【84話あとがき】ハムっこたちは、四十二区のあちこちに散らばってる
妹「ポップコーン!」
妹「おいしーよー!」
妹「新しい味ー!」
妹「キャラメルー!」
妹「今だけ販売ー!」
ヤシロ「お、頑張って売ってるな」
妹「「「「あー、おにーちゃーん!」」」」
ヤシロ「売れ行きはどうだ?」
妹「「「「ぼちぼちでんなー!」」」」
ヤシロ「……どこで覚えてくるんだよ、そういうの?」
妹「おにーちゃん、お手伝い?」
妹「新入り?」
妹「見習い?」
妹「まずは屋台の掃除からー!」
ヤシロ「え、なにお前ら? 俺をアゴで使う気?」
妹「おっぱい大きくなったら思いのままー!」
ヤシロ「……誰に吹き込まれた?」
妹「「「「おねーちゃーん!」」」」
ヤシロ「ロレッタか…………あとで頬袋『ぐりんっ!』ってひっくり返してやる……」
妹「お手伝い、違うの?」
ヤシロ「あぁ。実はハム摩呂を探しててな」
妹「「「「はむまろ?」」」」
ヤシロ「ほら、お前んとこの何番目かの弟でさ、いるだろ? 『ナントカの何々やー』って言うヤツ」
妹「いるー?」
妹「いらないー?」
妹「いる人ー?」
妹「しーん」
妹「「「「いらないに決定ー!」」」」
ヤシロ「いるかどうかを聞いたんじゃねぇよ! あと、必要としてやってくれ、可哀想だから!」
妹「男の子チームは屋台にはいないよー」
ヤシロ「そうだったな。見かけてもないようだし……他を当たるわ」
妹「ドシーン!」
ヤシロ「いや、ぶつかるわけじゃねぇぞ?」
妹「いたたたー、どこ見て歩いてるのよー」
妹「ちこくちこくー!」
妹「あ、今日はハンバーグたべよー」
妹「カランカラーン、カランカラーン」
妹「今日は新しいお友達が増えますー」
妹「よろしくー」
妹「あー、あなたはさっきのー」
妹「ハンバーグ食べたーい!」
妹「さっきのー!」
妹「ハンバーグの人ー!」
ヤシロ「主役変わっちゃってんじゃねぇかよ!? ハンバーグ出しゃばり過ぎだろう!?」
妹「「「「おねだりだよ?」」」」
ヤシロ「……分かったよ。ジネットに伝えといてやるよ」
妹「「「「わーい」」」」
ヤシロ「じゃあ、俺はもう行くな。仕事頑張れよ」
妹「「「「おまえもなー」」」」
ヤシロ「……誰が教えるんだ、あぁいうの……?」
――街門建設予定地
ヤシロ「おーっす! って、ウーマロはいないのか?」
弟「「「「おにーちゃんだー!」」」」
ヤシロ「よっ! 頑張ってるか?」
弟「「「「そこそこー!」」」」
ヤシロ「やる気出せよ」
弟「棟梁、陽だまり亭ー!」
弟「マグダたん見に行ったー」
弟「ティータイムの知的な衣装がグッとくるー」
弟「とか言ってたー」
ヤシロ「……どうしようもねぇな、あいつは」
弟「「「「どうしよーもねー!」」」」
ヤシロ「お前ら、ハム摩呂見てないか?」
弟「「「「はむまろ?」」」」
ヤシロ「お前んとこの何番目かの弟だよ! 『ナントカの何々やー』ってヤツ! いるだろ?」
弟「「「「間に合ってるー」」」」
ヤシロ「だから、必要かどうかを聞いたんじゃねぇってのに!」
弟「ぼくたちローテーションくんでるー」
弟「今日から配置換えー!」
弟「昨日までワニマットさんとこで畑してたー!」
ヤシロ「モーマットだろ?」
弟「あー間違えたー」
弟「名前間違うのは失礼ー」
弟「二度とないように改善案出せー」
弟「謝罪と賠償しろー」
ヤシロ「なぁ、お前ら。どこで覚えてくんの、そういうの?」
弟「ワニのとこにいたー!」
ヤシロ「名前間違えないためにワニ呼ばわりすんのはもっと失礼だっつの」
弟「ここ、ぼくらだけー」
弟「はむまろいないー」
弟「いないはずー」
弟「……ワニ、だめ?」
ヤシロ「あぁ、ワニでいいワニで。あんなヤツはワニで十分だ。とにかくハム摩呂はいないんだな? じゃあ、俺もう行くから、お前ら仕事頑張れよ」
弟「「「「おまえもなー」」」」
ヤシロ「だから、そういうのどこで…………まぁ、あとでロレッタをお仕置きしときゃいいか」
――モーマットの農場
ヤシロ「モーマットー? ……なんだよ、あいつもいないのかよ」
弟妹「「「「おにーちゃんだー!」」」」
ヤシロ「よう、頑張ってるか?」
弟妹「「「「その前に、まず『頑張ってる』の定義を教えてもらおうかー」」」」
ヤシロ「誰に影響受けた!?」
弟「何か用事ー?」
妹「悲報?」
弟「朗報?」
妹「いやっほぅ?」
ヤシロ「おい、最後の違うだろ?」
弟妹「「「「いやっほぅっ!」」」」
ヤシロ「違うのに全員で乗っかっちゃったな!? じゃなくて、ハム摩呂を見てないか?」
弟妹「「「「はむまよ?」」」」
ヤシロ「ハム摩呂! そんな美味しそうな食い物じゃなくて!」
弟「見てないー」
妹「見たことないー」
弟「いないー」
妹「存在させないー!」
ヤシロ「怖いよ、最後のヤツ!? じゃあ、また他を当たるか」
――河原
ヤシロ「川漁ギルドの手伝いもしてるはずなんだよな」
弟「「「「あ~れ~、ながされる~」」」」
ヤシロ「何やってんだ、揃いも揃って!?」
弟「「「「副ギルド長ごっこ~」」」」
ヤシロ「危ないから今すぐやめなさいっ!」
――金物通り
ヤシロ「はぁ…………川に入ったせいで体力が…………全身びしょ濡れだぜ……」
妹「おにいちゃん?」
ヤシロ「よぉ、頑張ってるか?」
妹「お兄ちゃんほどでは……」
ヤシロ「……すまん、今同情されると泣きそうだから、やめてくれる?」
妹「濡れてる暇があったら働けー!」
妹「穀潰しー!」
ヤシロ「心が折れるから暴言もやめろ……」
妹「何か用事?」
ヤシロ「ハム摩呂を知らないか?」
妹「「「「いらない」」」」
ヤシロ「一気に省略したな!? なに、そういう情報どっかで回ってんの!? SNSみたいなことしてんの、お前ら兄妹の間で!?」
妹「えすえぬえす?」
妹「ほら、おにーちゃんは時々分からないことを言うって」
妹「あぁ、おねーちゃんが言ってたね」
妹「ちょっと残念な人だって」
ヤシロ「……頬袋にイガ栗詰め込んでやる……」
妹「わたしたち兄妹はー」
妹「四十二区のあちこちにー」
妹「散らばってるー」
妹「よく目を凝らして探してー」
ヤシロ「お前らはウォーリーか……じゃあ、他所を当たるわ」
――陽だまり亭
ハム摩呂「あ~、午後のひと時やー」
ヤシロ「ここにいたのか、ハム摩呂!?」
ハム摩呂「はむまろ?」
ヤシロ「あっちこっち探し回ったんだぞ!?」
ロレッタ「お兄ちゃん、どうしたです!? ずぶ濡れで、服もボロボロです!?」
ヤシロ「ちょっといろいろあってな……」
ハム摩呂「体力削る、イベントやー?」
ヤシロ「それ、疑問文もあるんだな……まぁいい。とにかく、お前を探してたんだ」
ハム摩呂「…………ガタガタ……いよいよの、指名手配やー」
ヤシロ「違うわ! ほれ」
ハム摩呂「……ほゎ?」
ヤシロ「前に帽子が欲しいって言ってたろ? 蝶ネクタイとおそろいの生地で作ってやったから、大切に使えよ」
ハム摩呂「はゎゎ……最上級の、いい帽子やー! 感動の、大津波やー!」
ヤシロ「喜んでもらえてよかったよ…………おかげでスゲェ疲れたけどな」
ハム摩呂「ありがとう、お兄ちゃん! 渾身の感謝やー!」
ヤシロ「まぁ、いいってことよ」
ハム摩呂「死ぬまで大切にするー!」
ヤシロ「あぁ、そうしろ」
ハム摩呂「なくしたら死ぬ……」
ヤシロ「それはいいから! なくなったらすぐ言え! 作り直してやるから! な?」
ハム摩呂「さ……さ…………最高のおにーちゃんやー!」
ヤシロ「おいおい! 抱きつくなよ。……そんな嬉しかったか。そうかそうか」
ロレッタ「よかったですね。お兄ちゃんは、とっても優しいお兄ちゃんです」
ヤシロ「あ、そうだロレッタ」
ロレッタ「はいです」
ヤシロ「……あとで頬袋『ぐりんっ!』させてもらうからな」
ロレッタ「なぜです!? まったく話が見えないですっ!?」