Rainy Day
「はぁ、はぁ……」
息が切れかかる私に、無情にも雨は降り続ける。まるで私を嘲笑うかのようだ。そんな思いを振り払うかのように、私は顔を拭った。なんでこんな目に会うのだろう……私は心の片隅でそんな事を思いながら線路沿いに走った。
私は近くの中学校に通うごく普通な中学生だ。だが、この頃悩むことが多い。成績やら将来の事やら受験やら……そんな重りを乗せられた自分を軽くするために、カラオケで歌い帰ろうとした矢先にこの雨だ。傘は持ってきていなかった。そういえば、家を出る時にお母さんが持って行けと言っていたような気がする。あの時素直に持っていけばよかった、と思いながらもそんなこと後の祭りだと自分に言い聞かせる。そんな事を思っているうちに雨はだんだん強くなっていく。考えていても仕方がないと思い、濡れるの覚悟で最寄り駅まで走った。
「ない、ない、ないーー!」
最寄り駅まで歩いた私を迎えたのは、駅員さんでもなく、快適な電車でもなく、1つの絶望だった。電車賃が足りなかったのである。ここまで歩いた苦労が水の泡になっていくようだった。私はうなだれる私に鞭を打ち、路線図と時計を見た。『ここから2区間目の駅に行けば、定期を使って電車に乗れる。時間は……大丈夫!』自分の脳をフル活動させて導いた答えの通り、私は再び雨の中を駆けだした。
そして今に至る。
長い、とても長い線路は真っすぐに延びていて、奥の方が霞んで見える。それを見ていると、私はだんだん不安になってきた。こっちで本当にあっているのだろうか、どこまで進めば駅に着くのだろう、そのようなマイナスな感情が滝のように脳へ流れてくる。マイナスな感情に押しつぶされないよう、私は自分を信じた。この道で大丈夫、自分に言い聞かせるように呟いた。
走り始めて15分くらい経っただろうか。2本の線路が高さを違えて交わっているところが見えた。私は確信にも似た希望を持ち、足を速めた。
「やった……やっと着いた」
そう、1つ目の駅にたどり着くことができたのだ。私の中でこれまで不安要素の中の一縷の希望だったものが、途端に確信のある大きな希望になっていた。「やったー」と大きな声で叫びそうになったが、人がいたのでその言葉は呑み込んだ。しかし、胸の鼓動が高鳴ってるのは自分でもわかる。私は次の駅への道へと駆けだした。不思議と私は笑みを浮かべていて、空は少し明るくなった。
私が走っていると、強い風と共に薄桃色の雪が舞ってきた。なのに不思議と冷たいとは感じなかった。ふと、周りを見渡してみると、その正体は舞い散っている桜の花びらだったのだ。他にも大きな川沿いにたくさんの桜の木々が立ち並んでいる。いままで走るのに夢中で気付かなかったが、降り続いている雨もさっきまでの嘲笑うような雨ではなく、舞い散る桜とともに私の心を癒してくれているーーー気がする。私は走るのをやめ、桜並木を歩いた。不思議とそこを歩いていると気持ちが安らいだ。今まで抱え込んでいた悩みも、地球の重力さえもなくなったように体が軽かった。桜並木が終わる手前で誰かに声をかけられた
「ねぇ、何処まで行くの?」
キミだった。傘もささずに雨の中を歩いている私を心配しているような顔をしている。
「そこの駅までだよ」
私は言った。すると、キミは静かに傘を持っている方の手を私の方に伸ばした。
「これ、使えよ。雨に濡れると風邪ひくぞ」
キミははにかみながらそう言った。はっきり言って嬉しかった。だけど……
「いいよ。そう言ってくれたのは嬉しいけど、駅まですぐだし。それに、それじゃあキミが風邪ひいちゃうよ」
そう言うと、私は回れ右をして駅の方に向き、「それじゃっ」と言い残し走り出した。走っていると目から雫がこぼれだした。嬉しかったのだ。私は顔をキミの方に向けると小さな声で囁くように「ありがと」と言った。多分彼には聞こえていないだろう。それでもいい、私は軽快な足取りで駅へ向かった。
帰りの電車の中。ふと、窓の外を見ると、空には7色の橋がかかっていた。
「キミ」と言っていますが、恋愛要素は皆無ですので(恐らく)
すこし少なかったかなという気もしますね(苦笑)