【85話あとがき】マンドラゴラのマンドラゴっちゃん
レジーナ「あ~、えぇ天気やなぁ~…………」
――山で摘んできたマンドラゴラを手に持ち、揺らす
レジーナ(マンドラゴラ)「そうやねぇ。えぇ天気やねぇ」
ヤシロ「……何やってんだよ、お前は?」
レジーナ「うひゃあ!? な、なんや、いつからおったん!?」
ヤシロ「いや、今来たとこだけどよ」
レジーナ「音もなく忍び寄るやなんて……はっは~ん、さては自分、アレやな!? ほら、あの~……なぁ? アレやんか、アレ。あの、まぁるぅてふわふわ~っとした……」
ヤシロ「考えがまとまってからしゃべれよ」
レジーナ「アホか!? ボケはスピードが命や! タイミングを外したボケほど寒いもんはないからな!」
ヤシロ「じゃあ、バシッと決めろよ」
レジーナ「それが出来たら自警団いらんわっ!」
ヤシロ「いるわ! めっちゃ必要!」
レジーナ「でも、どうやって入ってきたん?」
ヤシロ「いや、ドア開いてたぞ?」
レジーナ「そんなわけないやろ!? ウチ、誰も寄せつけへんように確実に戸締まりしとんのに!」
ヤシロ「なんでお前はそう閉じこもろうとするのかねぇ……もっと人と交流しろよ」
レジーナ「せやかて、人前に出るんは………………恥ずかしいやん」
ヤシロ「いや、お前はそれ以上に恥ずかしいことを臆面もなくやらかしまくってるだろうが」
レジーナ「けど、不思議やなぁ……なんでドアが開いてたんやろ?」
ヤシロ「閉め忘れとかじゃねぇの」
レジーナ「有り得へんよ。陽だまり亭の店長はんが、実は偽パイやっちゅうほど有り得へん」
ヤシロ「そんなこと有り得るかぁ! あってたまるか! もしそうなら、こんな世界など、この俺が滅ぼしてくれるわぁ!」
レジーナ「……どんだけ大事やねんな、あのデカパイ……」
ヤシロ「でもよぉ、ちゃんと鍵もかけたんだろ?」
レジーナ「当然や。客も入れとぉないからな」
ヤシロ「……商売しろよ」
レジーナ「ちゅうことは、中から何かが出て行った……っちゅうことか?」
ヤシロ「何かってなんだよ? お前、一人暮らしだろ?」
レジーナ「な、……なんで今、そんなこと聞くん? ……もう、いややわぁ、自分……ホンマ、妄想桃色タイフーンやなぁ」
ヤシロ「何を照れてんのか知らんが、ピンクなのはお前の頭ん中だよ」
レジーナ「ウチは確かに一人暮らしやけど、ウチに黙って店を抜け出しそうなヤツならおるで」
ヤシロ「……? お前のほかに誰かいるのか?」
レジーナ(マンドラゴラ)「やぁ、ボク、マンドラゴラ。マンドラゴっちゃんって呼んでなぁ」
ヤシロ「あだ名、もうちょっとスッキリ出来なかったのかよ……語呂悪ぃよ」
レジーナ「ひのふのみの……あぁ、やっぱりや。一本足らへん」
ヤシロ「マンドラゴが逃げ出したのか?」
レジーナ「そうみたいやね」
ヤシロ「……なんで動くんだよ、その気持ちの悪い大根が?」
レジーナ(マンドラゴラ)「大根ちゃうわ! カブや!」
ヤシロ「カブでもないんだろ!? 腹話術はいいから! こいつ、マジで動くのか?」
レジーナ「生命力の強いヤツは、たまに逃げ出しよんねん。今回も一本、そういうんが混ざっとったんやね」
ヤシロ「探さなくていいのか?」
レジーナ「まぁ……そこそこの値段がするもんやけど……わざわざ探しに行く労力を考えたら、諦めた方が安上がりになるわ」
ヤシロ「探し回るほど貴重ではないんだな」
レジーナ「そうや。もしどっかで見つけたら保護して持ってきてくれるか?」
ヤシロ「あぁ。分かった。帰り道でそれとなく探してみるよ」
レジーナ「ほんで、今日はなんの用なん? ……ウチ、今晩両親おらへんねんけど…………」
ヤシロ「いや、お前ん家ずっと両親いねぇじゃん」
レジーナ「なんやねんな、自分!? ちょっとはトキメキぃや!」
ヤシロ「マンドラゴラ握りしめてる女にときめけとか……無茶も休み休み言えよ」
レジーナ「マンドラゴラ! 名前がなんかエロいやろ!?」
ヤシロ「あ~……今ので一気に冷めたわぁ……ベーキングパウダー頂戴。早急に。すぐ帰りたいから」
レジーナ「なんやんねんなぁ、ヘタレやなぁ」
ヤシロ「いやいやいや……」
――陽だまり亭
ヤシロ「ただいまぁ……無駄に疲れた」
ジネット「あ、ヤシロさん! 見てください。とっても可愛い大根さんです!」
ヤシロ「見つけた、マンドラゴラァ!?」
ジネット(マンドラゴラ)「やぁ、ボク、マンドラゴラのマンドラゴっちゃん。ヨロシクね」
ヤシロ「だから、あだ名もっとスッキリ出来ないのかって!?」