耳をそばだてる
今日も聞こえるあの音だ
「ママ! 頭の手術したばかりなんだから、もう少しゆっくり歩いたほうが良いよ!」
今日は頭の手術をしたママの退院日で、やや子が車で病院まで迎えに行った。
72才のママは若々しく白髪1本もない。スリムではつらつとした美人だ。
50才のやや子はママ似だ。ママに似ていない所は背が低い所かな。
ママとやや子はそれぞれ一人暮らしをしている。車で15分もあればママの家に着く。
やや子が運転中、「お家に食べる物あるの?」と訊くと、「あんまりないかな……」と言うので、ついでにスーパーマーケットへ寄ったのだ。
スーパーマーケットの中、やや子はママを時々見失いそうになる。それぐらいママはスーパーマーケットの中でカートを速く押す。
「大丈夫よ! やや子、夜もまたお仕事でしょう。今日、水曜日だもん……! 悪いね、退院のお迎え」
「良いのよ、そんな……。ママ? カートの持ち手を持っているとはいえ、ヒトにぶつけたら大変よ? それに商品の棚にぶつけた衝撃で、手術した頭がどうにかなっちゃったらどうするのよ!」
「大丈夫よ、ママ、気を付けているから」
(このスピード……『気を付けていま』せんよ……)やや子は頑固なママに手を焼く。
ママにしてみれば、娘のやや子の時間を奪ってしまい申し訳ないと思う一心で、慌てたお買い物の仕方をするのだろう。
いつもそう。
やや子は平日、朝から昼まで中華料理店のホール係をし、水曜日と日曜日はラウンジで働いている。水曜・日曜はもろダブルワークだ。土曜日だけが唯一のお休み。はっきり言ってキツイ。
でも、やや子は働くことが好きだ。
ちなみに中華料理店に関しては、(水)(日)以外であれば、穴があくと急に夜の部にも呼び出されたりする。土曜日にもそれはあり得る。
頼られていることにやや子は誇りを感じている。しんどくはあるけれど。
お仕事しないと生活して行かれないしね。
ガラガラガラガラガラッ……! (ママの音だ!)
ス-パーでママを見失った際、今や、コロの動きのスピード感で、籠のきしむような音で、すぐにママの居場所が分かるぐらいまでに耳が鍛錬されたやや子。
叱った言い方などしようものなら、ママは怒って話を聴いてくれないので、「ママ、ゆっくりで大丈夫よぉ」と、くノ一のようなママの速さを洗脳するべく繰り返すやや子。「大丈夫、大丈夫、ゆっくり行こうよ~」
しかしママにそんな忍法もどきは通用しない。
「行くわよ! やや子っ」
だれか、ママのカートを止めてください。
アドバイス受付中(≧∇≦)




