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霧のペルシア  作者: ウニコ
24/31

戸惑い 3

あけまして、おめでとうございます。

今年も、昨年と同様に、読んでください。


 衆人環視の中で行われるオークションでは、贋作を出品されると、オークションハウスにとって汚点になる。客の中には、贋作を掴まされないと信じて、オークションを利用するコレクターもいるからだ。

 贋作を出品した場合の影響は、まだある。ファーストでは、真贋保証を行っている。

 真贋保証とは、落札品が一定期間以内に贋作であるとわかったら、オークションハウスが買主(落札者)に落札金を返還するものだ。もちろん、贋作の売主には、あらためて落札金を請求する。ファーストはこの期間を、海外のクリスティーズやサザビーズと同じ五年にしている。五年間の真贋保証期間は、国内のオークションハウスの中では最も長いはずだ。

 つまり、五年以内に贋作であるのがわかった場合は、ファーストは買主には落札金を返還し、売主からは回収しなければいけなくなる。

 もちろん贋作を見抜くためにファースト・オークションでは、自社に査定セクションを設けている。陶器や工芸品は、国立博物館を退職した職員を高額で雇い、絵画も、鑑定眼がある者が集まっている。最新の科学機器を備え、こと鑑定技術については、業界随一だと自負していた。

 美術品の真贋は、とても難しい。世界一のオークションハウスのクリスティーズでさえ、幾度も誤り恥をさらしている。

 九十年代にクリスティーズは、コロンビアの画家フェルナンド・ボテロの『踊る男女』を競売に掛けようとした。『踊る男女』は、開催されたオークション・カタログの表紙にもなった目玉商品だ。

 だが、競売直前に贋作だと指摘され、競売を中止せざるを得なかった。競売作品は、他の個人コレクションの醜悪なコピーだったのだ。

 現代美術の鑑定家なら、ボテロが一度でも描いた図柄を絶対にコピーしないのは知っているはずなのに、このときのクリスティーズは、調査が不十分だったのか、それを見抜けなかった。

 ボテロの贋作話には、まだ続きがある。この時クリスティーズは、落札後に画家へのインタビューを予定し、ニューヨークにボテロを招待していたのだ。

 オークションでの出品が中止となった自分の贋作を見たボテロは、

「必ず三度は塗る絵の具が、この絵は一度しか塗っていない」と指摘した。画家自身の指摘により、パリやニューヨークの贋作者は、以来ボテロの作品を描く時には、幾重にも厚く絵の具を塗るようになっただろう。

 美術品が高額で取引される限り、贋作の話は尽きない。無から巨額の富を生み出す贋作者は、さしずめ現代の錬金術師なのだ。

 贋作を恐れるのは、世界のクリスティーズも、日本のファースト・オークションも同じだ。いつも慎重な美術第一課長は、査定セクションでいろんな経験をしたから、きっと人一倍慎重な態度をとるのだろう。

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