5話
実はベリーとは出会ってから1ヶ月もたっていない。
だってベリーって生まれてちょうど10日目。バリバリの新生児だったりする。まぁ、卵は5年前から見ているんだけどね。
ベリーも一応はアルファ特殊研究所出身ということになる。研究所が潰れる時、持ち出した資料やサンプルのひとつががベリーの卵だった。遺伝子改良やら他の因子を混ぜたりと、実は種族は合成獣だったりする。
ドラゴンなのに生まれたての子犬なみにちっちゃくて、鱗のかわりに青いスベスベの全身毛並みって、普通ありえないもん。
ステリアでのクーデター軍に敗退し、お偉いさんが数少ない側近と首輪の力で絶対に裏切れない俺達を連れて、山脈地帯での敗走中に生まれたドラゴンだ。
ちなみに蛇足だが卵運びをやらされたのは俺だ。レベル0で、そのくせ生存率の高い俺は、戦闘では役に立たないからと大事な荷物の運搬係を指名されていた。
ストレージできる量は少ないのだが、側近に預けて裏切られ、データを盗まれたりしてたからな。隷属された俺たちが運ぶ方が遥かに安全と考えるのは勝手だが、お陰でこっちはクーデターのドサクサで逃げ出すことができなかった・・・
ベリーが生まれた時は感動したなぁ・・・ずっと卵を腕のなかで抱きしめてたからなぁ・・・ただ、生まれてすぐ即行でベリーにも隷属の首輪を付けられた時は、怒りが止まらんかったな!
ちなみにベリーの名は俺が勝手につけた。俺の賢獣として一緒にここを逃げ出そうと約束したのもこの時だな。お偉方は別の名前を卵の時点でつけて呼んでいたが、ベリーもこっちの名前を気に入ってくれた。
ちょっと昔のことを思い出したり、チョコと話したりしている内にトーリアが遠くに見えてきた。おそらく向こうでも巨大な古龍を確認してテンヤワンヤしているんだろうなぁ・・・
『これ以上近づくのは止めておいた方がいいだろう。下へ降りるぞ』しばらく飛ぶとリガディルがそう言ってきた。
(すでにちょっと大事になってないか?若干、悲鳴みたいのが聞こえるんですけど・・・)
リガディルの背から地上に降り立つと、改めてお礼を言う。
『イヤ、こちらこそ我がやるべきことを代わりにしていただいたのだ。お互い様だ。』
「でも、もし俺たちだけだったらあの山脈を抜けることは難しかったよ。」
「リガディルがいたから、魔獣も襲って来なかったしね。」
「あぎゃぁ。」
「隷属の呪縛を解除して、生活が安定したらチョコレート持参でお礼に来るよ」
『ウム。それは楽しみなのであるな・・フム・・・そうであれば龍の肉をすべて完食してから来てくれんか?』
「あれをか?かなりの量だから・・・数年は時間が掛かるぞ?」(あんなの毎日食べてたら胃がもたれるぞ)
『数年位は我ら古龍にはたいした時間でわない。』
「なんか、厄介ごとか?古龍が困って、わざわざ人間に頼むようなことなんてあるのか?」
『そうじゃの・・困ることでもないが、我には人間の知り合いはお主らしかおらんしの。折角じゃからついでに、っといたったところだ。まぁどうでも良い。』なんか、ホントにどうでもよさそうな感じが伝わってくる。
「ふ~ん、まぁ、じゃあ、そん時にってところで?」
『うむ。でわ、我はもう行く。』そう言い、翼を広げ空へと昇って行く。
「ありがとな!またなっ!リガディル!」
「またね!リガディル!」
「あぎゃぁっ!」
『ふっ・・・またな・・であるか・・・そのような言葉を聞くのは1万年振りくらいかの・・・』