トカゲちゃんとの頂上決戦!
「やっと…やっとよ!!」
「何がだ。」
「ふふふ…」
「だから何が“やっと”なのだ!?」
「トカゲちゃんを手に入れられたわ!!」
「む…お主、そんなに我が欲しかったのか!?」
「えぇ…だって……美味しそうなんだもの…」
「そ、そうか…(ちょっと期待した我がバカだった……)」
✿いつもお読みいただきありがとうございます(*.ˬ.)"
久しぶりのアンネリーゼ フルスロットル回、いかがでしたか?
彼女は一体、トカゲちゃんをどんな料理にするつもりなのか……。
次回 21:10 更新予定です♪
どうぞ、お楽しみに✨
「おい、お前……本当に我と戦う気か?」
アンネリーゼは、マグマの泉の前まで来ると、背中からお鍋の蓋を下ろす。
そして、あることに気づいた。
「……お鍋の蓋より、中華鍋の方が良かったかもしれないわね」
お鍋の蓋は軽いという理由で選んだものだったが、以前対峙したとき、一瞬で溶けてしまったことを思い出していた。
(いくら鍋の蓋を大きくしたところで……耐久度は変わらないわよね)
「スキル調理器具」
聞こえるか聞こえないかくらいの声でボソリと呟くと、先ほどまであった鍋の蓋は消え、代わりに鉄製の中華鍋が出現する。
「ふふふ……中華鍋に中華包丁。組み合わせもバッチリね! これなら今夜は……酢豚かしら?」
まだイグナ・ヴァルスの本体を倒したわけでもないのに、すでに“料理の完成”を想像しているアンネリーゼ。
それを見ていたイグナ・ヴァルスは、首を横に振りながら大きな溜め息を吐いた。
「お前が“大聖女”だということは……百歩譲って認めてやろう。だがな……我の本体を倒すのは、無理があるぞ!?」
短い腕を頑張って組みながら、偉そうに語るイグナ・ヴァルス。
だが、アンネリーゼはまるで眼中にないのか、話を聞く素振りすら見せない。
何を言っても返事が返ってこないことに痺れを切らしたイグナ・ヴァルスは――
アンネリーゼの耳に、がぶりと噛み付こうと大きく口を開ける。
その瞬間。
「ぐぇっ……!」
先ほどと同じように、アンネリーゼは迷いなく首をガシッと掴んだ。
「さっきからちょろちょろとうるさいわね……あなた、なんで付いてきたのよ」
まるで虫でも払うような手つきで、イグナ・ヴァルスを持ち上げるアンネリーゼ。
その表情は、戦闘前というよりも――
スーパーの割引シールを前に、
「あと10秒で半額になるのよ」
と、言わんばかりの集中力と気迫を放っている主婦によく似ていた。
「う、うるさいぞぉ! 我は食べ物ではないといっておろうが……!」
イグナ・ヴァルスはぶら下がったままジタバタと暴れているとポイッと捨てられた。
「な、何をする!!我はイグナ・ヴァルス。伝説のドラゴンだぞ!!」
だが、アンネリーゼはその声すら聞こえていないかのように、静かに中華鍋を構えた。
その瞬間――
マグマの泉が、地の底を揺るがすような轟音とともに爆ぜた。
熱風が一気に押し寄せ、アンネリーゼの髪を灼けるように揺らす。
マグマが壁にぶつかり、"ジューッ"と音を立てる。
"オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーー!!!"
地鳴りとともに、赤黒い蒸気が吹き上がり、その中から、巨大な影がゆっくりと姿を現す。
「……来たわね、トカゲちゃん!!」
現れたのは――
鮮やかな赤に黒が混じった鱗を纏い、腹部にはルミナイト・オリハルコンの核を埋め込んだ、イグナ・ヴァルス本体だった。
"オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーー!!!"
アンネリーゼの言葉に応えるように咆哮を上げるその声には、
怒りだけでなく、わずかな恐れが混じっていた。
巨大な羽根を大きく広げ――マグマの奔流を一直線にアンネリーゼへと放った。
「んふふっ、火加減は強めね!」
アンネリーゼは中華鍋をくるりと回し、鉄の底をマグマに向けて突き出す。
“ジュウウウウウウウッ!!”
鍋の底にマグマがぶつかった瞬間、爆音とともに蒸気が吹き上がった。
だが、アンネリーゼは――足を滑らせかけながらも、一歩も引かない。
その蒸気の中で笑みを浮かべながら言い放った。
「いいわね! ここからは、どちらが先に丸焼きになるか……勝負しましょう? トカゲちゃん!」
鍋を軽く横に避けると、今度は一本の中華包丁を取り出す。
"オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーー!!!"
二人の間に、張り詰めた空気が流れる。
どちらが先に動くか――互いに見極めようとした、その刹那。
“コロン”
ルミナイト・オリハルコンの欠片が、床に転がり落ちた。
その音が、引き金だった。
イグナ・ヴァルスが大きく息を吸い込み――吐き出すと同時に、炎の渦が地を這うように立ち上がる。
「んふふ…初めから本気じゃない! いいわねぇ~さすが今日のメインディッシュよぉぉぉ!」
アンネリーゼは中華鍋をもう一度自分の前に構え、炎を真正面から受け止め――すんでのところで身を翻し、華麗にかわす。
と、同時に、炎に向かってわざと中華包丁を突き出した。
“ゴウッ!”
刃全体が炎を纏い、赤く妖しく光を放つ。
「いい焼き色になってきたじゃない……!」
炎が収まるや否や、アンネリーゼは地を蹴って一気に間合いを詰めた。
手や羽根が迫りくるが――
「当たるわけないじゃない!! そんな大ぶりの攻撃がっ……と!」
中華包丁を斧のように大きく横に振り抜くと、鋭い一閃がイグナ・ヴァルスの片足を裂いた。
“オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーー!!!”
灼熱の血が噴き出し、イグナ・ヴァルスは痛みと怒りの咆哮を上げる。
「うん! いいかんじ!!……あなたが動いてくれれば動いてくれるほど、うまみ成分がたーっぷり出るのよ? だからもっと暴れて頂戴。」
アンネリーゼは、剣士が剣先を向けるように包丁を突きつけた。
「ここからは、私のターンね♪」
次の瞬間――
アンネリーゼは炎の中を舞うように足元を駆け抜け、逆手の包丁を使って一気に肩へと駆け上がる。
イグナ・ヴァルスが息を吸い込んだ瞬間、アンネリーゼは中華鍋を頬に叩きつけた。
“ゴーン! ゴーン!”
ブレス攻撃がキャンセルされ、ため込んだ息を――ごくりと飲み込む。
「あら……トカゲちゃん、お腹いっぱいなのかしら?」
そして――鍋を振りかぶり、膨れ上がった腹部へと全力で叩き込む。
“ドカーーン!!”
身体が仰け反る。
その隙に飛び上がり、ヒビの入ったルミナイト核へ包丁を振り下ろす。
“パリィィィーン…”
金色の光が噴き上がり、
イグナ・ヴァルスの咆哮は――
怒りと苦悶、そしてどこか救われたような声へと変わっていった。
巨体が崩れ落ちる。
アンネリーゼは包丁を地面に突き刺し、柄にもたれながら微笑む。
砕けた核から溢れた金の粒子が、静かに彼女の周囲に集まる。
「安心しなさい。あなたたちの魂は――ちゃんと浄化してからおいしくいただくわ」
その姿を見て、イグナ・ヴァルスの分身体は初めて思った。
――この者こそが“大聖女”なのだと。
(しかし……最後の言葉は、一体何だったんだ……)




