【書き下ろし】第一回、四十二区最優秀残念女子選手権
――陽だまり亭。ヤシロの部屋
――ヤシロに託された紙を読むマグダ
マグダ「……『第一回、四十二区最優秀残念女子選手権~!』(ぱちぱちぱち)」
ノーマ「なんさね、そのあからさまに嫌な予感しかしない選手権は?」
ジネット「優秀なのに残念なんですか?」
エステラ「深く考えることないよ。どうせヤシロの悪ふざけなんだから」
ベルティーナ「うふふ。なんだかわくわくしますね。選ばれてしまったらどうしましょう」
デリア「とりあえずお祝いにケーキでも食うか!」
ウェンディ「あの……受賞は不名誉なことなのではないでしょうか? 『残念女子』なわけですから」
イメルダ「そのような選手権に、なぜワタクシが呼ばれたのか、理解しかねますわ」
ネフェリー「それを言うなら私もだよ。失礼しちゃうわよね、ぷんっ」
パウラ「……いや、あんたたちはそこそこいい成績残すと思うわよ、たぶん」
ロレッタ「なんか面白そうです。早く結果を聞きたいです!」
エステラ「あぁ……なんか最終的にロレッタが全部持っていきそうな気がする」
ロレッタ「なんでですか!? 酷いです! エステラさんこそいろいろ残念ですのに!」
エステラ「ボクのどこが残念だっていうのさ!?」
ロレッタ・他「「「「「胸」」」」」
エステラ「おぉっと、ここには突然会話に割り込んできて失礼なことを言う人物が複数人いるようだね……君らが受賞したら指さして笑ってやる」
ジネット「まぁまぁ。とりあえず、どのような賞なのか、マグダさんに聞いてみましょう」
ロレッタ「それじゃあマグダっちょ! 早速最初の受賞者を発表してです!」
マグダ「……『残念普通女子』」
エステラ・デリア・ネフェリー・パウラ「「「おめでとうロレッタ」」」
ロレッタ「まだ決まってないですよ!?」
ノーマ「あんた以外にいないさね」
マグダ「……受賞者は『ロレッタ』。理由は『特にない』」
ロレッタ「特に理由もなく残念普通女子に選ばれたですか!?」
マグダ「……受賞者には、副賞として裏庭の草むしりをプレゼント」
ロレッタ「仕事を押しつけられたです!? いや、やれと言われれば喜んでやるですけども!」
デリア「あたい、そういう副賞はいらねぇなぁ」
エステラ「みんなもそうだよ」
マグダ「……次は…………飛ばす」
ロレッタ「マグダっちょ、選ばれたですね!?」
ノーマ「なんだったさね!? 観念して見せるさね!」
マグダ「……この紙はマグダが託されたもの……誰にも見せるわけにはいかない……特に、彼氏いない歴=年齢の女子にはっ」
女子たち「「「「「やかましい!」」」」」
ロレッタ「割といたです、彼氏いない歴=年齢を気にしている女子が!?」
エステラ「ボクらもそうだけど……別に目くじら立てるほどのことではないし」
ジネット「そうですね。そういうのは、巡り合わせですから」
ノーマ「くっそ、金持ちと巨乳は余裕があっていいさねぇ!」
ネフェリー「ノーマだってかなり大きいじゃない」
ノーマ「店長の前じゃ霞むさね! こんなもん、店長に比べりゃエステラレベルさね!」
エステラ「ボクを悪い例えに使うのやめてくれるかな!?」
デリア「んでさぁ、マグダは何を受賞したんだよぉ?」
パウラ「そうよ。気になるじゃない。見せなさいよ」
マグダ「……しょうがない。チラ」
――一同、紙を覗き込む
マグダ「……『残念甘えん坊女子』」
エステラ「なんかちょっといいヤツじゃないか!?」
パウラ「さては、軽く自慢するために見せ渋ったわね!?」
ネフェリー「マグダは日に日にしたたかになっていくわね」
マグダ「……マグダは甘えん坊ではない。大人の女性。これは不名誉。こんなものを羨ましいという女子は年齢的に焦りがある証拠」
ノーマ「うるさいさよっ!」
ネフェリー「落ち着いて、ノーマ! ノーマはさっき何も言ってないから、今回ノーマは範囲外だよ! 含まれてないから!」
ノーマ「流れ弾に当たったんさよ!」
パウラ「そんな、自ら茨の道に踏み込まなくても……」
イメルダ「選考基準はなんでしたの? 参考までに教えてくださいまし」
マグダ「……『マグダはもう大人の女性なんだから、あまりベタベタしちゃダメ。ムラムラしちまうだろ、白い歯「キラーン」』」
イメルダ「捏造ですわ! 確実に捏造されたコメントですわ!」
エステラ「もしヤシロが本当にそんなことを言っていたなら、絶縁も視野に入れて今後の付き合い方を考え直さなけりゃいけないところだよ」
マグダ「……要約すると、『甘え癖が付いてるからもっとしゃんとしろ』と」
パウラ「要約じゃなくて、完全に意訳じゃない」
ネフェリー「マグダを進行役にするのは、ちょっと危険かもしれないわね」
マグダ「……次は、『残念ギャップ女子』」
エステラ「ギャップって言えば、イメルダかな?」
イメルダ「ワタクシですの? どこにもギャップなど無いと思いますけれど」
エステラ「お嬢様なのにただのアホ娘だし」
イメルダ「そっくりそのままお返ししますわ、このノークッション領主」
エステラ「誰がノークッションだ!?」
マグダ「……受賞者は、『ウェンディ』」
ウェンディ「え、私ですか?」
マグダ「……『ウェンディみたいなタイプは家事が得意でいてほしかった』……という、ヤシロの願望が綴られている」
ウェンディ「あの……苦手なのはお料理だけでお裁縫とかは、その…………すみません、ノーマさんとジネットさんの前では出来るとはとても言えない腕前です……」
イメルダ「けれど、エステラさんよりは上ですわよね」
エステラ「君よりもね!」
マグダ「……次は、『残念もう一歩女子』」
ネフェリー「もう一歩? なんのことかしら?」
ジネット「もう一歩、お近付きになりたい……とかじゃないですか?」
ネフェリー「お近付きになりたいのに残念なの?」
イメルダ「では、もう一歩遠ざかりたい、ということかもしれませんわね」
デリア「ひょっとして臭いのか?」
パウラ「えぇっ!? あたしやだ! それ、絶対なりたくない!」
ロレッタ「おぉ、パウラさんがフラグを立てたです!」
パウラ「やめてよそういうこと言うの!?」
マグダ「……というわけで、受賞者は、『パウラ』」
パウラ「うそー!? あたし、臭くないよね!? ちょっと嗅いでみてよ、ロレッタ!?」
ロレッタ「い、嫌です! 臭くないと分かってても、なんか嫌です!」
パウラ「嫌がらないでよ!? 本当にそうみたいに思われるじゃない!」
ジネット「あの、マグダさん。何がもう一歩なのか書いてありますか?」
マグダ「……『ツンデレにしてはデレが少なく、世話焼き同級生ポジションにしては登場が少なく、元気娘にしては無防備なへそチラが少ないからあともう一歩頑張れ』」
パウラ「なんかよく分かんないけど、全部ヤシロの好みじゃない!? しょうがないでしょ、お店があるんだから!」
ロレッタ「けど、臭いとは書かれなくてよかったですね、パウラさん!」
パウラ「うっさい! あんたは当分カンタルチカ出禁だからね!」
ロレッタ「なんでです!? 悲しいです!」
マグダ「……次は『残念エンゲル係数女子』」
ネフェリー「シスター、出番ですよ」
ベルティーナ「みなさんの視線が迷いなく私に集中して、少し悲しいですよ?」
エステラ「いや、でもこれはさすがに……ねぇ?」
ベルティーナ「デリアさんかもしれないですよ。毎晩甘いものを食べているようですし」
ノーマ「シスター……毎時間何か食べてるあんたには、誰も敵わないさね」
マグダ「……受賞者は………………………………なんと………………驚愕のあの人がっ」
ロレッタ「マグダっちょ、無駄に溜めなくていいですから!」
マグダ「……『ベルティーナ』」
ベルティーナ「酷いですねぇ、ヤシロさんは。今度、罰としてケーキを3ホールほどご馳走してもらわないといけませんね」
パウラ「単位! 単位がおかしいよ、シスター!?」
マグダ「……受賞理由のコメントは、ただ一言……『…………な?』と」
エステラ「なんだろう。凄く心にくるコメントだね」
マグダ「……次は、『残念昭和の香り女子』」
ネフェリー「『しょうわ』って何?」
エステラ「さぁ? ジネットちゃん、知ってる?」
ジネット「いえ、聞いたことがありませんね」
マグダ「……受賞者は、『ネフェリー』」
ネフェリー「え? 私なの? ねぇ、『しょうわ』って何よ? 何か書いてないの?」
マグダ「……こちらもただ一言、『バブル期か!?』……と」
ネフェリー「よく分かんない!? よく分かんないけど、なんか酷いこと言われた気がするっ! もう! ヤシロってば、今度見かけたら承知しないんだからっ!」
ノーマ「おそらく、こういうのが『しょうわ』なんだろうねぇ」
マグダ「……次は、『残念弱無し女子』」
エステラ「弱無し?」
デリア「弱点無しなら、あたいなんだけどなぁ」
ネフェリー「いや、デリアには弱点あるじゃない。辛い食べ物」
デリア「あれは弱点じゃないぞ! あれは、食べたら泣きたくなるだけだ!」
パウラ「……弱点なんじゃない」
イメルダ「弱点がないというのであれば、ワタクシですわね!」
エステラ「……深夜、誰もいない部屋から女のすすり泣く声が……」
イメルダ・ジネット「「きゃぁぁああっ!?」」
ロレッタ「店長さんまで!?」
ジネット「ぅう……そ、そういうお話は苦手です」
イメルダ「し、しかたありませんわね。今晩はこちらに泊まって、一晩中一緒にいて差し上げますわ」
ロレッタ「イメルダさんが恩着せがましく店長さんに甘えてるです!?」
ノーマ「凄い怖がりようさね……」
ベルティーナ「でもみなさん、弱点ではないんですよね?」
マグダ「……受賞者は、『デリア』。受賞理由は、『常にフルパワーで何度か骨と関節が「ヤバイッ、ムリッ!」ってなったから』」
エステラ「あぁ……力加減の『弱』がないんだね」
ノーマ「確かに、微調整とは無縁の女だからねぇ、デリアは」
デリア「最強だからな!」
パウラ「なんかポジティブに受け取ってるよ!?」
ネフェリー「まぁ、デリアはそれでいいんじゃない?」
マグダ「……次は、『残念変な趣味女子』」
エステラ「う……それは、なんか選ばれたくない響きだね」
イメルダ「あら? でもエステラさんは変なナイフをたくさん集めているではありませんこと?」
エステラ「変じゃないよ、ナイフは!? 夜中に、暗い部屋で刃物を見つめていると……落ち着くんだ」
ロレッタ「怖いです! エステラさんが何かの末期っぽいです!」
エステラ「イメルダだって、ベッコに作らせたものいろいろ集めてるじゃないか!」
イメルダ「食品サンプルは芸術ですわ」
マグダ「……しかし、すべてがベッコのお手製。いわば、ベッコミュージアムが自宅に」
イメルダ「………………廃棄を……いえ、でもっ!」
ロレッタ「本気で悩むのはやめてあげてください! ベッコさん、ちょっと可哀想です!」
マグダ「……ちなみに、受賞者は『店長』」
ジネット「ふぇっ!? わたしですか!? わたし、何もコレクションとかしてないですよ?」
マグダ「……ヤシロの蝋人形」
ジネット「はぅ…………も、もう、一体も持っていませんし……2.5頭身のものを除けば……」
マグダ「……足つぼ」
ジネット「そ、それは……別に変な趣味というわけでは……」
マグダ「……スケスケパンツ」
ジネット「それは関係ないですよね!? って、透けてませんもん! もう! 帰ってきたらヤシロさんには懺悔をしてもらいますっ!」
ロレッタ「お兄ちゃんがとばっちりを!?」
ノーマ「いや、とばっちりってわけでもないさね……」
マグダ「さて、ここで少し趣向を変えて……次の受賞者は『イメルダ』」
イメルダ「へっ!? ワタクシですの!?」
マグダ「……さて、『残念何女子』でしょうか?」
エステラ「はい! 残念性格女子!」
イメルダ「ワタクシの性格は残念ではありませんわ!」
ネフェリー「はい! 残念面倒くさい口調女子」
イメルダ「これは親のしつけによる、エレガントな口調ですわ!」
パウラ「はい! 残念下着が地味女子!」
イメルダ「なぜそれをバラすんですの!?」
ロレッタ「見たですか?」
パウラ「前に泊まりに行った時、クロークを勝手に開けたの」
イメルダ「なんの躊躇いもなく開けられましたわ!」
パウラ「こう……引き出し『ガラッ』『うわっ、地味っ!』って」
ネフェリー「あんた……それ、ウチでもやったじゃない」
パウラ「ネフェリーは別に地味でもいいんだけどさぁ、イメルダだよ? 金とか銀とか透明とかあるんじゃないかと思ったんだけどなぁ」
イメルダ「そんな悪趣味な下着は持っていませんわ! 店長さんじゃあるまいし!」
ジネット「わたしも持ってないですよ!?」
ノーマ「もう、スケスケのイメージがねぇ……」
ジネット「もう! ヤシロさんには二度懺悔してもらいます!」
マグダ「……正解は、『残念……本当に残念女子』」
イメルダ「念を押されましたわ!? しみじみと言われましたわね、今!?」
エステラ「あっはっはっはっはっ!」
イメルダ「おだまりなさいましっ!」
マグダ「……ちなみに、次はエステラ」
エステラ「え!? ボク?」
マグダ「……ヒントは、胸」
エステラ「もう結構だよ! だいたい想像通りだから!」
マグダ「……『残念永劫フラット女子』」
エステラ「現状じゃなくて未来を悲観視するなぁ!」
マグダ「……というわけで、いよいよ『最優秀残念女子』の発表に……」
ネフェリー「え? ちょっと待って。ノーマは?」
パウラ「そうだよね? 何にも選ばれてないよね?」
ノーマ「……あんたら…………なんとなく空気で分かるだろ? どうせヤシロのことさね……最後にアタシを選んでオチにする気なんさよ……(煙管『すぱー』)」
マグダ「……あ、ノーマ宛にヤシロからのコメントがある」
ノーマ「ん? ヤシロから?」
マグダ「……『今回、ノーマは残念女子に選びませんでした。だから……泣くな?』」
ノーマ「その気遣いが逆に心を抉るさね!」
マグダ「……シャレにならないと判断した模様」
ノーマ「笑い飛ばせるぐらいの度量はあるさよ!? なんなら、ここにいるみんなでアタシに何か残念女子の称号を付けておくれな!」
他「「「「「…………(視線を外し、俯く)」」」」」
ノーマ「あんたら、それが優しさだと思っているなら大きな間違いさね!?」
パウラ「じゃあ、『残念結婚出来ない女子』」
ノーマ「とはいえ、超えちゃいけないラインってのはあるんさよ!?」
パウラ「えぇ……めんどくさ~い」
ロレッタ「あぁ……若い娘が年上の同性に言うと物凄く関係がこじれる危険ワードを……」
マグダ「……ヤシロはこうなることを予測して回避していた。さすが」
エステラ「……じゃあ、なんで呼んだんだよ」
ベルティーナ「あ、そういえば、レジーナさんやナタリアさんは来られてないのですね?」
マグダ「……その二人は殿堂入りしている」
エステラ「初回で既に!? 今回第一回目だよね!?」
マグダ「……さらに、ミリィは可愛いので除外されている」
エステラ「贔屓が留まるところを知らないね、あの男は!?」
ロレッタ「けど、ミリリっちょには、残念なところとかなさそうですし……」
ジネット「わたしも、別に変な趣味を持っているというわけではないのではないかと……」
マグダ「……店長。諦めて」
ジネット「はぅ…………」
マグダ「……では、いよいよ『最優秀残念女子』の発表…………」
エステラ「……な、なんだろう。ちょっと緊張するね」
ノーマ「こうなったら……最優秀残念女子……アタシの名前、呼ばれるさねっ!」
パウラ「いや、ノーマは特別枠で除外だから」
ノーマ「分かんないさね! アタシにもワンチャンあるさね!」
ネフェリー「なんでそんな必死に……」
ロレッタ「なんだか、ノーマさんを見てると、あたしもちょっと欲しくなってきたです!」
イメルダ「そういうことでしたら、ワタクシがいただきますわ!」
ベルティーナ「副賞がケーキ7ホールでしたら、私も選ばれたいですね」
ジネット「シスター、10ホールも食べちゃダメですよ!?」
ウェンディ「あの……3ホールは決定なのでしょうか?」
デリア「なんだ? ケーキ食えるのか? じゃ、あたいがなってやるよ!」
エステラ「いや、あの……みんな。『最優秀残念女子』だよ? 欲しいの? え?」
マグダ「……では、発表します………………ぷるんぷるんぷるんぷるん、ばいん!」
エステラ「ドラムロールの音がおかしいよっ!」
マグダ「……最優秀残念女子は…………ノーマっ」
ノーマ「きたさねぇ―! さすがヤシロだよ、ちゃんと分かってるさねっ!」
――諸手を挙げて喜ぶノーマ
――マグダ、ヤシロに託された紙に視線を落とし、読む
マグダ「……『と、このように簡単に乗せられて大はしゃぎしちゃうので、ノーマが最優秀残念女子に選ばれたわけだ』」
女子たち「「「「…………なるほどぉ。さすがヤシロ……よく分かってるなぁ」」」」
ジネット「でも、ノーマさん、嬉しそうでよかったです」
ベルティーナ「さすがヤシロさん。他人を楽しませることに長けていますね」
ジネット「でも、帰ってきたら懺悔してもらいますっ」
ベルティーナ「私も、ケーキを奢ってもらいましょう」
――「うふふ」と顔を見合わせて笑うジネットとベルティーナ
――ちなみに、副賞は『最優秀残念女子』と書かれた派手な『たすき』で、ノーマは二日間ほど喜んで身に着けて街を練り歩いていたが、ふと「こんなの着けてるの、もしかしなくても物凄く恥ずかしいさねっ!?」と気付いてたすきを外し、タンスの奥深くへ封印したのだった。




