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トウヒ

「ない…!ないないない!!!!」

雪が容赦なく降り続ける中、私こと柳 雪は困惑していた。

生きていくために絶対的に必要不可欠となる《あるもの》がないのだ。あいつがいないとマイあったかホームに帰れない。というかは入れない。

I can't go back home!!!!

英文法が無茶苦茶な英語を頭の中で連呼しつつも鞄、服のポケットというポケットをあさり続ける。

しかし、真実は残酷である…。


「you are 鍵ちゃん! where do you どこぉ!!」

車すら通らない道で最早英語か日本語かもわからないセリフを叫ぶ。

恐らく通行人がいたら見なかったフリをする様なタイプの奴になっている。まして、親子連れなんていたら「ママー変な子がいるよー。」と皮肉にも可愛い幼女に指さされ、「しっ!目を合わせちゃいけません。」と言われていたことだろう。

ありがとう雪。君に感謝することになるとは正直不覚だよ。


しかし、このままずっと捜索しているわけにもいかないな…。考えろ、思い出せ、……


散々思考を巡らせた末の結論。

私が、想像したくなかった最悪の結果…。

「置いてきた。…あの、魔王城に…」






その時、常葉(ときは) 蘭斗(らんと)は嘆いていた。己が犯した行動を。しかし彼は気づくことはなかった。自分の行動の真意そして、その行動が乱したのは"彼女"の心ではない事に。


「何やってんだ、俺。…死ね。死ね。死んでしまえ。さっきの俺」

ぶつぶつと棚の整理を超人的な速さで且つ確実にしながら、健全なる思春期にありがちな怨念がましい言葉を呟き、自虐的な精神スパイラルに陥っていた。

完璧な爽やかイケメン(笑)と謳われる常葉も人の子ということだ。


すると何かを踏んだような感触を覚えた。

「…ん?これ…鍵?」

拾って持ち上げるとチャリンと軽い音が鳴り可愛らしいキーホルダーが揺れる。

キーホルダーにはイニシャルのアクセサリーがついていた。しめた、と心の中でニヤつく完璧爽やか男児。この気温が氷点下の猛吹雪の中、わざわざコンビニエンスストアに訪れる者などたかが知れている。

「どれどれ…落し物をしたのは誰かなぁ…」

少し探偵気分に浸りながら一人寂しく可愛らしい鍵を凝視する完璧さわ…(略)こうしているとイケメンから変態に早変わりである。

もう、彼を知らない人が見ればクラスの女子の私物をジロジロと眺める変態男子高校生にしか見えないだろう。否、変態ではなく、この年の男子なら皆こうするのだ…と同情の目を浴びるのかもしれない。

そして、何かに気がついたかのようにイニシャルを呟く。

「Y.Y…まさか」

Y.Yというイニシャルを見てすぐに思い浮かぶはあの幼馴染み。柳 雪。

それに何より鍵の落ちていた場所が彼女を彷彿とさせる。というか確信させる。

そう、某カップ麺の売り場である。

「仕方ない。確証はないけど…いや、確実にアイツだろうな。まぁ、スペアキーぐらい倉庫とかにあるだろ。」


ピンポンピンポン


軽やかな音調のセンサーが鳴る。

コンビニの中に充満した爽やか男児の生み出した怨念の塊と本人は気づいていない青春な空気が混ざった空間に、冷たい冬の日特有の匂いを孕んだ風が入り込んでくる。

その空気に反応したかのように彼のハイスペックな切り替え能力が発動する。常葉はいつもの営業スマイルを顔に貼り付けて「いらっしゃいませ」と言った。

入ってきたのは近所のアパートに住む小林というおばさん。本人は「まだまだ若いのよぉ。旦那がいなけりゃ現役で働けるんだからねぇ」と少々無理のあることを言っていた。

――まぁ正直な所、今この小林さんがOL(小林さんの昔の仕事だったらしい)をしたとしたらコピー機の前で日々の疲れを解消すべく腰を叩き、大量の荷物を持った小林さんは恐らく深刻なぎっくり腰にでもなっていることだろう。

一人壮大ななんの脈絡もない話に終止符をうち小林さんの対応をする。

「あら、蘭くんじゃない。こんなに寒い中大変ねぇ。」

マニュアル通り、いつも通りに完璧爽やか男児を演じ続ける。しかし完璧爽やか男児の演目はすぐに終演を迎えた。

「そうそう、寒いといえばさっき雪ちゃんを見かけたわね。やっぱり女子高生は強いのかしらねぇ…あ、まぁ、私ももう少し若ければ…」

「全部で1436円になります」

小林さんの言葉を遮るかのように値段を告げいつもの倍のペースで会計を済ませる。

小林さんは少し首を傾げていたがそんなことを気にする蘭斗ではない。

さっさとレジの後処理を済ませ予定より早くコンビニエンスストアを閉める。

こんな天気だ。もう来店はないだろう。


そう呟き、彼は急いで帰路を辿った。可愛らしい鍵を大事そうに握りながら。


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