やっぱタコと言えば…たこ焼きパーティーでしょ!
アンネリーゼが空に昇っていく光を見つめていると、背後からケルネリウスが静かに近づいてきた。
「今のって……」
「リースにも見えたのね。あれは、デュオーデキムに集まった人々の感情だと思うわ。残滓……とでもいうのかしら」
アンネリーゼたちは知らない。
この地で何が起きたのかも、それがどれほど辛い出来事だったのかも。
けれど、デュオーデキムが倒れる瞬間、空へと昇っていく光の粒ひとつひとつから、「ありがとう」という声が確かに聞こえたのだ。
はじめのうちは、憎しみや怒りのような負の感情だったのかもしれない。
でも、それはきっと最初だけ。
時間が経つにつれて、心は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
忘れられた痛み、置き去りにされた願い。
それらが、名を与えられ、光に包まれ、ようやく空へと還っていったのだ。
アンネリーゼは、空へ還る光に向かってそっと微笑む。
「んふふ。最後は私がおいしく食べてあげるから、あなたたちはゆっくり眠りなさい」
その声は、儚げで――
どこか誇らしげでもあった。
***
“ぐぅ~~~……”
そんな静寂を破ったのは、どこからともなく響いた音だった。
「……い、今の音、誰?」
「たぶん全員だな」
ケルネリウスが苦笑する。
アンネリーゼは頬を押さえ、目をぱちぱちと瞬かせた。
「さっ! 新鮮なうちにたこ焼きパーティーをしましょぉぉぉ!」
先ほどまでのしんみりとした雰囲気はどこへやら。
アンネリーゼは蛸切り包丁を手に取り、タコの足を食べやすい大きさに切っていく。
今回は――アレットもいない。
誰も邪魔をするものはいない。
そう思っていると、エリザベッタがつかつかと近づいてきた。
「……げ……」
「“げ”じゃないわよ! あっちにテント張ったから、まず着替えてきなさい。お湯を温めておいたから、ちゃんと綺麗にしてきなさい」
エリザベッタは少し面倒そうな顔をしながら、アンネリーゼの首根っこをつかむと、そのままずるずると引きずっていく。
助けを呼ぼうにも、誰一人としてアンネリーゼを見ようとしない。
皆、無言でタコを捌いていた。
「ぎゃあああああ! みんな酷いじゃない!」
テントの中で烏の行水のようにお湯を浴び、エリザベッタが用意してくれたドレスに着替えると、アンネリーゼは息を整えた。
「今日は絶対たこ焼きにするんだもの……! 急いで戻らないと!」
外に出ると、聖女たちが魔物の前で顔をしかめていた。
「……ぬるぬるしてるわね」
「うん……ちょっと、食欲が湧かないかも」
「これ、本当に食べられるの?」
初めて見る魔物。表面はぬめりに覆われ、吸盤のような器官がちらほら。
正直、このままでは“美味しそう”とは言い難い。
「アンナ……これをどうやって料理するつもりだったのかしら」
「さぁ~……」
「でも、あの子が“食べる”って言ったなら――」
「「「「……美味しいんでしょうね」」」」
顔を見合わせると、全員が同時に動き出した。
「塩と熱湯でぬめりを落とすのよ。アンナがそう教えてくれたでしょ」
ほどなくして、滑らかになったデュオーデキムの足が現れる。
「すっごぉぉぉ! 完璧じゃない!? 処理!」
「当たり前じゃない! 何年あなたと一緒にいると思ってるの?」
エリザベッタとアンネリーゼが出会ったのは、アンネリーゼが五歳の頃。
かれこれ十年の付き合いになる。
アンネリーゼの無茶ぶりにずっと付き合ってきた彼女からすれば、これくらい朝飯前である。
「んふふ。さすがだわ、エリザ! これでおいしくいただけるわね。デュオちゃん!」
アンネリーゼはデュオーデキムに愛の言葉をささやきながら、丸い穴が並んだ鉄板と千枚通しを取り出す。
「「「え!? これ……何に使うの?」」」
「ふふ。それは、できてからのお楽しみよ!」
***
アンネリーゼは業務用冷蔵庫から小麦粉、水、卵、それとロックバードの出汁、キャベツとネギを取り出す。
(本当は天かすと紅ショウガが欲しいけど……今日は仕方ないわね)
「キャベツとネギをみじん切りしてもらっていい?」
キャベツとネギを渡すと、聖女たちは快く引き受ける。
アンネリーゼは目の前の食材だけに集中していた。
「デュオちゃん! おいしく食べてあげますからねぇぇぇ!」
デュオーデキムの足をひと撫でしてから、蛸引き包丁で丁寧に捌いていく。
切り進めるたび、薄く濁っていた断面が、透き通るような白さを取り戻していった。
「これが海の魔物の身……なんて綺麗なの」
「じゃっ! 始めましょうか! たこ焼きパーティー開始よぉぉぉ!」
パンパンと手を叩けば、聖女たちは期待に満ちた顔で集まる。
アンネリーゼは温めた鉄板の上に、小麦粉と卵、水を混ぜた生地を流し込む。
“ジュワ~ッ……”
生地が焼ける音とともに、ロックバードの出汁の香りが立ち上る。
その上に、一口大に切ったタコとキャベツ、ネギを乗せていく。
「これ……どうやって食べるの?」
「んふふ。ここから、こうやって丸くしていくのよ!」
くるくるとたこ焼きを返していくアンネリーゼ。
その手際の良さに、思わず拍手が起こった。
「「「おぉ~~~~!」」」
焼き上がると、ひょいひょいと皿に盛り付けていくアンネリーゼ。
その姿はまるで職人のようだった。
「さっ! 食べましょ!」
アンネリーゼが祈りの歌を捧げると、皆がそろって口にたこ焼きを入れる。
外はカリッと、中はふわふわ。
ロックバードの出汁が効いた生地に、デュオーデキムの足の柔らかさが溶け合う。
噛むたびに口いっぱいに広がる旨味。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、全員が無言で咀嚼していた。
「ん……」
「ふふ……」
「ふふふ……」
「ふふふふふ……」
そして――
「ふははははははは! お~~~~いしぃぃぃぃぃぃ!」
皆の笑い声が海辺に響く。
アンネリーゼもひとつ口に運び、静かに目を閉じた。
光の粒が消えていった空を見上げる。
まだ瘴気は濃く、星空は見えない。
けれど、彼女の目には確かに、夜空が輝いて見えた。
「んふふ……ごちそうさまでした、デュオちゃん……いえ、デュオーキラム。」
その声は、夜風に乗って海へと溶けていく。
「……ありがとう……」
波の音か、それとも風のいたずらか。
小さな“感謝”の声が、確かに聞こえた気がした。
波が静かに寄せては返す。
焼けた鉄板の残り香と、たこ焼きの湯気が潮風に溶けていった。
皆の笑い声が遠ざかり、海は再び静寂を取り戻す。
アンネリーゼは最後のひとつを口に運びながら、
ゆっくりと目を閉じた。
「ねぇ……見てた? ちゃんと“食べて”救えたよ」
風がひとつ吹き抜け、
波間で淡い光がふっと瞬く。
それが誰かの“ありがとう”のように見えて、
アンネリーゼは静かに微笑んだ。
「たこ焼き、最高だったな……最初は全然美味そうに見えなかったが。なんで丸くなるんだあれは。」
「でしょ~!? たこ焼きはパーティーのために存在してるのよ♪
あのとろける感じ……思い出すだけで幸せだわぁ!」
「……そうだな。(丸くなることには触れる気ゼロか。)」
✿ここまで読んでくださってありがとうございます!
第二幕でも、笑いあり涙あり、そしてもちろん食いしん坊全開でお届けします!
アンネリーゼは色んな意味で少しずつ成長予定……!? 新キャラも登場しますので、どうぞお楽しみに♪
次回は 21:10 更新予定 です✨




