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異世界詐欺師のなんちゃって経営術【SS置き場】  作者: 宮地拓海


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【3周年書き下ろしSS】へぼのけ、へぼのけ、おかわりこい

 誕生日を祝わなくなったのは、いつからだっただろうか……とかなんとか言っていた俺なのだが――



「もうすぐヤシロさんのお誕生日です。みなさんでサプライズパーティーをしましょう!」

「お兄ちゃん、きっと喜ぶです」

「……『ぎゃふ~ん! びっくりこきまろ~!』くらいは言うはず」



 ――どうやら、今年もお祝いをしてくれるらしい。

 残念ながら、企画段階から情報が駄々漏れで、サプライズにはならなかったけれど。


 ジネットの部屋で密談してんじゃねぇよ。俺の部屋すぐそこだっつぅの。通るからな、この廊下。中庭から上がってきたら、思いっきりジネットの部屋の前通るから。……ったく。


 あと、マグダ。……言わねぇよ。



 さて、どうしたものかと頭をひねる。

 現在、時刻は夜の九時。

 陽だまり亭は閉店し、店の片付けも終わり、ロレッタが「あ~、今日はなんだかお泊まりな気分ですねぇー」と棒読みで大根芝居をして、「では、わたしのお部屋でご一緒に眠りませんかぁー? 折角ですしー」と、ジネットがお遊戯会レベルのセリフを口にして、「……がびーん、マグダだけ除け者は寂しい」とマグダがいつもの平坦な声で言って、そそくさと三人そろって部屋へと入り閉じこもっている――と、現在はそんな状況なのだ。

 つか、マグダ。言葉のチョイスよ……


 俺も気を利かせて「じゃあ俺はさっさと部屋で休ませてもらおうかなぁ~」と、オスカー受賞ものの演技でさりげなく言っておいたから、連中は安心していることだろう。

 そのせいで声がデカくなっているのかもしれんが……

 別に俺は盗み聞きがしたかったわけではない。トイレに行って戻ってきたら、たまたまそんな会話が漏れ聞こえてきたのだ。

 俺、耳いいから。

 耳も、いいから。


 しかし、誕生日パーティーか……


「照れくせぇなぁ……」


 ここへ来て初めての誕生日は、それはそれは盛大に祝ってもらった。

 ありがたかったし、楽しかった。

 ……が、あれをもう一回やると言われると…………背中がむずむずしてくる。


 元来、詐欺師というのは注目を集めることを避けたい生き物なのだ。さりげなく、狡猾に。それこそが詐欺師の美学。

 輪の中心で祭り上げられるとか……ガラじゃない。

 出来ることなら、連中の目論見を粉砕してやりたい。「そーゆーのいいから」と。「普通でいいから」と。「誰がロレッタだ! 失敬な!」「あたし普通じゃないですよ!? ……失敬ってなんですか!?」と。


「けどなぁ……」


 部屋の中からは、依然楽しそうにきゃっきゃうふふする声が聞こえ続けている。

 こんなに楽しそうにしているのを邪魔するのも、気が引けるんだよなぁ……


 なんかこう……不慮の事故的に、「そのサプライズ、バレてますよ」と伝えられないだろうか。

 そうすれば、きっと普通な感じの、まったりとした食事会レベルのパーティーになるはずだ。俺にはそれくらいがちょうどいい。

 なので、なにかハプニングが……こう、ちょっとびっくりするような意外性を持った、それでいて「じゃあ仕方ないよね」と思えるようなハプニングが……


「ぁの……てんとうむしさん?」


 夜風に消えそうな小さな声に振り返ると、そこにミリィがいた。

 ……え、ミリィ? なんでここに?


「……なに、してる、の? じねっとさんの部屋の、前で……」


 ふぉぉぉう!? これはひょっとして、俺は今覗きの嫌疑をかけられている真っ只中なのか!?

 いや、違う! 違うぞミリィ!

 俺は決して覗きをしていたわけではないし、盗み聞きをしていたわけでもない!

 やましい気持ちなんてこれっぽっちもなかったんだ。

 しかし、今のこの状況では何を言おうが不審者のそしりを免れないだろう。なにか、上手い言い訳を考えた方が得策だ。

 俺がここにいても、一切不思議じゃない、それでいてとても自然な理由…………そうだ!


「いや、なに。ちょっとおっぱいが揺れる音がしてな!」


 不審者だー!

 紛うことなき不審者の発言だー!


「ちょっと物音がしたから確認に来たんだ」なら正当性はあるが、「おっぱいが揺れる音がしたから確認に来たんだ」は、純然なる不審者の赤裸々な性癖暴露に他ならない。


「ごめんミリィ……言いたいことと言おうとしたことと口をついて出た言葉がどれも合致しない状況に戸惑っているんだ……」

「ぅ、ぅん……たまにあるよね、てんとうむしさん。そうぃう時……」


 えっ!? たまにあるかな!?

 つか、俺、そんな風に見られてるの!? うわ、ショック!

 ショック過ぎて……俺は今…………


「エステラの目の前で巨乳美女をぶるんぶるんさせたい気分だ……!」

「ぁの、てんとうむしさん…………やめてぁげて、ね? きっと、てんとうむしさんの意図するものは伝わらないと思う、から」


 ミリィはやさしいなぁ。これ以上もう抉れる余地がないエステラの心が抉られないように配慮するなんて。聖女のごとき清らかな心を持っているのだろう。


「で、なんでミリィがここに?」

「ぇ……ぁの……、閉店間際に、みんなでお泊まりって雰囲気だったから、みりぃも混ぜてって……それで、お泊まりの用意取りに戻って、今、きた……んだょ?」


 ミリィがお泊まり……

 もう一度、よく思い出してみる。

 閉店間際の会話を――



「あ~、今日はなんだかお泊まりな気分ですねぇー」

「では、わたしのお部屋でご一緒に眠りませんかぁー? 折角ですしー」

「……がびーん、マグダだけ除け者は寂しい」

「ではではー、マグダさんもご一緒にー」

「一緒はいいことです! 素晴らしいです!」

「……やったね、これで今夜はパーリーナイ」

「ゎあ、みんなでお泊まり……ぃいなぁ」

「え? では、ミリィさんもご一緒にいかがですか?」

「ぃい、の?」

「もちろんです」

「ミリリっちょなら大歓迎です!」

「……ようこそ、淑女の社交場へ」

「じゃぁ、ぉ泊まりの準備したら、もう一度くる、ね?」

「はい。お待ちしています」

(いや~、こいつらの演技酷いなぁ……つか、マグダ、「がびーん」はないだろう「がびーん」は……)



「ホントだー!? 泊まるって言ってたー!」

「ほにゃぅ!?」


 いかん……他のメンバーのあまりに棒読みな演技に意識が奪われて、ミリィのセリフを聞き漏らしていた。

 はっきりと泊まりに来るって言ってたじゃないか。


「ぁ、ぁの、てんとうむしさん……あんまり大きい声、だめ、だょ?」


 突然の俺の大声に驚いて肩をすくめるミリィ。

 そして、もう一人。俺の声に驚いたヤツがいた。


「今の声はなんですか!? ヤ、ヤシロさん!?」


 そう、ジネットだ。


 部屋の前にいた俺を見て、盛大に慌てふためいたジネットは、両手をパタパタさせつつ、はぅわぅと、最重要機密の漏洩を始める。


「も、もしかして、ヤシロさんのお誕生日にみなさんでサプライズパーティーを開催して、ヤシロさんに『びっくりこきまろ~』と言わせようという作戦会議の内容が聞こえていたりしましたか!?」


 一息で捲くし立て、数秒間の静寂の後に、「はっ!?」と息をのむ。


「うん、ジネット。その情報、今聞いたわ」

「きゃぁあああ! 大失態です!」


 ジネットって、いまだにこーゆーとこ、あるんだよな。

 もっとも、作戦会議の内容は元から知っていたが、これでサプライズは潰えたな。


「うぅ……すみません、みなさん……ヤシロさんも…………」


 物凄くしょんぼりしてしまったジネット。

 別にこっちはサプライズだからどうとか、バレたからこうとか、そんなことは思わないんだが……

「自分のせいで……」って悩むのは、つらいよな。


「よぉし、ならば! お前たちに新しいパーティーの仕方を教えてやろう!」

「むむむ! それは興味深いです!」

「……新しいものは、陽だまり亭から始まる。これは、四十二区の常識」


 俺の言葉に、マグダとロレッタが即座に食いつく。

 一拍出遅れたジネットは、戸惑い気味に視線を俺たちの間で行き来させる。


「へ? ……え?」

「店長さんのおかげで、また新しい楽しいことが増えるです!」

「……店長、お手柄」

「みなさん……」


 マグダたちの気遣いが伝わって、ジネットの瞳がうるるんと潤む。


「ジネットが~、新しいパーティーに~、出会った~」

「ふぇ!? な、なんですか、急に?」

「いや、すまん。うるるんだったもんで、つい」

「……へ?」


 何度か頭をひねって考えてみたが、やっぱり分からないといった顔で俺を見てくるジネット。

 すまん。深く考えないでくれ。ちょっと言ってみたかっただけなんだ。


「それでお兄ちゃん! どんな新しいパーティーをするですか?」

「……今回は、とても重要なパーティー。成功は最低条件であり、普通以下の盛り上がりでは許されない重要任務。責任重大」

「そうです! お兄ちゃんががっかりするようなパーティーだったら許されないですよ、お兄ちゃん!」

「……ヤシロがあっと驚くパーティーを、ヤシロは提案しなければいけない」

「お前ら……自分の言葉に違和感ないか? 感じないか?」


 どうやったら、自分自身を満足させるようなパーティーが企画出来るってんだよ。サプライズ感も皆無なのに…………ん、待てよ?


「俺が楽しめるパーティー…………だったらやっぱりおpp……」

「……言い忘れていたけれど、マグダは今、マサカリを携帯している」

「お…………花見、とか、どうかな?」


 ……ふぅ。危なく狩られるところだった。

 しかしながら、最近マグダはエステラに似てきたんじゃないだろうか? いかんな。あいつに似るともれなく成長が止まるぞ、とある部位の。考え直すんだ、マグダ!


「ぉ花見? ぉ花見って、なんのぉ花見るの? 花園でピクニック?」


 花というワードに、ミリィが物凄い勢いで食いついてきた。

 大きな瞳がきらきらしている。


 おっぱいを上手く回避するために飛び出してきたワードなのだが……おっぱいもお花見も、どちらも「愛でて心を豊かにする、日本人の心に根付いた素晴らしいもの」という点で一致しているから、まぁ広義で言えばおっぱいもお花見も同じようなものだといえるわけで、あながち苦し紛れというわけでは無きにしも非ずだな。「揺れる」か「舞う」かの違いくらいだ。

 しかも、よくよく考えれば時期的にもいい具合だ。四月七日なら、まだ咲いているところもある時期だしな、日本でなら。


「なぁ、ミリィ。桜って木はないか?」

「ぁるよ! ピンクのお花がぶゎ~って咲く、すっごく綺麗なぉ花なの!」


 こっちにも桜はあるらしく、おまけに咲き方も近しいようだ。


「さくら……ですか? 初めて聞いた名前です」

「あたしも知らないです」

「……花も恥らう乙女であるマグダも、既知ではない」


 知名度はいまいちらしい。

 まぁ、意欲的に広めようとしなければ、日本ほどの広がりは見せないのかもしれないな。ホント、日本人って桜大好きだからなぁ。


「群生しているところとかあるか?」

「森の中になるけど……それでも、ぃい?」


 俺と、そしてジネットへと視線を向けるミリィ。

 その顔からは、「ちょっと大変な場所だけど、きっと綺麗だから、みんな喜ぶから、一緒に見たい……な」的な感情が漏れ出していて、そんな顔を向けられたら……


「では、ミリィさんに案内していただいて、そのお花を見に行きましょうか」


 断れる道理がない。

 甘々のジネットならなおさらだ。


「ゎ~い! みりぃ、一度みんなと一緒に、桜を眺めてみたいなぁって思ってたの」


 知っている者からすれば、やはり眺めるだけの価値がある、そんな花のようだな、桜は。

 群生している場所があるなら、盛大な花見が出来るだろう。


「よし、ジネット!」

「はい」

「人数分プラスアルファの、豪勢な弁当を頼む!」

「はい! 任せてください!」


 花見といえば、屋台のひとつも出したいところだが……たまには、従業員の立場を離れてもいいだろう。

 俺が商売っ気を出すと、ジネットはもちろん、マグダやロレッタまで仕事をする羽目になるからな。

 今回は、ジネットの弁当だけで十分だ。


「……ふむ。森、か」

「屋台、通れるですかね?」

「ちょっと待て、お前ら! 持っていく気か!?」

「えっ!? 持っていかない気だったですか!?」

「……ヤシロ、深刻な病気?」


 なんてこった……こいつらはもう、完全に毒されているんだな、俺に。…………誰が毒か!?


「ぁの、ね。森の中は、結構危険、だから……」

「屋台は、今回は諦めましょう。ね、みなさん」


 ま、そりゃそうだ。

 森の中にはまともな道もないからな。……あと、天敵の食人植物もいやがるし……


「お花を見て、ご飯を食べて、あとは何するです?」

「そうだなぁ……花見といえば、やっぱ酒かな」

「なら、パウラさんに言ってお酒と魔獣のソーセージを手配しておくです!」


 魔獣のソーセージはお前が食いたいだけだろう。


「なら、酒飲み要員でも呼んでおくか」

「うふふ。賑やかになりそうですね」

「……しかし、それではただのお食事会。パーティーというには盛り上がりがいまひとつ足りない」


 河原なんかでたまに飯を食うが、それとの差別化が出来ていないと、マグダは言いたいのだろう。

 だったら……


「宴会ゲームをやろう!」


 そう。

 お酒の席でちょっと羽目を外していつもより少しだけダ・イ・タ・ンになっちゃう感じの定番ゲームを! ……でへへ!


「……という提案をしたヤシロの顔の締まりがないので、却下とする」

「もう、ヤシロさん……懺悔してください」

「なぜだ!? 下心が顔に表れただけじゃねぇか!」

「だからですよ、お兄ちゃん!?」

「もっと、普通のが、ぃいな……みりぃも」


 普通のつったってなぁ……


「野球拳とか、盛り上がると思うんだけどなぁ……俺の中で」

「お兄ちゃんの中でだけ盛り上がっても仕方ないです!」

「なんでだよ? 俺の誕生日だろ?」

「お兄ちゃんの誕生日は、もはやみんなの誕生日です!」

「なんかよく分かんないけど、ものすげぇ自信だな、お前!?」

「ちなみに、聞くだけ聞いてあげるです、その野球拳ってゲームの内容を」

 

 横柄な態度のロレッタ。だが、内容を聞けばきっと「面白そうです! 受けて立つです!」と食いついてくるに違いない!

 耳の穴かっぽじってよく聞け!


「じゃんけんをして、負けた方が服を脱いでいk……」

「はい、もういいです! それ以上しゃべらなくていいです!」

「……安定のヤシロで、逆に安心した」

「はぅ……みりぃ、そぅいぅのは……ちょっと…………むり」

「もう、懺悔してください」


 ちきしょう……野球拳がなくて何が花見だ。

 日本で行われているお花見の実に八割の会場で野球拳が開催されている……といいなぁって思っている男子は星の数ほどいるというのに! 数は力! 民衆の強い意志が世界を動かすことは往々にしてあり得ることなのだ! 立てよ民衆! 野球拳革命を起こすのだ!


「では、普通にお花を楽しむパーティーをしましょう」

「賛成です!」

「……マグダは、その花をも凌駕する」

「まぐだちゃん……ぉ花、見よう……ね?」


 そうして、俺の誕生日に花見が開催されることになった。







「やりましょう、野球拳(改)」


 花見当日。早朝の陽だまり亭の店先にて。

 満面の笑みでそんな提案を寄越してきたのは、意外にもウクリネスだった。


 こいつは、服を脱ぐことをよしとしない人種だと思っていたんだが……


「もしかして、ウクリネス。何人かに衣装を着せているうちに、生乳の魅力に気が付いたのか!?」

「あらあら。生乳ならン十ン年、見飽きるほど見てますよ。残念ながら、自分のですけどね」


 ウクリネスの生乳。……なんだ、このちぃ~っともきゅんとこない残念ワードは。


「けど、野球拳をやろうなんて言っても……」


 どうせ、目くじらを立てて猛反発するぺったんこ領主がいるからなぁ……


「いいじゃないか、野球拳(改)。もしやるなら、ボクも参加させてもらうよ」


 と、ウクリネスの背後からエステラがひょっこりと顔を覗かせた。

 まさか、こいつが賛成に回るだなんて!?


「もしかして、エステラ……1ミクロンほど育って、見せびらかしたくて仕方ないのか!?」

「そんなわけないだろう!?」


 そんなわけない?

 あぁ、育つわけがないってことか。

 だよねー、知ってた知ってた。


「しかし意外だな、お前がこんなエロスの権化みたいなゲームを許容するなんて」

「そのエロス部分を撤廃したからね」

「はぁっ!?」


 エロスのない野球拳ってなんだよ?

 それ、ただのじゃんけんじゃねぇか。


「言っただろう。『野球拳(改)』って」

「『(改)』?」


「そうさ!」と、エステラがない胸を張る。


「エステラがな――」

「……ん?」

「――イフを、きらりと輝かせている」


 ナイフ!

 ナイフって言ったの!

 だからしまえ、そのナイフ!


 ったくもう……真顔で凶器をチラつかせやがって……

 あぁ言うのって、パワハラに当たるんじゃないかなぁ。

 怖い領主様だわ、まったく。


「服を脱いでいくなんて、健全じゃないからね。逆に着てもらうことにしたよ」

「なるほど! つまり、スタート時はみんな全裸なんだな!?」

「そんなわけないって、ちょっと考えたら分かるよね!?」


 少しの可能性に希望をかけたっていいだろうが!

 世の中に「絶対」なんてものは絶対ないんだから!


「私が、こういう衣装を用意させてもらいましたよ」


 呆れるエステラの隣で、ウクリネスがえびす顔で大きな袋を取り出す。

 中には、ぎっしりと衣類が詰まっていた。

 それもただの衣類じゃない。


 チアガール。白衣! スク水!! 紺ブルマ!!!


「いつもと違う、変わった格好をしていただこうという催しです」


 満面の笑みを浮かべてウクリネスが広げているのは、魔法少女が好んで着そうなふわふわひらひらのドレスだった。

 …………なるほど。これは、いい!


 ウクリネスの広げているドレスは、どう見てもマグダやミリィサイズ。


「それをジネットに着せれば……零れるっ!」

「きちんとサイズの合った衣装を用意するよ!」

「でも、ジネットなら零れてくれる!」

「懺悔したまえ!」


 まぁ、確かに。

 エロス度は著しく低くなったが、……これはこれで有りだ。


「可愛らしい衣装を着て、君の誕生日を祝ってあげようという試みだよ」


 エステラの言うとおり、こんな可愛い衣装を着たみんなに祝ってもらえるなら、それはそれで眼福だ。

 なにも俺は、嫌がるアイツらの肌を無理矢理見たいと思っているわけではない。

 ほんのちょっと、たまに羽目を外し過ぎちゃうだけで。


「ちなみに、エステラ。バッファローゲームってのがあって、人差し指を立てた両手を頭の上に持ってきて角に見立ててな、その『角』で女の子の『的』を当てるゲームなんだが……」

「あ、そのゲームは絶対やらないから説明しなくていいよ」

「いや、ちょっと待て。『的』っていうのは乳k……」

「説明は要らないと言っているんだよ」


 くそぅ!

 たまには羽目を外したい!


「とにかく、きっと楽しいことになるから……楽しみにしているんだね……ふふふ」


 ニヤリと笑って、エステラはウクリネスを伴って行ってしまった。

 先に会場に行っていろいろと準備をするらしい。


「ヤシロさん。お待たせしました。準備出来ましたよ」


 陽だまり亭の中から、大きなバスケットを持ったジネットと、それ以上に大きなリュックを背負ったロレッタと、それらが小物入れに見えそうなくらいに巨大な風呂敷包みを肩に担いだマグダがそろって出てきた。

 ……マグダ。お前はパワフルだよなぁ、ホント。


「お前たちも聞いているのか、野球拳(改)のこと」

「えぇ。……うふふ。聞いてますよ……うふふ」


 なんだかジネットがすごく楽しそうだ。

 可愛い衣装が着られるからか? ……なんか違うような。


「とりあえず、負けたら生着替え確定なわけだが、どうせ森の中だ、動物と俺くらいしか見てないから安心して着替えるといい」

「ヤシロさんは見ちゃダメですよ!?」

「ちゃんと更衣室が用意されると聞いてるです!」

「……見張りにはデリアとノーマが立つ」

「なら、ポップコーンと俺が作った歯車のサンプルを持っていかなければ……」

「検問を突破する気満々です!?」

「……門番の強化が必須」

「もう、ヤシロさん。……ダメですからね?」


 分かってるよ。

 覗きゃしねぇよ。


 けどまぁ、ラッキースケベくらいは、期待してもいいだろう。……むふ。


 そうして、俺たちはミリィたちの待つ森へと向かった。







 森の前で待っていてくれたミリィに連れられ、森の中を歩くこと十五分。

 食人植物に襲われそうになったが、それらすべてをマグダが追っ払ってくれた。巨大な風呂敷包み片手に。

 やっぱりマグダは頼りになるなぁ。


「……くぅ、俺、初めてだ。ヤツらに捕食されずにこんな奥まで来たの」

「てんとうむしさん……泣いて、る……の?」


 感動と呼ぶのに、なんら躊躇いなどない。

 襲われないって、素晴らしい。平和って、最高だ!


「マグダは、俺の平和を守ってくれるナイトだな」

「…………」


 感謝の気持ちを込めて頭を撫でてやると、マグダの耳がピンッと立った。


「……なら、ヤシロはマグダのプリンセス」

「いや、そこは別に姫じゃなくてもいいだろうが」


 なんで性別入れ替わってんだよ。女でナイトだっていいだろうに。


「……こちらです、姫」


 なんだか、お気に召したようで、マグダが俺をエスコートする。

 だから、誰が姫だっつの。


「……姫がお疲れのようだ。休憩を取るぞ、爺」

「あたし爺ですか!? 配役に不満があるです! 再選考を要求するです!」

「……騒がしいぞ、爺」

「むぁぁああ! もう確定っぽいです、この雰囲気!」


 マグダが楽しそうだ。

 ロレッタは楽しいヤツだ。

 ジネットとミリィがクスクスと笑っている。


 でもな、マグダ。

 ナイトは爺に「爺」とは言わねぇんだよ。それ言うの、姫だから。


「では、ヤシロさん姫。会場へ向かいましょう。くすくす」

「ぅん。てんとうむしさん姫、こっちです」

「いつまでやってんだよ。つか、『さん』の付いてるとこおかしいだろ、どっちも」


 くすくすと肩を揺らして、俺を先導するように歩くジネットとミリィ。

 程なくして、賑やかな声が聞こえてきて、視界一面を埋め尽くすような絶景が目に飛び込んできた。


「おぉ……!」


 そこはまさに、桜の園だった。

 見事なまでに満開な、薄紅色の花弁が辺り一帯に広がっている。


「これは、見事だな」

「はい。綺麗……ですね」


 俺の隣で、ジネットもうっとりとした声を漏らす。


「すごいです! これは綺麗どころじゃないです! なんで今までこんな綺麗なお花を知らなかったのか、悔やまれてならないです!」

「……よろしい、桜よ。その挑戦、マグダは受けて立つ。どちらがビューティフルか、勝負をつけよう」


 あっちの二人も大いに気に入ったようだ。

 マグダが自分といい勝負の美しさだと認めるとは、桜、それすげぇことなんだぞ。

 ロレッタのはしゃぎっぷりを見ても、それは分かるだろう。


「おー、ヤシロ!」

「待っていたさよ」

「ヤシロ-! お酒持ってきといたよー!」

「タマゴもー! いっぱい茹でておいたからね~!」


 デリアにノーマにパウラにネフェリーが、桜が存分に見渡せる特等席にレジャーシートを敷いてこちらに手を振っている。

 ぐるりと見渡せば、モーマットやウッセ、ベッコにアッスントまで来ている。……が、オッサンどもは視界に入れる必要がないので無視しておく。


「ベルティーナは?」

「はい。美味しいですよ」

「いつから俺の後ろにいた!? そして、その口に入ってるのはまだ開けてないはずの弁当の中身じゃないだろうな!?」

「もきゅもきゅ」


 くぅ!

 可愛い咀嚼音に、つい許してしまいそうになる!


「あ、ヤシロさ~ん! 更衣室、作っておいたッスよ~」


 大工が言うところの『なぐり』を持って、ウーマロが一仕事終えた爽やかな汗をかきながらやって来る。

 あぁ、あいつは働かされていたのか。


「人使いの荒い領主で困るよなぁ~」

「ちょっ!? 人聞きが悪いよ、ヤシロ!」

「あはは。オイラに言わせればどっちもどっちッスよ」

「ウーマロ! ボクはヤシロほど酷くないでしょ!? ないよね!?」

「あぁぁ、ああ、ああああぃぃぃぃやぁああああああのああのあのあの……」

「ほら、脅すからテンパってんじゃねぇか」

「ウーマロのこれはいつもの病気だよ!」


 さらりと猛毒を吐くエステラ。

 まぁ事実、病気なんだけども。


「では、みなさんお集まりのようですので、そろそろ『お花見@ヤシロ様聖誕祭』を始めましょう」


 森の中だというのに、いつもの給仕服姿で現れるナタリア。

 あんな丈の長いスカートで、よく食人植物をかわせたもんだ。


「まずは、店長さん特製の美味しいお料理をいただきましょう」

「はい。ではみなさん、召し上がってください」


 自信たっぷりに、ジネットが両腕を広げて勧める。

 マグダにロレッタ、デリアとノーマが自然と配膳を手伝っている。陽だまり亭での役割が完全に染みついているようだ。


「はい、ヤシロさん。おかわり、たくさんありますからね」


 小皿にバランスよく取り分けられた料理を、ジネット自らが手渡してくれる。

 この小皿だけで100Rb(=1000円)は取れそうな豪華さだ。


「腕を挙げたな、ジネット」

「うふふ。ありがとうございます」


 いつの間にか、『弁当』ってもんにもすっかり適応している。

 こいつの料理スキルは天井知らずだ。


「ん!? 美味っ!」


 見た目はばっちり。味も抜群だ。

 どれくらい美味いかと言うと……


「ベッコさん! このレンコンの挟み揚げのサンプルを作ってくださいまし!」


 と、イメルダから早急に発注がかかるくらいに美味なのだ。

 レンコンの挟み揚げの食品サンプルって……地味だな。


 賑やかに騒ぐ連中を眺めていると、とすっ……と、背中に誰かがしだれ掛かってきた。


「はぁ~……お酒、美味しいなぁ~。ウチ、酔ってまいそうやわぁ」

「うぉう!? レ、レジーナ!?」


 びっくりした!

 思わず飛び退いてしまうほどに驚いた!

 レジーナが、外にいる!?


「なんやのんな、大きい【アレ】出してからに」

「声な!? なんでわざわざ伏せ字にしてまで卑猥感を出そうとしたんだ、お前は!?」


 まさかレジーナがいるとは思わなかった。

 人は多いし、外だし。……あぁ、そうか。森の中は他よりじめっと湿気が多いから平気なのか……


「苔か、お前は」

「失礼やなぁ。自分の誕生日やいぅからわざわざ来たったのに」

「そりゃありがとな」

「せやかて、誕生日っていうのがあると、いろいろ考えてまうなぁ」


 杯を傾けて、中の清酒に光を反射させる。

 ひらりと舞い落ちてきた桜の花びらが一枚、お酒の中へと落ちて、風流に漂う。

 そんな薄紅の花びらを見つめ、ほのかに赤く染まった頬を緩めて、レジーナは言う。


「自分の誕生日から十月十日ほど前に、自分の両親がハッスル……」

「よぉし、お前はもう帰れ!」


 どんな風景の中にいてもブレないな、お前は!?

 もう帰れよ。背景になってる桜がもったいねぇよ。


 アホのレジーナは無視して、俺たちは桜を眺めながら絶品の料理に舌鼓を打った。


「ヤシロ様。お食事は堪能されましたか?」


 ある程度の時間が経過し、そこそこ腹も満たされたころ、ナタリアが俺の隣へ来てそう呟いた。


「そうだな。とりあえずは腹八分目だ」

「では、そろそろ座興に入りたいと思います」


 すっと立ち上がり、胸を張って高らかに声を張り上げる。


「カモン、野球拳ステージ!」


 掛け声と共に、真っ赤に塗装されたちょっとしたステージが花見会場へと入ってくる。手動で。

 ステージを押しているのはウッセとモーマットだ。……そのために呼ばれたのか。


「こちら、アッスントさんに資金提供をしていただき、ウーマロさんとベッコさん初めての共同作業で完成したステージです」

「ちょっとぉ!? オイラとベッコが結婚したみたいなニュアンスの発言やめてッス!」

「別に初めてでもござらんし!」


 そうして、金と技術と労働力を提供した男どもがここに呼んでもらえたと、そういうわけらしい。


「では、ルールを説明いたします」


 ステージ上で、ナタリアがゲーム内容の説明を始める。

 ルールはほとんど一緒で、一対一でじゃんけんをするのだ、

 野球拳と違うのは、負けた方が脱ぐのではなく、ウクリネスが用意した衣装に着替えるという点。

 そして、一回勝負という点だ。


 脱げなくなるまで勝負は続く……というのではない。


「ゲームは勝ち抜き戦で行われます。つまり、勝ち続ければコスプレを免れるというわけです」


 コスプレって言っちゃったよ。

 コスプレでいいんだな、今回の罰ゲームは。折角『可愛い衣装』って感じで言葉を濁そうとしていたってのに。


「では、デモンストレーションとして、私とウーマロさんで勝負をしてみましょう」

「へっ!? 聞いてないッスよ!?」


 あはは、バカだなぁウーマロ。

 事前連絡をもらえるほど、お前の地位は向上してないだろう?


「そして、お互いが負けた時に着ていただく衣装は――こちらです!」


 ナタリアの合図に、トルソーにかけられた衣装がステージ上に登場する。

 ウクリネスのヤツが嬉々として運んできたその衣装は、ナタリアの方が真っ白な大きめのTシャツ(なぜかバケツ付き)で、ウーマロの方は腰蓑と網タイツという謎の組み合わせだった。


「なんッスか、これは!? 悪意の塊である以前に、これは衣装として成立してないッスよ!?」


 懸命に異議を申し立てるウーマロ。だが……


「面白いから、よし!」

「ヤシロさんならそう言うと思ったッスよ!」


 今日は俺が主役だ。

 存分に俺を楽しませるといい!


「では、皆様。ご唱和ください。♪あ、それ野球拳、野球拳、そ~れそれそれそれ、じゃんけんぽん!」


 なにその微妙なメロディーライン!?

 何ラック対策!?


 確かに、オリジナルのアノ歌は教えてないけども!

 でもなんとなく歌いたくなっちゃうもんなんだね、野球拳って!


「はぅわ!? オ、……オイラの負けッス」


 ウーマロがパーを出し、ナタリアがチョキを出していた。

 ……が、俺は見逃さなかったぞ。

 最初ナタリアはグーの形で手を振り下ろしていた。

 しかし、ウーマロが照れてナタリアを直視出来ないことをいいことに、下ろしきる直前でチョキに変更していたことを。

 まぁ、よそ見したまま思いっきりパーの形で手を振り上げ振り下ろしていたウーマロの方が悪いんだが。


 なんにせよ……ウーマロが面白い格好になるのはいいことだ。

 見なかったことにしよう。

 あいつが自分で「オイラの負けッス」って認めたんだし、それでいいだろう。


 俺の隣で「まったく、ナタリアは……」とか呟いているエステラも、何か異を唱える素振りはないし。うん。スルーしよう。


「じゃ、じゃあ……着替えてくるッス……」


 ステージのすぐ後ろに用意された更衣室へ入ったウーマロ。


「このような感じで進行していきます」


 流れは把握した。

 だが……


「ナタリアの方の衣装がいまいち面白くないよなぁ。普通のTシャツじゃねぇか」


 確かに、普段のナタリアとはかけ離れた衣装ではあるが……


「私が負けていれば、スカートなしのブカTだったのですが……」

「Tシャツのみ!?」


 男物の大きなTシャツのみだと!?

 くっそ! 見たかった!


「おまけに、こちらにご用意した水をそこはかとなくシャツにかける予定でした」

「濡れTだと!?」


 白Tシャツが濡れると…………透ける!


「ウーマロのアホー! なんで勝たなかったんだよ!」

「君がナタリアの怪しい行為を見過ごしたんじゃないか」


 くそぅ!

 ナタリアを反則負けにしておくべきだった!


「では、これより本戦に入ります。ヤシロ様と、エステラ様。第一試合を……」

「ちょっと待った!」


 ナタリアの進行を止める。


「お前は言ったな……これは勝ち抜き戦だと?」


 ならばだ……


「お前は白ブカTを濡らさない限り、このステージを降りることは出来んのだ!」

「……ヤシロ。もう少し自重を…………まぁ、君に言っても無駄か」


 エステラの嘆息などもう聞き飽きた!

 それよりも俺は、濡れたナタリアが見たい!


「……いいでしょう。その挑戦、受けて立ちます」


 キリッとした顔で鋭い視線を寄越してくるナタリア。

 こいつも戦士だ。挑まれた勝負に背を向けるということはしないのだろう。


「ちょっと、コレ見てくださいッスよ~。こんな酷い仕上がりになっちゃったッスよ~!」

「あ、ウーマロ。もう次の話始まってるから、さっさとステージ降りてくれる?」

「せめて弄ってほしいッス! 笑うなり茶化すなり! この格好でスルーは地獄ッスよ!?」


 腰蓑に網タイツというキワモノ姿のウーマロだが、まぁ、実際見るとそれほど面白くはない。

「あぁ、うん。変だね」くらいの感想が関の山だ。


「とりあえずウーマロ。今後のトルベックのあり方について語ってみてくれるか?」

「この格好では無理ッス!」


 なら、ステージを降りて大人しく見ていろ。


「……オイラの扱い、日に日に悪くなっていってる気がするッス……」


 ぶーたれるウーマロをウッセとベッコとモーマットが慰めている。

 というか……「ぶはは! お前、その格好!」「かたじけないが、笑いを禁じ得ないでござる!」「まぁ、あれだな。諦めろ。な。ヤシロのすることなんだからよぉ」と、弄られている。

 オッサン同士で盛り上がって……うん、見る価値なし。

 それよりナタリアだ!


「では、勝負を始める前に、ヤシロ様が負けた時の衣装をご紹介します。……こちらです!」


 ナタリアの合図に、ウクリネスが豪奢なドレスを持ってくる。

 まるで、どこかのプリンセスが舞踏会で身に纏うような……って、おい!


「こんなもんを俺に着せようってのか!?」


 悪趣味、ここに極まれりだな、おい!


 と、会場を見渡してみると。


「ゎあ、すてきなドレス……」

「メイクでしたら、ワタクシが施して差し上げますわ!」

「じゃあ、私が髪の毛やってあげるね。これでも、おしゃれは得意なんだから」

「あたしは爪とかいじりたいなぁ」

「じゃ、あたいが体を鍛えてやる!」

「それ、ドレスと関係ないさね……」


 なんか、みんな期待してる!?

 っていうか、面白がってやがる!


「ヤシロさん」


 穏やかに微笑むジネット。

 その落ち着きようから考えても……こいつら、知ってやがったな?


「ヤシロさんなら、きっと似合うと思いますよ」


 一切の悪意を含まない声音で言われるが……似合って堪るか、こんなもん!


「……ヤシロはやがて、ミス四十二区に選ばれる可能性を秘めている」

「あたし、わくわくが止まらないです!」

「うんうん。ボクも期待しているからね、ヤシロ」


 好き勝手言いやがって……


「ふっふっふっ……いいだろう。面白い」


 お前らは、何も分かっていない……

 じゃんけんは、心理戦だ。

 心理戦は詐欺師の十八番。それすなわち――




 今回の野球拳(改)は、詐欺師の独壇場というわけだ!




「ウクリネス! 俺がこれだけのリスクを背負うんだ、対戦相手の衣装も、相応の物を要求するぞ!」

「はい。それはもちろん。みなさん、ヤシロさんが不満を抱いて勝負から降りないよう、『それなり』の覚悟はされているようですから……ご期待に添えるかと思いますよ、うふふ」


 一番楽しんでいるのは、きっとこいつなんだろうな。


「よぉし、みんな! このゲームは、ボクたち四十二区女子連合対ヤシロだ! 団結して勝利をもぎ取るよ!」

「「「おー!」」」


 四十二区vs異世界詐欺師か……上等だ、かかってきやがれ!


「では、ヤシロ様……尋常に、勝負!」


 ナタリアの瞳が、戦士の鋭さを持って俺を睨みつける。

 そして――


「♪あ、それ野球拳♪」

「なぁ、それやめない? 力抜けるからさ、普通にじゃんけんぽんで」


 俺の提案に「そうですか? では、普通で」と了承を示すナタリア。

 しかし、お前は気が付いていない。たった今、お前は俺の術中にハマったということを。


 基本的に、じゃんけんは相手の土俵で行ってはいけない!


 相手の土俵に上げられそうな時は、タイムを挟んででも場の空気を変えるべきだ。

 空間を制する者がじゃんけんを制する。

 じゃんけんってのはな、拳を振り上げる前から勝負が始まっているんだよ!


「行くぞ! じゃんけんぽん!」

「――っ!? ぽん!」


 そして、向こうの準備が整う前に始めてしまえば、相手は深く考える暇もなく手を出さなければいけなくなる。

 考えなしに手を出した時、人は『一番出し慣れている手』を出してしまう。

 つまり、結果は……


「パーとグーで、俺の勝ちだな」


 ナタリアはグーを出し慣れている。

 その理由は……まぁ、次の対戦ではっきりする。


「……まさか、こうもあっさり敗れてしまうとは」

「さぁ、ナタリア。着替えに行こうか」

「ヤシロ! 君は更衣室には近付かないように!」


 エスコートしようとした俺を、エステラとノーマががっしりと押さえ込んできた。

 くっ……これが女の連帯感というヤツか!

 男には抗う術がない。


 そうして、物の数分でナタリアが更衣室から出てくる。

 膝上20センチくらいの際どい丈の、ぶかぶか白T一枚だけを着て。


「わんだーらんどー!」

「ヤシロ、うるさい」


 エステラに脇腹を小突かれた。が、痛くないもんね!


「では、ヤシロ様。お水を……」


 ナタリア自身が柄杓を寄越してくる。

 お、俺が、かけていいのか? 水を! その白Tに!


「え、っと……エステラ、代わりに、やる?」

「なに今さら照れてるのさ……さっさとやってしまいなよ」


 お、おぉう、そうか。

 今さら照れるのは逆に変か。むしろ逆にか。むしろかえって逆にか。そうか。

 で、では……僭越ながら………………ぅわあ……なんだろう、すげぇ見られてる気がする…………変な罪悪感が…………


「じゃ、じゃあ……え、え~い」


 ぱしゃ……っと、水をお腹のあたりにかける。と、「ひゃんっ」と、ナタリアが可愛らしい声を上げて、俺は思わず近くに張り込み中のお巡りさんがいないかをきょろきょろと確認してしまった。

 ……お前、それ、ちょっとダメだろう……どきどき。


「申し訳ありません。思っていた以上に水が冷たかったもので。もう平気です。どんどんおかけください」

「え、いや、もうじゅうぶ…………」


 と、濡れて張りついた白Tシャツ(ナタリアのお腹付近)を見ると…………紺色?


「ちなみに、この下には水着を着用しております」

「先に言えやぁー!」


 バケツごとぶちまけてやった。

 ナタリア、ずぶ濡れ。


 ……くそっ!

 無駄にどきどきしちまったじゃねぇか!

 何が水着だ!

 濡れたシャツが透けて水着が見えたところで……


「けほっ、けほっ、……ご無体です、ヤシロ様……」


 ……なかなかいいね!?

 え!? これ、なんか、すごくセクシーじゃない!?

 濡れた髪を指先で梳いて、張りついたTシャツを恥ずかしげに隠す様は、なんとも言いがたく……


「わんだーらんどー!」

「だから、うるさいって、ヤシロ」


 エステラに脇腹を突かれた。……おい、「小」が抜けたぞ。「小突かれた」の「小」が!


「では、濡れたままで失礼しますが、進行させていただきます」


 職務に忠実なナタリアが、濡れ透けTシャツ(下は健全な水着だよ!)姿で進行に戻る。

 先程の宣言通りであれば、次の対戦相手は……


「それじゃあ、本気でやらせてもらうよ」


 四十二区領主、エステラ・クレアモナ。

 指の関節をぽきぽきと鳴らし、自信に満ち溢れた顔でこちらを見てくる。


「じゃんけんとは、すなわち心理戦。ボクの得意分野だよ」


 などと、小鼻を膨らませているエステラだが……


「お前、ナタリアとのじゃんけんでは勝率低いだろう?」

「なっ、なぜそれを!? ナタリアに聞いたのかい!?」


 いいや、聞いてなどいない。

 ただ、付き合いのさほど長くない俺でも気が付いたことを、ナタリアが気付いていないわけがないと、そう思っただけだ。

 そして、それがそのまま、お前とナタリアの敗因となる。


「ふ、ふん! ナタリアは子供の頃からいろいろと知られている特殊な相手だからね、負けても仕方がない部分があるんだよ。だが、君は違う!」


 人差し指を「んびしぃっ!」と突きつけてくるエステラ。

 それがフラグとなるとも知らずに。


「じゃあ、さっさと勝負しようぜ」

「その前にヤシロ様。一つご提案が」


 ナタリアがしっとりと濡れたまま挙手をして提案を寄越してくる。

 うん。何時間でも見てられるな、濡れたこいつは。

 悔しいかな、『水も滴る~』というヤツだ。


「もし、ヤシロ様のモチベーションに差が出ないというのであれば、負けた時の衣装は着てからのお楽しみ……ということにしてみては?」

「なるほど。その方が見た時の衝撃は大きいか」

「はい。それに――」


 ちらりと、エステラへ視線を向ける。


「どーせエステラ様は負けるでしょうから」

「なっ!? なんでそんなことが言い切れるのさ!? 分からないだろう、勝負は時の運なんだから!」


 いやいや。

 時の運なんて言ってる時点でお前は負けるよ。

 勝負は、始まる前についている。そういうもんだ。


「では、了承が得られましたので、早速勝負へ移ります。♪え~んやこら、野球拳~♪」

「別バリエーションとかいいから! じゃあ行くぞ、エステラ」

「うん! じゃんけん……ぽん!」


 俺は絶対的な自信を持って、グーを出す。

 エステラが出したのは、チョキ。


「そ、そんな……ボクが、負けるなんて……」


 やはりな!

 エステラのようなタイプは、まぁー高確率でチョキを出すんだ。

 こう、「ボク、普通とはちょっと違うから」的に斜に構えて、相手の裏をかこうとするタイプはな。

 グーチョキパーで、わずかだがチョキが一番難易度高い。その『ほんのわずか』が、「ボク、こういう難しいの出来るんだよね」と自慢したがるタイプの人間の心をくすぐるのだ。

 おのれの特技やコレクションを見せびらかすタイプに、こういうヤツが多い。


 それに、エステラはナイフが好きだしな。

 刃物好きも、自然とチョキを好んでしまう傾向がある。親近感というヤツだ。


 そういう情報をひっくるめて、日頃からエステラを見ていると気付けるのだが、こいつは本当によくチョキを出す。

 当然ナタリアもそれに気が付いていて、これまでじゃんけんでエステラに負けるなんてことはなかったのだろう。ナタリアの絶対的な自信は、そこら辺から来ていたのだと推察される。


 もっとも、そのせいでナタリアはグーを出す癖が付いてしまったようだがな。


 ようするに、こいつらは俺にじゃんけんで勝つなんて出来なかったのだよ、最初からな!


「さぁ、エステラ。……着てこい」

「……くっ! けれど、ボクを倒してもまだまだ刺客はいるからね!」


 捨て台詞を吐いてエステラが更衣室へ入っていく。

 しばらくして、中から「えっ、こ、これ着るの!?」なんて声が聞こえてきたりして、期待が高まる。更衣室の中で、ウクリネスのヤツ楽しそうにしてるんだろうなぁ。

 そして、数分後……


「うぅ……なんでボクがこんな格好を……」


 紺色のスクール水着という、ド直球な衣装で登場した。


「ぺったんこの正しい使い方だ!?」

「誰がぺったんこだ!?」


 ご丁寧に、胸には「4の2 えすてら」と書かれた布が縫いつけられている。……昭和の小学校かよ。今時名前布はねぇよ……つか、どこから得た情報だ?


「では、エステラ様はそのまま応援席へお戻りください」

「えっ!? この格好のまま!? みんな普通の格好してる中に戻るの!?」

「大丈夫です。折に触れ、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった観客的な弄りを挟み込みますので」

「絶対やめてね!? 一切を無視するからね!」


 恐ろしく鋭い眼でナタリアを睨みつけてステージを降りるエステラ。

 しかし、顔が真っ赤なのでナタリアがにやにやしっぱなしだ。


「ウチの主、萌え~」

「お前はお前で重症だよな……」


 仲がいいのか悪いのか……


「それではヤシロ様。続けますか? やめて宴会にしますか?」

「やめさせないよ!? ボク一人こんな格好の宴会なんて認めないからね!」

「あの、オイラもこんな格好なんッスけど……まぁ、聞いてないッスよね……」


 外野からのクレームが入り、ゲームは続行することになった。


「次は、ミリィさんです!」

「ぇ……っ! も、もぅ、みりぃ……なの?」


 出番が早まれば、コスプレ期間が長くなる。

 ミリィはあとの方がいいなぁ~とか思ってそうだったが、……ナタリア、鬼だな。


「先程更衣室を覗いたのですが……ホタテが、ありましたね」

「みりぃ、むりだょ!? そーゆーの、むりだからね!?」

「まぁ、ミリィさんの衣装かどうかは、分かりかねますが」

「ぅう…………負けたくなぃよぅ……」


 泣きそうな顔になるミリィ。

 けど、ごめんな。

 ミリィは、負けるんだ。


「じゃあ行くぞ。いいか?」

「ぇ…………ぅ、ぅん。じゃ、……じゃーんけーん……ぽぃ!」


 ミリィ、パー。

 俺、チョキ。

 俺の勝ち。


「ぅそぉ~!?」

「ミリィは素直な娘だからなぁ」


 あっさり負けたことにショックを隠せないミリィ。

 だが、ミリィくらい素直だと、手を読むのは容易いのだ。


 基本的な話になるが、人は勝負事において同じ行動を取ることを嫌う。

『じゃーんけーん』の段階で、多くの者が手を握って『グー』の形を取っているために、『ぽん』の時に「変えなきゃ!」という思考が生まれてくるのだ。

 ミリィのように「負けたくない」と強く思えばこそ、『グー以外』を出そうとしてしまう。


 そして、先程の話になるが、チョキは地味に難易度が高い。


 とある学者の説に寄れば、未就学児はじゃんけんで『パー』を出す確率が最も高く、老人は『グー』が最も多いのだそうだ。

 これは、子供は無駄とも思えるくらいに動き回る性質を持っていることと、グーからパーへの変化が『解放』を感じさせることから子供が好感を持つためなのだとか。

 ほら、ガキって腕を振り回して「どかーん!」「ぼかーん!」「とーぅ!」とか好きだろ?


 で、お年寄りの場合は、最初に握ったグーの状態を維持する方が『楽』と考える傾向が強く、また一瞬のうちに手を変えるという思考が起き難いのだそうだ。

 振り抜く子供はパー。

 置きに行く老人はグー。なんとなくイメージ出来ると思う。


「ミリィはまだまだ純粋な子供だもんなぁ~」

「はぅ……み、みりぃ、もう成人の年なのに……」


 涙ぐむミリィが更衣室へと連行されていき、数分後――


「ぁ、ぁの……変…………かな?」


 更衣室から出てきたミリィは、真っ赤なランドセルを背負っていた。

 赤いジャンパースカートに白いブラウス。三つ折りの白ソックスに、先の丸いエナメルの靴。

 髪の毛はぴよんと跳ねるツインテール。

 ザ・小学生!(低学年)


「ミリィ、すげぇ似合う!」

「ぁは……ょかったぁ……。変な服じゃなくて……」


 いやいや。

 十五歳の女子に着せるには相当に変な部類に入るんだが……知らぬが仏だな!

 つか、ビックリするほど似合っている。連れて帰りたいくらいだ。


「んじゃ、次はあたいだ!」


 意気揚々と壇上へ上がってきたデリア。

 この娘はグーを出します。

 それも、人を殴るような角度と速度で。


「じゃんけん、グー!」


 うん。

 予想通りなんだけど、自分で「グー」って言っちゃってんじゃねぇか。


「あれぇ、負けた!? なんでだ?」


 いや……なんでって。


「勝負は時の運だそうだぞ」

「そっかぁ。あたいよりヤシロの方が運がよかったのかぁ。じゃ、しょうがねぇよなぁ」


 からからと笑い、潔く更衣室へと入っていく。

 きっとデリアなら、どんな服を着ても颯爽と登場するだろう。

 ……と、思っていたのだが。


「で、出なきゃ、ダメ……か?」


 数分間時間をかけて着替えが終わったにもかかわらず、デリアは更衣室のドアに身を隠して、なかなか出てこようとしなかった。

 ナタリアが強引に引っ張り出すと――


「あ、あんま……見んなよぅ……」


 新妻チックなひらひらフリルエプロン(純白プリンセス仕様)を身に着けていた。

 ジネットが着れば問答無用で似合いそうな可愛らしさ満点の衣装なのだが、そういう女の子らしさがデリア的に恥ずかしいらしい。


「こういうのはさ、店長が着るもんだろう? あたいには……似合わない…………よ、な? どうせ」

「いやいや。可愛いぞ、デリア」

「ホントか!? ……えへへ。なら、いっか」


 ハイネックの白セーターに、ベルベットのロングスカートという、普段のデリアからは想像も出来ないおとなしめな私服姿で、嬉し恥ずかしそうにはにかまれると……ちょっとドキッとするな。

 なんというか、デリアの中の『女の子』な部分をもっと発掘したくなってくる…………って、さてはウクリネス、それを楽しんでやがるな?


「ではでは! 次はあたしの番です!」

「ロレッタ。お前、何出す?」

「あたしはですね……って、言えるわけないじゃないですか!?」


 ちっ、引っかからなかったか。


 しかし、ロレッタなら思い通りに操れるだろう。


「なぁロレッタ。『最初はグー』に変更してもいいか?」

「なんです、それ?」


 俺の国でポピュラーだった、ちょっと玄人向けのじゃんけんだと説明すると、ロレッタは「ならば是非そっちでやるです!」と食いついてきた。

 こっちの方が勢いがついてやりやすいんだよな。

「じゃーんけーん、ぽん」はどうしても子供っぽくてな。


「では、勝負です!」


 で、さっきの話になるが、人は同じ手を二度出したがらない。

 ロレッタのような勝ちたがりで、そのくせ相手の裏をかくのが苦手なヤツは。


「最初はグー! じゃんけんぽん!」

「負けたです!?」


 ロレッタは、想像通りパーを出してきた。

「手を変えなければいけない」という思考と、最初はグーの影響で俺の出したグーが印象に残ったことで、「パーを出せば勝てるです!」と単純な脳が勝手に解釈した結果だ。

 いいかロレッタ。考えるってのは、このレベルのことを言うんだぞ。


 更衣室へ向かうロレッタの背中を見送り、一つ息を吐く。

 ……ふぅ。さすがに頭を使い過ぎてしんどくなってきた。


 ロレッタが更衣室に入っている間に少しでも休息を取っておく。

 心理戦は、脳みそが凝るのだ。肩こりのようにな。


 そして、更衣室から出てきたロレッタは……


「なんか、柔らかくて動きやすい衣装です」


 体操服にブルマという、普通な出で立ちだった。


「うん。普通」

「普通やめてです! ここまでみんな、ちょっと新しい自分と出会っていたはずです!」

「『ウチのクラスにいてほしかったなぁ』くらいの感動をありがとう」

「なんか少ない気がするです、感動が!」

「エステラとちょい被ってるけど」

「被ってるとかやめてです! 言われて着ただけですよ、これ!?」


 一通り弄ったので、次の相手を迎え入れる。


「次は私が相手よ、ヤシロ!」

「ネフェリーか」


 ネフェリーはいろいろ考えて、結局失敗するタイプだから……

 俺がこれまで出した手は、パー、グー、チョキ、パー、チョキ……だからグーを出すと踏んでパーを出してくるだろう。


「最初はグー!」

「じゃんけん、パー! あれっ!? 次はグーで来ると思ったのに!」


 ねぇんだよ、そんな法則性。

 いまいち納得出来ない様子でネフェリーが更衣室へと消えていく。


 ……どうしよう、カラッと上がった唐揚げになって出てきたら。「衣って、それかよ!?」って突っ込めばいいのかな。


 なんて思っていると。


「これって、前にナタリアが着てたドレスだよね? 似合うかな?」


 チャイナドレスを着たネフェリーがくるりと一回転してみせる。

 際どく開いたスリットからほどよい肉付きの太ももが覗く。


「あっ! もう、ヤシロ。今、エッチな目で見てたでしょ!? 分かっちゃうんだからね」


 いやいや。

 全然エロい目でなんか見てねぇよ。

 俺はただ……「あ、なんか北京ダック食べたいなぁ」って思ってただけで。なんでかなぁ。


 俺の小腹が空き始めた頃、ノーマがゆらりと壇上へ上がってきた。

 軽く酒が入っているようだ。


「次は、アタシが相手さね……」


 頬が薄く染まり色っぽい。


「ノーマだけ、普通に脱ぐっていうのは?」

「なしさよ!? さぁ、勝負しなね!」


 ノーマか……こいつは手が読みにくいな。

 しかも酔っているとなると…………よし、戦略を変えよう。


「最初はグー!」


 可能な限り早口で力強く言い、ノーマの拳を強めに出させる。

 その反動で大きく拳を振りかぶったノーマ。


「じゃんけん……」


 降り出される、ノーマの手首を見つめる。

 振り下ろされる直前、ノーマの拳が微かに傾いだ。手首の内側が上を向く。


「ぽん! ……負けたさね!?」


 じゃんけんにおいて、振り上げた手を真っ直ぐ振り下ろす時はグーが多いが、横からスライスするように降り出される時はパーが圧倒的に多い。

 試してみるといい。そうすると感じることが出来るだろう。アンダースローを投げるようなモーションで勢いよくグーを出すその違和感を。


 まぁ、男子中高生なら、その違和感すらもコントロールして全力じゃんけんとかするけどな。ノーマはそれに当たらない。


「じゃあ、ノーマ。楽しみにしてる」

「ハ、ハードル上げるんじゃないさよ!? アタシはしょっちゅうコスプレしてるから、ロレッタくらい盛り上がらない結果になるさよ、どうせ」

「はぅわぁ!? なんか今さらっとディスられたですかね、あたし!?」


 外野から飛んでくるロレッタの声をスルーしてノーマが更衣室へ消える。

 そして、待つこと数分……


「想像してたより普通の衣装だったさね。……ちょっとキツいけどねぇ」


 出てきたノーマは、タイトなスカートにそこから覗く黒いストッキング。第二ボタンがはち切れそうな白いブラウスの上には丈の長い白衣を羽織っている。

 これは、これこそは……男子学生の憧れ――



 セクシーな保健の先生だーーーーー!



「体温測ってお注射してください!」

「なんか分かんないけど、ヤシロがそーゆー顔して言ってくることは大抵お断りさよ!」


 あぁ、授業サボってベッドで横になりたい!

 さりげなく、隣にスペースを空けつつ……ほら、いつでも忍び込めるように!


「ウクリネス、ヤベぇ……あいつ、マジで一流だぜ……」


 膝に手を突いて、消耗した体力の回復に努める。

 あぁ……心地よい疲れだ。もし俺が地縛霊だったら、さっきので成仏していたかもしれない。危ない危ない……


「快進撃もここまでですわよ、ヤシロさん」


 大きく胸を張って、イメルダが壇上へと上がってくる。

 こいつは結構なひねくれ者だからなぁ……考えるより動かす方が確実か。


「イメルダって、指先綺麗だよな」

「へぅ!? な、なんですの、急に?」

「いや。そんな綺麗な指先のイメルダとじゃんけん出来るなんて光栄だなぁと思ってよ」

「ほ……ほほほ、ヤ、ヤシロさんも、少しは素直になられましたのね」


 と、高飛車を装ってすげぇ嬉しそうに顔をにやつかせるイメルダ。

 指先を褒められたイメルダが出すのは――


「んじゃ、最初はグー、じゃんけん、ぽん!」


 ――まぁ、パーしかないだろうな。

 チョキでさえ、三本の指は曲がってしまう。そんな「もったいない」ことを、このイメルダがするはずがないのだ。


「負けてしまいましたが……美しさではワタクシがダントツですわね」


 一片の悔いもない様子で更衣室へと消えていくイメルダ。

 そうして、再び姿を現した時には――


「じ……地味、ですわ」


 濃紺のセーラー服に、両サイドでまとめられた三つ編み。そして大きなメガネという、図書室にいてほしい系文学少女の出で立ちへと変貌していた。

 イメルダは、根本的に顔の造りがいいから地味な服装でもきらりと光る物がある。

 こいつなら、「お前、メガネ外した方が可愛いよ」を素でいけそうだ。つか、メガネがあることで魅力が増してすらいる。地味がマイナス要素にならないとは、やるなイメルダ。


 服装に影響されたのか、イメルダが静々と舞台を降りる。

 そして、入れ替わりで飛び込んできたのは、元気いっぱいなイヌ人族の女の子だった。


「次はあたしが相手だよ!」

「ほぅ、次はパウラか」

「ふふん。負けないからねぇ~」


 パウラはこういう危うい発言が多い。

 勝負が確実に、それも確率によって決まるじゃんけんというものにおいて「負けない」なんて発言をして負けたりしたら、それはそのまま嘘になるというのに……

 俺相手だからと油断しまくりなのだ。

 この手のうっかり屋が四十二区には多い。その辺、是正してやらなきゃな。


 そのためにも、ここはさくっと確実に勝っておく。


「最初はグー。じゃんけんグー」

「えぇー! 絶対勝てると思ったのにぃ!」


 パウラは、結構小細工が好きなタイプだからな。

 ここまでの勝負を見て、「あ、グーが少ない。ならチョキ出したら勝てるんじゃない?」とか考えてしまうタイプなのだ。

 チョロいよ、お前は。


「ヤシロあんまりグー出さないから、チョキを出したら最低でもあいこで負けることはないと思ったんだけどなぁ」


 それは、チョキを出すヤツが少ないから必然的にそうなっただけだ。

 俺は、習慣や惰性や癖で勝負を不利にするようなお粗末は仕出かさない。

 それが、異世界おっぱいマイスター……あ、違った、異世界詐欺師の底力ってもんだ!


「まぁいいや。可愛い服着られるの、ちょっと楽しみだったし」


 るんるんと、軽い足取りで更衣室へ向かうパウラ。

 ……恥ずかしい衣装にでも当たればいい。


「ちょっとぉー! 何よこれぇ!?」


 そんな悲鳴と共に出てきたパウラは、それはそれは見事なビキニアーマーを身に着けていた。

 犬っ娘ビキニアーマー!

 異世界のお約束、獣戦士だ!

 おへそと太ももが眩しいぜ!


「もぉ~……露出はノーマの役目なのに……」

「そんなポジションに就いた覚えはないさよ!?」


 顕わになった肩やお腹を手で隠しながらも、尻尾は楽しそうにわっさわさ揺れて、時折期待を込めた視線を俺に向けてくる。

 へいへい。褒めりゃいいんだろ。


「パウラ。適度なエロスだ!」

「エロくないもん! もう! ヤシロのエッチ!」


 これがノーマや、逆にベルティーナとかだったら刺激が強過ぎて、この場にいる男子全員が大変なことになっていたことだろう。

 パウラくらいがちょうどいい。元気があって爽やかだから生々しいエロスもなく、それでいて恥ずかしそうにしているから無性に可愛い。


 うん。適度なエロスだ!


「ほなら、次ウチなぁ~。ウチ、負けたら全裸でえぇわ」

「お~い、誰か。この過度のエロス不法投棄してきてくれないか~?」


 酒に飲まれてふらふらのレジーナが壇上へ上がってくる。

 こいつにコスプレさせて大丈夫か? マジで脱いだりぽろりしたりしそうなんだが……


「ウチ、パー出そうかなぁ~」


 くっ、じゃんけん心理戦の常套手段を……

 さすがにレジーナともなると、これまでの連中のように楽勝とはいかないか。

 ノーマ同様、酔ってるから余計に思考が読めない。


「自分は何を出すん? ん? ナニを出すん?」

「下ネタじゃねぇか!」


 レジーナと酒を掛け合わせると下ネタしか出てこなくなるのか……


「ほならいくでぇ~」


 ふらふらで、全身に力が入っていないレジーナ。

 手をぷらぷら振って、ぷら~んと大きく振り上げる。その間、手はずっとパー。

 あぁ、そうか。こいつ――


「じゃ~んけ~ん……ぱー……あ、負けてもぅた」


 ――酔い過ぎて手に力入らねぇんだな。


 酔っ払うと、人は極端にグーを出さなくなる。

 ぷらんぷらん腕を振り回してパーか、出来損ないのそれこそパーにしか見えないチョキもどきばかりを出すようになるのだ。

 どうも、腕を振った時の脱力感が気持ちいいらしい。

 緩みきった体は、筋肉を引き締める『グー』という行為を最初から拒絶してしまうのだろう。


 そうして、ナタリアに付き添われて更衣室へ入っていったレジーナ。

 再び現れたその姿は――


「うぅ……イヤやわぁ、こんなアホみたいなカッコ……堪忍してほしいわ……」


 ――懐かしの、チアガールだった。

 そう言えば、こいつのチア服は見てなかったんだよな。


「太ももとか丸出しで……こんなん、キツネはんの仕事やのに……」

「だから、アタシはそんな仕事に就いた覚えはないんさよ!」


 いつも黒い長いローブを身に纏い、見えている肌と言えば顔と手くらいのレジーナ。

 こうしてみると、なかなかどうして……いいプロポーションをしている。

 カラフルで明るい色の服のせいで表情まで明るく見える。


「可愛いぞ、レジーナ」

「あ、あほ言ぃなや! ほんま……冗談ばっかりや、自分…………ほんま、ほんまもぅ…………」


 漏れ出す恨み節も語調は弱々しく、照れているのがはっきりと分かる。

 あ~ぁ。モーマットのあのアホ面よ……見惚れてんじゃねぇよ。お前、最初レジーナのことすげぇ怖がってたくせによぉ。


 と、いったところで……

 あと残っているのは、ジネットにマグダにベルティーナか。

 その内の一人、純白の修道服を身に纏ったシスターが壇上へ上がってくる。


「お願いしますね、ヤシロさん」


 シスターベルティーナ。

 …………俺の法則でいくと、お年を召した方はグーを……


「え、何か言いましたか、ヤシロさん?」

「何も言ってません!」


 マジで何も言ってないから!

 そうだな、ベルティーナは若い。めっちゃ若い。

 なので、ここは単純に――


「年寄りはグーが多いっていうから……ベルティーナは…………よし! じゃんけん、ぽん!」


 ――パーを出すようにベルティーナを誘導する。


「あ、負けました……」


 あぁ言えば、ベルティーナなら真逆のパーを出さないわけがないのだ。

 結構意地っ張りで子供っぽいからな、ベルティーナは。


「子供と子供っぽいヤツはパーを好むんだよ」

「そうなのですか。では仕方ないですね、私、まだまだ若輩者ですから」


 嘘には、ならないんだろうなぁ、『若輩者』。


 そうして――説得に時間が掛かったのか――たっぷりと十数分待たされて、俺たちは衣装チェンジしたベルティーナを目撃する。


「今日だけ……ですからね」


 それは、なんの変哲もない私服だった。

 女子が初デートで気合いを入れてオシャレしてきたような、ありきたりであり、それでいてむずむずするような可愛らしさを湛えた服装。

 膝小僧が覗く短め丈のスカートはふわりと控えめに存在感をアピールし、淡い水色のブラウスの上にアンサンブルがオシャレなカーディガンを羽織っている。

 小洒落た小さなバッグを持っている姿も珍しくて目を引くが、何よりもインパクトがあるのは髪型だ。


「ナイスポニーテール!」

「あ、あのっ、あまり見ないでください……!」


 顕わになった首筋が恥ずかしいのか、ベルティーナはしきりに首もとに手をやっている。

 アップにまとめられた髪の束がその度に揺れて、これはもうネコでなくてもじゃれつきたくなる。


「今後も、たまにしてほしいなぁ、ポニーテール」

「こ……考慮、しておきます」


 そそくさとステージを降りていくベルティーナ。

 普段しない格好というのは、やはり恥ずかしいものらしい。うん、いいものを見た。


 そして、次なる刺客がゆっくりと俺の前へとやって来て頭を下げる。


「よろしくお願いします、ヤシロさん」


 ジネット・ティナール。

 陽だまり亭の店長にして……


「四十二区最強のおっぱいを持つ女――」

「最強じゃないですっ! 懺悔してください!」


 しかし、ジネットか……

 こいつは、俺と一緒にいる時間が長くなるにつれ、俺に影響されて狡猾に変貌していった……と、本人だけが思い込んでいる。

 なので、相手の裏をかこうとしてくるだろう。

 俺が「パーを出す」と言えば「と言っておいて、わたしがチョキを出したら勝てるようにグーを出すだろうから……パーを出せば勝てます!」くらいの浅ぁ~い裏読みを。


 逆に、単純過ぎる裏読みって面倒くさいんだよなぁ……よし。


「俺はパーが好きだ」


 と言って、両手でパーを作ってジネットの胸元へ向けて突き出す。

 ……むにむに。


「ゆ、指がむにむにするのはパーじゃないですよ! もう!」


 胸を隠して頬を膨らませる。

 これでジネットには「パーに勝たなければ!」という思いが植えつけられたことだろう。


「最初はグー……むにむに」

「それ、パーですよ、ヤシロさん!?」

「じゃんけん、ぽん」

「……あ」


 思惑通り。まんまとチョキを出したジネット。

 俺は、当然グーを出している。


「うぅ……パーを出そうと思っていたのに……なんとなく、パーに負けてはいけない気がして…………初志貫徹していれば勝てましたのに……惜しいです」


 惜しくないぞ。

 まんまとハマってるから、俺の罠に。

 面白いように手のひらの上で遊ばれてるからな。


「では……行ってきます」


 おっかなびっくり更衣室へと向かうジネット。

 数分後。出てきたジネットは……地味なロングコートを着ていた。

 …………これだけか?

 面白みも何もあったもんじゃないんだが……


「えっと……ここでコートを脱げば、いいんですよね?」


 振り返り、更衣室のドアから覗いているウクリネスに確認を取り、ジネットはゆっくりとコートを脱ぐ。



 中からバイン!



 地味なコートの下からは、控えめなデザインのくせに破壊力が抜群な縦縞のセーターが出てきた。

 直線のはずの縦縞が大きく湾曲して、暴力的なまでに衣服を押し上げる大迫力の膨らみの存在感をこれでもかとアピールしている!

 素材がいいと、シンプルな方が活きてくるよね!

 さすがジネット!

 さすが――


「四十二区最強のおっぱいを持つ女――」

「ですから、最強じゃないですってば! もう、もう! 懺悔してください!」


 折りたたんだコートで胸元を隠し、ジネットがステージを降りていく。


 そして、最後に残った刺客が……


「……お相手仕る」


 マグダ・レイヴァース。

 陽だまり亭最強の戦士であり――


「……陽だまり亭の可愛い担当。おまけに爆乳(予定)である――」

「俺のモノローグに勝手に割り込んでくるのやめてくんない?」

「……そして、狩猟ギルド四十二区支部の代表」

「俺だよ、代表は! おい、マグダ! てめぇ、こっち向け!」


 外野からやかましいヤジが飛んでくる。

 うっせぇ、黙れ。


「……さぁ、ヤシロ。いざ勝負……」


 正直、マグダが一番やりにくいと思っていた。

 こいつは感情を顕わにすることもなければ、何も考えずに突っ込んでくるタイプでもない。言葉で誘導しても乗る時と乗らない時の差が激しい。

 一発勝負での勝率を上げにくい相手の筆頭だ。

 マグダと比べれば、ルシアやマーゥルと勝負する方がまだ気が楽だとすら思える。


 かくなる上は……正々堂々、卑怯な手段で勝ってやる!


「行くぞ、マグダ!」

「……受けて立つ」


 拳を構え……振り上げる!


 じゃんけんにおいて、ルール違反で負け判定を食らう『後出し』。

 それに匹敵する勝率を誇りつつも、反則負けになりにくい究極の卑怯技。それが、『最初から』だ!

「最初はグー!」のタイミングで「最初から!」という宣言と共にパーを出す。「最初はグー」だと思い込んでいる相手は当然グーを出すのでこちらはほぼ100%勝てる。おまけに「最初からって言ったじゃん」と言い張って勝負無効の訴えを却下することも可能な、じゃんけん界において最も悪名高い荒技だ。


 相手がマグダなら仕方がない。



 俺は……非情になる!



「さ~い~しょ~……」


 時間がゆっくりと流れていく。

 世界が、俺とマグダの真剣バトルに置き去りにされている。

 研ぎ澄まされた神経は、神の創り出した世界の法則をも超越する。


 振り上げられたマグダの拳は硬く握られている。

 手首の角度も真っ直ぐ。

 確実にマグダはグーを出す。


 これで、俺の勝ち抜けだ!


「からっ!」


 流れ始めた時間の中で、俺は力一杯手を開いて突き出した。

 俺が出したパーのすぐ前に、マグダの小さな手があり、その手は……


「な……バカな……」


 ……チョキ、を、形作っていた。


「……マグダの勝ち」

「う、嘘だ!? なぜこんなことに!? 俺は、禁忌を犯してまで勝ちに走ったというのに! あり得んっ! なぜだぁ!?」


 正義の味方によって計画がご破算になった悪の秘密結社総帥のように頭をかきむしる俺に、マグダは静かな声で告げる。


「……振り下ろされる瞬間のヤシロの筋肉の動きを観察していた。動物が体を動かす時、必ず筋肉は動く」

「バカな……アノ一瞬で、そんなところを見て、そしてそれに対応してみせたというのか……?」

「……マグダの目を誤魔化すことは不可能」


 こいつ、只者じゃないとは思っていたが……只者じゃなさ過ぎるだろう…………


「さすが……狩猟ギルド四十二区支部の代表だ……」

「だからそれ俺だっつってんだろ! おい、ヤシロ! こっち見ろ、テメェ!」

「……ウッセ、黙れ」

「テメェ、マグダ! 上等だ! 俺と勝負しやがれ!」


 アホのウッセが騒いでいるが、そんなものは耳に入ってこなかった。

 俺が、じゃんけんで負けた…………

 頭で考えたことは、常人離れした身体能力の前には無力なのか……


「く……っ、俺が敗れても、必ずまた第二第三のオオバヤシロが……!」

「そんな大量に現れられて堪るか」


 スク水のエステラが俺の右腕をがっしりと掴む。

 左腕はセクシー保健医のノーマだ。


 ……え、なに?


「では、これより、お待ちかねの…………お着替えターイム!」


 ずぶ濡れ白Tのナタリアが宣言し、いつもと違う格好をした女子たちがわっと壇上へ登ってくる。

 なになになに!? 怖い怖い怖い!


「さぁ、ヤシロさん。ドレスを着ましょうね」

「私は髪の毛をやりたいです。かまいませんか、ジネット?」

「あ、じゃあ、私と一緒にやりましょうシスター」

「あたし、爪磨きたい! 綺麗にしたげる!」

「メイクならお任せくださいまし」

「じゃあ、あたいが体鍛えてやる!」

「だから、それはいらないって最初に言ったですよ!?」

「ぁのね、みりぃね、てんとうむしさんに髪飾りつけてほしぃ、な」

「ほならウチは、着た衣装を適度にはだけさせる係を……」


 以上、順にジネット、ベルティーナ、ネフェリー、パウラ、イメルダ、デリア、ロレッタ、ミリィ、レジーナの発言だ。好き放題言いやがって……


「さぁ、みなさん。レディのお着替えは更衣室で、ですよ」

「「「はーい!」」」


 そうして、十数分というたっぷりとした時間を費やして……プリンセスヤシロが誕生した。


 ……俺の、新しい誕生日って? やかましいわ。


 きらびやかなプリンセス仕様のドレスを身に纏い、外交用にエステラが施すような完璧なメイクをされて、髪の毛も盛りに盛って、あれやこれやとデコレーションされて完成したプリンセスヤシロ。

 それを見た連中の反応は――


「う、うん……まぁ、こうなるよね」

「持てる力をすべて注ぎ込んだのですが……」

「え、っと。あの、わたしは、結構可愛いかと思うの、ですが?」

「そうですね。私はいいと思いますよ」

「いえ、無しですわよ、店長さん、シスター」

「お兄ちゃん、目つき悪過ぎです……」

「……邪悪姫」

「て、てんとうむしさん、男の人だから、ね?」

「メイクって万能じゃないのねぇ」

「あたしも、ちょっと過信してたかも」

「土台って、大切なんさねぇ……」

「あははは! ヤシロ、ぶっ細工だなぁ!」

「これはムラムラせぇへんなぁ」

「うるせぇよ! お前らが勝手にやったんだろうが!」


 エステラもナタリアも、最初ノリノリだったのに途中から「あれ?」みたいな顔をして、ジネットとベルティーナ懸命のフォローもイメルダが一刀両断するし、ロレッタとマグダも途中から完全に笑顔なくなってたし、ミリィの必死の訴えも、ネフェリーとパウラには届かずノーマは何かを悟り、デリアとレジーナは終始あの調子だった。

 言っとくが、俺的な評価では、そこそこイケてるからな? こういう女、きっと探せばどこかにいるから! 街にいたら声くらいかけられるレベルではあるから!


 つか、こういうのって、女装したら「わぁ、……きれい。またやって!」「もう二度と御免だからな!」って展開がお約束なんじゃねぇのかよ! なんでみんな目ぇ逸らすんだよ! で、ちょっとずつ距離を空けてんじゃねぇよ!


 そして、やるだけやってさほど弄られないという、ウーマロ並みの屈辱的扱いを受け、花見は日が暮れるまで続いた。

 この扱い……逆にマスターしてやろうかと、闘争本能が目覚めてきたわ!

 来年の誕生日には、もっと綺麗になっててやるからな!


 って……別に『目覚めた』わけじゃないからな。念のため。


 それよりも何よりも……




 ホタテ、どこで使う予定だったんだよ!? ……来年に期待だな、いろいろと。うん。







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