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荒地に追放された食いしん坊聖女はいつの間にかラスボス認定されていたようです!!  作者: ゆずこしょう
食いしん坊聖女は荒地を開拓して水田作ります!!

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アンギーラの蒲焼

神殿の門が軋む音が、静かな夜に響いた。

焚火の匂いと、まだ乾かぬ血の匂いが混ざり合う中――

アンネリーゼたちが帰ってきた。


肩に担がれた巨大なアンギーラの死骸は、すでに串打ちまで済んでおり、あとは焼くだけの状態だ。


アンネリーゼのドレスは裂け、血と泥にまみれていたが、その瞳はいつも通り、どこか満足げだった。


「ただいまー……って、なんで焚火もう焚いてるの!?」


神殿の前庭では、聖女たちがすでに薪を組み、火を起こし、いつでも食べられるよう準備を進めている。


誰かがアンネリーゼの帰還を察知したのか、それとも単なる食欲の予感か。


「「「待ってましたーっ!」」」


アンネリーゼたちの帰還を待っていたかのように、大歓声が上がる。

毎度のことだからか、誰一人としてアンネリーゼの血まみれの姿に驚くことなく、

アンギーラのサイズに目を輝かせていた。


「さあ、あなたはシャワー浴びてきなさい。髪、血で固まってるし、ぬめりもすごいわよ。あと、匂いが……」


アレットはアンギーラの死骸を受け取ると、他の聖女たちに手際よく指示を飛ばす。


「えー、でもお腹空いた……」


「焼けるまでに時間かかるでしょ? さっぱりした姿で食べたほうが美味しいって、いつも言ってるじゃない」


アンネリーゼは口を尖らせながらも、渋々神殿の奥へと向かう。

背中越しに、焚火のパチパチという音と、仲間たちの笑い声が聞こえていた。


(こういうところは年相応ね……そこがまた妹みたいで、放っておけないんだけど)


***


神殿の奥から戻ってきたアンネリーゼは、濡れた髪をタオルでざっと拭きながら、

焚火の明かりに照らされた前庭へと足を踏み入れた。


ドレスよりも少しシンプルなローブに着替えた彼女は、

アンギーラの香ばしい匂いがする方へとまっすぐ向かう。


「お待たせー! あぁ、いい匂い……もうこの香りだけでお腹が空いてきちゃうわ!」


焚火の周りでは、聖女たちが串をくるくると回しながら、アンギーラの焼け具合を確認している。

調味料はケルネリウスが味付けしてくれたのか、醤油と砂糖がちょうどいい具合に調合されていた。


(できれば料理酒があったらいいんだけど……こればかりはお米ができてからね)


アンギーラの肉はすでに表面がこんがりと焼け、脂がパチパチと音を立てながら、

焚火の前でダンスを繰り広げていた。


「ちょうどいいタイミングよ、アンナ。あと数分で一番美味しいところが焼けるから、空いてるところに座って待っていてちょうだい」


アレットが火の番をしながら、片手で串を持ち上げて焼き加減を確認すると、

完璧な焼き具合だったのか、愉悦の笑みが浮かんでいた。


アンネリーゼは焚火のそばに腰を下ろすと、炎の暖かさとアンギーラの焼ける匂いにほっとしたのか、

「ぐぅ~~」とお腹が鳴る。


思っていた以上に大きかったお腹の音は、周りの聖女たちにも聞こえていたらしく、

一瞬シーンと静かになったあと、どっと笑いが広がった。


「「「ふふ…ふふふ…ふふふ。さすがアンナだわ!!期待を裏切らないわね!」」」


前世でも婚約相手に振られたとき、同じ言葉を言われたことがあった。

その時は腹が立った言葉も、今はホッとする心地いい言葉に感じる。


(ふふ……同じ言葉でも、こんなに気持ちが違うのね)


アレットが焼き上がった串をアンネリーゼに手渡すと、

表面の皮はカリッと香ばしく、中はジューシーで、醤油と砂糖の香りが鼻腔をくすぐった。


「昼の女神エメラール様。今日という日が無事に終えられたことを感謝いたします。

夜を守護する女神ノクスーレ様。皆が新しい朝を迎えることができますようお守りください。

豊穣の女神ケレスティナ様に感謝を」


アンネリーゼが食事の祈りを唱えると、他の聖女たちも同じように復唱する。


そして串を手に持ち、アンネリーゼは大きく口をあけてがぶりとアンギーラにかぶりついた。


中はプリッと柔らかく、口の中で溶けるようになくなる身。

目打ち針がなかなか刺さらなかった皮も、焼いたことでちょうどいい柔らかさになっていた。


「んふ…んふふ…んふふふふ…し、し、しあわせぇぇぇ~~!」


この世界に転生して十四年。

今まで魚らしいものを食べる機会がなかったから、久しぶりの魚の味に、なんだかホッとする。


アンネリーゼが食べたのを確認してから、他の聖女たちも一斉にアンギーラにかぶりついた。


「「「ふふふ…幸せ~~~!!」」」


焚火の炎が少しずつ落ち着き、ぼーっと炎を眺めていると、パチパチと心地いい音が鳴る。


アンネリーゼは串の残りを口に運びながら、ふと空を見上げる。

焼けたアンギーラの脂の香りがまだ鼻に残っているが、

それ以上に胸に残っているのは、聖女たちの笑い声だった。


(……あったかいな)


いつからだろう。この空間がこんなにも居心地よく感じるようになったのは――


アウローラ大神殿にいた頃は、聖女同士でももう少し距離があったような気がする。

王都を追放され、プロセルピナ神殿に皆で移動してきてからは、いろいろなことがあった。


はじめのうちは、血まみれで帰ってくるアンネリーゼを見て眉をひそめていた人たちも、

今では「よくやった」と笑ってくれる。

お腹が鳴っても、笑い飛ばしてくれる。

祈りを捧げれば、声を揃えてくれる。


神殿の外は瘴気のせいで真っ暗な毎日。

少しずつ瘴気が薄くなってきてはいるものの、日の目を見るにはまだ時間がかかりそうだ。


それなのに、皆は下を向かず、同じ方向を向いている。

だからだろうか……居心地よく感じるのは。


一人感傷に浸っていると、アレットが笑いながらもう一本串を差し出してきた。


「アンナ、もう一串いく?」


アンネリーゼは小さく頷いて串を受け取る。


「うん。アレット、ありがとう」


その一言に、アレットは何も言わず、ただ微笑んだ。


焚火の火がパチパチと鳴る音が、まるで心臓の鼓動のように響いていた。


「さぁ、明日からまた、田んぼの続きを頑張るわよ!」


そして夜空には、炭火の煙がゆるやかに昇っていく。

――明日も、きっと美味しい一日になる。



「美味しかったわね!!脂がのっててプリップリだったわ!」

「そうだな。初めはどうなるかと思ったが…甘じょっぱいタレが最高だった。」

「でしょ~?今度はどんな美味しい魔物に出会えるかしら。」

「……楽しみだな。」(もう隠そうともしないんだな…)


✿ここまで読んでくださってありがとうございます( .ˬ.)"

プリっと美味しいアンギーラの蒲焼、いかがでしたか?

第四章はこれにて終了です。


アンネリーゼもついに十五歳!!

一体どんな毎日が待っているのか…


21:10更新予定です。お楽しみに✨

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