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霧のペルシア  作者: ウニコ
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戸惑い 4

 PAULで逢ってから、一週間が過ぎた頃に、馨からメールが来た。

「モディリアーニ展のチケットが二枚あるので、一緒に行きません?」

 十人いれば誰もが例外なく美女と認める女性からの誘いに、ちょっといい気になった。

 モディリアーニ展は六本木にできた国立新美術館で行われている。西麻布の俺のマンションから歩いても行ける場所にあるから、いつでも行けると思っている間に、最終日まで十日を切っていた。

 モディリアーニを観たいし、馨と一緒に行きたかった。だが、PAULの翌日に着た礼のメールと同様に、モディリアーニ展への誘いにも、俺は返事をしなかった。何度メールをもらっても、馨の絵の秘密を知りながら、会うのに気が引けるのだ。

《フェイク!》

 馨に絵画展を誘われてから、この言葉が頭に浮かび、離れなくなった。贋作を意味する言葉が、諏訪画廊の絵ではなく、馨の俺への態度にまで想像してしまうのだ。あれだけの器量の馨だけに、女子大に通い、恋人はいなくても、絵画展に一緒に出掛けるボーイフレンド程度はいるだろう。

 こうも馨が積極的に俺を誘ってくるのが、考えれば考えるほど、不自然に思うのだ。

 だが、一方では、俺も、満更ではないはずだと、浮かれてしまう。馨ほどではないが、エリカだって現役のバリバリの水着モデルをし、誰が見てもいい女だし、学生時代につき合っていた女も、なかなかだった。

 そう思って鏡を見て、にやけていたら、馨から二度目のお誘いメールが来た。

「この前の絵画展のことですが、週末一緒に行けませんか?」

 今回のメールは、? の後には、赤いハートマークがあった。馨にとって、赤いハートマークは《!》とどれほどの差があるのだろう。

「昔、loveの文字の最初は、大文字のLだった」と書いたエッセイを読んだ記憶がある。

 厭世的に人生を語るほど、俺は長く生きてはいないが、勝手に自分が作った馨のイメージがまた一つ崩れていった。そんな失望に似たものを感じながら、携帯のメールのハートマークには心が沸き立った。

 火曜日が閉館日の国立新美術館は、モディリアーニ展は六月九日、来週の月曜日が最終日だ。

 次の週末と時間が限られたメールだけに、直ぐに返事をする必要を感じた。週末予定がなく、断る理由も見つからない俺は、直ぐに返事をする代わりに電話をして、初デートに出掛ける約束を交わした。

 電話をした時に、馨は信じられないくらい喜んで、「予定があったんじゃないですか?」と、凄く恐縮していた。

 六月の最初の土曜日にあたる六月七日、国立新美術館の前で俺たちは待ち合わせた。明後日の月曜日で終わるモディリアーニ展は、週末と最終日間近なために、朝からかなりの列ができていた。

 約二週間ぶりに逢った馨は、紺の薄い素材のワンピース姿だった。首には、シルバーのネックレスが輝いている。クリーム色のパンプスに、今日はベージュのストッキング、肌色の細い脚がまぶしい。

 前を馨が歩くと、光の加減でワンピースのスカートが透け、馨の二の脚がすっと浮き上がるようにはっきり見える。馨の脚が、自分だけではなく、他の男にも見えているのが気になった。

 馨は終始、明るく可愛く、楽しくしていた。かなりモディリアーニについて、詳しいのに驚いたら、どうやら一度友人と来たという。「友人って誰?」と、気になったが、野暮な人間に思われそうで、尋ねるのは止めた。

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