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婚約破棄された私は浮気王子を断罪し、隣国の最強皇太子に溺愛されながら華麗に復讐します

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/03/29

 ――その日、私の人生は終わった。

「セレフィーナ・アルディア。お前との婚約を、ここに破棄する」

 王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私の婚約者であった第一王子レオルドは、堂々とそう言い放った。

 周囲はざわめきに包まれる。

 当然だ。何の前触れもなく、婚約破棄など。

 しかも――理由が、最悪だった。

「理由は明白だ。お前は陰湿で嫉妬深く、そして……俺の愛する女性を虐げた」

「……は?」

 思わず、素で声が出た。

 いや、待って。意味が分からない。

 私が虐げた? 誰を?

 その答えはすぐに現れた。

「セレフィーナ様……どうか、もうおやめください……」

 涙ながらに前に出てきたのは、子爵令嬢リリアナ・フェルディナ。

 ――敵役の女だ。

 ふわりとした金髪、儚げな表情。だがその瞳の奥にある計算高さを、私は知っている。

「リリアナ嬢、君は何も悪くない。すべてはこの女の嫉妬だ」

 レオルドは彼女の肩を抱き寄せる。

 ――ああ、なるほど。

 全部、繋がった。

「……つまり殿下は、その方と不倫なさっていたと?」

 静かに問う。

 一瞬、空気が凍りついた。

 だがレオルドは、ふっと鼻で笑った。

「愛に不倫も何もあるか。真実の愛だ」

「はあ?」

 また素で出た。

 周囲がどよめく。

 私はこめかみを押さえた。

 ……ダメだ、この人。思ってた以上に頭が残念だ。

「では、婚約者がいる状態で別の女性と関係を持つ行為を、殿下は正当だと?」

「当然だ。俺は王子だぞ?」

 ドヤ顔である。

 ……本当に無理。

「セレフィーナ様……私、怖かったんです……」

 リリアナが震える声を出す。

 だが、その指先がレオルドの服をぎゅっと掴んでいるのを、私は見逃さない。

 ――ああ、完全に共犯ね。

「私を陥れるために、随分と準備されたようで」

「な、何を……!」

「いいえ。もう結構です」

 私は静かに息を吐いた。

 怒りは、ない。

 あるのはただ――冷たい決意だけ。

「婚約破棄、受け入れましょう」

「ほう、聞き分けがいいな」

「ええ。ただし」

 私は顔を上げる。

「王家との一切の関係を断ちます。そして、私に対する虚偽の中傷が事実である証拠を提示できない場合――」

 にこり、と笑う。

「然るべき手段を取らせていただきます」

 その言葉に、空気が張り詰めた。

 だがレオルドは気にした様子もなく、笑った。

「好きにしろ。どうせお前は終わりだ」

 ――そう思っていなさい。

 私はその場を後にした。

 その夜。

 私はすべてを失った。

 婚約者も、社交界での立場も。

 家ですら、私を庇うことはなかった。

「お前が何かしたのだろう」

 父のその一言で、終わった。

 ……まあ、いい。

 全部、切り捨てるだけだ。

 私は荷物をまとめ、屋敷を出た。

 行く当てもないまま、夜の街を歩く。

 その時だった。

「――面白い女だな」

 背後から声がした。

 振り向く。

 そこにいたのは――黒髪の男。

 鋭い金の瞳。圧倒的な存在感。

「誰ですか」

「名乗る前に、礼を言うべきか?」

「は?」

「先ほどの茶番。最高に笑えた」

 くつくつと笑う。

 ……この人も大概だな。

「失礼しました。笑いものにしてしまって」

「いいや。あれはあの男が悪い」

 男は近づいてくる。

「お前、行く場所がないのだろう?」

「……それが?」

「なら、来い」

「は?」

「俺の国に」

 さらっととんでもないことを言った。

「はあああ!?」

「ちょうど退屈していたところだ。お前なら、楽しめそうだ」

 にやり、と笑う。

 ――この人、絶対ヤバい。

「お断りします」

「即答か。だが」

 彼は私の顎を軽く持ち上げた。

「復讐したいのだろう?」

「……!」

 図星だった。

「力を貸してやる。あの愚か者どもを、徹底的にな」

 低く、甘い声。

 その瞳には、確かな力が宿っていた。

「……あなたは、一体」

「俺か?」

 彼は笑う。

「隣国グラディウス帝国、皇太子――アルヴィスだ」

 ――とんでもない人物だった。

 それから数ヶ月後。

 私は帝国にいた。

 そして――

「セレフィーナ、今日も美しいな」

「やめてください」

「なぜだ?」

「毎日言う必要あります?」

「ある」

 即答。

 ……この人、本当に皇太子?

 溺愛が重すぎる。

 だが、その力は本物だった。

 証拠を集め、裏を取り、ついに――

「本日、王国に正式抗議を行う」

 アルヴィスが告げる。

「準備はいいか?」

「もちろんです」

 私は微笑む。

 ――復讐の時間だ。

 そして公開の場。

 すべてが暴かれた。

「な、何だと……!?」

 レオルドは顔を青ざめさせる。

「リリアナ・フェルディナ。あなたが虚偽の証言と証拠捏造を行ったこと、すべて明らかになっています」

「ち、違う……!」

「そして殿下」

 私は冷たく見下ろす。

「あなたの不貞行為も、すべて記録されています」

「ぐっ……!」

 周囲の視線が突き刺さる。

 もう、逃げ場はない。

「以上をもって、名誉毀損および国家間問題として訴追します」

 終わりだ。

 二人はその場で失脚した。

 その帰り道。

「満足か?」

「ええ」

 私は空を見上げる。

 すべて、終わった。

「では次だな」

「次?」

「結婚だ」

「は?」

 また出た。

「お前は俺のものだろう?」

「いつの話ですか!?」

「最初からだが?」

 ドヤ顔。

 ……ダメだこの人。

「いやいやいや、そんな話してませんよね!?」

「した」

「してません!!」

 言い合いになる。

 だが――

「……まあ」

 私は小さく笑った。

「少しだけなら、考えてもいいですよ」

「本当か!?」

「ただし条件があります」

「何だ」

「その重すぎる溺愛、少しは控えてください」

「無理だ」

「即答やめて!?」

 ――こうして。

 すべてを失ったはずの私は。

 誰よりも面倒で、誰よりも強くて。

 誰よりも優しい男に、捕まったのだった。




◆ ◆ ◆ ◆




 ――結論から言う。

 この男、重い。物理的にも精神的にも。

「セレフィーナ、朝だぞ。起きろ。というか起きているな? 起きているなら抱きしめてもいいか?」

「いいわけないですよね???」

 朝一番からこれである。

 なお、ドアはノックしていない。勝手に入ってきた。

 皇太子なのに。

「なぜだ。夫婦になるのだから問題ないだろう」

「なってません!! 予定も未定です!!」

「では今決めよう」

「会議みたいなノリで言わないでください!!」

 私は枕を投げた。

 見事に顔面にヒット。

「痛いな。だがそれも愛か」

「違いますただの攻撃です」

 この人、本当に大丈夫だろうか。

 帝国の未来が心配になるレベルである。

 ――数時間後。

 私は仕事をしていた。

 帝国の社交界に復帰したとはいえ、やることは山積みだ。

「セレフィーナ様、こちらの書類を――」

「ありがとうございます」

 侍女から書類を受け取る。

 その瞬間。

 ガチャァン!!!

「セレフィーナァァァァ!!!!」

「うるっさ!!!!!」

 扉が破壊された。

 いや、物理的に。

「何してるんですか!?」

「いや、ノックが面倒で」

「破壊の方が面倒ですよね!?」

 ドアが粉々なんですけど!?

 職人さん呼ばなきゃいけないんですけど!?

「それよりセレフィーナ」

「それよりじゃない」

「会いたかった」

「さっき会いましたよね!?」

 わずか三時間前だぞ!?

「三時間も離れていた」

「遠距離恋愛か何かですか??」

「心の距離の話だ」

「うまいこと言った感出さないでください」

 もうダメだ。

 ツッコミが追いつかない。

 ――さらに数日後。

 私はある噂を耳にした。

「皇太子殿下が、婚約指輪を用意しているらしい」

「……は?」

 嫌な予感しかしない。

 そしてその夜。

「セレフィーナ」

「来た」

 来た。

 絶対来ると思った。

 ドアはちゃんとノックされた。奇跡だ。

「入りますよ?」

「どうぞ」

 開けた瞬間。

 キラァァァァァン!!!

「まぶしっ!!!」

 何かが光った。

 いや、何かじゃない。

 指輪だ。

 しかも、異常にデカい宝石がついている。

「どうだ」

「どうだじゃない」

「婚約指輪だ」

「いやサイズおかしくないですか???」

 指よりデカいんだけど!?

 これもう武器だよね!?

「愛の大きさを表現した」

「物理的に表現しないでください!!」

「重いか?」

「そりゃ重いですよ!! 指もげますよ!?」

 ていうかこれ、はめたら手を振るたびに凶器になる。

「問題ない。筋力を鍛えればいい」

「なんで私が努力する前提なんですか!?」

 おかしい。

 会話が成立しているようでしていない。

 ――翌日。

 私はついに決断した。

「アルヴィス様」

「なんだ、セレフィーナ。今日も美しいな」

「ありがとうございます。話を聞いてください」

「なんだ?」

「溺愛を」

「うん」

「控えてください」

「無理だ」

「即答ァァァァァ!!!」

 知ってたけど!!

「だが安心しろ。努力はする」

「本当ですか?」

「ああ」

 珍しく真面目な顔。

 ……これは期待していいのか?

 ――数分後。

「セレフィーナ」

「はい」

「控えめにした」

「どこがですか」

 距離ゼロなんですけど。

 というか膝に座らされてるんですけど。

「これでも控えめだ」

「基準がバグってる!!」

「ではこれ以上離れる」

 スッ……

 1センチ離れた。

「誤差ァァァァァ!!!」

 誤差の範囲!!

 それもうくっついてるのと同じ!!

「どうだ」

「どうだじゃないです」

 私は頭を抱えた。

 ダメだ。

 この人はもう治らない。

 ――だが。

「……まあ」

 私は小さく笑う。

「嫌いじゃないですけどね」

「本当か?」

「ええ。ただし」

「ただし?」

「そのドア破壊癖だけは直してください」

「善処する」

「絶対直さないやつ!!」

 断言できる。

 この人は絶対やる。

 またやる。

 確実にやる。

 ――こうして。

 復讐を終えた私の日常は。

 平穏とは程遠い、騒がしくて。

 でも――

「セレフィーナ、愛している」

「はいはい、知ってます」

 どこか温かい。

 そんな毎日になったのだった。

――続く(多分ずっとこんな感じ)――

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