【書き下ろし】ナタリアとギルベルタの給仕対決
――陽だまり亭
ギルベルタ「遊びに来た、私は。友達のヤシロ」
ヤシロ「お前はまた、連絡もなくひょっこり来やがって」
ナタリア「大人の遊びをしに来ました、私は。夜の帝王ヤシロ様」
ヤシロ「無差別に風評被害ばら撒くヤツよりかはマシだけどな」
ギルベルタ「おや、ナタリアさん」
ナタリア「あら、ギルベルタさん」
ナタリア・ギルベルタ「「奇遇」」
ヤシロ「嘘吐け! 示し合わせたとしか思えねぇわ!」
ギルベルタ「本当に奇遇、ここで会ったのはナタリアさんと」
ナタリア「その通りです。単に私が、面白そうなタイミングを見計らって割り込んできただけで」
ヤシロ「犯人はこの中にいる!」
ギルベルタ「犯人?」
ヤシロ「いや、別にいいんだが……お前ら、こんなとこで油売ってていいのか?」
ギルベルタ「領主会議が開かれている、本日三十五区では」
ヤシロ「ここで何してんだ、お前は!?」
ナタリア「エステラ様も参加しておられます」
ヤシロ「お前もここにいていい人間じゃないだろ!? ちゃんと付き添っておけよ、給仕長!?」
ナタリア・ギルベルタ「「……なぜ私が?」」
ヤシロ「給仕長だからっ!」
ナタリア・ギルベルタ「「……盲点」」
ヤシロ「仲良しか!? それとも、給仕長の資質ってそういうとこにあるのかな!?」
ギルベルタ「どうやら、仕事をするべきらしい、私は」
ナタリア「そんなこと、考えたこともありませんでした」
ギルベルタ「いや、考えておくべき、あなたは、常に」
ナタリア「そういう時は短く、一言で、『なんでやねん』と言うといいそうですよ」
ギルベルタ「『なんでやねん』」
ナタリア「今ではないです、ツッコミのタイミングはっ!」
ナタリア・ギルベルタ「「どうも、ありがとうございました(揃って『ぺこり』)」」
ヤシロ「何がしたいんだ、お前ら!?」
ナタリア「レジーナさんから、『面白い会話術』というものを伝授されまして、少し披露を」
ヤシロ「余計なことばっかり吸収しやがって……」
ナタリア「しかし、……そうですね。やはり私たちは仕事をするべきでしょう」
ギルベルタ「同意する、私は、ナタリアさんの意見に」
ヤシロ「よかったよ。まともな思考回路が残ってて」
ナタリア「では、これより、ヤシロ様に尽くしたいと思います!」
ギルベルタ「同意する、私は、ナタリアさんの意見に!」
ヤシロ「残ってなかった、まともな思考回路!?」
ナタリア「給仕対決です、ギルベルタさん! いや、ギルベルタ! いや、ギルベルタさん!」
ヤシロ「メンドクセェな、お前!?」
ギルベルタ「受けて立つ、ナタリアさん! いや、ナタリアよん!」
ヤシロ「そうじゃない! 数を増やす意味が分からない!」
ナタリア「では、どちらがよりヤシロ様を満足させることが出来るか、勝負です!」
ギルベルタ「受けて立つ、私は!」
ヤシロ「大人しく帰って、職務についてくれるのが俺の精神衛生上一番よろしいんだが?」
ナタリア「まずはお茶です!」
ギルベルタ「お茶は特異、私は!」
ヤシロ「ちょっと待て!? 『得意』だよな? なんかちょっと違うように聞こえたんだけど!? 普通のお茶出てくるんだよな!?」
ギルベルタ「特疑」
ヤシロ「『特技』って言ったんだよな!? 特別に疑わしいんじゃないかって気がしてきたんだが!? 気のせいだよな!?」
ギルベルタ「入れてくる」
ヤシロ「ナタリア! 今すぐギルベルタを止めろ! 絶対ろくでもないことになる!」
ナタリア「ですがヤシロ様……ドジっ娘は可愛いですよ?」
ヤシロ「自分に被害がない場合だよ、それは!」
ギルベルタ「入れてきた」
ヤシロ「明らかに早い! 絶対普通のお茶じゃないだろそれ!?」
ギルベルタ「大丈夫。ちゃんと絞った、私は」
ヤシロ「そのワードが出た時点でアウトだよ! なに絞ったんだよ!?」
ギルベルタ「……それは、聞かない方がいいと思う、私は」
ヤシロ「聞かない方がいいようなもん、飲まそうとしてんじゃねぇよ!」
ナタリア「では、ここは私がお茶を入れて差し上げましょう」
ヤシロ「まぁ、ナタリアのお茶は美味いからな。『知ってる』って、こんなに心にゆとりを与えてくれるんだな」
ナタリア「お待たせしました。世にも珍しいハチノコ紅茶です」
ヤシロ「なぜ冒険をした!?」
ナタリア「ハチノコは栄養価も高く、お肌もぷにぷにになるんですよ。お好きですよね、ぷにぷに?」
ヤシロ「ぷにぷにしたお肌をむにむにするのは好きだけども! 自分の肌をぷにぷにしても、面白くもなんともねぇんだよ!」
ギルベルタ「『ぷにぷにをむにむにが好き……』っと」
ヤシロ「メモるな! どこで活用する気だ!?」
ナタリア「味の良い紅茶に、ほんのちょっと見た目に『むぃむぃさん』っぽいハチノコが浮かんでいるだけですよ」
ヤシロ「いくら可愛らしく言っても、ハチノコは無理! 俺には無理!」
ナタリア「そうですか……『ほっぺたにハチノコが付いてるぞ(ひょい、ぱく)』という展開を期待したんですが……」
ヤシロ「ないよ!? 『ひょい、ぱく』もないし、ほっぺたにハチノコ付けてる女子もない! ないもの尽くし!」
ギルベルタ「『ほっぺたにむぃむぃさん……』っと」
ヤシロ「メモ取るなら、情報は正確に聞き取っとけよな!?」
ナタリア「お茶の気分ではないようですので、別の癒しで競いましょう」
ヤシロ「もう『癒しで競う』って時点でおかしいだろ」
ギルベルタ「普段主にどのような癒しをしている、ナタリアさんは?」
ナタリア「バストアップマッサージですね」
ヤシロ「俺には必要ないな!?」
ナタリア「ギルベルタさんは?」
ギルベルタ「触角ぷにぷに」
ヤシロ「それもあいつ専用の癒しだよ!」
ナタリア「あとは……」
ギルベルタ「そう……」
ナタリア・ギルベルタ「「添い寝」」
ヤシロ「お前らんとこの領主、ちゃんと仕事してるの!?」
ナタリア「どちらの添い寝がより癒されるか……」
ギルベルタ「勝負したい思う、私たちは」
ヤシロ「こんな昼間っから眠れるか!」
ナタリア・ギルベルタ「「はいっ! 眠れます!」」
ヤシロ「なんてハッキリしたダメ発言!?」
ナタリア「サービスいたしますよ。腕枕でも膝枕でもお尻枕でも」
ギルベルタ「うむ。サービスする、私も。胸枕でも乳枕でもおっぱい枕でも」
ヤシロ「ぐらぁ……」
ナタリア「はっ!? ヤシロ様の心が、ギルベルタさんの方へ大きく傾く音が聞こえました!?」
ヤシロ「と、とにかく! 俺はまだ仕事中なんだから寝てられねぇんだよ。寝たきゃお前らだけで寝てこい」
ナタリア・ギルベルタ「「では、失礼して」」
――ナタリアとギルベルタ、揃って厨房へ入っていく
ヤシロ「……って、仕事に戻れよ、お前ら!?」
――この後、ナタリアとギルベルタは八時間たっぷりと眠り、夕飯を食べて帰っていきましたとさ。めでたしめでたし。




