異世界詐欺師のなんちゃって経営術【SS置き場】

【書き下ろし】第一回、四十二区最優秀残念男子選手権

――陽だまり亭。ヤシロの部屋

――ヤシロに託された紙を読むウーマロ

ウーマロ「えっと……『第一回、四十二区最優秀残念男子選手権～！』……？」

ウッセ「なんだよ、そりゃ？」

モーマット「またヤシロの悪ふざけだろ？」

ベッコ「しかるに。ヤシロ氏はお戯れが好きでござるゆえ」

セロン「優秀なのに残念なのですか？　難しいですね」

アッスント「言葉に深い意味はないと思われますよ。ヤシロさんの好みそうな言葉遊びでしょう」

パーシー「つか、なんでオレまで呼ばれてんだよ？　オレ、四十二区の住人じゃねぇぞ？」

ウーマロ「『……と、パーシーが言った場合、「じゃあ帰れば？」と冷たく言ってやりましょう』」

パーシー「んだよ、それ！？」

ウッセ「読まれてんだよ、この寂しがり」

パーシー「誰が寂しがりだ！？」

アッスント「では、お引き取りいただいても構いませんよ？」

パーシー「……まぁ、折角来たんだから、最後まで付き合ってやるけどよぉ」

ウーマロ「この上もないほど寂しがりッス」

パーシー「うっせぇな！　何するのか、早く説明しろよ！」

ウーマロ「えっと、これによるとッスね……『それぞれの分野でもっとも残念な男子を決め、最終的に最優秀残念男子を決定する』んだそうッス」

ウッセ「最も残念なって……そんなもん、ぶっちぎりでヤシロが一番に決まってんだろうが」

ウーマロ「えっと、『黙れ、この巨乳チラ見ンガーＺめ』だ、そうッス」

ウッセ「誰が巨乳チラ見ンガーＺだ！？」

パーシー「つか……あんちゃん、どんだけこっちの返答予測してんだよ……なんかもう、怖ぇよ」

セロン「英雄様は、我々凡人には及びもつかない能力をお持ちですからね」

モーマット「ただ人より性根が腐ってるだけだろうが、あんなもん」

ウーマロ「えっと……『モーマットには……特に言うことないなぁ……』だそうッス」

モーマット「なんでだよ！？　一番付き合い長いだろうが、こん中じゃ！？　なんか言えよ！？　なんかあんだろう！？」

ベッコ「さすがヤシロ氏……どんな言葉が一番心を抉るのか、的確に判断しているでござるな」

ウーマロ「なんでもヤシロさんは『どうしても外せない用事がぽぃ～んとあるから欠席する』んだそうッス」

ウッセ「どこの乳を眺めに行きやがったんだあいつは！？」

パーシー「確実に女の胸関連の用事だな……ったく、あんちゃんは……」

ベッコ「むむ。ここにいる面々は『おっぱい』という言葉を使用しないのでござるか？」

ウーマロ「ヤシロさんに釣られて口にすることはあるッスけど……」

ウッセ「自分から進んで言うかよ、そんな言葉！」

パーシー「そうだぜ！　恥じらいがない男は嫌われるんだぞ！」

アッスント「……という割には、ここにいるどなたよりもヤシロさんの方が女性にモテておいでなように見えますけれどもねぇ、傍目には」

メンズ「「「「「…………」」」」」

アッスント「おや。痛いところを突いてしまいましたかね、うふふふ」

ウッセ「くっそ……こいつ一人だけ結婚してるからって……っ」

セロン「あの、ボクもこの間結婚をいたしまして……」

ウッセ「顔がいい男は結婚しても不思議じゃねぇんだよ！　だがアッスントはコッチ側だろう！？」

アッスント「ウッセさん……今の言葉、しっかりと心に刻んでおきますからね？（血管『ぴくぴく』）」

ウーマロ「あ、ヤシロさんからのメッセージがあるッス。えっと……『さすがアッスント。伊達に「エナたんのぺったんおっぱいすりすりしたいの～」って言い慣れてるわけじゃないな』だそうッス」

アッスント「ウッセさん。さっきの失言をチャラにする代わりに、私に鈍器を一つ融通してください。狩らねばならない男がいるのです」

ウッセ「まぁ待て。気持ちは分かるが、きっと無駄だから落ち着け」

アッスント「まったく……念のため言っておきますが、言っておりませんから」

セロン「みなさん、きっと理解していますよ。英雄様のお茶目な戯れだと」

アッスント「……お茶目？　……セロンさん。嫁が出来た途端にすべてが桃色に見えるのは一種の病気です。危機管理能力の著しい欠如です。家族を守る長としての自覚が足りないと言わざるを得ませんね！」

モーナット「落ち着けよ、アッスント。ヤシロ教の人間には何言ったって糠に釘だ」

アッスント「……私、最優秀残念男子に選ばれるのはセロンさんな気がしますね」

ウッセ「あぁ……俺もそんな気がする」

ベッコ「うむ。拙者も然り」

セロン「ど、どうしてですか？　僕は別に残念なことなど……」

他「「「「「イケメンには残念でいてほしい」」」」」

セロン「なんという一体感！？」

ウーマロ「それじゃあ、部門別に発表していくッス」

ウッセ「ん？　話し合うんじゃないのか？」

ウーマロ「もう決まってるみたいッス」

ウッセ「……授賞式かよ」

ウーマロ「では、最初の部門は……『残念ヘタレ男子』ッス」

ウッセ「セロンだな」

ベッコ「あいやまたれい！　モーマット氏も、エステラ氏とベルティーナ氏へその想いを告げられずにいるヘタレでござるぞ」

モーマット「バ、バカッ！　俺のはそんなんじゃねぇよ！」

アッスント「そうですね。彼は美人で胸の大きな女性なら誰でもいいのです」

モーマット「人をヤシロみたいに言うな！」

アッスント「ヤシロさんは最近、胸の大小を問わなくなっていますっ！」

ウッセ「…………なんつぅ危険人物なんだ」

ウーマロ「受賞者は、『パーシー』ッス」

パーシー「はぁ！？　なんでオレだよ！？」

ウーマロ「『いつまでストーカー続ける気だよ』だそうッス」

他「「「「「あぁ～……」」」」

パーシー「なんだよ、この『納得』みたいな空気！？　つか、ストーカーじゃねぇし！　繊細な恋を傷付けないように、話しかけるタイミング見計らってるだけだし！」

ウッセ「よし、もう分かったから黙ってろ『残念ヘタレ』」

パーシー「その名で俺を呼ぶな！」

ウーマロ「続いては、『残念男らしくない男子』ッス」

ウッセ「セロンか？」

モーマット「まぁ、こん中じゃ一番ひ弱そうだしなぁ」

ウーマロ「受賞者は『ベッコ』ッス」

ベッコ「拙者でござるか！？　確かにアウトドア派ではござらんが……しかし……」

ウーマロ「『ぺったんこ派からの手のひら返しが男らしくない』だそうッス」

ウッセ「あぁ、そうそう。こいつ、金物屋のデカい乳見て寝返ったんだよな」

ベッコ「ノーマ氏の聖おっぱいは芸術でござる！　拙者は寝返ったのではなく『目覚めた』のでござるよ！」

モーマット「……聖おっぱいって」

ウーマロ「次は『残念ロリコン男子』……ッス」

ウッセ「あぁ、ウーマロだな」

モーマット「自分でもそんな気がしてトーンダウンしてるしな」

パーシー「オレ、ロリコンだけは理解出来ねぇんだよなぁ……」

ウーマロ「オイラはロリコンじゃないッス！　マグダたん一筋なだけッス！」

セロン「とにかく、受賞者を発表していただけませんか？」

ウーマロ「……じゃあ、受賞者は……え？　『アッスント』ッス」

アッスント「私ですかっ！？」

ウーマロ「『もはや犯罪級』だそうッス」

アッスント「確かにエナは見た目は若いですが……ヤシロさんよりずっと年上なんですけどねぇ……というか、見たことないはずなんですが……イメージって怖いですね」

ウーマロ「次は、『残念モテない男子』ッス」

ウッセ「うおっ！？　これは選ばれたくねぇ！」

モーマット「確かに、これはキツイな！？」

アッスント「日頃から『マグダたんマグダたん』と口にしているウーマロさんは、他の女性にはモテない……というような意味合いかもしれませんよ」

ウーマロ「あぁ、それなら納得ッス。……それにオイラ、女の人とは話出来ないッスし…………これは、オイラかもしれないッスね。というわけで受賞者は……『モーマット』ッス」

モーマット「ちきしょぉおおおっ！　理由は！？　理由はなんだ！？」

ウーマロ「えっと……『なんとなく』だそうッス」

モーマット「理由がアバウトだぁ！」

ウッセ「これは……えぐいな」

パーシー「あぁ……なんとなくモテなそうって……キツイよな」

ウーマロ「えっと、『これはサラッと』……？　という指示なんでサラッと発表するッス。続いての受賞者は、『残念むっつり男子、ウッセ』ッス」

ウッセ「おい、ヤシロを呼んでこい！　ぶっ飛ばしてやる！」

セロン「まぁまぁ！　落ち着いてください、ウッセさん！」

ウッセ「あの野郎！　ことあるごとに俺にそのイメージを植えつけようとしやがって！」

ウーマロ「けど、チラ見してるッスもんね」

ベッコ「いかにも。傍から見ていて恥ずかしくなるくらいの頻度でチラ見しているでござる」

ウッセ「そ、そそそそ、そんなにしてねぇだろ！？」

アッスント「なるほど……自覚なし、ですか」

ウッセ「やめろ、アッスント！　そういうこと言うと、ホントのように聞こえんだろうが！」

ウーマロ「まぁまぁ。とりあえず最後まで発表するッス。次は……『残念はぁぁあん、マグダたんマジ天使ッス男子』…………受賞者は……」

ウッセ「いや、言わなくていいから」

モーマット「他にノミネートしたヤツいねぇだろ、それ」

セロン「あの……僕、一度も呼ばれてないのですが？」

パーシー「まぁ、なんだかんだ言って、あんたは顔もいいし、性格もまっとうだし、結婚もしてるし、嫁さんもネフェリーさんには負けるが綺麗だし……残念じゃないってことだろう」

アッスント「まぁ、納得出来る理論ではありますね」

セロン「そう……でしょうか？　僕など、ボーっとしていることが多い頼りない男ですし……この前もウェンディに見惚れていて柱に顔をぶつけてしまった、なんてことがありまして」

ウッセ「おい！　誰かここの幸せボケ男子を摘まみ出せ！　空気が不味くなる！」

アッスント「『残念嫉妬男子』があれば、ウッセさんが受賞していたかもしれませんね」

ウッセ「うっせぇ、黙れ！

ウーマロ「では、いよいよ、『最優秀残念男子』を発表するッス」

――ウーマロ、少し間をあけて……

ウーマロ「受賞者は、『セロン』ッス！」

セロン「えぇっ！？」

ウッセ「ここに来て、いきなりのごぼう抜きか」

アッスント「『えぇっ！？』とは……なんだかんだと言いながら、自分は違うと思っていたんですねぇ……ふふふ……お生憎様でした」

モーマット「そういうこと言ってやんなよ、アッスント……」

パーシー「んでさぁ、授賞理由はなんなんだ？　ちょっと聞いてみてぇな」

ベッコ「拙者も気になるでござる。ウーマロ氏、説明を希望するでござるよ」

ウーマロ「えっと、授賞理由は……『イケメン、ムカつく』だ、そう……ッス」

他「「「「「…………」」」」」

ウッセ「やっぱよぉ……ヤシロが一番残念なんじゃねぇか？」

他「「「「「……異議なし」」」」」

――ちなみに、最優秀残念男子に選ばれたセロンには、副賞としてロレッタが練習中に失敗した『残念料理食べ放題』の権利が与えられます。

　……ただし。ウェンディの手料理といい勝負なので、セロン的になんの苦にもなりませんでしたとさ。