血まみれの帰郷!?
「イアンお兄様ぁぁぁ!!」
ロックバードを倒し、馬車を大破させてしまったアンネリーゼは、
近くに捨てられていた荷台を拝借し、ロックバードを乗せて自分で引きながら歩いて実家まで帰ってきた。
巨大な鳥を引く白い少女。
その姿は勇ましいというよりも――完全にホラーである。
「ふぅ……ようやく帰ってこれたわね!」
門の前に辿り着いた時、
アンネリーゼによく似た顔立ちの青年が、門番と話をしているのが見えた。
イアン・ラファリエール。
アンネリーゼの四歳年上の兄で、十八歳。
ラファリエール公爵家の嫡男であり、大神官の地位を持つ才人だ。
そんな彼の背後から、
返り血まみれの白い聖女服を翻しながら、笑顔の妹が近づいてくる。
兵士の顔はみるみる真っ青。
だがイアンはまだ気づいていない。
「どうした?」
「ひ、ひゃ……」
言葉にならない声をあげ、
震える指で後ろを指す兵士。
イアンが振り返ると――
「イアンお兄様ぁぁぁぁ!!」
笑顔のアンネリーゼが、血まみれのまま手を振っていた。
「ア、ア、アンネリーゼ!?!?」
久しぶりの再会。
普通なら抱き合って涙する場面なのだが――
イアンはゆっくり後退した。
「はい、アンネリーゼです! とても会いたかったんですよ……って、なんで逃げるんですか!?」
「いや、おま、それ……自分の格好を見てから言いなさい!!」
イアンの目の前に立つのは、
顔に血が飛び、破けた白ドレスを着て、
巨大な鳥を荷台で引いてくる妹。
どんなホラー映画よりも恐ろしい。
「ちょ、ちょっとお兄様!? 久しぶりなのに!!」
「いいから距離を取れぇ!!」
イアンは屋敷の扉を開け、全力で中に逃げ込んだ。
「あ、分かりました。追いかけっこですね!! それだったら負けませんよ!!」
まさかの鬼ごっこ開始。
六年ぶりに会った妹に、お淑やかさを少しは期待していたイアンだったが――
会った瞬間、全てを悟った。
(あぁ……何も変わっていない……。)
屋敷の中を駆け回る兄妹。
侍女たちは「あぁ、昔に戻ったみたいね」と、どこか懐かしげに笑っていた。
***
それから十分後。
イアンは息を切らしながら、ダミアンのいる書斎へと転がり込む。
「父上!! 大変です!!」
「なんだ、イアンか。そんなに慌ててどうしたんだ。」
「ア、ア、アンネリーゼが!!」
イアンの慌てように、ダミアンが驚いて立ち上がる。
「アンネリーゼがどうした?」
その直後、イアンの背後から――
「お久しぶりです。お父様! ただいま帰りました!!」
満面の笑みを浮かべたアンネリーゼが、ひょっこり顔を出した。
「ア、ア、アンネリーゼ……!?」
ダミアンはギョッとした顔で彼女を見つめた。
白い聖女服はボロボロ。
あちこち血に染まり、見るからに事件現場帰りだ。
「ほ、ほ、本物か? まさか魔人が化けてるとか……」
恐る恐るアンネリーゼの頬に触れる父。
「ふふ…くすぐったいです。お父様…。」
その笑みを見て、ダミアンの目に涙が浮かんだ。
「ほ、本物なんだな……。」
八歳で王都のアウローラ大神殿に入ってから六年。
最後に会ったのは十歳の頃。
何度も面談申請を出しても、なぜか却下され続け、
連絡は手紙だけ。
想像でしか見られなかった娘が今、目の前にいる。
涙が出ないわけがなかった。
「ふふふ。そんな訳ないじゃないですか!!
次の任務地に行く前に一度こちらに寄ったんです。」
「次の任務地だと?」
ダミアンの問いにこくりと頷くと、
アンネリーゼは淡々と、婚約破棄と追放の経緯を語った。
「……それは本当なのか?」
「はい。婚約証明書まで見せられました。
ですが、私の名前が“アンネリーズ”になっていたんですよねぇ…。
お父様は間違いないと思いますので、多分誰かが偽装したんだと思います。」
テープで貼り付けた婚約証明書を差し出すと、
ダミアンは拳を強く握り、震えた。
「またあいつか……。」
その声にイアンも顔をしかめる。
どうやら心当たりがあるらしい。
「でも幸運なことに、次の配属先はラファリエール領のすぐ隣なんです。
だからこうして帰って来られたんです! といっても……かなり危険な場所なんですけど。」
「……『プロセルピナ神殿』か。」
「はい。ずっと気になっていた場所なんです。
(どんな美味しい素材があるのかしら……)
チャンスだと思って!」
微笑むその顔はまさに聖女――
中身は食いしん坊のまま、だが。
(こうやって見ると大人になったなぁ……)
まぁ、顔だけは。
「そうそう! 近々、私と一緒に行動したいという聖女と神官がやって来ますので、
その対応だけお願いしてもよろしいでしょうか?」
「「えっ!?」」
父と兄が同時に声を上げた。
アウローラ大神殿の聖女や神官が来るということは、
つまり――大神殿はもう、空になっているということ。
「ちょ、ちょっと待て。アウローラ大神殿は今……」
「確か、エルネスト王太子殿下の新しい婚約者、れ、れ、れ……さんが運営しているはずですよ。
私と一緒に働いていた人は一人も残っていませんが……」
名前が思い出せずに首を傾げるアンネリーゼ。
その姿に二人は同時にため息をついた。
「アンネリーゼ……こういうことは先に言いなさい。」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
アンネリーゼの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです✨
次回は待ちに待ったロックバードの唐揚げが登場予定です♪
21:30更新予定♪
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それでは、次回もお楽しみに!




