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荒地に追放された食いしん坊聖女はいつの間にかラスボス認定されていたようです!!  作者: ゆずこしょう
食いしん坊聖女と古き歌と甲羅の伝承。

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海戦(海鮮)パレード~大トリは巨大イカと巨大エビの大饗宴~

アンネリーゼは腰のペティナイフをくるりと回し、鞘に収めると――

代わりに、自分の腕より長い《イカ割き包丁》をすらりと引き抜いた。


刃先が暗闇にきらりと反射し、彼女の口元は期待に満ちてゆるむ。


「ふふ……いかちゃんはそのまま焼いてもいいけど、やっぱりバター醤油も捨てがたいわね……

エビちゃんはフライにしたいところだけど、貝ちゃんたちも揃ってるし……

んふふふ、今日の献立が広がるわねぇぇぇぇ!!」


もはや目の前の巨大イカを魔物ではなく“巨大食材”として見ている笑顔だった。

その狂気と食欲に、巨大イカですらわずかに身を竦めた。


一方のケルネリウスは、対照的に落ち着き払っていた。


巨大エビを正面に捉え、剣を構えたまま静かに告げる。


「……さっきのは前菜だったようだな」


「リース! 勝負はまだ続いてるわよ!

あれ倒したら十体分ってことでいい!?」


「いや、それはずるいだろ……」


「じゃあ、一回戦目はリースの勝ちでいいわ!

次はどっちが先に倒すか勝負よ!

私はイカちゃんをいただくから〜! そっちのエビちゃん、よろしく〜!

あ、できれば細切れはダメよ! 鮮度が落ちるから!!」


言いたいだけ言うと、アンネリーゼは巨大イカを誘導し、戦いやすい広間へとひらりと駆けていった。


「……遺跡を壊すのは嫌なんだな、あいつなりに」


ケルネリウスは苦笑し、巨大エビへ向き直る。


巨大エビは泡をぶくぶくと吐きながら、まるで挑発するようにケルネリウスを見下ろしていた。


(……これ、俺の方が不利じゃないか?

あの殻……本当に剣が通るのか?)


巨大エビが甲殻を軋ませ、巨大なハサミをゆっくりと持ち上げる。


"ギィィィィィィィ!!"


鋼鉄の獣のような咆哮が遺跡を震わせた。


「さぁ、始めましょうか!!」


アンネリーゼは広間へ誘導した巨大イカ――クラーケンと対峙し、包丁を構える。


「んふふ。あなたの名前は、オーソドックスに“クラーケン”と呼ばせてもらうわね」


名を与えられた瞬間、クラーケンの瞳が、一瞬だけ波打つ。

深海の底に沈んだ“記憶の欠片”が、泡のように浮かび上がりかけたように――。


だが、その刹那。


「~~♪~~♪」


洞窟全体を震わせる歌声が再び響いた。

赤い光がクラーケンの瞳に流れ込み、思い出しかけた“何か”が強引に押し流される。


(……やっぱり。この歌……魔物の“奥”に触れてる)


"ヴォォォォォオオオオーーーー!!!!"


クラーケンの巨体がねじれ、空気を割く突進が迫る。


(来る……!)


アンネリーゼは苔を蹴り、横へ跳ぶ。

舞踏会のような軽やかなターンで身を翻し、刃先が触腕をかすめる。


赤い筋が宙に軌跡を描く。


「ふふ……あなたも、なかなかやるじゃない……」


頬に細い傷。

その血を指で拭い――舌先でぺろり。


「……いい味ねぇ」


その妖艶な笑みは、クラーケンすら動きを止めるほどだった。


「さぁ、クラーケンちゅぁぁぁん!!

ここからが本番よ? 楽しませてちょうだい!!」


アンネリーゼが一気に間合いを詰め、

巨大な脚を一本――野菜でも切るように“軽く”斬り落とした。


"ヴォォォォォオオオオーー!!!!"


返り血が壁へ飛び散る。


歌声が高まり、クラーケンの攻撃はさらに激烈に。

墨が爆ぜ、触腕が嵐のように襲いかかる。


(イカ墨!?……ふふふ、イカ墨パスタまで作れるじゃない!!!)


完全に料理人の目をして、次々と脚を切り落としていく。


だが――


「~~♪~~♪」


歌声が、今度は彼女自身の意識に染み込んでくる。


(……え……?)


視界が揺れ、足元が抜けるようにふらつく。


(しまった……楽しすぎて……歌の影響を……)


「アンネリーゼ!!」


ケルネリウスの声と、

もうひとつの“誰か”の声が重なった瞬間、意識が暗転した。



***


アンネリーゼがクラーケンと対峙している頃――

ケルネリウスは巨大エビと対峙していた。


鋼鉄のような甲殻。

岩盤を砕くかのような巨大ハサミ。


ただの魔物とは思えない圧。


「……名前がないのは可哀想だな。今つけてやる」


"ギュォォォォォ!!"


巨大海老のハサミが振り下ろされる。

叩き潰すような重い衝撃音が遺跡に響いた。


ケルネリウスは半歩ずらして避け、肩すれすれでハサミがかすめる。


静かに剣を抜いた。


刃が空気を裂く音は派手ではない。

だが、鋭い。


「……決めた。お前の名前は――カンマールスだ」


名を授かった瞬間、カンマールスはわずかに動きを止める。


その一瞬に――踏み込む。


床石を蹴る乾いた音が、洞窟にこだました。


剣を振るう。

速さではなく、“重さ”がある。


ガンッ。


鋼鉄と甲殻がぶつかる鈍い衝撃。

手に伝わる反動は凄まじい。


(……やはり硬い。だが、隙はあるはずだ…。)


ケルネリウスは以前土蟹を食べた時のことを思い出していた。


(あと時は…たしか…)


『いい?甲殻類は関節なら刃物が通るのよ。狙うならそこね!』


アンネリーゼが土蟹の手を力を入れずに取っていた。


「…関節か!!」


まさか、こんな所でも彼女に助けられることになるとは思わなかったケルネリウスだが、

目は冷静に継ぎ目を探っていた。


腹部に走る細い線――そこだ。


息を整え、剣を握り直す。


ザシュ。


甲殻の隙間へ剣が沈む、湿った音。

押し割るような重い感触。


赤い液体がにじみ、カンマールスの片腕が脱力した。


"ギュ……ォ……"


巨体が揺れ、床が震える。


「カンマールス……悪くない名前だろ?アンナも喜ぶ」


ケルネリウスは剣を引き抜き、わずかに息を整えた。


「……アンナの方が先に終わると思っていたが……戻ってこないな」


カンマールスの巨体を一瞥する。

戦闘は終わったはずなのに、胸の奥にざわつきが残った。


(……嫌な予感がする)


剣を握り直し、アンネリーゼのいる広間へ向かって駆け出した。





走りながら、遠くから響く衝撃音が耳に届く。

それは剣と甲殻がぶつかり合う音ではない。


もっと湿った、もっと重い――

“肉”が何かに叩きつけられるような音。


(……何が起きている!?)


ケルネリウスはさらに加速した。


息を荒げながら広間へ飛び込む。


その瞬間、世界が一枚の絵のように“止まって”見えた。


──クラーケンの巨躯が、振り下ろされる触腕を振りかぶった姿で宙を裂いている。

──アンネリーゼは足を取られ、膝から崩れ落ち、視線だけが虚空を彷徨っていた。

──歌声が洞窟の奥から滲み出て、空気そのものが震えている。


(……間に合え)


その一言だけが胸の奥で爆ぜた。


「アンナ!!」


叫ぶより早く、クラーケンの触腕が振り下ろされる。

その軌道は明らかに彼女の頭部を狙っている。


その瞬間――ケルネリウスの身体が先に動いた。


剣が抜かれた音も、斬撃の風切り音も、

まるで“世界が黙った”ように何も聞こえなかった。


ただ、次の瞬間には――


クラーケンの胴が、静かに、そして決定的に断たれていた。


まるで最初から“そこに切れ目があった”かのような滑らかさで。


巨体が遅れて崩れ、

墨と血が濁った雨のように降り落ちる。


ケルネリウスはその中を突き抜け、落ちていくアンネリーゼを抱き止めた。


「……間に合った……か?」


全身が震えていた。

恐怖ではない――遅れれば死んでいた、という確信の震え。


(アンナに何かあればあの二人に…殺される…。)


「おい……リーゼ! しっかりしろ!!」


彼女は息をしている。

だが、その瞳は焦点を結ばない。


「リーゼ! 聞こえていないのか!! おい!!」


反応はない。

ただ深い海の底に沈んだように、虚空を見つめていた。


「……頼む。戻ってきてくれ……」


床に落ちた血と墨が、ふたりの影を歪めていた。


アンネリーゼの意識は、静かに水底へ沈むように揺れていた。



***



遠くで光が揺れ、音がにじむ。

現実はもうほとんど指先に触れない。


(……ここ……どこ……?)


世界を満たすのは、“深い青”だけ。


視界の端で――

銀色の髪のような影が、ゆらりと揺れた気がした。


そのとき。


水面を震わせるように、声が心へ触れた。


「……やっと会えたわね、杏菜」


優しいのに、懐かしく――

どこか神話めいた、美しい響き。


問い返すより早く、視界は闇へ沈んだ。


最後に残ったのは――

青い人影が揺れる残像だけだった。


「アンナたち、大丈夫かしら……また突っ走って転んでなきゃいいけど。」

「そういえば前にもあったよな。魔物を見つけて突っ走って、途中の石につまづいて……そのまま気絶したこと。」


「あったわね。」

「あったな……」


(((……何も起きてなきゃいいが……)))


✿今回もお読みいただきありがとうございます(*.ˬ.)"


アンネリーゼはイカちゃんとエビちゃんに大興奮でしたね(笑)

そのせいで大事なことをすっかり忘れていましたが……


次回、アンネリーゼとサイレーンの邂逅です✨

少しシリアスめですが、彼女の明るさが吹き飛ばします。

明日 8:10 更新予定♪ どうぞお楽しみに✨

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