【閑話】ケルネリウスの夜食事情ー溶岩ペペロンチーノの逆襲ー
ウルカヌス火山を出発したばかりの時の一コマです。
「お、おい…お前、一体何してるのだ…」
目の前で怪しい動きをしているアンネリーゼを見て、
ラケルは思わず声をかけた。
「ふふふ…まぁまぁ見ていればわかるから。ラケルは黙っててよね。」
その顔はまるで、いたずらを覚えたばかりの子供のよう。
「人のご飯を食べた罪は重いんだから!
たぁ~っぷり仕返しさせてもらわないとね。」
戸棚に、真っ赤を通り越してどす黒く輝く謎の食材を仕舞いながらニヤリと笑う。
「う、うむ…我は何も見ていないぞ……(巻き込まれるのは勘弁だ。)」
ラケルはそっと視線をそらした。
***
ケルネリウスが戻り、ラケルが仲間になって数日――。
定位置になっているシルクトレーテの頭の上から外の景色を眺めていると、
アンネリーゼは“あるもの”を見つけて、ぱぁっと目を輝かせた。
「……あれよ。あれがあれば完璧だわ!!」
未知の食材を見つけた時特有の、
あの危険なほどキラキラした目。
シルクトレーテの頭の上からぴょんっと飛び降りると、
そのまま全速力で走り出すアンネリーゼ。
ラケルはその後ろ姿を見て、小さくつぶやく。
「……また厄介なものを見つけたようだな。」
アンネリーゼの進む先――
そこには一本の木が伸び、枝にたわわに実っている奇妙な実。
緑から鮮やかな赤、
そして“どす黒い赤”の実まで並んでいる。
まるで熟すほど凶悪になるような、その色。
風が吹くたび、
実からじんわりと刺激的な香りが漂い、空気がピリッと震えた。
ラケルの眉がわずかに動く。
「……あれは、もしや“溶岩唐辛子”ではないのか?」
アンネリーゼはふふんと笑いながら、
一番奥で黒光りする実にそっと手を伸ばした。
「ふふふ……ケルネリウス、覚悟なさい……!」
「躊躇なく黒光りする実を手に取るなど…ケルネリウスは一体何をしたんだ…。」
アンネリーゼが手にもっている実をみて、顔を真っ青にするラケル。
ラケルはあの真っ黒い実に見おぼえがった…。
清子がおいしいといって持ってきた料理にあれが使われていたからだ。
「あれは、火を吹くほど辛いのに大丈夫…なのか!?ま、まぁ…我はもともと火を吹くドラゴンだから大丈夫だったが…」
自分で何を言っているのか一人で乗りツッコミをするラケル。
その姿を見ながらシルトクレーテは目を閉じて昔の記憶を思い出し溜息を吐く。
(ふむ…これは…いやな予感がしなくもないのぉ~…)
その瞬間、シルトクレーテの上にある木々がわさわさと揺れた。
「な、なんだ…!?地震か!?」
何も知らないケルネリウスはそんなこと気にも留めず一人フレア・レメディア磨いていた。
***
アンネリーゼは黒い唐辛子を大事そうに包み込みながら、
嬉しそうにスキップで厨房へと向かう。
「さて……仕込み開始っと♪」
その声があまりにも楽しげで、ラケルはぶるりと肩を震わせた。
「お、おい……!!本気で使う気なのか!?
あれは……溶岩よりも辛い、悪魔の実なのだぞ!?」
「うん、だからこそケルネリウスにピッタリじゃない♪」
その目に迷いはなく、むしろワクワクが溢れ出ている。
(あいつ……本気だ…被害者がケルネリウスだけですめばいいが…)
ラケルは楽しそうに何を作るか考えるアンネリーゼを見て頭を抱える。
「ふふふ……あとは、にんにくとオイルと……麺を茹でてぇ~……」
普段の料理モードとはどこか違う。
その背中からは、“復讐の炎”がめらめら立ち昇っているようだった。
(……あ、あいつはやっぱり清子より危険だ。…)
ラケルは、もう巻き込まれたくない一心で
そろりそろりと後ずさった。
「さぁ~~て、最高の“お返しペペロンチーノ”を作っちゃうわよっ!!」
こうして――
知らぬ間にケルネリウスの運命は決まりつつあった。
***
アンネリーゼは溶岩唐辛子をまな板に置き、包丁を構える。
――コトッ
ヘタを落とした瞬間、刺激臭が一気に広がる。
「っ……目に来るわね……!」
「そ、そりゃそうだ!あれは切っただけで魔物が逃げ出す辛さだぞ!?」
アンネリーゼは気にもせず鍋にオイルを注ぎ、
溶岩唐辛子を投入した。
――じゅわあああッ!!
真っ赤な湯気が立ち上り、ラケルは数歩後退する。
「な、なんだこの殺気は!?」
「大丈夫よ、ケルネリウス専用だから♪」
アンネリーゼは鼻歌まじりにガーリガールのすりおろしを加え、
茹で上がった麺と手早く絡めた。
黒い湯気をまとったそれは、明らかに兵器だった。
「ふふ……完成。名付けて――地獄の溶岩ペペロンチーノ!」
「名前からしてすでに終わってる!!」
アンネリーゼは満足げに皿を机へ置き、
可愛らしい置手紙を添えた。
「……これでよし。あとは食べてもらうだけね♪」
ラケルは震えながらつぶやく。
「(……これ、食べ物でいいのか……?)」
***
「ん~…ちょっと腹が減ったな。」
フレア・レメディアの手入れを終えるとすでに日は暮れ月がてっぺんに登っている。
ケルネリウスはグッと身体を伸ばすと、そのまま立ち上がった。
「ちょっと厨房に何かないか見に行くか。」
厨房に向かうと、おいしそうな匂いが充満している。
「これは、またアンナか…?」
ゆっくり厨房の扉を開けると、ニンニクの香ばしい匂いがさらに強くなった。
「この棚から匂いがするな…」
匂いがする棚をゆっくり開けばひらりと手紙が落ちる。
―――
リースへ
いつも私のわがままを聞いてくれてありがとう。
これはほんのお礼です。
リースのために愛情を込めて作りました♡
よかったら食べてください。
アンネリーゼ
―――
「なんだ…珍しいこともあるもんだな…」
その手紙をみてほほ笑むと、そのままペペロンチーノに手を伸ばし、近くにある椅子に座る。
「いただきます。」
手を合わせてからペペロンチーノをくるくるとフォークに巻き付けるケルネリウス。
何も知らない彼は大きな一口を開けてもぐもぐと食べ始めた。
「ん…これは案外行けるな。この舌がピリッとする感じ…新鮮だ。」
「えっ!?どういうこと?」
ケルネリウスが平然とペペロンチーノを食べる姿を
扉の隙間から覗いていたアンネリーゼは、
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「ん?お前たちもいたのか。」
ケルネリウスは声を聞こえた方向に目を向け、アンネリーゼたちは口を手で押さえた。
「このペペロンチーノとやら……
ニンニクが効いていて凄く美味いぞ?
わざわざ俺のために作ってくれたんだろ?ありがとな!」
ケルネリウスは純度100%のいい笑顔で言う。
アンネリーゼは目をそらしながら答えた。
「そ、そうだけど……(なんで平気なのよ!?)」
隣のラケルにそっと囁いた。
「ねえちょっと!どういうこと!?
あれは見た目だけだったってこと!?」
「いや、そんなはずはないぞ。
“溶岩唐辛子”は劇薬並みに辛い……。」
「えっ!?でもリースは平然としてるわよ?」
「我も食べたことがあるが…今まで食べた中でも一番辛いものなはずだ!」
アンネリーゼは平然と食べ続けるケルネリウスをみて目を大きく見開いた
(辛さに耐性ありすぎじゃない!?どんな舌してるのよ!!)
二人のヒソヒソ声に気づいたケルネリウスは首を傾げる。
「お前たち、何を話しているんだ?」
「「……いや、なんでも……」」
シラーッと目をそらす二人――
それを見たケルネリウスはククッと笑った。
「わかった、お前らも食べたいんだろ?
夜中は腹が減るよなぁ〜」
そう言って、ペペロンチーノを小皿に取り分け、二人の前へコトリとおく。
「「……え……っと……?」」
「ん…?食べたいんだろ?遠慮するな!」
ケルネリウスは満面の笑みで頬張りながら食べるように言ってくる。
「ちょ、ちょっと待って!?これは想定外すぎるわ…」
「どうする……ここで断れば怪しまれる……ぞ。」
逃げ場は――ない。
アンネリーゼとラケルは
そろりとフォークを手に取り……
「「……い、いただきます……?」」
一口食べた。
そして…次の瞬間――
「えっ…………ッッッッあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」
アンネリーゼは声にならない声を上げ、それに続くようにラケルも口から炎を吐き出す。
「ぐ……ぬぉおおおおお!!!舌が!!舌がぁぁぁあ!!」
「えっ、そんなに辛いか?」
二人の行動をみて、ケルネリウスはきょとんとした顔をしながらも目の前にペペロンチーノを食べ続ける。
「辛いよ!!!?」
「辛さを超えて痛いわぁぁあッ!!」
「そんなにか?……おかしいな。
俺は全然平気なんだが。」
「リースの舌どうなってんの!?溶岩でも食べて育ったの!?」
ひぃひぃと涙目になりながらケルネリウスを睨みつける。
ラケルも同じことを思ったのか、パタパタといつもよりも早く翼をはためかせながらわけのわからないことを言い出した。
「いや、あいつ……昔から辛さに強い種族なんだ……!
きっと、きっとそうだ…
ドラゴン…いや悪魔かもしれない…いや、絶対悪魔だ…」
しかし、ケルネリウスは食べることに夢中で聞いていなかったのか、首を傾げる。
「ん?なんか言ったか?」
「「何でもないですぅぅぅ!!(口が痛い!!)」」
ケルネリウスの行動をみて二度と仕返しはしないでおこうと決めたアンネリーゼだった。
***
✿神殿食材記録:溶岩唐辛子(記録者:ラケル)
分類:超高火属性植物(唐辛子系魔物)
危険度:高
味の破壊力:極めて強い
主な生息地:火山付近・地熱帯・溶岩地帯
■外見
・緑 → 赤 → どす黒い赤の順に熟す。
・熟すほど危険度が跳ね上がる。
・黒い実は「災厄の実」と呼ばれる。
※アンネリーゼは迷わずこれを採った。勇気なのか無謀なのかは判断に迷う。
■性質
・切っただけで周囲に高刺激の辛味成分を撒く。
弱い魔物は逃げる。人間は泣く。
・油に触れると辛味を十倍以上に増幅させる。
(※ほんの少量で料理が兵器化する。)
・辛さは「火を吹くほど」と言われるが、
本当に火を吹いた者を今回初めて見た。
※主にアンネリーゼ。
■効果
【辛さ耐性が低い者】
・舌への激痛
・涙・汗が止まらない
・一時的に呼吸困難(ラケルも経験済み)
・火を吹くことがある(魔力暴走)
【辛さ耐性が異常に高い者】(例:ケルネリウス)
・「お?ピリッとするな」程度
・普通におかわりしようとする
・むしろ気に入る
(※本当に意味がわからない。)
■調理時の危険事項
・油に入れると赤い煙が上がる。
・嗅覚がやられる可能性が高い。
・調理者は涙・咳・怒号で大騒ぎになる。
・近くにいる者も巻き込まれる。(私のことだ。)
アンネリーゼは楽しそうに調理していたが、
あれは単に「復讐心で痛覚が麻痺していた」と思われる。
■備考:今回の事件について
アンネリーゼがケルネリウスへの“軽い仕返し”として使用したが、
標的が間違っていた。
ケルネリウスはなんの問題もなく完食。
むしろ喜んでいた。
その結果、被害者はアンネリーゼと私である。
※二人とも泣いた。
※舌の痛みは数時間残った。
■総評
今回の件で一つ学んだことがある。
溶岩唐辛子は強力な武器だが、
扱う相手はよく選んだほうが良い。
特にケルネリウスのような“辛さバグ”には通用しない。
今後、溶岩唐辛子を使用する際は、
必ず誰が食べるのか確認してから調理することを推奨する。
以上、記録者ラケル。
「辛っ、み、水…お水!!」
ゴクゴクゴク…
「は、はぁ…なんとか話せる…」
「お前のことだから、裏があるとは思っていたが……ふっ、残念だったな。」
「残念だったな…じゃないわよ!! ひぃ〜〜まだ舌が痛いぃぃ〜〜!!」
✿いつもお読みいただきありがとうございます(*.ˬ.)"
閑話と言いつつ、今回も気づけば長くなってしまいました。
いつか食べようと思っていたカツを食べられた腹いせに、
アンネリーゼが本気で仕返しに動いたわけですが……
まさかのケルネリウスの方が一枚上手でしたね(笑)
溶岩唐辛子すら平然と食べる舌って何なんでしょうね……。
アンナとラケルだけが犠牲になるとは、誰が予想したでしょうか。
次回、本編は21:10更新予定です♪
どうぞお楽しみに✨




