表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/534

【88話あとがき】ヤシロは、なんだかんだと子供には甘い

――早朝、陽だまり亭


エステラ「……子供めぇ……人の気も知らないで……子供どもめぇ……」

ヤシロ「『ども』が多いよ。つか、なんなんだよ。こんな朝っぱらから押しかけてきてブツブツと」

エステラ「なんか悔しいやら寂しいやらで、眠れなかったんだよぉ! 今日は一緒に教会まで行くことにするよ」

ジネット「では、エステラさん。準備が出来るまで椅子にでもかけて待っていてください」

エステラ「ん~、大丈夫。ここでい~よ~」

ヤシロ「俺が迷惑してんだが?」

エステラ「気にしなくていいってば」

ヤシロ「お前な……」

ジネット「子供と言えば……、教会の子供たちが食べたがっていましたよ、お子様ランチ。シスターがなんとかお金を工面しようと頭を悩ませていました」

ヤシロ「なんだ、そんなことか。なら俺がとっておきの秘策を教えてやろう」

ジネット「何かいい方法があるんですか!?」

ヤシロ「ベルティーナが食事を我慢する」

ジネット「……もう少し、実現可能な案でお願いします」

エステラ「……それがもっとも実現可能な案だと思うよ、ボク」

ヤシロ「じゃあ、ガキ共には我慢させておけ。金の無いヤツに食わせてやるいわれはない」

ジネット「そう、ですよね……なんとか、食べさせてあげる方法はないでしょうか?」

ヤシロ「お子様ランチが、どれだけ手間暇と時間のかかるものか、お前も知っているだろう? うっかり作り過ぎてしまうようなもんでもないし、おすそ分けってわけにはいかないだろ」

ジネット「確かに、作るのは大変ですよね」

ヤシロ「そもそも、ガキを甘やかすのはよくないんだ」

ジネット「甘やかす……ですか?」

ヤシロ「そうだろうが。この街の大人は甘やかし過ぎてるんだよ。だいたいなんだ、あのガキどもは。店内で大騒ぎしやがって。親も親で、ガキが騒いだらガツンと叱ってやるべきなんだ」

ジネット「ですが、子供さんたちは元気な方がいいと思いませんか?」

ヤシロ「俺はガキを甘やかすつもりはない。十歳だろうが0歳だろうが、この世に生まれた以上は等しく人間だ。同じ責任と義務を負うべきなのだ」

エステラ「0歳には無理だよ……」

ヤシロ「甘い! そういう考えがガキを増長させるのだ! やかましければ叩いてでも黙らせろ」

エステラ「そんな……動物じゃないんだから」

ヤシロ「俺は、ガキには甘くしない」

エステラ「じゃあ、ボクに優しくしてよ。子供たちにいじめられたんだ……」

ヤシロ「お前に優しくしてやるつもりもない!」

エステラ「けちっ!」

ジネット「ところで、ヤシロさん。さっきから一体何をなさっているんですか?」

ヤシロ「見て分からんか? お子様ランチの仕込みだ。今日も大量に出るだろうからな」

ジネット「えっ!? でも……お子様ランチの仕込みは、わたしがやるよう、昨日ヤシロさんおっしゃってましたよね?」

ヤシロ「ん?」

ジネット「明日の朝までに、三十人分の仕込みをしておくようにと。わたし、もう終わらせちゃいましたよ?」

エステラ「なんだい? 自分で言ったことも忘れちゃったのかい? ぷぷぷ~」

ヤシロ「そうか……仕込みは終わってたか」

ジネット「あ、で、でも! もしかしたら今日は沢山出るかもしれませんし、ちょうどいいかもしれませんよ!?」

ヤシロ「いやいや、今日いきなり伸びるなんてことはないだろう」

ジネット「で、でも……折角こうして用意したのに……」

エステラ「勿体ないね」

ヤシロ「そうだな。じゃあ、『仕方ないから』教会のガキどもにでも持って行ってやるか」

ジネット・エステラ「「――っ!?」」

ヤシロ「うっかり余ったりはしないと思ったんだけどなぁ……まぁ、余っちまったんならしょうがないか」

ジネット「ヤシロさんっ! ……はいっ! 仕方ないと思います!」

ヤシロ「じゃあ、荷車に積んで準備してくれ」

ジネット「はいっ!」

エステラ「……まったく。君はほとほと素直じゃないよね」

ヤシロ「何がだよ?」

エステラ「ジネットちゃんに聞く前から、教会の子たちがお子様ランチを食べたがっているのを知っていたんだろう? 素直にご馳走してあげればいいのに……」

ヤシロ「あ、いっけね。旗作るの忘れてたぜ」

エステラ「またそうやって話を逸らす……」

ヤシロ「参ったなぁ……領主の旗しか予備がねぇや」

エステラ「え?」

ヤシロ「まぁ、今回は全部この旗でいいか。初めて食べるお子様ランチに立ってる旗だ……教会のガキどもは無条件で大喜びしてくれるだろうぜ」

エステラ「それって……もしかして、ボクを元気付けるために?」

ヤシロ「はぁ? なに言ってんだよ。たまたまだよ。ちゃんと話聞いてたか?」

エステラ「まったく……ホンット、君は素直じゃないよね」

ヤシロ「俺は素直だよ。自分の欲望と、金儲けの匂いにはな」

エステラ「はいはい」

ヤシロ「んじゃ、マグダでも起こしてくっかなぁ」

エステラ「ヤシロ」

ヤシロ「あん?」

エステラ「…………ありがとね。ちょっと元気出たよ」

ヤシロ「ふん…………まぁ、あんまり、気にし過ぎんなよ」

エステラ「うん」

ヤシロ「じゃ、お前はジネットを手伝ってやってくれ」

エステラ「うん。あ、それからさ」

ヤシロ「なんだよ?」

エステラ「領主の旗は絶対喜ばなきゃいけない法律とか作ろうかと思うんだけど、どうかな?」

ヤシロ「だから、気にし過ぎんなつってんだろうが!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ