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結城玲人 003


 午後からの授業は少し遅れたものの、こっそりと出席に成功する。

 いつの間にか居た俺に板垣さんが苦笑いしていた。

 案の定ドラゴンが爆睡して、板垣さん名物のピコハンで叩かれて、壮絶に寝ぼけてたのは平常運転だ。


 俺がまだ生きていた頃は、竹刀を持ち歩く先生というのは居たが、今はきっと居たとしてもきっと絶滅寸前なのだろう。

 先生の持つ雰囲気も有るのだろうが、寝ている生徒をピコハン(通称、板垣ハンマー)で叩いて起こして歩いているが、赴任して数年間経つが問題になったことはまだない。


 人気のある先生ってのは、熱心さとか性格とか授業の解りやすさもあるかもしれないけど、他にも何か絡んでいるのだろう。

 人によってはオーラとかカリスマとか言うのかもしれないけど、雰囲気が少し違うような気がする。

 今のこの学校の校長も悪くないが、板垣さんみたいな人が年齢を重ねて校長になったらきっと楽しい学校になることだろう。

 昔はいい意味でも悪い意味でもぶっ飛んだ先生が沢山居たが、最近はみんな小さく纏まっていて面白い先生というのは少なくなったなぁ。

 なんてことを考えながら午後の授業を消化していく。

 

 放課後である。

 今日は朝にクマさんと話していた、園芸部との会議がこれからある。

 園芸部には今年はまだ新入部員がないので、今居る部員は3年生が二人だけだ。

 二人とも隣のB組だが、1年の頃からの知り合いである。

 さて、なぜ園芸部が用務員と関係あるかだが、それは用務員の仕事と被る部分があるからだ。

 用務員の仕事には花壇や芝生、樹木の管理も含まれている。

 どうせなら、いっそのこと、ついでに、という事で数代前の校長が、用務員と園芸部の共同管理体制を確立し今に至っている。

 園芸部が部活の必要人数以下でも活動できているのは、この状況が大きいからだ。


 今日の会議は花壇の年間方針だ。

 季節や学校行事に合わせてどんな花を育てるかなんかを話し合う。

 ちゃんと計画管理しないと、たまに変わったものを育てたいという奴が暴走して、温室も無いのにバナナの木の苗が発注された事もあった。

 その後、鉢植えに収まり、日本のバナナの木で多目的ホールが微妙に南国っぽくなった。

 左の木の天辺に、コアラのぬいぐるみが鎮座しているのは七不思議でない普通の謎だ。


 園芸部は部室が無いので用務員室での会議になる。

 まだ少し時間が有ったので、珈琲を準備して来客用座布団を二枚ちゃぶ台に敷き足す。

 黒いのは居なかったので、何処かにパトロールにでも行っているのだろう。


 しばらく待っていると園芸部コンビがやってきた。

 背の小さい男の方がタイガー(虎彦だから)で、見る人によっては少し太ましいが、それが色気に変わっている女のこの方がネコ(本名で音鼓と書く)だ。

 この二人にドラゴンとクマさん、3-Aのファルコン(隼人)の5人で俺の脳内ではアニマルファイブとして補完されている。


 二人と軽く挨拶を交わしちゃぶ台を囲んで、どうでもいいような事を話して時間をつぶす。

 うん、好きだよこういう無駄な時間。

 無駄だけど心の栄養だしな。

 もっとも生前の俺は無駄と言い捨てていた時間なのだが…。


 時間少し前にクマさんが帰ってきて会議が始まった。

 クマさんが纏めた年間計画に穴が無いか確かめ、予算と合わせながら発注する苗の数や必要な備品や消耗品(肥料や殺虫剤など)の数がサクサクと決まっていく。

 無駄な時間は好きだけど、こういう時に無駄が無いのは精神削らなくていい。

 グダグダな進行とかどんな拷問ですか、って話だ。


 正味20分、無駄の無い会議だった。

 これでクマさんの今日の仕事は終わりだ。

 俺はみんなに珈琲を淹れ直し、ちゃぶ台ではなく自分スペースに陣取ると、盆栽の本を引っ張り出す。


 「そう言えば玲さん、寄せ植え盆栽やってみたいんだけど、何がお勧めある?」


 最近盆栽に目覚めたネコが聞いてくる。

 同年代の男子ならコロッと逝きそうな笑顔だ。

 中身が枯れたおっさんじゃなかったら、きっと危なかったに違いない。


 「ハゼなんてどうだ?蝋燭の原料になる木だが、秋になると綺麗だぞ。

 形のいい良い石の上に苔付で根っこを這わせても面白いし、何より寄せ植えしても木がスッと伸びるから見栄えが良い。

 あ、皮膚弱いと多少かぶれることあるのが難点だな」


 あぁ、タイガーが羨ましそうに俺を見ている。

 そんな目で見るなよ、盗らないからさ。 

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