消えた相棒の行方と、魂を宿す黄金の球!?
「もう……ケルネリウス様がいなくなってから、一週間ね……」
ぽつりと呟いたのは、メメント・ムーンのひとり、ノアールだった。
この一週間、アンネリーゼは、ケルネリウスが消えた地点へ何度も足を向けていた。
まるで“そこに気配が残っている”とでもいうように――
ノアールの視線の先には、目の下にくっきりクマを作ったアンネリーゼが、覚束ない足取りで歩いている。
「仕方ないわよ……目の前で、相棒でもあるケルネリウス様が忽然と姿を消したんだもの」
そう言って、ノアールの隣に座っていたジュリナが、そっと飲み物を差し出す。
彼女もまた、メメント・ムーンのひとりだ。
二人は、ふらふらと歩くアンネリーゼの背中を静かに見守っていた。
いつもなら凛としているはずの背中が――
今は、折れそうなほど頼りなく見えてしまう。
そんな空気を破るように、エリザベッタが口を開いた。
「アンナ……あなた、ちゃんと眠れてる? 最近、食欲もないみたいだし……」
「……うん……眠ってはいるんだけど……なんだか眠りが浅いのか、すぐに目が覚めちゃって……。それに、何を食べてもおいしく感じなくて……」
(本人は気づいてないみたいだけど……原因は、ケルネリウスの件よね)
少しの沈黙のあと、アンネリーゼはぽつりと呟いた。
「やっぱり……長年相棒だった鍋の蓋が原因かしら……」
「「「……え!? そこ!?」」」
エリザベッタ・ノアール・ジュリナの三人の声がハモった。
全員「どう考えても原因はケルネリウス」と思っていたため、あまりのずれっぷりに頭を抱える。
エリザベッタは深いため息をついた。
「はぁ……あなたねぇ……ケルネリウスが心配だったんじゃないの!?」
「え!? リース!? あの人なら大丈夫よ!! だって……そんな簡単に死ぬようなたまじゃないもの」
その言葉がどこから来ているのか――
相棒として長く過ごしてきたからなのか。
それとも、ただ信じたいだけなのか。
「それにね、私の勘が言ってるの。リースは無事だって……」
アンネリーゼの声は静かで、瞳には揺るぎない信頼が灯っていた。
***
「では……始めるか」
イグナ・ヴァルスはそう言うと、マグマへ手を差し入れ、ゆっくりとひとつの球を取り出した。
「こ、これは……なんだ?」
ケルネリウスが思わず身を乗り出すと、イグナ・ヴァルスは少し得意げに胸を張った。
「う、うむ……これはだな、“魂核”とでも呼んでおこう。この地に眠る者たちの、楽しかったことや嬉しかったこと――まあ、ざっくり言えば“陽気な感情のかたまり”といったところだな!」
それは、イグナ・ヴァルス自身の雰囲気にどこか似ていた。
キラキラと金色に輝き、脈動するように微かに震えている。
そしてどこか、過去に浄化した魔物――デュオ=デキムやクラーケンの時の光景とも重なる。
「つまり……負の感情には陽の感情をぶつける……ってことか?」
「うむ、そういうことだ!」
胸を張り、偉そうに頷くイグナ・ヴァルス。その表情は“説明してやったぞ”と言わんばかりだ。
(……なんか腹立つな)
「……で? これをどうするんだ?」
「うむ。これを――食べてもらう」
「食べる!?」
球体を前に、二人の間に重い沈黙が落ちる。
どう見ても、食べ物には見えない。
イグナ・ヴァルスはどや顔で魂核をケルネリウスの口元に押しつける。
「そうだ! ほら……食え!!」
「いやいやいや!! 説明もなしに“食え”は無理だろ!! しかもこれ鉱石だぞ!? 噛んだら歯が折れるわ!!」
イグナ・ヴァルスは腕を組み、ふむと頷いた。
「……なら、丸呑みだな」
「解決策が雑すぎる!!」
やり取りを続ける二人の横を、熱風とマグマの音だけが流れていく。
やがて、イグナ・ヴァルスが小さくため息をついて言った。
「はぁ……一度しか言わんからよく聞け。この魂核には、シモンの“陽の記憶”だけが詰まっておる。苦しい記憶は魔人側が持っているからな。これを取り込めば、お前に一時的にシモンの魂を宿すことができるのだ」
「……!」
ケルネリウスは反射的に拳を握りしめたが――
それを殴る寸前でおさえた。
「……っくそ……!」
短い付き合いながら、イグナ・ヴァルスが嘘を吐くような存在ではないことは、もう理解している。
(こういう説明が足りないところ……アンネリーゼに似てるんだよな)
ふと脳裏に浮かぶ、いつもの相棒の顔。
(……あいつ、今頃どうしてるんだろうな)
ケルネリウスは深く息を吐き、魂核を見据えた。
「……つまり、シモンの魂を一時的に俺に宿らせることで、俺が武器を作れるようになる。そういうことか?」
「うむ。ようやく飲み込みがよくなってきたな。
シモンの“陽の記憶”を宿せば、彼の魂が望んだ“かたち”――それが、お前の手を通して現れるのだ」
「……魂が望んだ、かたち……」
「そうだ。武器とは鉄ではなく、“想い”が宿って初めて力となる。それが、あの魔人に届く唯一の鍵だ」
ケルネリウスは黙って金色の球を見つめた。
どこか懐かしく、あたたかい光。
遠い昔の約束のように、胸の奥を照らしてくる。
(……シモン。お前が本当に望んだものを、俺が形にできるのか?)
アンネリーゼの顔が浮かぶ。
――彼女なら、迷うことなく前に進むはずだ。
ケルネリウスは小さく息を吸い、拳を握った。
炎に呑まれるより、何もせず立ち尽くす方がよほど怖い。
ケルネリウスは、自分で自分の背を押した。
「……わかった。やってみる」
「よし! では口を開けるのだ!」
「……やっぱり一発殴っていいか?」
「だめだ」
ケルネリウスは目を閉じ、大きく息を吐くと――
意を決して、魂核を飲み込んだ。
「アンナ、大丈夫かしら…」
「ケルネリウス様がいないから心配よね…(色々な意味で…)」
「そうね…」
「「「……(何もやらかさなきゃいいけど)」」」
✿いつもお読みいただきありがとうございます(*.ˬ.)"
ケルネリウスがイグナ・ヴァルスとやり取りしているその頃——
アンネリーゼの心にも、少し“異変”が起きてしまいました。
果たして二人は無事に再会できるのか…!?
次回 21:10 更新予定です♪
どうぞ、お楽しみに✨




