20話
じいさんにチョコの新しいリングを、まだ俺らの部隊が残したていたブルーホワイトのリングの余りを融合してもらった。属性はついてないし、レベル3になってしまったが・・・
”破魔の魔法”は数千年前に”破邪の魔法”の研究中に開発され今までの戦闘法を一新させた。破魔が作られる前は炎や氷、電撃に爆発や閃熱などの魔術で相手の障壁を上回る火力で殲滅してきた。しかし破魔は防護障壁も攻撃も今までの魔術よりも少ない魔力で遥かに効果的なのだ。そして破魔の魔法を使うために必要なのがブルーホワイトリングと呼ばれている物だ。これは稀少な感応石からシリコンタイプに精錬し作られる貴重品だ。レベルは10段階あり、レベルが上なほど低燃費、高出力を実現される。
ちなみに破魔が開発されてまもなく大規模な国家間戦争が火蓋を切り、破魔を持たない国はあっという間に飲み込まれた。破魔の障壁を通常魔術で突破するのには火力が足りず、破魔に対抗できるのは同じ破魔でないと難しかった為である。破魔の矢は相手の障壁を貫き、破魔の障壁は相手の魔術を防ぎきる。持つ者と持たない者では天と地との差だった。
この戦争で作られたレベル1のリングと数千年こつこつ作られたリングがあるため、割りと中古品が大量に出回わっており、新人ハンターでも中古でお手頃価格で手に入る。対妖魔、魔獣戦にも効果が高い為、各国の兵士、ハンターなど戦闘に携わる全ての者が装備する必須アイテムになっている。もはや”破魔の矢”をパワーアップ版として改良された”破魔の魔弾”しか攻撃魔法はほとんど使われてない。
「さて、アーマードの方じゃが服型でこの量と素材で作るとなると約8ヶ月、はやくて3月頃にはできあがると思うわい。」
「そんなにかかるの?っていうか、そういえば鱗や牙をどうやって服にするの?神殿でもらったこの服も見た目も着心地も布地なのにミスリル製だし。」
「んっ?知らんのか?聖蚕に全部食べさせるのじゃわい。こやつらは普段は水しか飲まんのじゃが、鉄だろうがなんだろうがなんでも食べる。そして食べた物の性質を含んだ糸を作り出すのじゃわい。その糸で術式を編みながら服を織るのじゃわい。古龍の素材を検査した結果から計算すると、おそらく糸にするのにこの量じゃと半年はかかるはずじゃわい。そこから作るから少々時間が掛かるわい。」
「そうなのか~。まあ、神殿でもらったバトルドレスがあるから当面は大丈夫だけど・・・長いな。」
「まぁ、出来上がりを楽しみにしておるがいいわい。」
「ああ、そうするよ。よろしくお願いします。」
そうしてチョーカーのアドレス交換と今後の話をして3月頃に再会を約束して別れた。
神殿に戻ると大神官が待っていた。
「シロウさん、実はチョコさんを解放都市にあるハンターの為の養成所、アルス学園に特待生として入学してみないかとの話が来ています。この間からチョコさんには話しているのですが、なかなか色好い返事がもらえません。シロウさんからも何かいっていただけませんか?」
この間大神官に呼ばれていたのはその為か。ビックリしたが、よくよく考えんでもあたり前の話だ。レベル381で幼少の頃から戦闘訓練と実戦経験の豊富なチョコには、高ランクハンターにだってなるのは夢ではない。というよりも、一般常識を覚えればすぐにでもなれそうだ。アルス協会と神殿が薦めるのも頷ける。
「チョコ、いい話じゃないか。受ければいいのに。なんで学園にいかないんだ?」
「わたしはアンタと一緒にハンターをやるって言ったでしょ。それにアイラを育てなきゃならないし。いまさら戦闘術を学ぶ必要だってないし。意味ないでしょ?そんなとこ行ったって。」
(いや、まあ、そうなんだけどね・・・アイラの事はともかく、ハンター関係で学ぶ必要がないのはそうなんだけど・・・一般常識を学ぶチャンスだっ!ぜひともチョコに本来の常識を身に付けて欲しいっ!切実にっ!)
「そんなことはないぞ、チョコ。アルス協会でも言っていただろ?ライセンスを取得したほうがいいって。俺はレベル0だからどうしたってライセンスを取得できない。チームメイトのチョコがライセンスを持っていれば、なにかと将来都合がいいぞ。アイラの為にも貧乏生活はマズイだろ?なっ?」
とっさに嘘も方便で説得する。
「それにどっちにしろこれから解放都市に行って迷宮へ挑戦したり魔獣を狩ったりして、そこを拠点にするつもりだから、ちょうどいいだろ?」
『アイラッ!合わせろっ!学校にいかせて常識を学ばせるんだっ!尻叩きや飯が離乳食のままじゃイヤだろっ!』
実は今日の昼食から離乳食になった・・・まだ肉は早いとのこと・・・
『学園に行かせれば肉が食えるのじゃなっ!?うむっ!わかったのじゃっ!』
「母、貧しいのはイヤじゃ。それにわらわも母が立派なハンターになって、その証のブルーカードをみてみたいのじゃ。」
「わかったわ。アイラの為にも学園に行く。」
思わずアイラを抱きしめながら応える。
「よかった。今は夏休みですから、2学期からの編入になりますけどカオルもそこで神官戦士見習いとして通っていますからご安心ください。」
あのおどおどした可憐な少女は神官戦士を志ているらしい。以外だ。つーか大丈夫なのか?あの性格で?
その夜、神殿にてシロウが大浴槽でゆったりと浸かっていると、一人の神官が入ってきた。
カオルだ。タオルで胸から下を隠して恥らいながら入ってくる。
「あっ!シロウさんも入っていたのですか?どうですか?ここは?広くて気持ちいいですよね。うちの神殿の自慢のひとつです。」
そういって湯船に浸かっていく。
(ちょっ?!何々この展開っ!?ここって女風呂っ!?じゃないよなっ!?普通に話しかけてきているし?はっ!!夢かっ!?夢オチかっ!?いつの間にか風呂の中で寝ちまったらしいな。ふ~、やれやれ、こんな夢を見るなんて俺もどうかしている。もうすぐ中身が40になるいい年をした男がナニ考えてるんだか。どんなにかわいくても相手はまだ13才の子供だ。俺はロリコンじゃないし、やっぱまだ疲れてるんだな。まあ、夢でもいい子だし失礼のないように相手しないとな。)
「ああ、こんな大きな風呂に入るのは生まれて初めてだよ。いいなぁ、カオルは毎日入れて。」
「そうですね。でも普段は学園の寮でシャワーですから、夏休みの期間中に帰郷した時だけですよ。」
「そういや大神官も言っていたな。神官戦士を目指しているんだって?普通に神殿務めじゃイヤなのか?わざわざ命を張ることもないだろうに。」
「神官は平和な世界を願うものです。妖魔との戦いは避けられません。それに私は戦争孤児ですから、今まで育てて頂いた恩を少しでもお返ししたいですし。」
「そっか。まじめだなぁカオルは。俺は単に他に就ける仕事がないからハンターやるだけなのに。」
「いえ、そんなことないですよ。シロウさんだって、どんな事情であれ、世界の為に働こうとなさっているのですから。」
「まっ、そう取ってくれるとありがたいけど、こそばゆいな。」
「ふふふふっ。」
そうして、会話をしながら汗を流し、一緒に大浴場をでて笑顔で別れると部屋に戻るなり頬をつねる。
「・・・痛い。・・・ってことは、夢じゃない?・・・そんな・・・」
そういって・・・・・・絶望した・・・・・・カオルは・・・・・・男だった・・・・・・




