【後日譚36話あとがき】エステラとリカルド、幼馴染の他愛無いやりとり
――四十一区、領主の舘。リカルドのプライベートルーム
執事ジジイ「紅茶とお茶請けでございます。ご堪能くださいませ」
エステラ「ありがとう」
執事ジジイ「では、ごゆるりと……失礼いたします」
――執事ジジイ、深々と礼をして部屋を出ていく
エステラ「君のとこの執事も、随分と丸くなったね」
リカルド「最近、菓子作りに嵌ったみたいでな。気付けば何かを食ってやがるんだ」
エステラ「へぇ~、それで『丸くなったんだろう』って? わ~、リカルドおもしろ~い」
リカルド「う、うっせぇな!? ちょっと言ってみたくなっただけだよ! ……二度と言わん」
エステラ「またそういう迂闊なことを言う……ここにヤシロがいたら、今の『二度と』ってところを使って散々いじめられるよ?」
リカルド「く……っ、あいつの話なんかすんじゃねぇよ。……気分悪ぃな」
エステラ「くっくっくっ……とかなんとか言って。結構気に入ってるんじゃないのかい?」
リカルド「誰が! 最も気に入らん人間の内の一人だ」
エステラ「へぇ。ヤシロって、君にとってそんなに特別な人間なんだ」
リカルド「……お前は、ホンットに口が回るようになったな?」
エステラ「そりゃ、もう一年以上一緒にいるからね、君の『最も気に入らん人間の内の一人』と」
リカルド「……で? どうなんだよ?」
エステラ「どうって?」
リカルド「もうそろそろ、深い関係にはなったのか?」
エステラ「ごふっ!(紅茶を『ぶふーっ!』)…………げほっげほっ。な、なに言ってんのさっ!? あ、あるわけないだろう、そんなこと!?」
リカルド「んだよ。まだかよ……」
エステラ「いや、まだとか…………別に、ヤシロとはそういうんじゃ……」
リカルド「お前なぁ。そんなことじゃ、あの胸の大きな女に取られちまうぞ?」
エステラ「…………だから、そんなんじゃないって」
リカルド「そうかい…………まぁ、向こうはアイドルだのチアガールだので忙しそうだし、もう少し猶予はあるかもしれんがな」
エステラ「…………ん?」
リカルド「だが、キツネ人族の中では、かなり上物だ。油断はするなよ」
エステラ「ちょっと待って……え? ノーマ?」
リカルド「おう。……あの胸はかなりのもんだからな。あの男が夢中になるのも頷けるがな」
エステラ「ジネットちゃんじゃなくて?」
リカルド「ジネット? 誰だ、そいつは?」
エステラ「陽だまり亭の店主で、大食い大会で料理番してたじゃないか」
リカルド「んなヤツ覚えてねぇよ。なんだよ、あの男は乳のデカい女がいいんじゃないのか?」
エステラ「ノーマよりも大きいんだよ、ジネットちゃんは!」
リカルド「バケモノか!?」
エステラ「ボクの親友に失礼なこと言わないでくれるかな!?」
リカルド「……しかし、アレよりデカいのがいるのかよ……………エステラ。お前、今まで何してたんだよ?」
エステラ「努力はしてたさっ! 誰よりも、人一倍ねっ! そして大きなお世話だ、コノヤロウ!」
リカルド「お前、もっとしっかりしろよ。欲しいものは奪ってでも手に入れるくらいの気概がなきゃ、逃げられちまうぞ。幸せってやつによ」
エステラ「うるさいなぁ…………そういう自分はどうなのさ? いい人いないのかい?」
リカルド「…………アレを見ろよ」
――部屋の片隅に山と積まれたお見合いの紹介状
エステラ「へぇ。より取り見取りじゃないか」
リカルド「数が多いだけで、ジャンルが偏りまくってんだよ」
エステラ「ジャンル?」
リカルド「あえて分類するなら、……『メドラ系女子』ってとこだ」
エステラ「あははははっ! いいじゃないか。いざという時は守ってくれそうだね」
リカルド「冗談じゃねぇ! 俺は、もっと細身のヤツが好きなんだよ! どう転んでもメドラみたいにならないようなな!」
エステラ「へぇ~。君がか弱い女の子を好きだとは、初耳だね」
リカルド「別にか弱くなくても構わねぇよ。……むしろ、芯はしっかりしてるくらいでなきゃダメだ」
エステラ「注文が多いねぇ。そんなにモテるわけでもないのに」
リカルド「やかましい。一生の伴侶だ。そりゃこだわるさ」
エステラ「こだわるというより、心に決めた相手がいるって感じだけどね」
リカルド「ふん……俺はただ、有象無象の中から選ぶ気はねぇってだけだよ」
エステラ「しかし、君が結婚について考えてるとはねぇ。昔から君を知っている身としては、少し意外だよ」
リカルド「俺たちには責任があるだろうが。子孫を残し、領主の座をきちんと受け継いでいかなけりゃならねぇ」
エステラ「それは分かるんだけど……今は施政が楽しくてね。それどころじゃないんだよね、正直なところ」
リカルド「くくっ、奇遇だな。俺もだ。どこかのアホのせいで、面白いように街が発展してる最中なんだ」
エステラ「そうそう。これまで停滞かジリ貧だったはずなのに、ちょっとしたきっかけで何もかもが上手く回るようになったんだよね」
リカルド「まるで、錆びて固まっていた歯車が噛み合ったみたいな気分だ」
エステラ「上手いね。言い得て妙だよ」
リカルド「その調子じゃ、テメェの結婚は二十代になりそうだな」
エステラ「四十代までに出来れば御の字さ」
リカルド「おいおい。ガキが成人するまでは領主をやめられないんだぜ?」
エステラ「今の四十二区なら、ボクは八十までだって領主でいたいよ」
リカルド「欲張りめ。…………だが、それも分かるな」
エステラ「それじゃあ、君の結婚も三十代くらいかもね」
リカルド「ふん……それも悪くねぇ」
エステラ「ただ、親不孝だとは思うよ」
リカルド「ん?」
エステラ「孫の顔を見せる自信がないんだ」
リカルド「くはははっ! いいじゃねぇか。孫の顔が見たきゃ死ぬ気で長生きしろって言ってやれ。親孝行になるぞ」
エステラ「あんまり丈夫な人じゃないんだよ。少しは、焦りもあるんだけどね……」
リカルド「…………そうか」
エステラ「……うん」
リカルド「…………」
エステラ「…………」
リカルド「……んじゃあ、よ」
エステラ「へ……?」
リカルド「お互い、三十になっても、相変わらず相手がいないようなら……」
エステラ「……いない、ようなら?」
リカルド「一緒になるか?」
エステラ「え……」
リカルド「お前は、ここ数ヶ月で大きく成長したし、実際領主としてすげぇ頑張ってる、メドラもお前のことは認めてるくらいなんだぜ。……何より、お前は昔よりもいい顔をするようになった」
エステラ「リカルド……」
リカルド「区は統合することになるが、俺とお前が揃ってりゃどうってことはねぇ。きっと上手くやれる。……どうだ?」
エステラ「…………」
リカルド「…………」
エステラ「……リカルド」
リカルド「…………ん」
エステラ「普通に嫌なんだけど?」
リカルド「はぁっ!?」
エステラ「いや、だって! リカルドすっごい意地悪だし、……正直、顔も性格も全然好みじゃないし……」
リカルド「いや、待てよ! 俺、言っても、そんな悪くねぇだろ!?」
エステラ「………………え?」
リカルド「真顔で驚くなよ!? 見ろよ、あの見合いの数を! 百はくだらねぇんだぞ!?」
エステラ「リカルド……メドラ系女子にモテて、嬉しい?」
リカルド「嬉しかねぇよ! けど、それだって女だ! 俺がモテてることに違いはねぇだろ!?」
エステラ「じゃあ、その中から選ぶんだね。いっそ、一夫多妻にしてみたら?」
リカルド「一人でも手に余るのに複数なんか御免だ!」
エステラ「とりあえず、四十一区との統合なんて御免だよ。ボクは一人ででも四十二区を守りきる。いざとなったら養子でももらってね」
リカルド「お前っ!? そんな嫌か!?」
エステラ「なに……そんなにボクと結婚したいの?(「うわぁ……」みたいな顔)」
リカルド「そうじゃねぇよ! テメェにもらい手がなかったら、俺が仕方ねぇからもらってやるって…………その『うわぁ……』みたいな顔をやめろっ!」
エステラ「…………じゃ、帰るね」
リカルド「おぉいっ、待て待て! このまま、俺がフラれたみたいな感じで帰んじゃねぇよ!」
エステラ「リカルドを、きっぱりフッて帰るね。じゃ!」
リカルド「待て、エステラ! お前、今日泊まってけ! じっくり語り合おうぜ! 一晩中!」
エステラ「ごめん……ボク、嫁入り前だから」
リカルド「ぬゎぁあああ、ムカつく! なんか俺がグイグイ迫ってるみたいでムカつく! 違うからな!? もしそうなったらって仮定で、家のためにって使命感から、仕方なくだからな!?」
エステラ「それでも、ボクは御免だね!」
リカルド「お前、俺のこと嫌い過ぎるだろう!? ちょっと待て! 帰ろうとすんな! おいっ! 走り出すな! ……クッソ、やけに足が速いっ! 爺! その不届き者をひっ捕らえろ! 絶対逃がすな!」
――エステラ、光の速さでダッシュ!




