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生命の旋律 あわいの歌

作者: 薗田 朋子

人の遺伝子の中にはどれだけの情報が入っていて、どれだけのご先祖の歴史が刻まれているのでしょう。そう思うと自分の命がとてもいとおしいものに思えるのです。

   1


遠い記憶の隙間から こぼれる時間


そう、走り出そうとしても走り出せない

何かが 足りない


いつも自分の足音は 自分ではきこえないのだ

誰かがそれを聞きつけて ともにあるきだす


芽吹く緑の 痛いぐらいの乱反射

放出される 


命は再生する

命はよみがえる

水にとけ

風にながれ

土ににじんでゆく


学校を建てた人の名前を 子供たちが知らなくても

何世代もの子供の群れは

にぎやかに同じところを通り過ぎる

川のように


命はひとつの学校にすぎない

あわただしい時間と情報と言葉と心に

洗い流されていく小さな建物


たましいは純粋に無限のかがやきを放ちながら

いつも何かを受け入れている器


こころはうごいているのではない

ただ 静かに待っているだけだ



   2     


どろどろに溶けた鉄のような太陽が

川の向こうに沈んでゆく


町は 夜を歌い始める


人の足がとだえ荒れ果てた公園

通りを過ぎると 街灯に照らされて

崩れかけた家が建っている

ごみだらけの道を歩き

廃屋の角を曲がれば

たくさんの猫たちのねぐらがある


町で生まれて

町で死んでいくのだろう


車の騒音をゆりかごに

派手な女たちのざわめきを子守唄に育ち

ただ 忘れられてゆく町の 片隅で

ひっそりと 生きる


声も顔も持たない人々の 声と顔のひとつひとつを

ゆるされる限り身にまとい 飾り付け

汗を流して得たすべてのことを

誇りとしよう


町は夜を歌う

明かりの窓 ひとつひとつを

祝福 しながら



   3


あたたかいスープのように

おまえとわたしのからだは混ざりあい

混ざり合いながら高いところへ昇ってゆく

行き場のない思いや雑多な生活の細かい執着は

ただひとひらの風となって通り過ぎる

終わってしまえば


世界を覆いつくす夜がきても

戦いにうちひしがれた朝になっても


からだひとつでうまれてきたの

からだひとつでできることから はじめよう


いつも 毎日は

新しい毎日

細胞も心も魂も

磨かれて

進化する

そのダンスの

ステップの

断片


世界は 常に新鮮な驚きを

わたしたちに与える

その

祝福を

わたしたちは

かえす

くりかえされるリズム

くりかえされる リズム


   4


あそびにいったら

ともだちをよぼうね


原っぱで

鬼ごっこをしよう

今日は晴れていて

とってもきもちがいいね


走って 走って ころがって

たどりつくのは どこだろう


鬼さんこちら てのなるほうへ

目隠し鬼は闇の中

本当に出会うための人を さがしているよ


会うことのすべては必然という名の偶然

わかりあえない暗闇は

つづきのある物語を

つづけてゆくために試される


鬼さんこちら

手のなるほうへ



   5


ほら

誰かがこの世のかたすみで

産声をあげているよ


46億年の旅をして

ようやくうまれてくるんだね

世界のすべての祭りという祭りは

おまえのために捧げられた供物だ


この世とあの世をつなぐあわいのとき

音はみちて

天上に舞う

宇宙はたった一つの爆発から 生まれ ひろがりつづける球体

もっととおくへ

もっとひろがれ 意識

命は 神々の遊び場

残酷でやさしい無言のゲーム


ほら

産声がきこえる

命を

さけんでいる



   6


星たちの億光年の光が

地上にふりそそぐ

はかりしれない質量の

エネルギーは計測できても

心の距離は計算できない


雲の中に生き物がいるって本当かな

海の限りなく深い溝にも

生きてうごめくものたちがいる

誰も知らない場所でも

なにかが息をしている


こころでつかまえようよ


わかりきった答えなどいらない

いつも その ことばは

この血をながれている


どこから

やってきたの

どこへ

ゆくの


その物語は

はじめから続きの物語

そうして続いている物語


折りたたまれた永久螺旋の階段を

どこまでも どこまでも歩いていく


こころでつかまえよう

そうしたら

みえる

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