用水路づくり!
「じゃあ、まずは田んぼ作りからだけど……一番の問題は水だと思うの。」
田んぼを作るには、大量の水が必要だ。
しかも、ここは荒地セラフィエル。
水源ひとつ取っても、瘴気に汚染されている。
では、どうすればいいのか。
『僕にとってはそんなに違いが分からないけどな……そんなにこの地は瘴気に汚染されているのかい?』
オリザールスは、いまいちピンときていない様子だった。
それも無理はない。彼は魔物だ。瘴気に慣れてしまっている。
「えぇ……ここは人が生きるには難しいと言われているわ。
私たちが生きていられるのは、瘴気に耐性があるからよ。」
なぜ自分たちに耐性があるのか――そして、なぜこの地に来ることになったのか。
アンネリーゼが簡単に説明すると、オリザールスはぽろぽろと涙を流した。
『そんな……ひどいじゃないか。濡れ衣もいいところだ。この世界にもいるんだな、クズなやつが……』
その言葉に、アンネリーゼは少しだけ笑った。
どこか遠い過去を見ているような、その瞳が優しかった。
「ふふ……どこにだっているわ、そういう人は。
でもね、私はここに来られてよかったと思ってるの。
自由に暮らせるし、オリザールス――あなたにも会えたし。
それにね……んふふ……美味しい魔物がたくさんいるんだもの!
こんな幸せ、他にないわ!」
「美味しい魔物」という言葉を聞いた瞬間、
オリザールスの頭の稲が、一気にしおれた。
(……気持ちは分かるぞ、オリザールス)
ケルネリウスが肩をポンポンと叩く。
熊はうなずき、稲がちょっぴり情けなく揺れた。
そんな中、アンネリーゼはお構いなしに続ける。
「でね、話を戻すけど……ここに用水路を作ろうと思うの!」
「用水路?」
ケルネリウスが眉を上げる。
「そう! 今までは井戸水を使っていたでしょ?
畑くらいなら間に合っていたけど、水田を作るとなると足りないの。
だから――水を溜めて循環させる仕組みを作るわ。
しかも、穴にはうってつけの場所があるじゃない?」
そう言って、地面に木の枝で図を描く。
乾いた土の上に線が伸び、計画の形が浮かび上がる。
川の近くに、大きな水槽のようなものを作る。
そこに水をため、生活用水と農業用水を両立させる。
ただし、穴を新たに掘るには時間がかかる――。
(そうだ……あれを使えば!)
「もしかして……クラーブンがいた穴か?」
「そう! 大正解!! クラーブンの巣を再利用するの!」
クラーブンがいたのは、川の分岐点の少し上流。
その穴を川と繋げ、水が流れ込むようにすれば、自然と貯水池になる。
「確かに、川の分岐点の近くだったな……」
無数に広がる穴は、五十メートル四方。
それらを繋げれば、立派な貯水スペースになる。
「しかも、あいつ、けっこう深く潜ってたのよ。
つまり――深さも申し分なし!」
アンネリーゼの声が弾む。
目を輝かせながら話すその様子に、ケルネリウスも思わず口角を上げた。
「あとは、水を浄化できるかどうかだけど……そこは私に任せて!」
クラーブンを倒したときに手に入れた魔石が二十個。
大きさも十分。
あれから三ヶ月――ある程度は浄化が進んでいるはずだ。
ケルネリウスは頷き、すぐに作業分担の話へ。
「オリザールスには田んぼを頼む。田植えができるくらいまで稲を育ててくれ。
ひとりじゃ大変だろうから、手伝いも呼ぶよ。」
『わかった。でも……いいのかい? 僕のこと、他の人に話してしまって。』
「大丈夫! そこは安心して!」
アンネリーゼは親指を立て、ぱちんとウィンク。
その姿を見て、しおれていた稲がまたゆさゆさと揺れ始めた。
どうやら、感情が全部稲に出るらしい。
(わかりやすくて助かるわね……)
アンネリーゼは小さく笑った。
***
そして、それから数ヶ月後――。
用水路は何とか完成し、
水車も設置されて、田んぼに水を流せるようになっていた。
だが、一つだけうまくいっていないことがあった。
それは――水の浄化だ。
アンネリーゼはクラーブンの魔石を使って浄化を試みていた。
瘴気の吸収は進んでいる。だが、追いつかない。
まるで、何かが川へ“瘴気を流し続けている”かのようだった。
「……おかしいわね。瘴気は吸っているはずなのに、浄化が進まない……」
魔石は次々に紫色へと染まり、
三日も経たずに使い物にならなくなる。
本来なら一ヶ月は持つはずなのに――。
(瘴気が多すぎるのか……それとも、“原因”がいる?)
不穏な気配を感じながら川を覗き込むと、
ぬるり、と水底から黒い影が現れた。
ゆっくりと、ゆっくりと姿を現すそれは――
全長十五メートルを超える巨大な鰻だった。
体は瘴気の膜に覆われ、赤く光る目がこちらを見据えている。
口元の牙が、水を裂くたびに白く光った。
「えっ!? 鰻じゃない!!」
普通なら悲鳴を上げるところだが――
アンネリーゼは違う。
目をぎらりと光らせ、舌をぺろりと舐めた。
(んふふ……今晩のご飯は、あれで決まりね……!)
そして彼女は、
鰻用の目打ちと包丁を取り出した。
風が止み、水面が静まり返る。
セラフィエルの荒地に、料理人の気迫が満ちていった――。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
アンネリーゼの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです✨
本日12:30に閑話をアップ予定です♪
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それでは、次回もお楽しみに!




