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荒地に追放された食いしん坊聖女はいつの間にかラスボス認定されていたようです!!  作者: ゆずこしょう
食いしん坊聖女と果樹の都バックース

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泉の再生と発酵の奇跡。

「準備はできたわ! さぁ、この地を復活させるわよ!」


アンネリーゼのお願いから一週間――


メメント・ムーンとメメント・ソレイユは、新しい曲を作り終えていた。


「今回やることは、わかってるわね?」


アンネリーゼの言葉に、全員が力強く頷く。


デバフの効力があるかどうか――そればかりは、やってみなければわからない。


けれど、彼らの表情には迷いはなかった。


今日のために、シルトクレーテは新しい衣装をメメント・ムーンとメメント・ソレイユに贈っていた。


それぞれの個性に合わせた色と装飾が施された、祝祭のための特別な衣。


今までは神聖さを出した白地メインの衣装だったが、今回は少し違う。


デバフの効果を考え、黒地メインの衣装となっていた。


(シルトクレーテもよくわかっているわね。)


シルトクレーテが作った衣を見てアンネリーゼは大きく頷いた。


「皆、すごく似合ってるわ!」


そして、ラケルは――


「俺からも、お前らにプレゼントだ」


そう言って、炎で鍛えた“おたま”と“剣”を手渡す。


「え……俺たちにもですか?」


「うむ。お前らが練習を頑張っているのを見ていたからな。だが、我が作れるのはただの剣。ケルネリウスが持っているものとは違う。それだけは忘れるでないぞ」


柄には、衣装と同じメインカラーの装飾が施されている。


「「「あ、ありがとうございます! シルトクレーテ殿、ラケル殿……」」」


初めてもらったプレゼントに感極まり、目に涙を浮かべる。


「構わん。お主らがこの地を元に戻してくれれば……」


「あぁ。我も酒が飲みたいぞ!」


二人の思惑に、思わず笑みがこぼれた。


***


「準備できたわ!」


「こっちもばっちりよ!」


「俺たちもいつでも大丈夫だ。」


月がてっぺんに登り、太陽が出始める夜明けの直前――


今日の舞台でもある泉へ到着すると、各々準備を始める。


効果が最も現れるのは月が出ているとき。そして今回はシルトクレーテの言葉もあり、太陽と月両方が出始める瞬間を狙っていた。


『今回は、メメント・ムーンだけではない。メメント・ソレイユの初舞台。そんな日は太陽が昇り始めた時間が一番じゃろう。』


その言葉はアンネリーゼにも深く刺さった。


(願掛けみたいなものね…私も学生の時は願掛けをよくしたものだわ。)


大会前。少しでもいい成績が残せるようにと願掛けをする。


朝のごはんをかつ丼にしてみたり、前の日にミサンガを作ってみたり…。友人に背中を叩いてもらったり…。


そのやり方は人それぞれ。


その気持ちがわかるからこそ、シルトクレーテの意見に賛成した。


「いい? 太陽が上がる瞬間は一度きり。必ず成功させましょう!」


皆で円陣を組むと、アンネリーゼが声を上げる。


皆の鼓動が一人一人に伝播していく。


目を閉じて、深く深呼吸をすれば、目をぱちりと開けた。


そしてニヤリと不敵に笑う。


「皆…調理開始よ!」


「「「「レッツ~♪クッキ~ング♪」」」」


その声が泉へと反響する、と同時にどこからともなく音楽が流れ始めた。


―――


どれだけ走っても 届かない声

どれだけ願っても 掴めない光


努力は土に還り 涙は風に散る

誰も見ていない 誰も知らない


悔しさが 胸を焦がし

悲しみが 影を伸ばす

孤独は 冷たい檻となり

寂しさは 夜を閉ざす


報われぬ祈りよ 響け

届かぬ想いよ 刻め

この地に 負の歌を混ぜ

腐敗の泉を いま 揺り起こせ


―――


……歌が終わる。


その瞬間、音が、風が、時さえも――止まった。


音楽が止まると同時に、メメント・ムーンはお玉を月に向かって示す。


そしてメメント・ソレイユは力強く土に剣を立てた。


泉の上空に、静かな波紋が広がった。

音が消える。

空気が張り詰め、月と太陽の光が一点に交わる。


アンネリーゼは息を飲み、仲間たちもその光を見上げた。


まるで世界そのものが、息をひそめて“発酵”を待っているかのようだった――。


しかし――


待てども待てども何も変わらず…


「やっぱりダメだったのかしら…。」


「声が届かなかったのかな…」


「もう一回やってみる?」


それぞれが不安そうに泉を見つめていると――


「ボコッ……」


その音が合図となったかのように、


泉の表面が淡く震え、次々と金色の泡が立ち上った。


「……きた!」


キャスバルが声を上げると、先ほどまでの腐ったような酸っぱい匂いがなくなり周囲の空気が一気に甘く変わる。


果実の香り、草木の匂い、そしてほんの少し焦がした砂糖のような香ばしさ――

嗅ぐだけで思わず胸が熱くなるほど、濃厚な香気が泉を包み込んだ。


やがて泡は渦を描きながら天へと昇り、

月光と朝日の境で輝き、まるで金糸酒の風船のように「パチッ、パチッ」と弾け飛ぶ。


「見て……泉が笑っているわ。」


「あぁ……それだけじゃないぞ。泉の周りで腐っていた木々たちも、輝きを取り戻している。」


泉の水は、もう黒く濁ってはいない。


透き通るような琥珀色――

まるで長い時を経て熟成されたワインのような色をしていた。


「これが、“発酵”……」


ケルネリウスが小さく呟く。


その声がきっかけのように、皆の口から次々と歓喜がこぼれた。


「せ、成功したのね……!」


「あぁ、俺たちの力で蘇らせることが出来たんだ。」


「私たちの思いが届いたのね……!」


一人一人の呟きが空へと溶け、

メメント・ムーン、メメント・ソレイユの目には、薄らと涙が浮かんでいた。


そしてその涙が地に落ちると、枯れていた地面に、草が芽吹き始めた。


「香り……甘いのに、苦くて、深い……」


アンネリーゼは両手ですくった泉の液体を、そっと口に含む。


一瞬、世界が光に包まれた。


舌の上に広がったのは――ただの甘味ではなかった。


酸味、苦味、旨味、そしてほのかな塩気。

それらすべてが調和し、まるで“悲しみさえ味に変わった”かのような、深い旨みだった。


ほんのわずかに身体が震えた。

それは、この味が――この地の記憶そのものだと悟ったからだ。


「これは……ワインね。芳醇で香ばしい。

 たくさんの人たちの努力の結晶。」


泉が、再び呼吸を始める。

金色の泡が弾けるたび、笑い声のような音が響いた。


アンネリーゼはその光景を静かに見つめ、微笑む。


「みんな……やったわね。」


短い静寂が生まれる。

それは、祝福にも似た余韻だった。


風が吹き抜ける。

光が満ち、甘い香りが世界を包み――


バッカースの地は、再び“生きる”音を奏で始めた。


――その静寂を破ったのは、キャスバルの大声だった。


「あ~!! お前、成人前に酒飲んだな!?」


「仕方ないじゃない。飲まなきゃ成功したのか分からないんだもの。」


「理屈になってねぇ!」


二人のやり取りに皆笑い声をあげる。


「もう、飲んじゃったし……このまま宴しちゃう?」


「おっ、いいんじゃ――」


「ダメだ!!すぐに帰るぞ!!」


「「ぐえっ……」」


ケルネリウスは呆れ顔で、首根っこを掴みキャスバルとアンネリーゼをずるずると引きずっていく。


「ちょ、ちょっと! 帰るってどこによぉぉぉ!?」


「決まってるだろ。プロセルピナ神殿に、だ! 走るぞ皆!!」


「えっ!?遠すぎない!?」


その背中を見送りながら、シルトクレーテは静かに笑った。


「……やれやれ、次は“聖酒の儀”じゃな。」


風が、どこか懐かしい香りを運ぶ。

新たな旅立ちの合図のように――。




――第二幕完――


「第二幕も色々あったわね…リースが帰ってこなかったり、急に歌って踊り始めたり…。

 クスッ…本当に私と違って、皆やんちゃなんだから!!」


「いや、お前がそれ言うなよ?」


「ん? なんか言った?」


(こいつ…自分のことはなかったことにしようとしているな?)


「お前だって色々やらかしただろ?」


「ん? 聞こえなーい。」


「……そういうとこだよ。」


✿いつもお読みいただきありがとうございます(*.ˬ.)"


ついに第二幕完結です。

バックースの泉も無事に復活しましたね。


まだまだあちこちへ行って、色んなものを食べ歩きたいアンネリーゼですが……

どうやら いったん王都へ帰ることになりそうです。


第三幕でも、彼女の食欲と騒がしさは間違いなく暴走する予感……。

引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです✨


第三幕は土曜日 8:10 更新予定。

どうぞ、お楽しみに✨


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