【91話あとがき】ロレッタの押されると痛いツボ
――陽だまり亭。夜。ヤシロの部屋
ロレッタ「お兄ぃ~ちゃん!」
ヤシロ「なんだ、まだいたのか?」
ロレッタ「お兄ちゃんは最近お疲れなので、あたしがマッサージをしてあげるです!」
ヤシロ「どうした? 金ならないぞ」
ロレッタ「ここで料金発生するなら、危険過ぎて今すぐ帰るですよ……」
ヤシロ「なんだ、タダでいいのか?」
ロレッタ「その言い方も、ちょっとどうかと思うですよ!?」
ヤシロ「でもどうしたんだよ、らしくねぇな」
ロレッタ「あたしは基本、人に優しくをモットーに生きてるで……ごめんなさいです。本当は自分の好奇心を満たすことを最優先にしている節があってちょっと反省したりする時もあるですから、腕を真っ直ぐ伸ばしてあたしを指さすのは勘弁してほしいです」
ヤシロ「で、俺をマッサージしたいって?」
ロレッタ「はいです。店長さんに強烈なマッサージの仕方を教わったです!」
ヤシロ「……お前、やられたのか?」
ロレッタ「………………今日ほど、死ぬかと思った日はなかったです……あと、店長さん、ツボをグリグリしている間、ちょっと楽しそうだったです」
ヤシロ「ジネット、なんでか足つぼになると性格が攻めに変換するんだよな……」
ロレッタ「それで、お兄ちゃんはあたしたち以上に歩き回ってるから、絶対悶絶するはずです! やりたいです! 見たいです、お兄ちゃんの悶絶!」
ヤシロ「お前がろくでもない理由でやりたがっていることはよく分かった。よし、今すぐ帰れ」
ロレッタ「はっは~ん、です。お兄ちゃん、怖いんですね?」
ヤシロ「うん、怖い。さぁ、帰れ」
ロレッタ「待ってです! もうちょっと構ってです! 折角こんな時間まで居残ったです! 今日はもうお泊まりの覚悟でマッサージさせてもらうです!」
ヤシロ「泊まるなら、ちゃんとマグダの部屋行けな……」
ロレッタ「さぁ、靴を脱いであたしの前に差し出すで…………いたたた……違うです、顔面に押しつけるんじゃないです……そして、ちょっと臭いです……」
ヤシロ「じゃあ、やってみろ」
ロレッタ「ふっふっふっ……ひぃひぃ言わせてやるです!」
ヤシロ「……女の子がそんな言葉を口にするんじゃない」
――ロレッタ、ヤシロの足の裏をグリグリする
ヤシロ「うん。上手いな」
ロレッタ「あれ? 力が足りないですかね? なら、こ、れ、で、どうですっ!?」
――ロレッタ、さらにグリグリ
ヤシロ「はははっ、うんうん。効くなぁ。痛いわぁ」
ロレッタ「軽いですっ!? なんで、そんな余裕なんです!?」
ヤシロ「なんでも何も、健康体だからだろ?」
ロレッタ「そんなのおかしいです!」
ヤシロ「あとは、ちゃんとツボを押さえないと効果は薄いぞ?」
ロレッタ「ツボを?」
ヤシロ「よし、ちょっと教えてやろう。足を出せ」
ロレッタ「う……分かったです。お互い様ですしね」
ヤシロ「それは、使い方がちょっと違うなぁ……」
――ロレッタ、素足をヤシロに差し出す
ヤシロ「いいか。相手が悪そうなところを押していくんだ」
ロレッタ「例えばどこです?」
ヤシロ「まず、ここは胃なんだが、どうだ?」
ロレッタ「あ~、痛気持ちいいですぅ~」
ヤシロ「お前は鉄の胃袋だもんな、劣化版ベルティーナだ」
ロレッタ「健康なところは痛くならないです?」
ヤシロ「そうだ。だが、老廃物が溜まっていそうなところ……例えば、ここは肩こりなんだが……えい」
ロレッタ「いだぁぁぁぁぁあああーーーいっです!」
ヤシロ「お前はそこそこ胸もあるから肩も凝るだろう。劣化版ジネットだ」
ロレッタ「あの……その、『劣化版』やめてほしいです」
ヤシロ「んで、相手が一番悪そうなところを押してやると悶絶させられるわけだ」
ロレッタ「店長さんはどこが悪かったです?」
ヤシロ「肩こりだな」
ロレッタ「やっぱり、『アレ』はそんなに、でしたか……」
ヤシロ「そんなに、だったな」
ロレッタ「あたし、もう今のままで十分です。これ以上は望まないです」
ヤシロ「んで、お前の場合は、ここが痛いはずだ」
ロレッタ「にょぉーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?」
ヤシロ「と、このように変な声が出るほど痛いだろ?」
ロレッタ「そ、それ、それはどこが悪いですかっ!?」
ヤシロ「頭だ」
ロレッタ「悪くないですよ!?」
ヤシロ「えい」
ロレッタ「ぃいいいいいいいいいいい………………ったく、ない、です、もん!」
ヤシロ「耐えたなぁ……じゃあ、こっちはどうかな?」
ロレッタ「ま、待ってです! お、押す前に、なんのツボかを聞かせてほしいです!」
ヤシロ「お前の苦手分野だ」
ロレッタ「あたしの?」
ヤシロ「存在感のツボ」
ロレッタ「そんなツボあるです!?」
ヤシロ「これを押されて痛いと感じるヤツは存在感がない!」
ロレッタ「絶対! 耐えてみせるです!」
ヤシロ「じゃあ、えい」
ロレッタ「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!」