婚約破棄ですか!?
「はぁ……婚約破棄、ですか。」
アンネリーゼは深々とため息を吐いた。
――そもそも、婚約してもいないのに“破棄”も何もないのだが。
「そうだ! そして俺は、レリア・ゴモリーと婚約する!」
胸を張るエルネスト。
その横で、レリアは勝ち誇ったように笑っていた。
「レリアはお前と違って、顔も可愛いし、胸も大きい。
女性らしい体つきで柔らかいんだ。お前とは大違いだ!!」
……。
(十四歳の私に言う? 二十歳の女と比べて?)
アンネリーゼは無言でレリアを見た。
レリアのドレスは胸元が大きく開き、香水の匂いがやたら強い。
それを見て、聖女たちの間にさざ波のような視線が広がる。
(……貴族令嬢というより、娼婦にしか見えないんだけど。)
アンネリーゼは心の中でぼそりと呟いた。
「はぁ……その話、まだ続きますか?」
心底どうでも良いという顔で返す。
が、二人は“勝利宣言”に酔っているのか、気にも留めない。
「フン! 私のことを好きだと言っても、もう遅いからな!」
(え、誰が?)
「お前が浮気をしたのが悪いんだ!」
……。
アンネリーゼはこてん、と首を傾げた。
「好き? 誰が誰をですか?」
「いや、話の流れで分かるだろう!?
お前が私を好き――」
言いかけた瞬間、アンネリーゼは手を叩いた。
「あー! なるほど、そういうことですね! ……ないです。」
にっこりと笑顔で即答。
「それに良かったじゃないですか。
私のような“浮気していない女”ではなく、そこの娼婦のような女を選んだんですもんね。
お似合いですよ?」
「なっ……娼婦!?」
図星を刺されたのか、レリアの顔が一気に真っ赤になる。
だが、アンネリーゼは意にも介さない。
「えぇ、この国でその露出の多い服を着るのは娼婦くらいですし。
まして聖女なら、もっと慎み深い服を着るものです。」
(胸元開きすぎて風邪ひくわよ……)
「お、お前……!!」
エルネストが怒鳴る。
けれど、その横でケルネリウスが腹を抱えて笑い始めた。
「ハハハ! いやぁ、エルネスト王太子殿下はレリア嬢のような女性がタイプなんですね?
アンネリーゼとはまったく正反対で……趣味が分かりやすい!」
エルネストの肩をポンポン叩きながら、
ケルネリウスは彼の耳元に小声で囁いた。
「(俺は断然アンネリーゼ派だがな)」
「なっ……!」
そして今度はアンネリーゼに向き直り、わざとらしく大声で言う。
「良かったじゃないか、アンナ!
これで結婚しなくて済むぞ!!」
「えぇ、そうね。お眼鏡に叶わなかったようですし、婚約破棄いたしましょう。
――婚約してませんけど。」
アンネリーゼは微笑み、淡々とまとめた。
食堂の聖女たちは時計を見て、そそくさと席に戻る。
もう夜の祈りの時間が近い。
アンネリーゼも「冷めた照り焼き」を見て肩を落とした。
(作り直しかぁ……)
と、その時――
「無視するな!! 私はこの国の王太子だぞ!!」
地団駄を踏むように、エルネストが怒鳴った。
「頭にきた! アンネリーゼ、お前をアウローラ大神殿から追放する!
明日からプロセルピナ神殿へ異動を命ずる!!」
「……あら、そうですか。」
(わざわざ来てそれだけ?)
「さらに! この大神殿にはレリア・ゴモリーを新たな“大聖女”として置く!
これは次期国王、エルネスト・ルシフェールの命令だ!!」
高らかに言い放ち、二人はそのまま食堂を出ていった。
ドアが閉まると同時に、
アンネリーゼとケルネリウスは顔を見合わせ――笑った。
「はぁーい、分かりました。
明日にはちゃんと出ていきますねー。どうかお元気でー!」
手を振るアンネリーゼ。
それにつられて、聖女や神官たちも笑顔で手を振る。
嵐のような二人が去った後の食堂に、
残ったのは――静かな笑い声と、
少し冷めた照り焼きの香りだった。
波乱の“婚約破棄劇”、ついに幕。
追放されたアンネリーゼ、次回――荒地での新生活…のその前に…
食いしん坊聖女の“スローライフ(?)”編、どうぞお楽しみに!
ブクマ・感想・評価で応援していただけると嬉しいです✨




