤いリボンを取り出す。
「そのリボンがプレゼントなんかぃ?」
リボンを見つめるキツネの鍛冶師はん。
クマの漁師はんも興味津々にリボンを見つめる。
「このリボンは、あくまでラッピング用や。これを、こうして……」
赤いリボンを自分の首に巻き付けて、綺麗な蝶々結びにする。
そして、おもむろに服を脱ぎ――
「一肌脱ぐ程度にとどめておけって、言ってんさよ……っ!」
「痛い痛い痛いっ! 煙管でコメカミぐりぐりはやめてんか」
プレゼントの王道、『プレゼントはワ・タ・シ☆』をやろうとして、全力で止められてもぅた。
なんやのんな。洒落やのに……
「ぁのね、みんなでね、自分の仕事に関係する物にしよぅって決めたんだ」
「仕事に関係する物、かいな?」
「ぅん。ぉ仕事のこと、理解してもらえると嬉しぃ、……ょね?」
なるほどなぁ。
この三人なら……いや、この街の、あのおっぱい魔神はんの知人らぁやったら、そうなんかもしれへんな。
自分を知ってもらいたい。
誇りを持っている自分の仕事のことを知ってもらいたい。
そんな風に思ぅんは。
……まぁ、ウチかて、あん御人に理解してもらえて舞い上がってもぅたこともあったさかいに、気持ちは分かるわ。
「ほなら、この秘伝の薬『男のプライド復活! 超絶ギンギn――』」
「没収さね!」
あぁー!
在庫が極わずかな貴重品がー!
「しゃーない。ほならこの『聖女をも娼婦に変え――』」
「没収さね! あと一回でデリアの『こつん』をお見舞いするさよ?」
はたして、あのクマの漁師はんが『こつん』なんて可愛らしい音を鳴らせるのか否か…………否、やな。
「ほなら、銀の皿でも贈ったろぅかな」
「銀の、ぉ皿?」
「せや。銀の食器はな、毒物に反応して変色するんや。……ほら、あん御人、いつ毒殺されてもおかしない生き方してはるやろ?」
「ぅ、ゃ、ぁの……そんなこと、ない……ょね?」
「いやいや。きっとそのうち……『酷いっ、私だけだって言ったのにっ! この裏切り者ぉー!(グサー!)』……ってな具合に」
「毒殺じゃないさね、それ……」
まぁ、楯にもなるかもしれへんしな、銀やったら。
「せや、どうせプレゼント渡すんやったら、衣装にもこだわった方がえぇんとちゃうか?」
「ぃ、しょう?」
「せや。お三人さんで可愛らし~ぃ衣装、作って貰ぅたら、えぇんとちゃうか?」
ウチがナイスな提案をしてにっこり微笑むと、三人そろって顔が引きつってもぅた。
なんやのんな、折角の人の好意を。失礼やなぁ~。
☆☆エステラ☆☆
「やぁ、よく来たね……って、なんでそんなに疲れてるのさ?」
ボクは、珍しくボクを訪ねてきた三人に目を向ける。
三人とも――特にノーマとデリアが疲れた様子で肩を落としている。
「ぁの、ね……ここに来る前にウクリネスさんのお店に行ったんだけど……そこで……」
「あちゃ~……どうしてこんな時期にウクリネスの店に行ったりしたのさ」
もうすぐ……と言ってもあと一ヶ月近くあるのだけれど……クリスマスだ。
ヤシロが持ち込んで、すっかりと定着してしまった年の瀬の楽しい行事。
そんな日を、あのウクリネスが見過ごすわけがない。
今年も盛大に張り切ってクリスマスコスチュームを作っているともっぱらの噂だ。
……ウクリネスって、女の子を着飾らせることに関してはヤシロに通ずる異常性がチラ見えしてるんだよね……ちょっと注意した方がいいのかもしれないな、そろそろ。
「それで、体中のサイズを測られでもしたのかい?」
「サイズだけじゃないさね……」
「肌ざわりって言って、全身べたべたと……」
「特に、でりあさんの腹筋には、ご執心だった、ね……」
あははと、苦笑いを浮かべていられるミリィは被害が少なかったようだ。
ウクリネスも、やっていい相手とそうじゃない相手を分けているらしい。
……基本、やっちゃいけない方にカテゴライズしておいてほしいんだけどね。
「それで、今日はどういった用件で?」
「ぅん。ぁのね!」
嬉しそうに語るみりぃの話によれば、日頃お世話になっているヤシロにみんなでプレゼントを贈ろうと、そういうことらしい。
……ボクの方がお世話しているんだから、ヤシロはボクにこそプレゼントを贈るべきだと思うのだけれど。
「そんでな。一個ルールがあるんだ」
「ルール?」
デリアが得気に指を立てて説明する。
「自分の仕事に関する物をプレゼントするんだぞ」
「仕事に関する物……?」
「この二人がね、『自分の仕事を理解してくれると嬉しいから』ってね」
と、自分の仕事を理解されると一番大喜びしそうなノーマが「困ったもんさね」みたいな顔で言う。絶対ノーマが一番喜ぶと思うけど。うん、絶対に。
「それは面白い試みですね」
ミリィたちにお茶を出していたナタリアが、ティーポットを片手に涼しい顔で言う。
「仕事に関する物、ということでしたら、私は紅茶でしょうか?」
「ぁ、でも、みんな手作りするって……」
「では、私のオリジナルブレンド紅茶を作りましょう」
「ゎあ、素敵。みりぃも飲んでみたいなぁ」
「いいですよ。私の紅茶を飲んだミリィさんをぺろぺろさせてくださるならば」
「……ゃ、ゃっぱり、いぃ、かな」
「涼しい顔で取り返しのつかないゾーンに踏み込まないように。戻っておいで、ナタリア」
ミリィをドン引きさせてもなお涼しい顔のナタリア。
どうか、アレが通常仕様になっていませんように。珍しく訪ねてきた友人にちょっとはしゃいじゃっているだけでありますように……
「けど、仕事に関する物となると……ボクは難しいなぁ」
「エステラ様は領主ですから、アレがありますよ」
「ん? なに?」
「土地です」
「重いよ、ナタリア……」
クリスマスに土地をプレゼントされたヤシロの重苦しい顔が容易に想像出来るよ。
あと、気分次第で気軽にあげられる土地とかないから。
「では、税収――」
「お金はもっとない!」
ある意味、ヤシロが一番喜びそうだけども!
ヤだよ。ロマンチックなクリスマスの夜に現金をプレゼントする女。そんな女に、ボクはなりたくない。
「では、エステラ様が編み出した百八の豊胸体操の秘伝書を」
「それ領主の仕事じゃないから!」
「百八もあるのに効果あったのは一個もないのか?」
「うるさいよ、デリア!」
きしゃー!
きしゃー!
……ふぅ、思わず二度威嚇してしまった。
「他に、領主の仕事っていやぁ……各種手続きかぃねぇ」
「では、契約書をプレゼントしてみては?」
「もらっても嬉しくないでしょ、そんな物……」
「嬉しい書類だってあるじゃないですか。例えば……婚姻届け、とか?」
ざわり……
ナタリアの言葉に、室内になんとも言えない緊張感が走った。
ノーマたち三人の視線がボクに集中する。
「…………ない、から、……ね?」
なんとか声を絞り出す。
……いや、ないよ。ないない。
仮に、手作りってルールに則って記入済みの婚姻届けを作成したとして……
『これ、クリスマスプレゼントだから、ふ、深い意味とか、特にないから!』
いやぁー、無理あるわぁー!
深い意味しかないと言っても過言じゃないわー!
「……却下だよ。もちろんね」
「そうですか。では、出生届などはいかがでしょう?」
『ヤシロ……これ(出生届「ぴら」)』
「……ヤシロが倒れちゃいそうだよ」
「身に覚えがあろうがなかろうが、一度心臓が止まるでしょうね」
なんて悪趣味なプレゼントだろうか。
そんな物はあげられない。
「そうだ! 領主と言えばいつも身の危険にさらされる危険な職業――ということでナイフを」
「またナイフかよぉ。エステラはいっつもナイフだよなぁ」
「確かにナイフじゃあ、ちょっと、女として可愛げがないさねぇ」
「ぇ……のーまさんのプレゼントって…………ぅうん、なんでもなぃ……」
可愛げがないと言われても……
「じゃあ、どういうのが女の子らしい、可愛げのあるプレゼントなのさ?」
「そうですね。シルクか、フリルか、スケスケか――」
「パンツなんかあげられるわけないだろう!?」
ナタリアはもう引っ込んでて!
「首にリボンを巻いて『プレゼントはワ・タ・シ☆』というのは?」
「ぁの、なたりあさん……それ、れじーなさんと同じ発想……だょ?」
「まずいさね……アレが二つになると、いよいよ四十二区がやばいさよ」
「いや、もうとっくに同類だろ? ナタリアとレジーナはさぁ」
「失敬です」と怒るナタリア。
だがしかし、君はデリアの言葉を否定出来ないはずだ。
「そうだ。領主の紋章が入ったマントをプレゼントしよう。クリスマスの前には豪雪期が来るからね。防寒具なら使い道あるだろう」
「ぅんと……プレゼントするの、クリスマス、なんだけど、ね?」
「あ、そうか……けどまぁ、来年には使えるし」
「エステラ、あんた……割といい加減なところあるさよね?」
そんなことは、ないけれど……
けど、まぁ……
うん、黙っておこう。
「エステラ様は、さも今思いついたかのように口にされましたが、『ヤシロって防寒具、あんまり着ないんだよなぁ……いつも寒そうにしてるのに……風邪でも引かなきゃいいけど…………そうだ! ボクが防寒具をプレゼントしてあげればいいんだ。ボクからもらったんだからありがたく身に着けなさいって言えば、ヤシロはこっちの意図を汲んでいやいやな風を装ってでも着てくれるに違いない。……今年は、例年になく寒いから、心配なんだよね……』と、最初からマントをプレゼントするつもりだったのです」
「なんで君が知ってるのさ、ナタリア!?」
「エステラ様の寝室に忍び込んで身を潜めていたら、偶然耳に――」
「それのどこが偶然だぁー!」
主を主とも思わない給仕長にお灸を据えなければいけない。
いつ据えるの? 今でしょ!
「ぁ、ぁ~、じゃあ、みりぃたち、もう行く、ね?」
「あんたら、ほどほどにするんさよ」
「仲いいよなぁ、この二人は。ホント」
何か一言二言言い残して、ミリィたちが帰っていった。
が、今ボクは忙しいので見送りは諦めてもらうほかない。
「『こっそり、お揃いのマントにしちゃおうかなぁ~、くすっ』」
「ナタリアぁー!」
「わーエステラ様かーわーいーいー」
「その口、縫い付けてやるー!」
懸命に追いかけるが、ナタリアは……速かった。
☆☆ネフェリー☆☆
「へ? ヤシロへのプレゼント?」
鶏舎の掃除をしていると、ミリィがノーマとデリアを引き連れてやって来た。
なんでも、クリスマスにみんなでヤシロにプレゼントをしようって話らしい。
「そっかぁ。ミリィらしい考えだね。うん。いいよ。私も協力してあげる」
「ほんと? ぁりがとう、ねふぇりーさん」
弾けるような笑顔を見せるミリィに、私も笑顔を返す。
……少しだけの罪悪感を胸に秘めながら。
ごめん。ミリィ。
実を言うと、そもそもプレゼントするつもりはあったんだけど、変な意味にとられたらどうしようとか、二人っきりじゃなきゃ渡しにくいなぁとか、そもそも個人的にプレゼントとか恥ずかしいなぁとか、そんな感じで尻込みしてたところだから渡りに船的に利用させてもらおうって思ったのが本音なの!
ホントごめん!
「協力してあげる」とか、ちょっと上から物言っちゃって、ホントごめん!
「それでね、みんな自分の仕事に関係あるものにしようって、ぉ話してたの」
「ついでに、手作りにしようって話もしてたんさよ」
「仕事に関係あるもので手作り……」
まさに!
私がヤシロにプレゼントしようとしてた物に条件ピッタリじゃない!
よし。さりげなく、その話に乗っかったような顔で参加しよう。
「それじゃあ、ちょうど作ってみようかなぁ~って思ってた物があるから、それにしようかなぁ~、なんて」
「焼き鳥か?」
「なんでよ!? そんなの、クリスマスのプレゼントにするわけないじゃない!」
「でも、美味いぞ。鮭には負けるけど」
「はぁ? 負けてませんけど!?」
「じゃあ勝負だ!」
「望むところよ! デリアは鮭! 私は焼き鳥をクリスマスプレゼントに――しないよ!?」
危ない!
危なくムードもへったくれもない女の子になっちゃうところだった。
もう!
デリアはムードとかに無縁なんだから口を挟まないで!
「私、エッグキャンドルを作る」
「ぇっぐきゃんどる?」
「どんなもんさね?」
エッグキャンドルは、卵の殻に蝋を流し込んで作るキャンドルで、綺麗な色や香りを付けられるんだ。
卵型でカラフルでいい香りのする素敵なキャンドルなの。
うふふ。きっとヤシロにも気に入ってもらえると思うんだ~。
「エッグキャンドルはね、卵を使って作るキャンドルなんだよ」
「それは……食べられるのかい?」
「いや、ノーマ……キャンドル食べてどうするのよ?」
「分かった! 卵焼きに火をつけるんだな!」
「焦げる焦げる。焦げて燃え尽きるから、それ」
何も分かってないよ、デリア。
「まぁ、鳥じゃないなら鮭の勝ちだな」
デリア……本気で鮭をプレゼントするつもりなのかな?
え? 本気?
クリスマスだよ?
でもまぁ、デリアだし……あり得る、よね。
「イクラも、美味しいしな!」
「うん……そだね」
デリアとは結構長い付き合いだけど……
デリアがいつか、ちゃんとした女の子になれるといいな。って、願わずにはいられなかった。
☆☆パウラ☆☆
「え~! ヤシロにクリスマスプレゼント? やるやる! あたしも参加する!」
お昼過ぎ。
ちょうどお客さんが減って一段落した時間帯に、ミリィたちがやって来た。
あたしの友達には妙に甘々な父ちゃんがフレッシュジュースを無料でサービスする。
父ちゃんのサービスには「今後とも、娘と仲良くしてやってください」ってニュアンスが多分に含まれている。
まったく。
娘離れ出来ない父親なんだから。
「けど、そっかぁ。仕事に関係する物で手作り限定ねぇ……」
「別に、限定ってわけじゃ、なぃ、ょ?」
「そうさね。『パウラだけ』既製品でもかまわないさよ」
「むぅ! ……作るもん」
なんでかノーマはあたしにちょいちょい意地悪をする。
「ちょっかいかけると面白んさよ、あんたは」って前に言ってたけど……別に面白い反応なんかしてないんだけどなぁ……
「くふふ。尻尾が膨らんでるさね」
ノーマがあたしの尻尾を見てくつくつと笑う。
……えっち。
尻尾をさっと動かしてノーマとは反対側へ隠す。
そんな様もノーマには面白いらしく、一層可笑しそうに笑う。……もう。
「けど、ウチで手作り出来る物っていえば、ソーセージくらいしか……」
「あたいの鮭と勝負だ!」
「どこでも勝負を吹っかけるんじゃないさね!」
「ぁの、でりあさん? プレゼントする物、忘れてない……ょね?」
ん?
デリアは鮭をプレゼントするんでしょ?
それ以外に考えられないし。
「ん」
父ちゃんがあたしの前にもカップを置く。
けど、中身は入っていない。
「あれ? あたしのジュースは?」
「はぁ……」
ため息つかれたんだけど!?
え、なに?
なんなの、そのダメな娘を見るような眼は?
「パウラが自分で提案したことだろう? ウチのオリジナルでこういう物を作りたいって。その第一号を彼にプレゼントすれば喜んでもらえるんじゃないのか? ……お前も、これなら気持ちを込めて作れるだろう」
『これ』と差し出されたのはさっきの空のカップ。
「あ、そっか」
これは、昨日あたしが提案したカンタルチカオリジナルカップだ。
今お店で使っているカップは樽型のジョッキと、金属製のカップがメイン。
あたしが欲しいって言ってるのは陶器のカップだ。それも、カンタルチカの紋章入りのオリジナルカップ。
セロンさんに聞いたら、焼き印の容量で金型を作っておけばすべてのカップに紋章を入れるのは簡単だって。
そっか。
そのオリジナルカップを先にあたしが一つ手作りして、それをヤシロに……
「うん、それいいね! さすがあたしの父ちゃんだね!」
「ふふふん」
のっしのっしと、ちょっと太り過ぎな体を揺らしてカウンターへ戻っていく。
尻尾は嬉しそうにパタパタ揺れている。
父ちゃんの尻尾は、あたしのより小さくてぴるぴるしてて、ちょっと可愛いと思う。
……って。
「どうしたの、みんな? 黙っちゃって」
「いや……あんなに長くしゃべったマスター、初めて見たさね」
「しゃべれるんだな、お前の父ちゃん」
「当たり前じゃない!」
デリアはウチの父ちゃんをなんだと思ってるの。もう。
ノーマも驚き過ぎ。
そういうこと言わないのはみりぃだけだよね。
……と、ミリィに視線を向けると。
「…………」
目を真ん丸にして父ちゃんの後ろ姿を見つめてた。
……ミリィ。あんたもなの?
父ちゃん、女の子と話するの苦手だからなぁ……
ウーマロさんも、きっと将来あぁなるんだろうなぁ。
そんなことを考えつつ、この後セロンさんのところに行って焼き物を教えてもらおうって、あたしは考えていた。
☆☆イメルダ☆☆
「イメルダ。木でなんか作れ」
「雑じゃありませんこと!?」
ワタクシを訪ねていらしたのはミリィさんにノーマさん、そしてデリアさんでした。
応接間に通して間もなく、デリアさんが腕組みをしたままぶっきらぼうに言い放った言葉が、先ほどのアレですわ。
なんでも、「いろんなヤツに説明し過ぎて、もう飽きた」だとか……
ワタクシの知ったことではありませんわ、それは。なんたる横暴。
「ヤシロさんに認められる仕事関連の物を手作りで……となりますと、少々難しいですわね」
「ぁの、なんか内容がちょこっと変わっちゃって……なぃ、かな?」
手作りの物をヤシロさんに認めさせる。
それはかなりハードルが高いように思えましたわ。
ですが!
「よろしいでしょう! このイメルダ・ハビエルに不可能はございませんわ!」
「夜中に一人でトイレに行けない女が、なに言ってんさね……」
「ノーマさんのお宅のお手洗いは殊更怖いので仕方のないことですわ!」
我が家のトイレであれば、一人でも行けますわ! ……その気になれば。
まぁ、いまだその気になったことがないので、夜間は給仕に共をさせておりますけれども。
ほら、婦女子が夜道を一人で歩くなど、危険ですし。それがたとえ室内であったとしても!
「ちょうどよろしいですわ。ワタクシ、最近、手芸を趣味にしておりますの。その作品をプレゼントといたしますわ」
「イメルダが手芸……ホントさね?」
「ワタクシは、嘘など吐きませんわ」
「え、でも、この前河原でくしゃみした時、鼻から鼻水『びゅーん!』って飛び出したのに『天使の涙ですわ』って嘘吐いてたよな?」
「アレは嘘ではなく慎みですわ!」
まったく、デリアさんには女子としての慎みが少々不足しておりますわ。
「めっちゃ飛んだなぁ!」じゃありませんのよ!
そういう時は見て見ぬふりをして肌触りの優しい布をそっと差し出すのがマナーですわ!
「いめるださん。手芸って、どんなの作ってる、の?」
「手斧ですわ」
「て……ぉの?」
「えぇ。最近は精度が上がって、そろそろ実用に耐え得る手斧が作れそうですのよ」
「ぇ……っと、…………手芸?」
「手先で物を作っているのですから、これも立派な手芸ですわ」
ミリィさんが困ったような顔をされていますが、誰がなんと言おうと手斧製作は手芸ですわ。
「まったく。そんな武骨なもんを女子っぽい趣味みたいな呼び名で呼ぶんじゃないさよ……」
「ぃや、だから、のーまさんの編み物も…………ぅぅん、なんでも、なぃ」
ノーマさんへの苦言を途中で飲み込んでしまったミリィさん。
言って差し上げればよろしいのに。ノーマさん、ご自分の残念さを理解出来てない節が所々で見受けられますもの。
自覚というのは大切ですわよ。
「ご自分の残念さ加減をご自覚なさいまし」
「あんたにだけは言われたくないさよ。あんたとナタリアとレジーナだけには」
割とおられるではないですか。
……というか、その二人と同じくくりで語られるのは心外ですわ。
「分かりましたわ。女の子らしい手斧にいたしますわ」
「ぁの、いめるださん…………ぅぅん、なんでも、なぃ」
ミリィさんが何かを言いかけてやめました。
取るに足らないことだったのでしょう。
「完成を心待ちにしていてくださいまし」
「ぅん……じゃあ、出来たら連絡して、ね?」
三人を見送り、ワタクシはさっそく設計にかかりました。
いかにエレガントで、いかに可愛く、そしていかに殺傷力を持たせるか……腕の見せ所ですわ。
☆☆ジネット☆☆
「では、わたしたちはお料理をプレゼントしますね」
ミリィさんがこっそりと陽だまり亭へ訪れ、ヤシロさんの目を盗むようにわたしを呼び出しました。
庭に出てみれば、ノーマさんに呼び出されたロレッタさん、デリアさんに呼び出されたマグダさんがいました。
そして、そこでクリスマスの素敵なサプライズ計画の概要を聞かせてもらったのです。
ふふ。
ミリィさんらしい、可愛らしい計画でした。
「じねっとさんたちは、普段どぉり、ってこと、だね?」
「はい。その方がいいかと思います」
「そうさね。この三人がこそこそしてりゃ、さすがにヤシロが何か勘付くだろうしね」
「特にロレッタが尻尾出すだろうな」
「なんでですか、デリアさん!? あたし、尻尾なんか出さないですよ!」
「……と言っている声が大きい。ロレッタには隠し事は不可能」
「はぅ!? こ、これは……ついうっかり、です」
「その『うっかり』が怖いんさよ……」
ノーマさんの言葉に「はうぅ……!」ともだえるロレッタさんが可愛らしくて、思わず笑ってしまいました。ごめんなさいです。ふふ。
「シスターは教会の子供らの分と一緒にヤシロの分もプレゼントを渡すって言ってたんだよなぁ」
「シスターにとってはヤシロさんも『子供たち』の一人ですから」
ちょうど、今朝その件でシスターに呼び出されていたんです。
ヤシロさんへのプレゼントは何がいいでしょうかと。
ヤシロさんなら、どんなものでも喜んでくださると思いますが、二人で何がいいかと頭を悩ませてきました。
結局、防寒具がいいのではないかという結論にたどり着き、シスターは何かしら編み物をするとおっしゃっていました。
わたしは耳当てをプレゼントすることにしようと思います。
……い、いえ。
お食事は同じ職場の者としてのプレゼントで、耳当ては……その…………日頃の感謝ということで、……個人的に………………ふ、深い意味はないんですけどね!
「あ、でもあたし、きっとお料理以外で別にもう一つプレゼントすることになるです」
「なんだよ、ロレッタ。一人だけいっぱいプレゼントして目立とうとしてんのか?」
「違うですよ。ウチの弟妹がお兄ちゃんにプレゼントしたいって言ってるです。けど、あの子たち全員から一個ずつもらうとお兄ちゃんの部屋埋め尽くされちゃうですから『ヒューイット姉弟から』ということでプレゼントを贈ることにしたです」
「それは素敵なことですね」
「……マグダも、個人的にプレゼントがある」
「マグダもかぃね?」
「……マグダはいっぱいプレゼントをあげて目立ちたいと思っている」
「あんたは正直で清々しいさね……で、何をあげる気なんだい?」
「……首にリボンを巻いて『プレゼントはワ・タ・シ☆』と――」
「その発想は今すぐ封印するさね! 手遅れになっても知らないさよ!?」
「そういや、マグダって結構こういうヤツだよな? そーゆー時、あんま名前挙がんないけど」
「マグダっちょはキャラで得してるです」
「まぐだちゃん、かわぃい、から、ね」
こそこそと、お店の陰で女の子たちだけの秘密の相談。
そんな会合がなんだかくすぐったくて、わたしはいつも以上ににこにこしていたと思います。
「では、わたしたちはお料理を担当して、プレゼントは個別で渡すことにしますね」
「そうしてもらった方がいいだろうね。ヤシロは勘が鋭いからねぇ」
「プレゼント計画には参加出来ませんが、その分、クリスマス当日は盛り上げるとお約束します」
腕によりをかけてクリスマスディナーを作ると、わたしとマグダさんとロレッタさんはミリィさんたちに誓いました。
美味しいご飯と楽しい時間は、一緒だと幸せが倍増しますから。
「それじゃあ、このことは、ないしょ、ね?」
「はい」
「ぬかるんじゃないさよ」
「……任せておくといい」
「気を付けろよ、特にロレッタ」
「名指しやめてです、デリアさん!?」
そうして、女の子だけの秘密の計画は動き出し――クリスマスがやって来ました。
★★ヤシロ★★
「「「メリークリスマス!」」」
クリスマスパーティの会場に、可愛らしい声が響き渡った。
パーティが始まって間もなくのことだった。
俺の前にはプレゼントが入っているのであろう大きな白い袋を握りしめたミリィと、その両サイドにノーマとデリアが並んで立っている。
「……早くないか、ミリィ? プレゼントのタイミングって、もうちょっと後の方じゃね?」
「はぅう……で、でも……早く渡さないと……この格好……」
あらわになった細い太ももをすりすりこすり合わせて、真っ赤な顔をしたミリィが俯いている。
会場に視線を巡らせれば、壁際でウクリネスが妙にキラッキラした顔で頷いている。
なるほど、ウクリネスの作品か。
今日のミリィは、超ミニスカートのサンタクロースになっていた。
際どいミニスカにひざ丈のロングブーツ。
肩には短いもふっもふのケープをかけている。
頭には当然真っ赤な三角帽子。帽子の上にてんとうむしの髪留めがくっついている。
「ぅ、うくりねすさんが、ね、『私のプレゼントは、この衣装を着たミリィちゃんたちです』……って」
「ありがとー、ウクリネス! お持ち帰りOK!?」
「だ、だめ、だょぅ!」
真っ赤な顔であわあわするミニスカサンタミリィ。
これだけでも十分に最高のクリスマスだと言えるのに、ウクリネスが仕込んだ『プレゼント』はサンタだけではなかった。
「なぁ……これって、本当にトナカイってやつなのか?」
「知らないさね……ウクリネスは妙にヤシロの思考に近しいから、おそらくその通りなんじゃないんかぃね?」
不服そうな言葉を漏らすデリアとノーマ。二人はその言葉の通りにトナカイのコスプレをしている。
トナカイをイメージさせる茶色い、ひじょ~~ぅにセクシーな衣装だ。
ふわふわのベロア素材を使ったミニスカへそ出しトナカイのデリア。
ミニスカの下にはきわっきわのホットパンツを穿いているので見えてもいいらしいのだが……茶色いスカートの裾からチラ見えする赤い布地は男心をくすぐります!
一方のノーマはシルクのような滑らかな生地でしつらえられたボディラインがくっきりと浮かぶロングドレス。
絶妙なスリットが、これまた男心をくすぐりますってば!
分かってる!
ウクリネス、お前分かってるよ!
「ウクリネス、ありがとー!」
「二回目、だょ、てんとうむしさん!」
衣装よりも真っ赤な顔をしてミリィが俺を見上げてくる。
手をかざせばほんのりと温かさを感じそうな赤い顔。きっと赤外線が出ているに違いない。
コタツにライバル認定されそうなぬくぬくミリィが、緊張した面持ちでプレゼント入りの白い袋を差し出してくる。
え、袋ごと?
中身を手渡してくれるんじゃないのか?
「ぁの、ね。みんなからのプレゼント、集めたの。お得な、バリューセット!」
バリューセット!?
こっちに来て初めて聞いた!
ハッピーセットもそのうちどっかでお目にかかれるかもー!?
……遊ぶなよ『強制翻訳魔法』
ないよな?
そーゆーセット売り商品、見たことないもん、こっちで!
ないよな!? なぁ!?
チョイスされた言葉はともかく、ミリィの気持ちは嬉しいものだ。
ありがたく頂戴しよう。
袋ごと受け取って、さっそく中身を確認させてもらう。
わくわくしながら袋に手を突っ込んで、最初のプレゼントを引っ張り出す。
出てきたのは鎖帷子。
わぁ~お。血なまぐさい。
「な、何事だ、これは?」
「あ、そ、それはさね、その……て、手編み、なんさよ」
恥ずかしそうに、そしてどこか誇らしそうに告げるノーマ。
そっかぁ、今日も振り切れてるんだなぁ、ノーマの残念メーターの針は。
手編みなのに温もりを感じねぇよ……
さて気を取り直して、次のプレゼントを引っ張り出す。
次いで出てきたのは、少女趣味な意匠を施した殺傷能力がとても高そうな手斧。
だから、血・な・ま・ぐさいっ☆
「え……俺、どっかの戦場に送られるの?」
「ほほほ、ご冗談を。それは普段使いの手斧ですわ」
「なぁ、イメルダ。俺、普段手斧を使うシチュエーションに出くわすことねぇーんだわ」
「手作りですのよ」
そのセリフ、ケーキか料理で聞きたかったよ。
この流れだと、あいつはいつものようにアレなんだろうな。
「で、エステラは例によってナイフか?」
「失敬な。ボクだってナイフ以外の品物を選ぶことくらいあるさ」
「エステラ様のプレゼントは、ワンポイント刺繍の入った布製品です」
「あぁ、パンツか」
「君たちの思考回路は同じ箇所で深刻なエラーが発生しているようだね!?」
パンツを探してみたが見つからず、代わりに出てきたのは黒い厚手のマントだった。
襟元に領主の紋章が刺繍されている。
「おぉー、ありがとうエステラ。手作らせのマント」
「うぐ……た、確かに、ボクがやった刺繍じゃないけど……」
マントは確かに手作りなのだが、絶対にエステラのお手製ではない。断言出来る。
エステラには無理だ。こんな綺麗な刺繍は。
ウクリネスか、刺繍が得意な給仕にでも作らせたのだろう。
しかし、なんとも温かそうだ。これさえあれば豪雪期も過ごしやすかったに違いない。
「……遅ぇよ」
「うん……それは、いろんな人に言われた」
豪雪期は、クリスマス前に終わっている。
来年まで使いどころないのか……まぁ、この後もちょいちょい気温の低くなる日があるだろうからその時に使わせてもらおう。
「ん? これは……」
「あ! それあたしの!」
綺麗にラッピングされた木箱が出てきた。
中には、湯呑が入っている。
「それでワインを飲んでね!」
「え……お茶じゃなくて?」
「ワイン用に作ったんだよ! 金属のカップだと、ワインに鉄の味が混ざってるって感じる時があるんだよね。だから、味を邪魔しない陶器にしてみたの!」
と、理由を語るパウラだが……
湯呑でワインって……情緒も風情もあったもんじゃねぇな。
しかし、手に馴染む感じは陶器ならではだ。是非使わせてもらおう。……お茶用に。
さらに袋を漁ると、丸い卵型ロウソクがいくつか出てきた。
ハーブの香りが微かにしている。
「それ、私のエッグキャンドルだよ。ハーブもミリィと一緒に選んでいい香りにしたの。疲れた時に寝室で使ってね。リラックス出来るから」
俺はオシャレなOLさんか。
女子力が上がりそうなアイテムだな。
「ワタクシの手斧と並べて飾るとよろしいですわ」
お、女子力が相殺されてゼロに。
「可愛いキャンドルですね」
「ジネットは好きそうだよな、こういうの」
「はい! さすがネフェリーさんです。こんなにカラフルで……とってもいい香りです」
「じゃあ、今度一緒に作ってみる?」
「はい。是非」
きゃっきゃとはしゃぐ女子二人。
ミリィも誘って、後日キャンドル教室を開催することが決まったらしい。
「お、紅茶だ」
「それは私からです。オリジナルブレンドなんですよ」
「そりゃ楽しみだ。…………変なものが入っていなければ」
「入れた方がよかったですか?」
「入ってないと宣言してくれるのが一番嬉しいんだが」
「ご期待に沿えず、残念です」
何入れた!?
……まぁ、冗談だろうけど。
…………冗談でありますように。
「ん? これは……長いな」
「あっ! それはあたいの釣竿だ。魚籠も入ってるだろ?」
三つに分かれた竿が出てきた。組み立てればかなりの長さになりそうだ。
魚籠も竹ひごを編んだお手製だ。
「今度夜釣りに行こうな!」
「そうだな。My竿があると、やっぱ使いたくなるよな」
「My竿やったら、自分、生まれながらに――」
「さぁ~てと! 次は何かなぁー!?」
ガキが大勢いる場所でこの腐れ薬剤師は……
「ウチのプレゼント入ってへん? 淫籠なんやけど?」
「なんか違って聞こえるけど!? 印籠な!? 薬入れだよな!? な!?」
しかし、探せど探せど印籠なんか出てこなかった。
「なんか銀の皿ならあるんだが」
「あ、せやった。銀の皿やった」
「どんな間違いだ!?」
「いや、自分が『俺の竿』とか淫乱っぽいこと言うからつい印籠を連想してもぅて」
「人のせいにすんな!」
「けど、その銀の皿があれば遊んで捨てた女に復讐されても気が付けるやろ? なにせ『My竿があったら使いたくなる(意味深)』御人やさかいなぁ」
「誰かー! 自警団呼んできてー! ここに不届き者がいるよー!」
たしか今は牢屋が空いてるはず!
入れてもらってこい!
「お、最後はこれか」
袋の底に入っていたのは立派なクリスマスリースだった。
「これは見事だな」
「はい。とっても素敵です」
「……かわいい」
「お兄ちゃん、これ飾ろうです! ドアのところに飾るときっとすごく素敵空間になるです!」
直径30センチもある豪勢なクリスマスリースには大きな松ぼっくりや真っ赤なヒイラギの実が可愛らしく飾りつけらていた。それに、小さなリンゴが濃いグリーンの葉っぱの上に彩りを添えている。
これの贈り主は言われなくても分る。
俺の手からさっさとかっぱらって、ロレッタとマグダが飾りに行ってしまうほどに、よく出来たリース。
こんなもん、ミリィ以外に作れるわけがない。
「やっぱミリィはこういうのをまとめる才能があるよ」
「ぇへへ……」
嬉しそうにはにかむミリィは、柔らかそうなほっぺたまでサンタカラーにほんのり染める。
「ぁの、ね……本当は、みんなのプレゼントを見栄えよく並べて、プレゼントのブーケみたいにしたかったんだけど……」
「まぁ、無理だろうな、ウィットに富み過ぎてて」
鎖帷子と釣竿をどう組み合わせてもクリスマス的ロマンチックからは程遠い。
「けど、何が出てくるのか分からなくてすげぇ楽しかったよ」
一人ひとり手渡されるよりも、想像が出来なくて面白かった。
こういう試みも面白い。
扱いに困りそうな物もあったが、気持ちだけはしっかりと伝わった。
「ありがとうな、みんな」
「ぇへへ」
すぐ目の前ではにかむミリィ。
その向こうで、今回のサプライズプレゼントに参加してくれた面々が満足げに笑っている。
「では、これは私からみなさんへのクリスマスプレゼントです」
ふわりと微笑んで、ベルティーナがその場にいるみんなへ同じラッピングがなされた袋を配っていく。
開けて中を見て見ると――
「毛糸のパンツ?」
「はい。みなさんお揃いなんですよ」
確かに寒い時期にありがたい一品ではあるのだが……
「一緒に洗うとどれが誰のか分からなくなりそうだな」
「そ、そうですねっ。……気を付けて洗います」
「まぁ、みんなでシェアすれば問題ないか」
「問題ありますよ!? わたっ、わたしが使ったものは、ヤシロさんにはお貸し出来ません……」
ほわぃ?
みんな同じ素材、同じ柄なのに?
「あの、わたしたちからもプレゼントがあるんですよ」
ジネットをセンターに、マグダとロレッタが俺の前へとやって来る。
ロレッタの後ろには選抜されたハムっ子たちが群がっている。
「わたしからは、これです」
「毛糸じゃないパンツか?」
「違います!」
「お、耳当てか」
「はい。薪割りの時に、耳が真っ赤になっていましたので」
確かに。
寒い日の午前中に薪割りをしていると耳が千切れそうに冷えるんだよなぁ。
これは助かる。
……おぉ、手作りだ。
手作りの耳当て、初めて見た。
短いマフラーみたいな形で、耳に当てる部分に紐がついている。この紐をアゴの下で結んで固定するんだな。カチューシャ型ではなくゴスロリっ娘がつけてるヘッドドレスみたいな形だ。
「……マグダはグローブ」
「おっ!? 革製か?」
「……メドラママにお願いして職人を紹介してもらった。シープゴートという魔獣の皮。柔らかくて丈夫」
その名の通りの魔獣なら、ヒツジやヤギの皮に近いのだろう。
柔軟性が高く、肌触りもいい。
「……ここだけ、マグダが縫った」
マグダが熱のこもった瞳でアピールしてくる。
よく見れば、一箇所だけ縫い目が波打っている不揃いな部分があった。
なるほどね。手作り要素を盛り込みたかったのか。
「……これで、薪割りが楽しくなる。毎日したくなる」
「いや、毎日は勘弁してくれ……」
力仕事は基本的に丸投げしたいんだ……翌日二の腕がぱんぱんになるんだよなぁ、薪割りをやると。
「最後はあたしたち姉弟からのプレゼントです!」
姉弟を代表してロレッタがプレゼントを手渡してくれる。
開けてみると――
「ガラス製の万年筆!?」
「「「「うっわ、高そう!?」」」」
物凄く細工の細かい、一目で高級品だと分る凄まじい逸品が姿を現した。
エステラが「ふわぁ、すごい……」と漏らしているあたり、マジで高級品なのだろう。領主でもそうそう持てないくらいの。
というか、ガラス窓ですら高級品だと言われているこの街で、こんな細工の細かいガラス製品なんて……インク壷までガラスで、同じく凄まじい細工が施されている。
ロレッタ……お前、これ…………いくらした?
「ロレッタ……」
誰もがそのあからさまに高級感漂う逸品を前に言葉をなくしている中、ノーマが静かに口を開いた。
「……引くさね」
「違うんです! まず話を聞いてです!」
最初は姉弟の中から有志で金を出し合って靴でも買おうと思っていたそうなのだが、自分で稼ぎのある弟妹をはじめ、お小遣いを懸命に貯めたという未就業のちみっこ弟妹までもが「自分もお兄ちゃんにプレゼントしたい」と騒ぎ出し、「この日のために頑張って貯めたのにぃ~!」と涙目で訴えかけられた結果、姉弟全員で金を出し合うことになってしまったのだとか。
そうしたら、まぁ、人数が多いこともさることながら――
「ほら、ウチの弟妹たちは、割といいところでお仕事させてもらっているですから――トルベック工務店とか木こりギルドとか、最近じゃ四十区の『ラグジュアリー』や海漁ギルド、狩猟ギルドのお手伝いも増えて――みんな結構お金持っていてですね……計算してみたらちょっとびっくりするような金額になっちゃったです。それで、『この金額の靴って純金製ですか!?』みたいなことになっちゃったですから、靴はやめて、なにかしらお兄ちゃんのお仕事に役立つようなものはないかと思ってマーゥルさんに相談したです」
「なんでマーゥルに……?」
「ちょくちょくニューロードを通って遊びに来てるです。なので結構よく会うですよ、ニュータウンで」
フットワーク軽いなぁ、あの貴族は。
「それで、伝統の技術を継承している職人さんに一品物のペンを作ってもらおうということになって……だから、変なアピールとか成金趣味とか、そーゆーのじゃないです! あくまで、純粋にお兄ちゃんに感謝しまくっているウチの弟妹たちの思いが過剰に乗っかり過ぎた結果です!」
「そうなんかぃ……」
ロレッタの話を聞いて、ノーマが薄く唇を開いて囁く。
「引くさね……」
「感想が覆らないです!? 違うですのに!」
まぁ、とりあえず、もらっておく……か?
もらっていいのか?
「「「「「おにーちゃん! うれしいー?」」」」
わぁ、無邪気な瞳たちがキラキラと……
「た、大切に使わせてもらうよ」
「「「「わーい!」」」」
雑には扱えないからな……必要以上に肩が凝りそうだ。
「最近、ガラスの価格がようやく落ちてきたと思ってはいたけど……これはすごいね」
エステラが半分呆れたように感嘆の息を漏らす。
そうそう。ガラスの価格は多少下がってきているのだ。
……俺がエステラを使って市場にちょっかいをかけたからなんだが……まぁ、それは今はどうでもいい。
ガラスの価格が下がったことで、――というか、透明度の高い物質の製造法が確立されたことで、俺はこういうものを大量生産出来るようになったわけだ。
「そんじゃ、これは俺からのお返しだ」
白い大きな袋に詰め込んだプレゼントをその場にいる者たちへとどんどん配っていく。
手のひらに乗るくらいのコンパクトな箱。
中身はみんな一緒だ。
「あの、ヤシロさん。開けて見てみても?」
「おう。かまわないぞ」
待ちきれない様子で、ジネットが丁寧にラッピングを剥がしていく。
ジネットは、包装紙を「いつか使えるかもしれないので」と綺麗に取っておく派だ。
エステラはびりびり破っていく。イメルダもだ。
貴族さんはこういうのもらい慣れてるんでしょうかねー。
そしてナタリアは箱を宙へ放り投げてナイフで「シャキン! しゃきん!」――普通に開けろぃ!
「わぁ! 小さな街です!」
中から出てきた物を見て、ジネットが目を輝かせる。
サンタクロースのファンタジー感がいまいち正しく伝わっていないこの街の連中に、いかにサンタが夢と希望を体現するような存在なのかを知らしめる一助となるべく俺がちまちま手作りしたプレゼント。
そいつは――
「ジネット、ちょっと貸してもらっていいか?」
「はい」
「これを一度こうやってひっくり返して……で、戻すと――」
「…………わぁ!」
透明な球体の中で、白い粉雪が舞う。
小さなミニチュアの街と、トナカイが引くソリに乗って街の上空を翔けるサンタクロース。
「こいつは、スノードームっていうんだ」
「素敵です。……きれい、ですね」
舞う雪に見惚れるジネット。
他の面々も見様見真似でスノードームをひっくり返して、戻す。
「ねぇ、ヤシロ。これって四十二区がモデルなのかい?」
「いや、なんとなく想像して作ったどっかの街だよ」
「えぇ~! 四十二区で作ってよぉ! ここに領主の館を作って、こっちに陽だまり亭を――」
「そんなデカいスノードームが作れるか!」
エステラは、割とすぐに空気に呑まれて、すぐその気になる。
こいつが日本に生まれ育っていたら、この年齢までずっとサンタを信じているような人間に育っていただろうな。
「ぁの、てんとうむしさん、……これが、サンタさん?」
「あぁ。で、このソリを引いてるのがトナカイだ」
「これがあたいかぁ!」
「とりあえず、この衣装はウクリネスの趣味が前面に出ているってことだけは理解出来たさね」
まぁ、トナカイ『っぽさ』しかない衣装だからなぁ。
「本当のトナカイは空なんか飛びゃしねぇ。一晩で世界中のガキどものところを回るなんて出来るわけがねぇ」
サンタ伝説なんて、ファンタジーだ。
「けど、分かっていても、『もしこんな人が本当にいて、自分のところにプレゼントを持ってきてくれるなら』…………そんな小さな可能性を信じてガキどもが一年間いい子に過ごそうって思っても、全然変なことじゃないだろ?」
「そうですね。子供たちには、こんな素敵な夢を見ていてもらいたいですね」
スノードームを見つめてジネットが呟けば、エステラが肩をすくめて前へ出てくる。
「けれど、どんなに憧れてもやっぱりこんな夢みたいなことはそうそう起こらない……だから、誰かがサンタの代わりを演じて子供たちに見せてあげるんだね。クリスマスの日の、たった一晩だけの夢のような奇跡を。――どこかのお人好しなひねくれ者なんかがさ」
「ミリィのどこがひねくれ者だよ。酷ぇヤツだなぁ」
「ぇう、みりぃのこと……じゃ、なぃ、ょね?」
今日、この場において、サンタと言えばミリィだろう。
ミニスカサンタがよく似合っている。
「来年は、わたしもサンタさんに挑戦してみたくなりました」
ジネットが頬をほんのり染めて微笑む。
サンタの色が移ったかのような鮮やかな赤色に。
「だったら、もう一つだけルールがあるんだ」
ガキが寝た後、トナカイのソリでやって来たサンタは煙突から寝室へと入ってきて、そして――
「靴下の中にプレゼントを入れていくんだよ」
「くつした、ですか? ……どうして靴下なんでしょう?」
「それはな――」
「美女の足の香りはご褒美やから、やろ☆」
「出ていけーい、変態薬剤師!」
「もう、ヤシロさん! 懺悔してください!」
だから、俺じゃねぇっつうの!
はぁ……
この街に正しいサンタのストーリーが伝わるのは、一体いつになるんだろうなぁ。




