【後日譚32話あとがき】ベルティーナを口説き落とす
――教会、執務室
――ソファに横たわるベルティーナ
ベルティーナ「……困りましたね。熱のせいで立てないだなんて……」
ヤシロ「ベルティーナ。入るぞ?」
――ヤシロ、おかゆを持って入ってくる
ヤシロ「顔色悪いな。やっぱり私室に戻った方がいいんじゃないか?」
ベルティーナ「いえ。ここで構いません。というか、ここにいたいんです。ここなら、子供たちの声が聞こえますから」
ヤシロ「…………」
ベルティーナ「おや? どうかしましたか?」
ヤシロ「俺……ベルティーナのそういうところ、凄く好きだな」
ベルティーナ「――っ!?」
ヤシロ「分かった。じゃあここにいろ。その代わり、俺がしっかりと看病してやる。だから、早く元気になってくれよな」
ベルティーナ「は……はい。そ、そう、ですね」
ヤシロ「ん? どした?」
ベルティーナ「い、いいえ。……あの、先ほどの発言は…………」
ヤシロ「先ほどの?」
ベルティーナ「やっぱり、なんでもないですっ! もう、大丈夫ですから」
ヤシロ「ふふ、変なヤツだな」
――ヤシロ、ソファの前に屈み、ベルティーナのすぐ隣へ近付く
ベルティーナ「近…………く、ないですか?」
ヤシロ「食わせてやるよ。起きられないだろ?」
ベルティーナ「い、いえ。これくらいは、一人で、大丈夫ですから」
ヤシロ「ダメだ。お前はすぐ無理をするからな。完治するまでは全部俺がやる」
ベルティーナ「そんな、……強引です」
ヤシロ「そうさせてくれよ。元気のないベルティーナを見ていると、胸が苦しいんだ」
ベルティーナ「ヤシ……、ヤシロさん……あの、今日は、何か変じゃないです、か?」
ヤシロ「そう思うなら、早く元気になってくれ」
ベルティーナ「いえ、私のことではなく、ヤシロさんが、なんだか……」
ヤシロ「もし俺が変なのだとしたら、それは……」
――ヤシロ、ベルティーナの顔に、グッと顔を近付ける
ヤシロ「お前の笑顔を見ていないせいだ。お前の笑顔だけが、俺を俺にしてくれる……本当の自分になれるのは、ベルティーナ、お前の前でだけなんだ」
ベルティーナ「――っ!?」
ヤシロ「あれ? 顔が赤いな……ほら、おでこ貸して」
ベルティーナ「えっ……!?」
――ヤシロ、ベルティーナのおでこに、おでこを重ねる
ベルティーナ「近っ!? ち、ちち、近い、近いです、ヤシロさん!?」
ヤシロ「しっ…………静かに」
ベルティーナ「し…………しじゅかに……って…………いわれましても…………あの…………」
――しばらくの間、静かな時間が二人を包む
ベルティーナ「…………」
ヤシロ「…………」
ベルティーナ「…………ぁの」
ヤシロ「しっ……黙って」
ベルティーナ「………………はぃ」
ヤシロ「………………ベルティーナは、綺麗な瞳をしているな」
ベルティーナ「にょーんっ!?(限界がきて、体を大きくのけぞらせ、ソファに倒れ込む)」
ヤシロ「おい、大丈夫か?」
ベルティーナ「大丈夫です! ですので……しばらくは、そっとしておいてください」
ヤシロ「…………俺、いない方がいいか?」
ベルティーナ「え……(思わず体を起こす)」
ヤシロ「………………邪魔、かな?」
ベルティーナ「ヤシロさん…………」
――落ち込むヤシロ
――そんな姿を見て、柔和な笑みを浮かべるベルティーナ
――両腕を広げ、ヤシロを受け入れる
ベルティーナ「そんなわけ、あるはずないでしょう?」
――ヤシロの頭を抱き、優しく撫でる
ベルティーナ「さっきは、少し……その…………恥ずかしかっただけです。ヤシロさんが、少し、いつもと違って見えましたので…………でも、もう大丈夫です。ヤシロさんは、何があってもヤシロさんです。私にとって、とても大切な人ですよ」
ヤシロ「じゃあ、俺の気持ちを受け取ってくれるか?(急に顔を上げ、ベルティーナの両手を握る)」
ベルティーナ「ぅぇえっ!?」
――ヤシロ、ベルティーナの手を握り、真剣な眼差しでジッと見つめる
ヤシロ「ベルティーナ……」
ベルティーナ「…………は、はい」
ヤシロ「………………愛して……」
エステラ「そこまでだよっ!」
――突然入ってくるエステラとジネット
――エステラ、ヤシロの首に縄を付け、ベルティーナから引き離す
ジネット「シスター、大丈夫ですか!?(駆け寄る)」
ベルティーナ「え? え? ……あの、これは一体?」
ジネット「実は……レジーナさんが……」
ベルティーナ「レジーナさんが?」
ジネット「その……幾分怪しい惚れ薬という物を作ってこられて、それで、誤って陽だまり亭で撒き散らしてしまったんです」
ベルティーナ「ほ……惚れ、薬……?」
エステラ「それでヤシロが、『ジネットがそんなもんを吸い込んだら、それはもう凶器だろうが!?』って、舞い散った惚れ薬を片っ端から残らず吸い込んだんですよ」
ベルティーナ「…………それで」
ジネット「それからヤシロさん、見かける女性見かける女性、手当たり次第に口説き始めてしまいまして……」
ベルティーナ「…………ヤシロさん…………あなたが吸った方が、よっぽど凶器ですよ……(ふらりと倒れ、ソファに沈む)」
ジネット「シスター!?」
ベルティーナ「……ジネット、すみません。私室へ連れて行ってくれませんか…………今日はもう、静かに、ひたすら静かに眠りたいのです……」
ジネット「そんなにお体が……?」
ベルティーナ「いえ…………体よりも………………心臓が……(ガクッ)」
ジネット「シスター! シスター!? 心臓は体の一部ですよ、シスター!?」
エステラ「……うん、ジネットちゃん。今はそれ、割とどうでもよくない、かな?」
ヤシロ「ベルティーナ! ベルティーナの私室に入りたーい! そしてクローゼットを漁りたいっ!」
エステラ「君、もう惚れ薬とか関係なくなってるよ!?」
ベルティーナ「ヤシロさん…………私の体調が治ったら…………懺悔、しに来てください……」




